4.『平凡地味子』と呼ばれています
「ねえ、見た?!」
「今日の男はまた、すごかったわね~」
「あの大人しそーな江島さんがねぇ……」
肩の辺りまで伸ばしたワンレングスのサラサラな栗色髪にゆるふわカールをかけている大人顔の女性が、眉を寄せた。
「あんなに色んなタイプのイケメンが迎えに来るなんて、一体どんな関係なんだろ?顔は全然似てないから家族では無いよね~」
前髪を眉のところで厚く切り、ウエーブがかった長い黒髪を耳の上部分でハーフアップにしている幼顔の女性が、大きな瞳の周りを念入りにカールさせた目を見開き鼻で笑った。
「ホストじゃない?ありえないでしょ、あんな地味な子に背の高いカッコイイ男がさあ……一人ならまだ分かるけど三人も!」
ショートボブの釣り目の女性が、目を丸くして呑気な事を言った。
「私は今日の人が一番好みだったな……!」
「どうせホストと遊ぶなら、ちょっと悪いタイプの方が良く無い?私なら長髪の年下っぽい男だな。お金払って付き合うんなら」
栗色ゆるふわカールが真面目な顔で言った。
するとアイメイクばっちりの大きな瞳を眇めて、幼顔が舌打ちをした。
「ちょっと今は何であの子の所にいい男が押し寄せているかって言う話でしょ!……まあ、でも私なら絶対年上。身なりの良さそうなスーツの男以外はさぁ、付き合ったって先がないんじゃない?……て、言うか三人とも絶対ホストだけどね……!」
しかし自分の好みはしっかりと言い切った。
すると幾分冷静なショートボブの釣り目が、首を傾げた。
「でもさぁ……全員ホストだとしたらお金続かなくない?あの子三年目でしょ?いくら実家通いだって言っても限度があるよね。普段の持ち物見てもお嬢でも何でも無さそうだし」
「それはきっとサラ金とか借りまくってんじゃない?」
「真面目そうだけどねぇ」
「真面目なほうが、嵌るとヤバいんでしょ?サラ金じゃなければ夜のバイトで稼ぐとかさぁ」
「なんか想像つかないけど」
幼顔はどうしても、ホストと言う事にしたいらしい。
納得いかない顔のショートボブに対して、ゆるふわカールが言った。
「イケメンばっかりってのが納得いかないよねぇ……つーか羨ましい!まあでも、落ちは結局友達……とかじゃない、単純に?似てないから遠い親戚とか」
「アハハ、きっとそれが妥当な所だよねー」
「でももしかして……三人とも恋人……とか?!」
「ぎゃあ、まじ?」
「それなら一人こっちにまわして欲しいよね……!」
ふざけてキャアキャア言い出した二人に、幼顔が苛々しだした。
「三人とも恋人とか有り得ない!あんな平凡地味子にさぁ。メイクだって全然気、使ってないし。お洒落でも何でも無いでしょ?友達とかも無いから!絶対ホスト!横領でもしてるんでしょ、きっと」
口を尖らせて怒り出した様子に、ゆるふわカールとショートボブがピタリと口を閉ざし視線を交わしあった。
三年目の後輩がやっている仕事は把握している。横領できるような仕事を受け持っていないのは、明らかだった。
(この子、営業の立川さんに相手にされてないからねー)
(かなりアプローチしてるのに躱されてるから……八つ当たりだね、完全に)
「あ!そいえばさぁ来週の飲み会、立川さん参加するらしいよ……!」
ゆるふわカールが来週末の飲み会に話を移すと「え!ホント?絶対行く……!」と幼顔はさっそく話題に飛びついた。空気が緩んだところでショートボブも少し肩の力を抜いて、その話題を盛り上げにかかったのだった。