魔力量と魔術才能
さて、やっと一章が始まります。
「なぁ、そういや二日後、魔力量の測定だよな」
「あ!、そうだった。……忘れてたよ」
……魔力量の測定、だと!?
魔力量。これは魔法を放つ際に必要になる魔力の総量の事だ。前世のゲームでは、一般的にマジックポイントとされてきた物だ。この魔力量は、ランクがつけられており、
E、D、C、B、A、Sと六つのランクに分けられる。その、魔力量を測定する道具は色々あるのだが、そのなかでも代表的なのは、ギルドカードだ。
この世界のギルドカードは、自分のギルドランク、名前、年齢は勿論のこと、ステータス(魔力量含む)まで、書かれている。なんでも、ギルドカードを発行するためには、持ち主の血液が必要になるらしく、その血が含んでいる魔力が、持ち主の魔力に反応して見えるようになる防犯システム(なりすましの)を作る際に、遊び心で、とある天才魔導士がつけたものらしい。
魔力量が少なければ、俺の人生は苦の連続になるだろう。……そこの君!、そっちの方が面白そうだと思ってないだろうな?
「って事は今年も魔術才能の実技もやるのかよー」
「えー、また『あれ』覚えるのー?めんどくさー」
……魔術才能?何だそれは、てか、『あれ』って何だよ。
よし、後でマリアに聞いてみよう。エリナ達が知ってる訳ないし。
□ □ □
「先生!魔術才能って何ですか?」
俺の話しかけた先生とは、転生して最初に見た、あのローブを着ていた美女である。名前はマリアで、孤児院長であるが、それに加えて、回復系の魔法が使えることから、町で治療のボランティアを行っていたりもする。そのため、子供たちだけでなく、手伝いのおばちゃんや、町の人からも、『マリア先生』と慕われている。
あ、因みに俺はこの先生を呼び捨てにしている。呼び捨てにするのは俺の精神年齢より年下だからだよ!
「魔術才能とは簡単に言うと、「あ!レイくん一緒に遊ぼう!」と言うものです。わかりましたか?」
くそ、邪魔者が入って来やがった。うまい具合に邪魔しやがって。絶対狙ってやってただろ、あれは。
「せんせー、レイくんとなに話してるのー?」
全く、エリナは何だその口の聞き方は、(お前が言えた事ではないだろ)
ってか話題変えられてるし。これきっとあのパターンだよ。『あれ?先生何を話してたんだっけ?』
くそ!エリナめ、覚えてろよ!後で復讐してやる!
「魔術才能についてですよ」
フッ、エリナよ、お前の解答はすでに決まっている。『まじゅつさいのー?なにそれー?』とか『まじゅつすぁいのー…それよりも遊ぼー?』だろ。そう言った瞬間、笑って差し上げようではないか。フハハハハハハ!!!
「私それ知ってるー」
──プッ、アハハハハハハ!!!
そうだろう、そうだろうとも。エリナが知っている訳があるまい。しっかし、「私それ知ってるー」だってよー……あれ?「ワタシ、ソレシッテルー?」
「じょ、冗談だよな?」
俺は自分の耳を疑った。うん。そうだ、そうだよ。あのエリナが知ってる訳がないよな、そうそう、さっきのは幻聴だ。そうにちがいない。
「ううん、知ってるよー?魔術才能って魔法が上手に使えるかどうかのランクでしょ?」
な、ななな何だってー!?俺はこのエリナに知識で負けているのか!これではエリナを馬鹿と呼べないではないか、……呼ぶ気は無いけど…可愛いし。
(可愛いは正義!)
ゲフンゲフン。あー、失礼。話が脱線したようだな。まったく誰だ!話を脱線させたのは!
しかし、魔法が使えるランクか、ランクは魔力量と同じなのだろうか?だとしたらE、D、C、B、A、Sの六つだろう。てか、魔術才能が無いと魔法が使えないのか、さすがにそれはヤバイな。
□ □ □
「はーい、これから魔力量の測定を始めまーす」
『はーい』
ようやく魔力量測定の日になった。マリアの言葉に俺達は元気に返事をした……とは言っても俺は口パクだったがな。
「それじゃ一列に並んでね」
おばさんが俺に声をかけてくる。俺は並ぶと前にいたエリナと仲のいいことがきっかけで仲良くなった、二人目の幼馴染みリリィに話しかけた。リリィは先生が言うには、俺と同じ日に捨てられていた子供だったらしい。
「いよいよ魔力量の測定だね」
そう言うと、リリィは首を傾げた。お、これくるんじゃない か?あのセリフ。俺の待っていたあのセリフが!
『まりょくりょうってなーに?』
(うおおぉぉぉぉぉ!!!キター!)
さすが天然キャラ!
ヤバイ。リリィが天使に見えてきた。よし、これからはリリィのことを『我が天使』と呼ぶことにしよう。……冗談です。
「リリィ、魔力量っていうのは、魔法を使うときに必要になるものの量の事だよ(キラッ)」
「え?私、魔力量の事ぐらい知ってるよー?」
──へっ?…じゃあ、さっきのってなに?もしかして空耳!?
…そう言えば鍵カッコが「 」じゃなくて、『 』だったような……うわぁ、さっきのセリフがすごい恥ずかしくなってきたわー。キラッて何だよ、キラッて。
「はーい次の人ー」
「あっ、私、呼ばれたみたい。レイ君後でね!」
「あ、ああ」
リリィが行ってしまったので、反射的に後ろを見た。俺より後ろは誰もいない。……残り一人って寂しいよね。五分位経ってからおばさんに呼ばれてようやく俺の魔力量の測定、
俺の未来を決める戦いが始まった。
□ □ □
「レイザードです。よろしくお願いします」
仮設テントに入ってまずお辞儀をする。人の大半は第一印象で人の性格などを決めてしまうからな。第一印象は大切だ。
「礼儀正しい子ね。……それじゃあ、ここに座ってね」
おばさんに言われた通り席に座る。目の前にはオーブがあり、周りにローブを被っている人たちがたくさんいる。なにこの占い師的な設備。
「このオーブに手を触れて頂戴」
俺が言われた通りオーブに手を置くと、自分の中にある、『何か』が吸いとられていくような感じになる。それから数秒後になると手に力が入らなくなり、手が動かなくなる……吸いとられているものが魔力っぽいな。
パリンッ!
突如オーブが二つに割れた。しかもきれいに真っ二つにだ。開いた口が塞がらない。一体何があったのか、俺にはさっぱりだ。周りのうらな──、……ローブの人たちも唖然としている。その表情から察するにこの人たちも何があったのか分かっていないのだろう。
「な、………なっ………」
割ったので弁償になるのか?だとしたら俺ってかなりヤバくない?
「測定……不能だと!?」
三人のローブの内の真ん中の男(俺の目の前にあるオーブの目の前にいる)が声を上げた。かなり野太い声です。何でその姿なんだよ。その声だけで冒険者やっていけるだろ。
てか測定不能って………………
「あの、戻っていいですか?」
「ア゛ァ゛ン?…ああ、ちなみに君のランクはSだ」
何か、言い方があれだったんだがスルーしておこう。それよりも気になることがあるからな。
(ランクS?……マジかよ勝ち組じゃん)
この世界での魔法は生活、戦闘といったものに使えるため、まず出世出来ない事はない。それに、ランクSともなれば、貴族との結婚率が非常に高く地位、権力共に問題なし。毎日を貴族令嬢に囲まれて、キャッキャウフフ
──素晴らしい生活が待っている。さて、これほどまでに素晴らしい生活が考えられるだろうか?
(これは自信を持って言える!いいや、そんなものはない!)
俺はそう信じている。これ以上の素晴らしい生活などありはしない!あるとしても、それには数えられないほどの苦悩、悲しみのなかで生まれるものだろう。俺は苦労しないで幸せな世界を創るんだ!
「あっ、レイくん、ランクどうだった?」
エリナに話しかけられて我に帰る。いかんいかん。もう少しで調子に乗るところだった。それにしてもエリナの言動から察するに高ランクだったのだろう。嬉しい事だと、誰かに言いたくなるもんな。
「俺か?Sだよ?」
「え?エース?」
「違うよ、S、エス、エース……?」
あれ?最後いい間違ったかも。…ま、いっか。気付いてないし。
「え?S?」
「うん。」
「……私、Aだったの」
エリナの目から涙が、自慢しようとしたのに相手の方がランク高いと。まぁ、そりゃヒドイ。(他人事)
「ランクA?すごいじゃん!」
エリナを慰めるために、少し大げさに言うと、エリナは表情をぱあっと明るくさせいった。
「え?すごい?……えへへ」
なにこれ、超可愛いじゃん。あれ?エリナってこんなに可愛かったっけ?これは男にとっては猛毒性の攻撃ですな。気を付けないと。負けるな、俺!
「あっ!リリィちゃん。ランク何だった?」
リリィが暗い表情をしているのに気づかずエリナは言う。するとリリィはさらに表情を暗くさせ無言を貫いた。あれ?これは…………
(俺はこの展開を知っている!)
この展開。それは前世俺がいじめられていた時に近い状況だ。だとすれば、この後起こることは『あれ』しかないだろう。
(ヤバイ。このままじゃリリィが──)
俺はそう思い、エリナを止めようとするが、エリナはなかなかやめず、結局リリィは怒ってしまった。
□ □ □
【リリィ視点】
ランクC。
私―リリィの魔力量はそれだった。このランクは平均であるため、そこまで気にしていなかった。
──あの言葉を聞く前までは。
『俺か?Sだよ?』や、『……私、Aだったの』
その言葉のせいで、そうもいかなくなった。レイザードや、エリナは高ランクであった。なのに私だけ平均ランク。
……悔しい。悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!
その感情が自分の胸に渦巻いているのがわかった。しかし、この感情を表に出してはいけないのは、私でも分かる。この感情に身を任せてしまったら、私の周りから人はいなくなり、私のことを永遠と無視するだろう。そんなのは、嫌だ。
『あっ、リリィちゃん。ランク何だった?』
そう聞かれた時、私の心を恐怖が感情を支配した。
……本当の事を言ったら笑い者にされる!
そう感じてしまった。もちろんレイザードや、エリナがそんな事をするとは思ってない。しかし、それでも怖いのだ。もしもの可能性、
レイザードや、エリナが笑ってしまったら──そう考えると。
私はただ無言を貫いた。ふとレイザードの方を見ると、今まで見たことのないような顔をしていた。それは悲しそうな顔だった。まるで自分の失敗を悔やんでいるような──
(……ッ!!)
そんな時、私は気付いてしまった。その悔やんでいる理由を、
レイザードはきっと私に話しかけるのを事前に止めさせなかった自分に後悔しているのだろう。
そう思った瞬間、不思議な感情が胸の中を支配した。私はその感情がどんなものかは分からなかった。レイザードを見るたびその感情は大きくなっていき────
(っ………ッ!)
私はその場から走って逃げていった。
□ □ □
──魔術才能測定日・当日──
リリィと話さない日々が続いたため、この三日間が妙に長く感じた。今日の魔術才能の測定は実技のでき具合でランクが決まるらしい。
「レイくん、今日の魔術才能の測定、楽しみだねー」
……こいつ、この測定の重要さ分かって言ってんのか?これで自分の未来が決まるようなものなんだぞ?それを楽しみって………
『みなさーん、今日の測定は前のと違うって緊張してませんか?』
おばさんがいないのに声が聞こえてくる。魔法だろうか?こんがり焼けたコーンみたいのが浮いている。どうやらあれから声がでているらしい。
名前をつけるのなら、……『メガ・フォン』だな。
……ええ、分かってますとも。ネーミングの無さくらい。
『でも安心して下さーい。実技とはいっても詠唱するだけですからねー?』
ああ、三日前に渡されてた変な紙はこれに使う呪文だったのか。じゃあ、唱えるだけって……書いてあるのを何度か音読している時点で矛盾しているじゃん。
「それでは一番の人から初めてくださーい」
あ、おばさんだ。テントの中にいた。何で魔法使ったんだ?…まぁ、どうでもいいか。
『我が魔力を糧とし、標的を燃やし尽くせ』
……なんか厨二くさくないか?呪文って、『燃やし尽くせ』とか、初級魔法ってそんな威力あんのかよ。
『ファイアボール』
うん。ゲームの定番。火球でした。しかし、球が小さくないか?野球ボール位の大きさだぞ?
「はい、合格!」
結局、俺の前までは一人も失敗しなかった。以外と楽なんじゃないか?これなら俺も合格できるな。
「じゃあ、次の人ー」
やっと俺の番か。ひとまず深呼吸。
『我が魔力を糧とし、標的を燃やし尽くせ』
ああ、やっぱり恥ずかしい。何で呪文ってこうなんだ?
『ファイアボール』
そう唱えた瞬間、
ドンッ!
急に起きた爆発に巻き込まれ、俺は気絶してしまった。
□ □ □
結果を言おう。ランクE。なんだよこれ。爆発って、こんなことになるなんて聞いてないぞ。マリアにこの事を聞いたところ、魔法にはそれぞれに合った量の魔力があり、その量から離れれば離れるほど、暴発、不発が起こるらしい。そういうのは早く言ってほしいものだ。
あとリリィに「持ち廃れ」と言われた。全く持ってその通りだ。さて、俺の人生、この先どうなるのやら。
エリナ、マリアからは慰められ(別に悲しくないのだが)まぁそういうことで俺の理想の生活、貴族で裕福な生活は、想像以上に早く、そして簡単に朽ち果ててしまった訳だ。さて、これからどうなるんでしょうね。俺の人生は、
書いててこう思った。レイザードはこんな性格になるはずじゃ無かったのに……一体どうしてこうなった?
※11月21日、改行
レイザードの性格は今後の話によるかもしれません。