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1.スケジュールが埋まっています


七海には彼氏などと言う素敵な響きを持つ相手はいない。

けれども彼女の退社後のスケジュールは結構アレコレと埋まっている。


高校からの友人と偶に落ち合ってカフェ巡りをしながら彼女の近況を聞いたり、多忙でガサツな友人その二は、時間があけばこちらの都合などお構いなしに飲みに誘って来る。それから暇そうな知合いが週に一度は会社の前で待ち構えていて、七海を自分の遊びに連れ回すのだ。知合いとは友人の彼氏のお兄さんで、五つ年上の三十歳。独身で働いてはいるが時間が自由になる仕事らしく、大抵七海の都合に合わせてくれるので予定が合わないと言う事が無い。

更に七海は土日になると、開店前だけ大学でバイトしていた和菓子屋さんを手伝う事にしている。




……と言う訳で彼氏もいないのに、七海は結構充実したプライベートを過ごしているのだった。







「お先に失礼します」


そう言って会社を出ると、入口にスーツ姿のスタイルの良い長身の男性が立っているのが目に入る。


「七海ちゃ~ん」


と言って手を振る相手に七海は溜息を吐いた。

会社まで迎えに来てくれなくて良いといつも言っているのに、約束した日彼はいつもこうして七海を待っているのだ。


のぶさん、駅で待ち合わせって言いましたよね」

「七海ちゃんに一刻も早く会いたくて、気が付いたらここに来ちゃってた」


ニッコリと甘く微笑む表情に色気がありすぎて、面食いの七海は眩暈を覚えた。


心臓がドキリと跳ねるが、思わせぶりな台詞にも美男の甘い微笑みも今では日常茶飯事。会うたび信はこのような世迷い事をサラリと言うので、その言葉と表情に何の重みも無い事は理解している。

ただ笑い掛けられるたび、意味深な台詞を言われるたびドキドキするのは止められ無いが―――ようはテレビ画面の中のイケメン俳優がドラマで口にする台詞と画面越しに見つめる視線にキュンキュンしてしまうのと同じことである、と七海は達観していた。

本能で感じてしまう事を抑える事はできないが、理性を働かせて自分を説得する事はできる。いつも信に甘い言葉を囁かれるたび七海は「これは信さんの挨拶だ、そこには何の感情も籠っていない」と自分に言い聞かせ、今では自らの心臓がドキドキしていても頭は常に冷静―――と言うスゴ技をマスターするまでに至っている。


そうこうしている間に、目立ちすぎる美男子に注目が集まりつつあるのに気が付いた。


「もういいです、けど次は絶対駅にいてくださいね!」


と言って信の背を押して動かした。


「いつもそのつもりなんだけどね」


と意味深に微笑む信の精悍な視線に眩暈を覚えながらも、七海は問答無用で彼をグイグイと押し続けたのだった。




その様子を見掛けた同じ課の女性達が、ヒソヒソと噂話をしている事には全く気付かない七海であった。



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