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9.疲れてますね?



トイレから戻ると、カウンターに黛が突っ伏していた。


「おーい」


ユサユサと揺さぶると、目をこすりながら彼は顔を上げた。


「帰ろう。もう眠いんでしょ?」

「おー……」


(もうギリギリなんだな)


七海は珍しくちょっと同情的な気持ちになった。

精算を済ませ、ウツラウツラとおぼつかない足取りの黛を引っ張って階段を下りる。手を取らなければ転げ落ちそうな気がしたからだ。


この店は黛の家まで歩いて十分もかからない距離にあるが、このまま一人で返すのは何とも心許ない。七海は黛をタクシーに押し込む事に決めた。

駅に近いので自分はこのまま地下鉄で帰ろう。最初に帰りのタクシーを要求したのは七海だが、本当に必要なのは今にも眠りに落ちそうなこの男の方だと思った。


「運転手さん、瀬田○丁目のサウステラスってマンション知ってますか?そこまでお願いします」

「川沿いの建物ですか?お寺のそばの」

「それです。じゃ、お願いしますね」


フラフラ揺れる黛の体を扉から押し込み、座らせてから七海は体を引こうとした。


すると大きな手が伸びて来て、その動きを阻まれた。

ガシッと手首を掴まれてしまい、車から離れることができない。


「送る。……約束しただろ」

「いいって。駅近いし、まだ地下鉄あるから」

「……」


黛は無言でグイッと七海を引っ張り込むと「こどもの国までお願いします」とタクシーの運転手に向かって言った。


「高速を通ってもいいですか?」

「はい」

「ちょっ……」


バタンと扉が閉まった。タクシーの運転手は黛の案を即採用したようだ。昨今タクシー利用者は減っている。三十分の道のりの方が断然実入りが良い。

七海は力を抜いて、肩を竦めた。


「なら黛君のマンション、先に通って。早く寝たほうが良いでしょ?ウチによったらマンションに帰るまでに往復で一時間かかるよ」

「タクシーで寝るから良い。放って置いたら途中で降りるだろ、お前」

「……降りないよ。だから先に帰ってよー」


疑いの目を向ける黛をジロリと睨み返し、七海は溜息を一つ吐く。

疲れ切ってグダグダな人間に黙って送られる訳にはいかない。


「分かったよ。ちゃんとタクシー乗って帰るから。運転手さん、先に瀬田に向かってください。それからこどもの国で」

「わかりました」







しっかりした口調で話していたと思ったら、車が走り出した途端黛の体が倒れ込んで来た。


「ちょっ……黛君!」


ユサユサと体を揺らしたが、七海の膝の上に頭を乗せたまま昏睡したように黛は意識を手放していた。




「……本気で寝てる人間の頭って、重いんだなぁ……」




足が痺れる前に着くといいな……と、七海はスヤスヤと寝息を立てる男の顔を見下ろし、切実に願ったのだった。



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