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17.知合いです

翌週、のぶに誘われて行ったのは卓球バーだった。


実はそれなりに運動神経の良い七海は、卓球が得意だった。得意種目が微妙に地味なのも陰で『平凡地味子』と言われる要因の一つかもしれない。―――親睦旅行のスリッパ卓球で異例の大活躍をした時、七海は初めて課内で脚光を浴びたのである。


完膚なきまでに信をやっつけて、七海は爽快な気持ちでパンチビールを煽った。

パンチビールとはこの店のオリジナル商品らしい。ビールにショットグラスの中の赤いアルコールを加えたもので、ショットグラスの中身の配合は企業秘密とのこと。何だか怪しさ満杯だが、飲むと体がカッと熱くなり気分が上がるので七海は結構気に入っている。


「テニスなら負けないのになぁ」


元テニスサークルに所属してたという経歴を持つ信は苦笑いしながら、ビールを飲んだ。悔しそうに言いつつも何だか余裕があるように見えるのは、本気を出せば勝てると思っているからかもしれない。その余裕が七海には少々面白く無い。


「今度一緒にテニス行こうよ」

「私がそんなリア充スポーツの経験あると思っているんですか?無理無理、ラケットもウエアもシューズも持ってませんし」

「ラケットはレンタルできるし、ウエアくらい俺が……」


その時信のスマホが鳴った。

画面を見て信は一瞬眉を顰めたが、七海に断って席を立った。

暫く手持無沙汰にメニュー表を眺めていると、こざっぱりした眼鏡の男が七海に声を掛けてきた。


「君強いね……!僕と対戦しない?元卓球部なんだ」


強い相手とやれるのは面白そうだ。七海はおっしと腕まくりをして立ち上がった。

そして卓球台へ歩み寄ろうとした時グイッと腕を引かれて、思わずつんのめる。

振り向くと信がにこやかに笑っていた。


「七海ちゃんは俺と一緒にいなきゃ、ダメでしょ」

「えーと……『虫除け』だからですか?」

「うん?……まぁ、そんなとこかな?」


七海はフーッと溜息を吐いた。諦めた様子を認め信が手を離す。

先ほど誘ってくれた眼鏡の男性に歩み寄って、七海は礼儀正しく頭を下げた。


「すいません、連れが戻って来たので」


すると眼鏡の男性は気を悪くした様子も無く笑い、


「残念!じゃあ今度機会があったら、是非」


と言って、卓球バーの名刺にサラリとアドレスを書いて差し出した。


「あ、ありがとうございます……」


七海は両手でそれを受け取り、ペコリと頭を下げて信の元へ戻った。そして自慢げにビシッと名刺を彼の目の前に晒した。


「信さん!私男の人に連絡先渡されました!初めてですよ、こんなコト……!」


思わず嬉しくてはしゃいだ七海を、信は半眼になって睨んだ。


「……俺の連絡先だって、知ってるだろ?」

「信さんは『知合い枠』です」

「え?『知合い』?!『友達』ですらないの?!」

「……『友達』なんて失礼な事、言えませんよ。五つも年上の方に」


七海はそっと目を逸らし、心にも無い言い訳をした。

信に微妙な関係の女友達がたくさんいて、以前争い事があった事は聞き及んでいた。だから七海は何となく信の『女友達』と言うくくりに入るのは遠慮したかった。

奢って貰っている手前、少し遠回しに答える。

すると信がフッと寂し気な瞳で七海を見つめた。


「……俺は七海ちゃんのこと、大事な……友達だと思ってるんだけどな」

「あ……りがとう、ゴザイマス……」


精悍な色気のある眼差しで切なそうに見つめられて、七海は眩暈を覚えた。

するとまたしても信のスマホが震えた。

信が席を立つと、七海は我に返り頭を振った。


「あっぶなー……信さんの色気ハンパないわー……こっわー」


分かっていても惹きこまれてしまうものはどうしようもない。七海は自分の『面食い』と言う性質が心底恐ろしくなった。


額の汗を拭っていると、傍らに歩み寄って来る影に気が付く。

顔を上げると綺麗なお姉さんが、七海を見ていた。




「こんばんは」




その綺麗なお姉さんは柔らかそうな長い髪をサラリと揺らして、七海にニッコリと微笑み掛けた。白い歯がキラリと形の良い口元から覗く。

眩しいような気がして、思わず七海はパチクリと数回瞬きを繰り返したのだった。



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