68.嬉し過ぎて
「ありゃっ」
唯が慌てて口元に手を当てた。
「唯、ヒドイよ~。内緒にしてとは言わなかったけど……」
「うっ、ゴメン。ちょっと嬉し過ぎてつい……願望が爆発しちゃった」
「まぁ、そう思ってくれるのは嬉しいけど……」
困ったような顔の唯に見上げられると、七海の心はすぐに絆されてしまう。七海も唯と家族になったら……と言う想像をとても魅力的に感じていたから。
「何?じゃあ、信とは付き合ってないの……?それとも付き合ってたけど別れたって事?」
新がもどかしそうに尋ねた。七海は頷いて……それから諦めて補足した。
「この間、信さんが私に付き合って欲しいって言ってくれて……で、つい先週お断りしたの」
つい声が小さくなってしまう。
軽く俯く七海に今度は亜理子は質問した。
「もしかして、他に好きな人がいるの?」
「え?えーと……」
「やっぱり!分かるわ。私もずっと新が好きだったから、申し込まれてもずっと断っちゃってたもん。新より好きになれる人いなくって……」
寂しそうに笑う亜理子に、新は感激したように抱き着こうと手を広げた。
「亜理子!そこまで俺の事……!」
「でも、新は違ったみたい。彼女作って楽しく過ごしていたんだもんね!」
キッと亜理子に睨まれて、新の手が緩やかに下降する。
オロオロと新は言い訳をした。
「だって『別れよう』って言ったの、亜理子だろ……俺は忘れなきゃって思ってさ……」
「どうだか!私は諦めようと思っても諦められなかったのになぁ~」
ジトッと亜理子に睨まれて、新はパタリと完全に手を下ろした。
その様子を見守っていた七海と唯は目を見合わせて、笑い出した。




