43.暇かもしれません
昼休みにスマホが鳴って、年の近い同僚とお弁当を囲んでいた七海は席を立って廊下にでた。
二週間振りに新からの連絡だった。
「はい。どうしたの?新君」
『七海今日、夜暇?』
七海は頭の中でスケジュールを確認した。当然真っ白である。
「うん、暇かも……」
しかし一応『かも』を付けてみる。いらないプライドかもしれないが。
『会って欲しい人がいるんだけど、今日一緒にご飯食べない?』
「んー……唯は……今週末試験だもんね。分かった、三人でってこと?」
『うん、本当は龍ちゃんにも声掛けたんだけど忙しいみたいだから』
そうだろうな、と七海は思う。
先日車で送ってくれたボサボサ頭を思い出した。あの時だってそうとう無理して早朝寄ってくれたのだろう。
『じゃあ、会社の前まで迎えに行くから、七海は美味しいお店の予約担当ね!』
「最初からそれが目当てだね」
『社会人、頼りにしてます!じゃ、夕方ね』
(末っ子は調子良いな~)
と思いながら電話を切る。
きっと自分が多めに出す事になるのだろう。本田家は資産家だが三兄弟は母親により倹約精神を叩き込まれているので、お小遣いをそれ程貰っていない筈だった。
普段信に奢って貰っている分、弟に返すのも良いかもしれない。
そこまで考えて、ハタと思い出す。
『俺と―――結婚を前提に付き合ってください』
『返事は急がないよ。でも―――考えてみて欲しい。ちょっとでも可能性があるなら―――彼氏の役は、龍じゃなくて俺にやらせて』
今まで見た事の無い真剣な表情、切羽詰まったような苦し気な瞳。
あれが自分に真っすぐに向けられた物だったなんて、未だに現実感が無かった。
もし信と付き合って結婚―――なんて事になったら……新は自分の弟になるのだろうか?
そんな事をボンヤリ考え始めた単純な自分に気が付いて、七海はブンブンと首を振って妄想を振り払った。




