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18.友達ではありません


「あ、こんばんは……」

「私、のぶの友達なの。あなたもそうなのかしら……?」


嫋やかに笑う綺麗なお姉さんに戸惑いつつも、七海はブンブンと首を振って律儀に返事をした。


「いいえ……!ただの知り合いですっ」


誤解されては困る!と慌て、落ち着いた女性の態度に恐縮する様子の七海にフフフと笑い掛け、彼女は自然に今まで信が座っていたスツールに腰かけた。


「そう?ね、あなたのコト私気に入ったわ。アドレス交換しましょうよ」

「え?!ええっと……」


名前も知らない相手にいきなり話し掛けられ、アドレス交換と言われても戸惑うばかりだ。

七海より年上か、信と同じくらいに見える綺麗なお姉さんの装いには隙が無い。どう見ても素朴な七海と話が合うとは思えなかった。


「信ってさ」


逡巡する七海に構わず、カウンターに肘を付いて大仰に溜息を吐きながら彼女は語り始めた。


「優しいから女の子は皆誤解しちゃうよね……で、期待しておかしくなっちゃうの!」


確かに。


と先ほど切なそうジッと七海を見つめた瞳を思い起こす。

まるで恋人を見るような優しい瞳で顔を覗き込まれると、それが彼の通常なのだと分かっていても誤解しそうになる。


七海は頷いた。


「でもそんなの違うと思わない?『友達』は『友達』でしょ?相手の気持ちを考えないで突っ走るような人がいるから、信も警戒しちゃうんだと思う……。ここ数年彼女を作っていないのって、きっとそんな人たちに無遠慮に踏み込まれ過ぎた所為だと思うの」

「なるほど」


七海はまた、頷いた。


確かに信の台詞だけをキチンと聞いていれば、勘違いなどしないのだろう。

この人の言うように、あの色香に惑わされて自分の良いように取ってしまう相手も悪いのかもしれない。

信は普通にしているだけで勝手にコッチが魅入られている―――とも言えなくも無い(……だろうか?)。……しかし見た目に惑わされなければ、付き纏う女性が減るのは確実だろう。


「あの人ね、誤解されてばかりだから―――いつも優しいけど……何処か偶に寂しそうにしている事があるの。きっとトラウマがあるから女の人を信用できないんだと思う。そう言うの……可哀想よね。だから私はそっと見守っているの」


七海は思った。


何て優しい女の人だろう!


信は結婚したいくらいの相手としかもう付き合わないと言っていた。けれどこんな心の広い女性なら、信のちょっと……いやかなり危うい女性関係も許容してくれるかもしれない。信のトラウマもきっと癒されるだろう。―――まあ、かなり自業自得なトラウマかもしれないが。


「こんな私でも、彼の助けになれれば良いと思っているのだけど……」


ホゥッと溜息を吐く仕草がひどくセクシーだった。

こんな綺麗なお姉さんなら、美丈夫の信と並んでも引けを取らないだろう……と七海は思った。


そこへ信が足早に戻って来た。


「あっ信さん!」

「七海ちゃん、もう……」


七海が手を振ると、溜息を吐いていた彼女もパッと顔を上げて「信!」と手を上げた。


信は何故か、振り返った彼女を見て顔を強張らせた。

そしてグッと口を噤むと、七海の腕を取って無言でスツールから立ち上がらせる。


そんな厳しい表情の信を見たのは初めての事だったので、七海は言葉を飲み込んで大人しく引かれるに任せて店を出た。連行されながら振り向くと、手を上げた彼女が白い歯を見せてニコリと微笑んでいた。







店を出てるまでずっと厳しい表情を貫いていた信が、振り返って笑顔を見せた。


「帰ろうか」


七海は少し信を見損なった。

あんなに信の事を心配してくれる友達を無視するなんて。


(あっもしかして)


七海は思った。彼女は関係を拗らせた元恋人なのだろうか……?どんな女の人にも過剰なくらい優しいイメージがあったのに。……それだけあの人が特別だと言う事なのだろうか……?


「あの……さっきの女の人、信さんの『友達』なんですよね……?」


声に微かな非難を籠めて探るように見上げると、信は首を傾げてキョトンと答えた。


「いや?」

「えっ……」


すんなり否定の言葉が信の口から転がり出て来たので、七海は思わずカクンとコントのように片膝を折ってずっこけた。


「あれはね、ストーカー二号」

「す、ストーカー?!え?……しかも『二号』?!」


動揺する七海を落ち着かせるように、彼女の両肩を支え膝を折って信は七海の顔を覗き込んだ。


「何か変な事、されなかった?」

「いえ……あっアドレス聞かれました。けど、教えてないです」

「ん、それで大丈夫。だけど何かあったらすぐ連絡してね。いつでも駆けつけるから」


優しく微笑む信の表情は大層頼もしくて―――思わず七海の胸は熱くなった。







しかし「いやいやいや……!」と呟いて、七海は首をブルブル振った。



「つーか、原因が信さんなんだから、駆けつけるの当り前ですよね……!」

「ハハハ、バレたか」



悪びれない信が朗らかに笑った。


眩暈がした。

勿論、色気にてられた訳では無い……決して。



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