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57.『魔性の女』ではありません

三人称に戻ります。

今日は火曜日。

いつもなら信に連れられて蚊取り線香役をしている所だ。


しかし今現在七海がいるのは、とあるワインバーの一角。テーブルにはお通しにチーズが二種類。ついさっき給仕されたばかりの『エリンギと海老のアアーリオオーリオ』『20種彩り野菜サラダ』『ゴルゴンゾーラのはちみつ添えピザ』がドーンと並んでいる。

野菜がウリと言うだけあって、赤青黄の野菜が高く積まれたサラダは美しい。海老とエリンギのアヒージョからは香ばしい香りが、ピザからはちょと癖のある食欲を誘う香りが漂って来る。


食いしん坊を発揮し、取り皿に確保したそれらを目を輝かせて頬張っていると、斜め向かいから立川の笑い声が聞こえて来て七海は顔を上げた。


「随分美味しそうに食べるね、江島さんは」


その一重の目を更に細めて楽しそうに七海を見ている。彼女はギクリとしてその隣に座る可愛らしい幼顔おさながおを剣呑に顰めた岬の鋭い視線ごと、立川の朗らかな微笑みを身に受けた。


「岬ちゃん、ピザ取って!」

「あ、は~い」


右隣にいる田神からのリクエストに、岬の表情が一瞬で明るく変わるのを見て七海は目を丸くした。そんな七海を見て、立川がクスリと笑っている。


立川から以前提案のあった田神のための岬を交えた飲み会だ。

この他営業部から若い男性が二名、総務部から中村と伊達が出席している。午前中に立川から誘いを受け、迷ったがOKした。


信に会うのが何となく気まずかったからだ。

全く気持ちが定まっておらず、全くどういう態度で接して良いか分からず、そして全く信の秘めた気持ちに気付かないまま……のうのうとご馳走になっていた自分が、恥ずかしくていたたまれなかった。

七海が信に断りの連絡を入れると、気を悪くした様子も無く了承の返事が返って来た。代わりに金曜日に会う事を約束してしまったが。


大人だなぁ、と七海は思う。

未だに考え方に子供っぽさの抜けない自分には最高の相手では無いか。とも思う。

と言うか、勿体無さ過ぎる。(ストーカーの問題を除けば)


ワインも進み皆がほろ酔いになると、田神以外の舌も滑らかになり話も弾んできた。

すると隣に座っていた栗色のワンレングスをふわりと揺らして、中村が七海に話し掛けて来た。


「ねぇ、江島さん?この間金髪の女の子と大きい男の子が迎えに来てたよねぇ、あれってお友達か親戚?随分ゴージャスだよね!」


七海と違って。とは口には出されなかったが、七海は何となく中村の口調からそんなニュアンスを感じ取った。しかし嫌味な感じはしなかったので、落ち着いて返事をする事ができた。


「男の子は友達の弟なんです。つい先日、二十歳はたちになったばかりなので、あちこち飲みに行きたがって。金髪の子はその子の彼女です」

「そうだったんだ!じゃあ……じゃあさ、会社の前でいつも待ち合わせしているスーツの男の人って……」

「中村、ちょっと……」


中村の向こう側に座っている伊達が、こちらの話に気が付いて眉を寄せた。根掘り葉掘り聞き出そうとする中村に苦言を呈そうとしたようだ。

七海もいつもなら面白半分に自分の事を聞かれるのは嫌だ。けれども今回は『ホスト疑惑』を一掃する良い機会でもあった。ゴクリと唾を飲み込み七海はオズオズと慎重に返答する。


「えっと……その男の子のお兄さんがよく迎えに来てくれるので……」

「そっか!やっぱり、そうだよねー」


中村はそう言って伊達と目を合わせた。伊達は頷いて溜息を吐いた。わざわざ確認するまでも無い、と言うように。それを見て、やはり『ホスト』と思っていて言いふらしているのは岬だけなのだと七海は安堵した。だから二人とも七海に対する態度に特に変わりは無かったのだ、と。……しかし七海は知らない。噂が広まる原因を作ったのは本当は中村と伊達の不用意なおしゃべりだという事を。




「じゃあ江島さんの彼って、どんな人?」




そこへ唐突に低音が割り込んできた。発する元に七海を含めた三人の視線が集まった。

視線の先では、立川がニコリと朗らかに笑ってこちらを見つめていた。



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