11.冗談だってば
体が固まって動かない。
目の前の綺麗な面差しの男に、視線が惹き付けられる。
魅入られたように……七海はやつれて少し精悍になったその顔から目を離せずにいた。
ゴクリと唾を呑み込んだ七海は―――パチパチと瞬きを繰り返し、強制的に本能に喝を入れた。
「こぉの……」
奥歯を噛み締め拳をギュッと握る。そして少し背中に力を入れて体を引くと―――ソファをグイッと押し、七海は体をバネのように起こした!
ゴチンっ!
見事な頭突きが決まり「いってぇ……」と呻いて思わず黛は体を起こした。
「な、なみ……冗談だって……」
弁解の言葉を述べようとする黛のお腹に、七海は思いっきり踵で蹴りを叩きこんだ!
「ぐっ…っ」
お腹を押さえて黛が蹲った所で、七海はソファから立ち上がった。
脂汗を掻きながら、顔を上げた黛に向かって、腰に手を当てて言い放つ。
「ふざけんなっバーカ!」
「なな……」
「絶交!」
「……えっ……」
痛さも忘れてポカンとする黛を睨みつけ、七海は低い声で言った。
「もー連絡すんな!」
そうしてクルリと体を翻すとバタバタと走り去って行った。
バタンッと音がして、玄関から七海が飛び出したのが分かった。
「……ってぇ……」
お腹を押さえて黛はドサリとソファに倒れ込む。
暫く呻いていたが、やがて睡魔に負けてそのまま眠りについたのだった。