27.タイミングの悪い男
疲れ切った体を引き摺る様にして家に帰ると、玄関の開く音にドタドタと弟の翔太が駆け寄って来た。
「悪の手先め!!勝負だぁ!!」
とオモチャの剣を構えて、かなり低い所から睨みつけられた。
「ふっ……ハハハ……お前に私が倒せるかなっ!」
疲れてはいたが、七海は可愛い末っ子のために咄嗟に悪の手先を演じた。
「くっそー!『ましょうのおんな』めえっ!」
「……」
ちょっとショックで素に戻ってしまった。
しかし何とか気力を取り戻し、空元気を出して『ましょうのおんな』を演じる。
剣にズバズバ切られつつ「うおっ」「ぎゃあぁ~!」などと、悶える振りをして部屋へ戻り倒れた振りをしたところで解放された。
翔太が走り去って「まま~!やっつけたよぉ~!」と言っている声が聞こえた所で、うつ伏せに倒れていた『ましょうのおんな』の死体はムクッと起き上がった。
夕飯を食べるため着替えてリビングに戻ると、台所に七海の祖母の町子が、テレビの前に母親の響と翔太が陣取っていた。
戦隊物のDVDに見入っている母子に七海は質問した。
「ねえ、『ましょうのおんな』って何?」
「獣神トラガーをつけ狙う悪役。男を捕まえてコレクションするのよ」
「……へー……」
「悪い奴だぞ!やっつけなきゃ!」
「……うん、もう十分やっつけられた」
七海はそう呟くように言って―――盛大に溜息を吐いたのだった。




