19.空気だそうです
その週の金曜日、七海はまたしても信に誘われた。
黛はあれ以来連絡をして来ないし、唯も英検一級の試験間近で洋食屋で会ってからカフェ巡りも封印している。新も研究室に所属するようになってゲームどころでは無いらしい。大学時代の友達は仕事に慣れて来た所で彼氏ができ始め、会う機会も減って来た。
彼氏の『か』の字も気配も無い七海に、お誘いを断る理由は無い。
会社の入口まで迎えに来た信に連れていかれたのは、彼の大学時代のサークルの同窓会だった。
「えっとー……そう言うのって部外者が参加しても良いんですか?」
「うん、皆彼女とか嫁とか連れてきてるから大丈夫だよ」
「えっ……余計、私ついて行ったら拙くないですか……?」
七海は怯んで立ち止まった。
「七海ちゃんは俺の大事な…『友達』だから大丈夫だよ!」
笑顔で振り向く信に、七海は冷静に返答した。
「『知合い』です。と言うか『蚊取り線香』でしょ?信さんにとって私は」
「何?『蚊取り線香』って」
目を丸くする信に、七海は(え?説明必要?)と思いながらも律儀に答える。
「『女除け』って言う意味です。信さんの色気にやられてフラフラ近寄って来る女性陣をシャットアウトするための。信さんがそう言ったのに」
「え?あっ……『女除け』ね、そうだっけ。忘れてた」
「それ以外に何があるんですか?」
七海は眉を顰めて呑気に微笑む信を見据えた。
信はそんな七海の視線をいなすように、歌うような口調で答えた。
「七海ちゃんはね―――俺の『癒し』!傍にいるだけで落ち着けるから一緒にいたいんだよ」
七海は更に眉を顰めた。
「……それって、『空気』ってことですか?」
最近周りの友達に次々と彼氏ができ始め、取り残されたように感じていた七海はほんの少しやさぐれていた。
「え?うん、そうそう!……あれ?なんか怒ってる?」
「『蚊取り線香』どころか『空気』扱いされて喜ぶ女はいないと思いますけど……」
「そう?七海ちゃんがいないと生きていけない……って意味に取れない?」
パッと笑顔で覗き込まれ、顔の近さに思わず七海の頬はカッと熱を持った。
「あ、真っ赤になった」
バシン!と七海は信の胸を押しのけ、目的地へと走る。
その後ろを笑いながら、信が楽しそうに大股で追いかけた。




