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69.会えない理由


場が和んだので、暫く話は宮崎の観光地の話題や本田の近況に移った。

盛上って話している内に、自分の話題から話が逸れた事に気が付いて七海は少し安堵した。


「そう言えば今日、黛君にも声掛けたんだけどさ、忙しくてやっぱり来れ無かったんだ」


油断していたので、思わず七海は口にしていたワインに「こほっ」とむせてしまった。唯が心配気に覗き込んだ。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫……ま、黛君はそれで元気なのかな……?」


それでも気になっていた事を何とか口にする。すると唯が首を振って切なそうな顔をした。


「それが何か元気が無いんだよね。仕事で何かあったのかも。こんな事初めてだから、ポンちゃんに時間できたら黛君に連絡取ってみてってメッセージ入れてみたんだけど……あ、返信ある。『聞いてみる』だって」

「あのりゅうちゃんが?やっぱお医者さんって大変なんだな」

「龍ちゃんって、お医者さんになったんだ。どこの病院?」


新が意外そうに目を丸くすると、興味深げに亜理子が尋ねた。


「……K大の附属病院だよ。他にも色々バイトで当直しているみたいだけど」

「さすが詳しいね、七海。もしかして龍ちゃんが元気無い理由に心当たりあったりする?」

「さぁ……暫く連絡取ってないし、元気が無いって言うのも今日初めて聞いたから」


亜理子が予想するほど、七海は黛と親しく無い。元気が無いって言う事も唯から聞いて初めて知ったのだ。


(そっか、唯の連絡には答える時間はあるんだ。私には返事さえしてくれないのに)


少し悲しくなって俯いてしまう。

だけど心の中で何かが音を立てた。




(そうだ、黛君がどう思っているかなんて関係ない。私がどうしたいか、だ)




唯の影に隠れ、黛の気持ちを言い訳にしていた自分にはもうコリゴリだった。

信はおそらく自分が黛に気持ちが傾いているのを察しながらも、心を打ち明けてくれたのだ。そして七海の気持ちを知ってもいつも通り優しく穏やかに笑ってくれた。


そして黛も。例え唯を第一に思っていたとしても、彼が七海を助けて励ましてくれたのは事実なのだ。おそらく黛も―――友達としての七海を大事に思ってくれている筈だ。


だったら七海も。友達が困っている時、自分と同じように落ち込んでいる時に―――歩み寄って大丈夫だって言ってあげたい。自分が励まされた時嬉しかった。その恩返しをしたい。それは黛が自分を女として見ていないとかそんな事に関わらず、友達として彼のために出来る事だ。


七海は腹を決めると、唯に向かって言った。


「ねえ唯、本田君が黛君と話ができたら―――落ち込んでいる理由、私にも教えて貰えないかな?」

「うん。でも、七海から聞いた方が話してくれそうな気がするけど……」


七海と黛が偶に一緒に飲んでいるのを、唯はよく知っていた。


「それが先週メッセージ入れたんだけど返信が無くって」

「え……」

「私に言い辛い事なのかもしれないけど、私も黛君に色々助けて貰ったから、何かしたいの」


真剣に言い募ると、唯はしっかりと頷いた。


「分かった。理由が分かったら教える」

「俺にも教えて!龍ちゃんが元気が無いなんて、心配だよ―――それに女の子に言い辛い悩みかもしれないだろ?なら、兄貴から俺が直接聞くから」


黛を慕っている新がこういうと、亜理子が首を傾げた。


「『女の子に言い辛い悩み』って……?」

「え、そりゃあ……」


モゴモゴと新は声のトーンを落とした。

女性陣はそんな新の周りに顔を寄せて耳を澄ませた。


「激務でEDになったか……避妊に失敗して子供が出来たとか……龍ちゃんモテるから上司のオジサンに迫られてやられちゃったとか……」

「ばっ……ナニ言ってんの!!」


亜理子が真っ赤になってバシバシ新を叩いた。

七海と唯はあまりの突飛な発想に目を点にして固まった。


「変態!」

「俺がやった訳じゃ無いのに……」

「龍ちゃんだって、そんな目に合ってる訳ないでしょ!」

「そうかなぁ」


首を傾げる新を亜理子が更にボコボコと叩いたので、漸く新は口を噤んだのだった。



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