実戦
最近、俺の日常に弓矢の練習が入りつつある。あの後、貫通矢を完全に習得して、最近はドリル矢、(本名螺旋矢)を練習している。これは、貫通というより、抉りとる感じの矢となっている。実戦にはあまり使いたくないものではあるが、自分の見に危険があれば、そのような贅沢は言ってられなくなるだろう。
出来れば貫通矢も練習したいのだが、木を通り抜けるからいちいち探さなければいけなくなるんだよな。
「マリア先生、これから弓矢の練習に行ってきます」
「レイザード君、気をつけて言ってらっしゃい」
俺は用意が出来たので、マリアに許可(?)をもらって、門へと向かう。最近は、弓矢の腕が上がって来たので、剣術を習い始めた。剣術も順調に上達してはいるが、弓矢程ではない。
「あっ、レイくん!何処行くの?」
「これから弓矢の練習をしてくるんだ」
門を出ようとする直前に話しかけられたので振り向いてみると、エリナだった。俺はエリナに本当の事を言うと、エリナは微妙な顔をして言った。
「レイくん、最近、練習ばっかりしてるよね?」
まあ、確かにそうだろうな。俺は最近、こんな調子だし。…そう言えば、最近エリナと遊んでなかったなー。今度遊んでやろうか。
「確かにそうだね」
俺の返答にエリナはムッとした顔をした。……一体どうした?俺何か悪いこと言った?俺が悪い感じなの?さて、なんて声をかけようか。
まあ、そう怒るな。今度遊んでやるからな。
……犬か?犬なのか?
「私も連れてって!」
「ダメです」
う~ん。別に俺的にはいいんだけどな。マリアがダメと言うなら、俺はなんとも言えないし。精神年齢は俺より下だが俺よりもこの世界での知識力は、常識力は上だろうし。
まあ。マリアが言うならエリナも諦めるだろう。
「でも、何で私はダメで、レイくんはいいんですか!」
あ、それ俺も思った。……でもマリアが言いたいのは俺も分かるぞ。だてに十数年生きてきた訳じゃない。
え?そのほとんどは引きこもっていただろ?それは言っちゃいけないよ。人には他人に触れてほしくない過去があるんだよ。(キラッ)
「エリナちゃん、いいですか?私はみんなを大切に思っているんです。だから、エリナちゃんを外に出すわけにはいかないのです。レイザード君は……例外です」
なあ、マリアよ。俺には言いたいことがよく分かったが、エリナがその説明で理解できるわけないだろ、そしてもう一つ。確かに俺は転生者で、異常者だが、それは、努力して手に入れたものであって、もともとあったものではない。俺は天才ではない!秀才なんだ!
誰だ!ナルシストって言った奴!ちがーう!断じて違う!俺は岡崎叶斗であり、美少年ではあるが、ギリ○ャ神話に出てくる美少年ではなーい!
………え?それがナルシストだって?なんのことだ?俺は分からんな。
「はーい」
あれ?ちょっと待て?何でこんなに違和感あるんだ?さっきの言葉が残ってて思い出せない。
──あー!なんだったんだっけーー!
□ □ □
「さーて、森へついたことだし、練習を始めるか」
俺はそう言って弓矢を背負っているリュックから取り出す。この世界には空間魔法やアイテムボックスがあるが、空間魔法は知っている者が非常に少なく、アイテムボックスは希少なもののため、貴族でも、爵位を与えられている者しか手が出せない値段となっている。
そのためか、この世界でもリュックは存在していた。生地はあまりよくないが、それもそうだろう。生地はとても貴重な物のために、繰り返し使うことが義務付けられている。貴族でさえ、新品の服を着ているのは爵位を与えられた者と、王族くらいらしい。
「はぁ、………」
俺は息を整え、弓矢を普通に放つ。当然放たれるのは普通の、なにも仕掛けのない矢だ。
その矢は木に突き刺さる。命中率はそこそこだ。……とはいっても、七割以上だけど。
「さて、次は、と」
俺は五、六本程放ってから、矢に魔力を流し始めた。その矢が放たれると、ヒュンッと鋭い音を立てて飛んでいき、木を簡単に貫通、二、三本の木を貫き、やっと止まる。前回は木を完全に貫通して、無くしてしまった。俺は同じことは繰り返さないのさ。(キラッ)
矛盾何かしてないんだからね!
誰だ!ツンデレのマネ気持ち悪いって言ったの!これはマネじゃないんだぞ!(嘘つき)
次に、螺旋矢を放つ。あ、すまんすまん。そう言えば言ってなかったな。ドリル矢のことを俺は、螺旋矢と言うことにしたのだよ。よろしく頼む。
しっかし、エグい。この言葉以外に言葉がでない。今の思っていることを、五百字以上で書きなさいとか抜き打ちテストでもされたら、もう終わりだな。だって、何か威力が異常なんですけど。
木が、吹き飛んだよ?なにこれ怖い。だったよ。自分の技にびっくりだよ。
さーて、最後の方では─────
俺は下に落ちている小枝を拾って、空へ向かって投げつけた。
バンッ!
小枝は見事に爆・散♪
アハハ、楽しー♪
俺は下に落ちている小枝を拾って空へと投げまくり、爆散しまくった。空から時々変なモノが落ちて来るが気にしない。もし、ここに誰かがいたとしたら俺は確実にクレイジーな人間と思われるのだろう。だが、これも気にしない。だって楽しいんだもん。
「まあ、こんなものか」
俺は気の済むまで小枝爆散を楽しんだあと、帰るために矢を拾い、しまい始めた。
「よし、じゃあ、帰るとするか」
俺がそう言って立ち上がった瞬間──
「キャアアアアア!」
悲鳴が森の中で聞こえた。
しかも俺の後ろで。
□ □ □
『グギャャャャャャャャ!』
七匹のゴブリンが声をあげる。俺は急いで、しまった弓矢を取りだし、その内の一体に向かって放った。その矢はそのままゴブリンへと届き、身体に突き刺さる。
『グギャ!?』
そんな声をあげてゴブリンはよろめくが、すぐに体勢を立て直し、矢を抜き取る。その傷口からは、赤い血が流れている。
ああ、血の色が緑とかじゃなくて本当に良かった。
しかし、普通に射てもほぼ意味をなさないか。
「なら─────」
俺は、再び弓を構えて放つ。その矢は空中に螺旋を描き、華やかに飛んでいく。まぁ、これから起こることは、ある意味、華やかなんだよな。
『グギャ!?グギャギャ!』
七匹の中でも、特に大きいサイズのゴブリンが声をあげると、周りのゴブリンがそのゴブリンを守るように壁を作る。螺旋矢は、一匹目のゴブリンをミンチ(本当の意味での)にすると、二匹目の腕を吹き飛ばして、三匹目の身体を、肉片へと変えて、四匹目に届かぬ内に、落ちてしまった。しかし、その矢の後ろには、乱射された木の枝がある。しかもその木の枝はただの木の枝ではない。レイザードの爆弾である。
『グギャッ─────』
ゴブリンの内の五匹は、その爆発に巻き込まれ、焼けた肉となっている。その肉からは異臭がしており、鼻がおかしくなってきている。
「さて、と。残りの二体はどうやって調理してやろうか」
さーて。ここで始まりました。レイザードクッキング!今回はどんな料理が出てくるのでしょうか?司会は私、レイ・ザードがお送りいたします!
レイザードじゃないですよ?レイ・ザードですからね?
おーっと、ここで出ました!レイザード選手の【醜鬼爆炎着火】!
説明しましょう!醜鬼爆炎着火とは、レイザード選手が開発した、超号泣ステーキです!ゴブリン特有の異臭を放つ肉をそのまま焼いた。そんなステーキなので、勿論異臭が凄いです。想像してみて下さい!……ああ!勝手に涙が!私はこの異臭に感動して号泣しています!
今回はここまで!またお会いしましょう!レイ・ザードでした!
□ □ □
「ふぅ……」
今回は何とかなったが、それは遠距離だったからだ。
──もしこれが遠距離だったら、
「…ッ!」
そう思うと寒気がしてくる。
ああ、そうだった。俺は悲鳴が聞こえてゴブリンに気づいたんだ。だとしたら、悲鳴を出した人物もこの辺りにいるのだろう。
「うわっ!」
俺はゴブリンの倒れている辺りで探すことにしたのだが、兎に角、臭い。例えるなら死体。いや、それは例えたことにならないな。
まあ、例えようのない臭さなのだ。
俺は、吐きそうになるのを我慢して、この辺りにいるであろう人間を探した。
「そう言えば、この辺りってモンスターは入れないんじゃなかったっけ?」
そう言えばそうだ。この森には、マリアの張った魔法で、モンスターは入れないはずだ。なのに何故、
「後でマリアに聞いてみるか……あ、」
俺は、木の後ろに隠れて気を失っている少女を見つけた。しかもこの少女は孤児院の──
「何でこんなところにいるんだよ」
そこには、リリィがいた。
□ □ □
【リリィ視点】
私はあの夢通りに、レイザードを追うことにしました。
今はマリア先生となにかを話しているようです。正直何の話をしているのか、全く分かりません。
あっ、次はエリナちゃんと話しています。早く行ってくれないかな?そう思っていると、レイザードはようやく森へ向かいました。
私は今、レイザードを尾行しています。『あの声』には、一緒に行け。と言われたけど、そんなの無理に決まってるもん。
レイザードは森で弓矢を用意して射始めました。矢は普通に放たれ、木に刺さりました。
「これなら出来そうだな……」
私は単純に出来そうと思いました。
でも、レイザードは次に異常な行動をし始めました。
「何で矢が……浮いてるの!?」
私は驚き、声をあげてしまいましたが、レイザードは気づいていないようです。私は、ほっ。と 息を吐くと、レイザードを見始めました。
バシュッ!
私のすぐそばにある木に刺さりました。何故!?
そう。この木はレイザードの方からみて、五本程、被っている木があります。なのに、この木には、矢が刺さっています。
(あり得ない!レイザードは貫通させてこの木に当てたの!?)
しかし、レイザードに対しての驚きはこれだけではありません。
次に放たれた矢は、木を抉って木屑を発生させます。
凄い!私は単純にそう思いました。
レイザードは小枝を拾い始めたので、もう終わるのか。そう思いました。なので、私は後ろを向いて帰ろうとしました。
──その瞬間、
バンッ!
レイザードが、魔法を使って失敗した時と同じ、大きな爆発の音が聞こえて、私は反射的に後ろを向いてしまいました。
レイザードは倒れていません。
だけど、
「え?……え?…」
私は理解できないでいました。それもそのはず。レイザードは小枝を投げていました。その小枝が木より高くとんだ瞬間、
バンッ!
再び爆発音が響きました。耳がビリビリと痺れるような、音でした。私は一瞬耳が遠くなってしまいましたが、すぐになおりました。
『──ギャギャ!』
「え?」
不意に、声が聞こえたような気がしました。私は声の聞こえた方向、後ろを向いてしまいました。
『グギャャャャャャャャ!』
そこにはゴブリンが数体いたわけで、
「きゃぁああああ!」
私は精一杯叫びました。しかし、ゴブリンは止まらずにこちらへと来ます。いや、その悲鳴が呼び寄せてしまったのでしょう。マリア先生に、ゴブリンは女の子を襲う危険なモンスターであることを聞いていたので、恐怖が私の心を支配してしまい、足のガクガクが止まりません。
ゴブリンは気色の悪い笑みを浮かべて─────
私の意識はそこで途絶えました。
ゴブリンステーキなんて食べたくないですよね?