21.彼女でもありません
「麻利亜……」
「全然連絡くれないんだもん、寂しかったよ~!」
「ハハハ……」
精悍な顔で柔らかい笑顔を作る信の笑い声が乾いているのに、七海は気が付いた。
チラリと厳つい黒眼鏡こと平泉と、こ洒落た銀縁眼鏡こと工藤に彼女が問いかけるような視線を送ると、平泉は何とも言えないような微妙な表情で首をすくめ、工藤は苦笑した。
「あれ?……この子は?誰かの彼女?」
『マリア』と呼ばれた威勢の良い女性は、無遠慮な視線を七海に投げ掛けた。
すると信が爆弾を投下した。
「俺の彼女」
「「は?」」
聞き返したのは当の本人七海と、質問した麻利亜である。
信は七海の射殺すような視線を受け止めて、余裕の笑顔のままゆっくりと否定した。
「……と言うのは冗談で……本当は俺の『お気に入り』。アプローチしているのに全然靡いてくれないんだ」
そう言って、色気を漂わせ身を乗り出し、信が七海の顔を覗き込む。
いつもならそんな仕草に真っ赤になって焦る七海だが―――この時ばかりは青くなってしまった。
「今『知合い』から『友達』に昇格するため、日々精進している処なんですよ、お兄さんは」
「へえぇ~、そうなんだー」
そう麻利亜は色の無い声で言い、ジロジロと上から下まで七海を眺めた。
如何にも出来るOL風の高価なスーツを身に着け、隙の無いメイクを施した女性にそのように見られると大変居心地が悪い。気の強そうな物言いにも威圧感を感じてしまい、七海の体は一瞬ピキッと固まった。
「も、も~~信さんったらぁ……冗談は止めてくださいよぉ……」
顔を引きつらせながら、そう言うのが彼女の精一杯だった。




