40.美男からのプロポーズ
「―――は?」
「ちゃんと付き合っている婚約者だって、同僚に紹介してよ。正面切って紹介すれば相手も誤解だってすぐに納得してくれる」
「あ、ああ……」
七海はドキドキと忙しなく打ち始めた心臓を宥めた。
(あっぶな!また勘違いする所だった……!)
全く自分の周りの男性陣は親切過ぎると七海は呆れた。
(そして、下手に思わせぶり過ぎる……!)
思わず、ガオーッと叫びたくなったが堪えた。
おそらくモテない歴が長すぎて、願望が膨らむあまりそう言うシチュエーションに憧れてしまっているのだろう。ちょっと意味深な台詞を聞かされるとすぐ勘違いしてしまう自分が恥ずかしくて、七海は体がむず痒くなった。
(ないない、そんな都合良く『平凡地味子』な私がイケメンに告白されるなんて)
悔しいが使い勝手の良さに、岬が作った造語を意外と気に入ってしまった七海だった。
そう言えば、と七海は思う。
モテない割に自分は積極性が足りなかったかもしれない。
岬ほどガッツくのは周囲の迷惑かもしれないが、七海よりずっと可愛い岬があれほど頑張っているのに、『平凡地味子』な七海はこれまで彼氏を捕まえようと努力したことは一度も無かった。
いや、あった。高校生の頃一度だけ。
だけどそれ以降色々スッキリしてしまって、誰かにアプローチしたり合コンに出掛けたり、男の人を紹介して貰ったりと―――何らかのアクションを自分から起こす事が無いまま、これまでノホホンと生きてきてしまった。
四捨五入すれば既に七海もアラサーだ。
そろそろキチンと自分の身の振り方を考えた方が良いかもしれない、そう思った。
彼氏を作るよう努力するか―――もしくは仕事で身を立てられるよう資格を取るとか。
大学の友達は皆、彼氏ができてから忙しいと言いながらも楽しそうだ。
唯とは定期的に会っているけれども、結婚して子供でもできれば七海と遊んでる暇は無くなるだろう。いや、会いには行くと思うが……好きな時に長い時間一緒にいるのは難しくなるだろう。
今七海を構ってくれる信や新、黛もいずれ彼女が出来て結婚するかもしれない。そうすれば七海だけお一人様で……。
そんな未来を想像して、七海は何だか少し寂しくなってきた。
皆何もしなくても異性が寄って来るのだ。恋人を作れなくて作らないんじゃない。その気になれば幾らでも相手はいるのだ。
その気になったとしても相手がいないのは―――七海だけだ。
(やっぱり、立川さんのお誘いを断ったのは間違いだったのかな?私を女として誘ってくれるような異性なんて、この先現れない気がしてきた……)
黛に『いい奴』と言われて嬉しかった。
確かに七海を『いい人』と表現する人はこれまで何人かいた。
でもよく言うではないか。
『あの人、いい人なのにねぇ……』
『でもあまり異性として見れないよね』
凄く良い人だけど恋愛対象に入らない男性に対して、女子達がそのように同情する場面は良くある。それがまさか自分に当て嵌る台詞だとは、考えてもみなかった。
(私―――もしかしてヤバいかも……?!)
初めて危機感、と言うものを意識した七海だった。