ハッピーバースデー
第一水曜日なので、二話投稿します!
みんなが俺を無視してくる。あのエリナでさえ、「あ、今忙しいのー、また後でねー」といった状態である。一体何が何なのやら。マリアも俺に何があってこうなっているのか教えてくれない。まあ、前世がああだったからどうといった事はないけどな。
「……暇だなー」
しかし、そんな俺でも耐えられないものがある。そう、暇な時間だ。
前世では暇なら暇で、ゲームなり読書なりしていたからな。暇で仕方ないといったことが起こらなかったのだが、この世界に、ゲームはない。本はあるが、俺の読みたいような本がない。だからといって買おうにも高すぎて買えない。ここの本は、テンプレ通り直筆である。印刷なんで、「何それ美味しいの?」状態だ。魔法でなんとかならないのかよ?とか思うが、そもそも「コピー」という考えが地球の考え方であり、こちらの考え方は違うのかもしれない。
まあ、そんなことがあるわけで、非常に暇にしている。遊び相手がいないので遊ぶことが出来ません。さあ困った困った。
「仕方ない。河辺で水切りでもしてこようかな」
……とはなりません。こら、そこ!舌打ちしない!
一人で出来る遊びと考えて一番最初に出てきたのが水切りだった。他にやれる事があったとしても、外で出来る遊びの方が多いだろう。そういうことで外へ出た。
□ □ □
この孤児院は、町の端にあるため、外に出やすい。加えて、孤児院のルールで四歳以上の子は一人で外を出歩くのが可能となっている。普通なら八歳でも外に出してくれないらしいが、この孤児院のあたりは、比較的モンスターの出現率が低い…というかほぼいないようなものなので、四歳となっているらしい。
ちなみに俺は確か……そう、四歳だ。きっとそうだ。多分そうだ。そうだよな?俺は誰に聞いている?頭打ったか?
「えーと…どう行けばいいんだっけ?」
俺は今、孤児院を出て右手にある森へと来ている。全文で説明した通り、このあたりはモンスターが少なく、マリアが展開した持続魔法(名前忘れた)が張ってあるので俺たちのちょっとした遊び場となっている。
「あった」
森の中にある川にやっとたどり着いた。個人的にはここじゃなくてもいいんだが、マリアに怒られる可能性を考慮すると、こっちの方が安全だからな。俺からすればゴブリン、下手したらオークよりマリアの方が怖いのだ。
俺はそこにたどり着いてからひたすら平たい石を見つけては投げ、見つけては投げを繰り返し続けた。
「おっ、丁度いいの見っけ」
今日見つけた石の中で最も水切りに最適な石を見つけた。
(これで切れなかったら笑えないな)
今のところの最高記録は十三回。この石ならいとも簡単にその記録を更新するだろう。しかし、それではつまらない。
(魔力を込めたらどうなるんだろう?)
ふと思ってしまった。自分の身に宿る大量の魔力をその石に込めて投げれば、素晴らしい記録が出るはず。と
俺はその石に大量の魔力を注ぎ込んで思いっきり川へと投げつけた。ヒュンッと音を出して飛んでいく石が水面に触れた
──瞬間、
バシュシュシュシュシュシュ!!!
え?何ですか、これ何ですか?石が水の上を走っているんですけど。てか、跳ねてないんですナ~ニ~コ~レ~♪
開いた口が塞がらないとはこの事を言うのだろう。なんか文字通りだな。
石は向かい側の方へと走り、水面を走りきって仲間のもとへダイブした!周りにあった石は盛大に飛んで、川へとダイブして溺死するなり、俺の方へと飛んできてぶつかる。
イタイ!イタイです。ストーンさん!やめてください!死なないけど死んでしまいます!(矛盾)
これが言いたかった。ひとまずこれをやっていて思ったということにしておこう。
──わーい、新しい技だー!
これで満足。
俺はあのストーンマシンガンで、できたたんこぶをさすりながら孤児院に帰ることにした。
□ □ □
「はぁ、帰って来たのはいいが…何でこんなに静かなんだ?」
帰って来た俺に待っていたのはエリナではなく静寂君だった。はじめまして静寂君。………誰か突っ込んでよ…。
せっかく誰にも帰って来たのに気付かれてないようなのでおどかして見ましょう。これは実験です。人間は、驚くとどんな顔をするのかという実験をしません。
「あっ、レイくんみーつけた!」
開始二秒で見つかりました。まさかあれはワナだったのか!?俺を油断させるための罠だったのか!
「レイくん、みんなが待ってるから早くこっちに来てよ!」
みんなが待ってる?まさか全員で俺をいじめる気か!?
取り敢えず、エリナの言う通り行っておくのが身のためかもしれない。あっちにはSランクモンス……こほん、Sランクの偉大なるお方のマリアがいるしな。………うん。エリナについて行こう。
俺はエリナについていき、ホールの中へと入った瞬間、
『レイザード(レイ)くんお誕生日おめでとう!』
………へっ!?
あれ?なにこれ?ナニコレ?えっ?何なのこれは
俺、今の状況が何なのか全く理解できてません。誰かー、これは何なのか教えてくださーい。
「あれー?レイくん?きっこっえってっまーーーすかーー?」
エリナが耳元で大声で言ってくる。──うるせぇ!聞こえとるわ!ボケぇ!と言いたくなるが我慢する。エリナの涙とか見たくないし。
それよりエリナ、目の前で手を上下するのはやめてくれ。目がチカチカする
……ってか、マリアいい加減とめろぉぉぉぉぉぉぉ!
「マリア先生ーレイくんが、レイくんがー」
「はーい可哀想に、可哀想に」
エリナが俺に無視されていると勘違いして(事実だろ)マリアに泣きつく。周りの奴等も俺を睨んでくる。
──え?俺が悪いの?ええぇっ!?
(その通りだ)
「……はーい、演技はここまでにしましょうねー?エリナちゃん?」
「演技?」
マリアは芝居と言うことで片付ける。おい、ちゃんと処理しろ!この誤解、いかにも俺が悪い的な状況を何とかしろよおぉぉぉぉぉぉ!!!
ちょ、そこ、舌打ちするな!
何故に舌打ちする。君達はこれを望んでいたのでは?…え?なんだって?もっとひどい状態を想像してた?俺の身体がもたんわ!
「それじゃあ、リリィちゃん、あれを渡して?」
「…………」
マリアの言葉を聞いたリリィが無言で俺の前にくる。あれ?リリィってこんなんだったっけ?何か、もっと天然キャラ感が……
「はいこれぷれぜんと。おたんじょうびおめでとー(棒)」
うーん。リリィに何か悪い事したっけかな?……思い出せん。つうか、これって俺の誕生日を祝ってるんだよな?誕生日、俺の誕生日だよな?何でエリナは食ってばっかりなんだ?
「あ、ありがとう」
誕生日誕生日誕生日誕生日誕生日誕生日誕生日誕生日誕生日誕生日誕生日……。
あれ?そう言えば俺なんで祝われてるんだっけ?誕生日ってなんだっけ?分からんが、取り敢えず受け取ろう。箱を受け取る。結構ずっしりしてた。一体何が入っているんだ?
「開けていいのかな?」
俺が言うと、口をリスみたいに膨らませたエリナが、大げさに首を縦に二回振った。いいのだろう。
俺は可愛くラッピングされていた箱を開けると、中には一張の弓と十数本の矢が入っていた。
「弓矢?」
「うん。これ私が選んだんだよ!」
俺の問いにエリナが笑顔で答えてくれた。…この笑顔いいねぇ。写真に一枚おさめておきたいなー。そう言えば、この世界にカメラはあるのだろうか?
しかし弓矢か、俺が魔法を使えないからこれなのかな?だとすれば他の人達はマジックスタッフとかかな?いや、案外全く関係ないものかもしれない。
「ねー、これ見てよー!」
俺が明後日の方向を見ているとエリナに呼ばれて我に帰る。…何かこの世界に来てからマイワールドに行ってしまうのが多くなったような気がする。
エリナはアクセサリーを持っていた。店で売っているようなものではない。あちこちに傷があって紐が悪くなっている。
「これエリーが作ったの?」
俺がそう言うとエリナは頷き、心配そうに俺の方を見てくる。自分の作ったアクセサリーの感想を待っているのだろう。
「すごい嬉しいよ、ありがとう!」
俺は素直に感想を述べる。するとエリナは「えへへ」と言って照れてしまった。以外とチョロい。
……照れているエリナも可愛いな~
そこ、ロリコン言うな!同年代なんだぞ!…え?精神年齢?そんなの知らんな。(ご都合主義者め)
隣にいたリリィの方を見るとすぐに視線をかわされた。何か傷つく。俺は本当に何をしたんだ?心を読まれたのか?そうなのか?リリィも可愛いよ~リリィ、リリィ、僕のリリィ!
誰かが「キモッ」と呟いた。うるさいな。そんなの俺も分かってる。
ちなみにエリナからはこのアクセサリー、マリアからは弓と矢のセット。他の子からは何も渡されなかっ……気持ちをもらいました。何ももらってない訳じゃないからね!
□ □ □
エー、イマワタシハ、ユミヤノクンレンヲシテオリマス。ワンツーマンシドウデス。トッテモキビシイデス。カタコトシャベリツカレマシタ。モウヤメマス。
──おふざけはここまでにしましょう。
「レイザード君、弓の使い方はわかったかな?」
「はい。ありがとうございました」
前言撤回。全く厳しくありません。さっきの嘘です。ごめんなさい。ごめんなさい。そこの人を、はたいて良いです。どうぞどうぞ!
マリアから使い方を教わったが、よく分からなかった。取り敢えず魔力を込めましょう。魔力は便利です。分からなかったら、魔力を込めよう!
「それでは試しに一本矢を放ってみましょう」
俺は弓と矢に適当な量(俺的)の魔力を込めて放った。矢は的へと一直線。やったね、一発成功、俺って天才じゃないか?
「あ、レイくん発見!レイくーん」
エリナが声をかけてきたので、俺はそちら側を見てしまった。すると突然矢が軌道を変えてエリナの方へと飛んでいく。え?あれ?何で矢がここにあるの?
『我が魔力を糧とし、我が身を守る(略)─────となりたまえ……グランドウォール!』
マリアが咄嗟に唱えた上級魔法、グランドウォールが姿を現す。全長五メートル、横幅二メートルの巨大な土壁だ。俺の矢はその壁に当たると、大きな爆発を起こし粉々になって空中を舞う。その当たった壁には凹みどころか傷ひとつなく存在し続けていた。
──あぁ!俺の、俺の貴重な矢が!
このあと俺は知っての通りマリアに怒られ、エリナに慰められ、リリィに鼻で笑われましたのさ。
めでたしめでたし。
□ □ □
後で調べたところ、あの爆発は俺の魔力による爆発だと分かった。最近は魔力コントロールの練習をしている。これはちょっとした空き時間でも出来るので訓練の時間は弓の練習をしている。……とは言っても、的には当てずにあちこちに動かして魔力が切れるのを待つのだが、そんな練習をしている。
あと最近俺の変な噂が流れていたらしい。(エリナ情報)誰が流したのかは分からないが正直言って、どうでもいいのでほっといています。
ちなみに俺は今回の誕生日で5歳になったそうです。マリアに聞いて分かりました。まぁどうでもいいよね。
□ □ □
【レイザード 夢の中】
『やあ、久し振りだね――叶斗君、いや、レイザード君の方がいいのかな?』
ふと、そんな声が聞こえた。
「何処だ、何処にいる!」
『シー、みんなが起きちゃうよ』
もちろん俺がこれが夢であることなど知るはずもない。
俺は『声』が言った言葉を聞き、反射的に声を出してしまった。『声』はそんな俺とは正反対に落ち着いている。ちなみに声とは俺が転生するきっかけを作った正体不明の人間かも分からない声を発する生物である。
『実は今日私がこんなことをしているのは頼みたいことがあるからなんだ』
「頼みたいこと?」
俺は周りに聞こえないよう、小さな声で言った。
『うん。この世界に私が呼んだのは分かっているよね?』
「ああ」
『その事なんだけど、ひょっとして、君の身体には大量の魔力がないかい?』
俺はその問いに正直に答える。
「確かにあるが?」
『私が君の事を呼んだのは確かなんだよ。でも、君に大量の魔力を持たせた記憶が無いんだ』
──え?それって……どゆこと?
この魔力はお前が俺にくれたのではないのか?
『君は平凡な魔力量、魔術才能を持った男の子で産まれる筈だったんだ。』
──それってつまり…………
『うん。君は何者かにいじくられた可能性がある。もしそれが──だったら、』
その名前に息を呑む。それはこの世界にいてはならない『モノ』だからだ。
『─────。そこで君は近々殺される事になる。その前に君には──と仲良くして欲しいんだ。こっちの方で、出会うきっかけはつくるから安心して。いいかな?……って言っても君には選択することはできないけど』
俺はその言葉に返事をすることすらできなかった。
俺は次の日にその事───、この夢の事をすっかり忘れていた。
これが俺の人生を変える、一言であるとも知らず─────。