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33.やっぱり地味ですか

「ごめ……」

「何で謝る」

「だって怒るから」

「怒る?ああ、お前に怒ったわけじゃない」


その声音が全く平静のままだったので、七海は少し落ち着きを取り戻した。しかし舌打ちの訳を説明する気は無いようで、黛は先ほどの話題に戻った。


「立川が言い寄って来るのと、岬から当たられるのは避けられないだろ?それは七海にはどうしようも無い事だ。それに対してお前は何故悩むんだ?もっと具体的に言ってくれないとお前が何に困っているのか俺には理解できない」

「何故……」

「何が不安なんだ?そう例えば―――不安は不確定な要素があるから起こる。今どうしようも無い事実以外で不安な事は何だ?」

「……」


そう言われて改めて気付く。

もしかして……とか、これからどうすれば……と昨日不安に思っていた事に。


「あまり自分の中でも纏まってないんだけど……それでもいい?」

「ああ、勿論。言ってみろ」

「立川さんに今日顔を合わせたら、何て言っていいのかどんな態度をしていいのか……ランチをご馳走になった事は事実だし、その時何も失礼な事は言われてないしされてない。喫煙室の事立ち聞きしちゃったって言うの嫌だし……でも、気持ち悪いから笑顔で返せる気がしないし……感じ良く対応したら、それこそ向こうに都合よく取られてまた誘われたら嫌だし……」

「なるほど。他には?」

「岬さんって、すごくお洒落で可愛くて目立つ人なの。課の中でも綺麗な先輩と仲良くつるんでいるし社交的で色んな人と交流があるの……だから何故そんな噂を岬さんが営業部の立川さん達に言ったのかそもそも全然分からないんだけど……他の部署の人に伝わっているって事は当然、彼女の仲の良い人にはもう伝わってるでしょう?課の他の人達にも言いふらしてるのかな?もしかして……優しく接してくれるから全然気が付かなかったけど……皆、本当は陰で私を軽蔑したり、岬さんのように嫌ったりしているのかな?そんな目で私の事見てたのかなって……」

「お前がホスト遊びしてる経験豊富な女だってか?」

「うん、そんなふうに言われてたら怖いなって。私男の人とちゃんと付き合った事も無いのに……」


それまで深刻な様子の七海の話を、真面目に聞いていた黛が噴き出した。


「なっ……どーせ、私はモテませんよ!黛君と違ってさ……」


(やっぱり真面目に話して損した!)と七海が口を尖らせると、黛が追い打ちを掛けるように言った。


「そうだな、確かに地味だ」

「……」

「七海は地味で目立たないな、俺と違って。俺は目立つからな」

「……」


七海は黙り込んだ。

黛の遠慮ない台詞で傷口に塩を塗り込まれたような気がした。

すると黛は七海の心情など全くお構いなし、と言うようにサラリとした口調で続けた。


「『目立つ』って事は人の神経を何らかの形で逆撫でするってことだ。俺はだから女にモテるし、嫌われるし、男にも妬まれる。俺の周りは必要以上に近寄ろうとする奴か、逆に必要以上に近寄らないって奴がほとんどだ」


目の前の信号が赤になり、黛は車を一旦停止させた。

そしてクルリと七海の方を見た。


「逆にお前は目立たない。『目立たない』って事は人の感情を逆撫でしないって事だ。お前は感じが良くて、人に嫌な気を抱かせない。そんな奴を理由も無く嫌う奴はそんなにいない。それこそ岬って女みたいに、利己的な考えしか出来ない奴くらいだ」


七海は息を呑んだ。

黛の真剣な表情に惹き込まれて、時が止まったような気がした。

すると黛がフッと笑顔になった。




「大丈夫だ。例えその女が変な噂を言いふらしたとしても、お前みたいないい奴を嫌う奴なんて滅多にいない」



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