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36.花束の似合う美男

その日は火曜日だった。


いつも通り連絡を受けて駅で待ち合わせしていた筈なのに、またしても何故か会社の前に精悍な容貌のスタイルの良い男が、如何にも値の張りそうな仕立ての良いスーツを着て立っていた。


(これか……!)


その光景が目に入って来た時、自分が受けたいわれのない疑いにやっと合点が行った。


のぶは可愛らしいピンクの花束を抱えていた。

七海は頭が痛くなった。思わず顔を覆って俯く。茫然とその場に立ち尽くしたまま。




何故なぜ、『花束』。―――すごく似合っているけれども。

そして約束したのに何故なにゆえ駅では無く、性懲りも無く会社の前まで来ているのだ。




確実に岬が言っていたであろう『ホスト』は信だ。

そうだ何故気付かなかったのだろう―――と七海は自分の迂闊さを呪った。


高校の頃から見慣れ過ぎていて―――唯の友達としてイケメンに囲まれる生活をしていた為に、それが如何に非日常に見えるのかと言う事を認識していなかった。

だって七海の周りのイケメンは皆七海では無く、あくまで唯のために存在していた。

彼等は七海目当てで一緒にいた訳では無いのだ。

そう、七海は添え物だった。そして矢面に立たないそのポジションが、あまりに居心地が良くその状況が周囲からどのように見えるかと言う事を忘れていたのだ。


そして七海はある事に気が付き、バッと後ろを振り向いた。


するとこちらを窺っていた課の先輩三人組と目が合ってしまい、ギョッとする。

伊達と中村は、驚いてきまり悪そうに視線を外した。

しかし一人だけジッとこちらから視線を逸らさず睨みつけている人物がいる。幼く見える大きな目を吊り上げた岬だった。


七海の背筋を冷たい物が走り抜けた。


「七海ちゃん」


その時タイミング良く(悪く?)肩をポンと叩かれ、彼女は飛び上がった。


「うっ…わぁあ!」


いつの間にか信が七海の傍まで歩み寄って来ていて、花束を抱えたまま嫣然と微笑んでいた。そしてキョトンとした様子で、無邪気に話し掛けて来る。


「どうしたの?立ち止まって」

「の、のぶさぁん~……も、もうやめてくださいよぉ……『駅で待ってて』って言ったのにぃ」


七海の肩に手を置きニッコリと笑う信を見上げた時、彼女の体からヘニャリと力が抜けた。

そこで今度は信がギョッとして、狼狽うろたえだした。




「え?な、七海ちゃん……?!」




驚き過ぎて、七海の目尻からポロリと涙が零れた。


今日は七海なりに気を張って頑張って来たつもりだ。

それなのに、その原因を作ったであろう信の呑気な顔を見ていたら―――腹が立ったのだ。



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