プロローグ
どうぞお読み下さい!( っ・ω・)っ
──嗚呼、結局何も出来なかった。
俺はこの地球でいじめにあっただけじゃないか。
一体俺は何のために生きていたのだろうか。
結局最期は日登美を泣かせてしまった。俺は最低な奴だ。今更だがな。
そんな言葉が次から次へと出てくる。
自分を最低評価する。岡崎叶斗はそんな人間だ。しかし、この行動は自己防衛策であった。期待すれば期待した分だけがっかりする。頑張れば頑張るほど負けたとき悔しくなる。これは、人間である以上経験することになる。だが、叶斗は負けたときの敗北感を味わいたくなかった。
──だから俺は努力するのをやめた。現実から逃げた。
その日からは、自分の好きなことを好きなだけやった。
ゲームや読書、プラモデル作り、音楽を聴いたり……
とにかく自分の好きなことをひたすらやり続けた。
もちろんその頃から勉強をしなくなった。その結果は知っての通りだ。それがきっかけとなって最期を迎える事となったのは、言うまでもない。
『俺は結局、何がしたかった?』
ふと、自分に問いかけた。だが、その答えはなかなかでない。人なら生きていた意味を探すだろう。しかし、俺にその答えはなかった。
『じゃあ、言い方を変えよう。君はもし一度だけ人生をやり直せるのなら、何がしたい?』
不思議だ。考えてもないことが頭の中に浮かんでくる。
この問に叶斗は正直に答えた。
──もし、もう一度やり直せるのなら…俺は……この世界でやり残したことを果たす!
『……ふーん。それが君の出した答えなのね。じゃあこの人でいいか、もうそろそろ飽きてきたしなー』
いや、これ本当に俺が思ってんの!?つーか一人称が「君」ってさすがにおかしいよな?そもそも飽きたって何に!?……自分に言っても仕方ないか……
『あれ、言ってなかった?叶斗君。君に異世界に転生してもらいたいって』
頭の中で少なくとも自分ではない誰かがそう言った
瞬間、「言ってねーよ!」はおろか、「あ」と言うことすらできぬまま、俺の意識は暗転した。
□ □ □
俺が意識を取り戻した時には、ベッドの上に寝ていた。
起き上がろうとするが、起き上がれない。
(……もしかして植物状態!?)
最悪の状態を思い浮かべる。俺は植物状態になるくらいなら死んだ方がまだマシだ。今なら、怒り狂った父親が処分してくれそうだが。
『いいや、違うよ。これは─────』
先程まで聞いていた声がまた聞こえたが、その声は次第に小さくなり、最後は聞こえなくなった。俺は、その声に反応して反射的に「おいっ」と言ってしまった。
「あーあー」
………………は?
あー、ついに耳が壊れたか?まぁ、壊れたか分からないんでもう一度言ってみようか。
「あーあー、ばぶー」
はぁ、生きてたのはよかったが、この身体じゃなぁ……
ついに耳が逝ってしまったか……
そう考えていると、誰かが部屋に入って来た。俺はそれが誰なのか確かめようと、扉のある左側を見て――
「あー?」
つい声に出してしまった。…失敬失敬。文字通りで見ると、路地裏の奥とかにいる柄の悪い奴らの声に聞こえるかもしれないが、自分が言うのも何だが可愛い声だぞ?……あ、そう言えば耳、壊れてたんだった。
しっかしよ、これは非現実過ぎないか?例えるなら、『明日地球滅びるぜ☆』並みだ。だって、扉の向こうにいるの青髪の美女だぜ?……悲しいことに思春期の俺がドキドキしないが。そりぁそうか。だって青髪にローブ姿とか見るからにイタイし。手に持っているロッドに関してはイタ過ぎて目も当てられない。
(ただそのわりに真面目っぽい顔してるよなー。)
その美女は、心配そうに俺を見たあと自分の長い髪を右耳にかける仕草をした。その数秒程度の行動が、その美女が行うと、映画のワンシーンのように見える。
──はぁ、心配そうな顔して……そんなに俺が心配なのか?大体なんで俺?俺がこんな美女に心配される理由が分からな─────え?
叶斗が驚いたのは、その女性の美しさではない。
叶斗の視線の先には─────エルフの長い耳があった。
この時ようやくあの声が言っていた、『異世界』に自分が転生していることに気づいた。
□ □ □
異世界転生。一体どういう仕組みなんだ?
異世界からの召喚は魔術で説明が出来るだろう。しかし、転生は説明のしようがない。でもこういうのって最後に分かったりするものだよな。まず言って、今の俺の知識じゃあ説明する以前の問題だしな。
(とりあえず、俺の名前とこの世界の事、その辺りについて調べて見るか。そのためにもまず覚えるべきなのは……)
俺はそこまで考えて何をしようにも必要になるものがあることに気づいた。
(……まずは、言語を覚えるのが先か)
その後からの俺は、ただひたすら言語を覚えるため努力した。
□ □ □
異世界へ転生してから早くも一年が経った。この世界についても、文字が理解出来るようになるのに以外と時間がかかったために(周りの他の子どもよりは早いが)あまり知ることが出来なかった。分かった事と言っても、今俺がいるこの場所が孤児院であるとか、自分の名前はレイザードであるとか、この世界にはモンスターがいる事の三つぐらいだ。
「……レイくん?」
一人で突っ立っているようにでも見えたのだろうか?
実際、見た人からすればそう見えるのだが。
ちなみに、俺のことを「レイくん」呼ばりしてくるのは、この孤児院の中には一人しかいない。
「どうしたの?エリー」
藍色の髪が自慢の少女、エリナは俺を心配そうに見てくる。何でかな、この子を見てると落ち着くんだよな。
「レイくん、大丈夫?」
エリナは本気で心配しているらしい。前世の俺にもこんな子がいたら引きこもらなかったのかな?
……いや、日登美がいたか。どちらにせよ俺は引きこもったんだな。
「あぁ、大丈夫だよ」
俺はとりあえず適当な返事を返した。え?これだけでいいのかって?エリナは単純だからこれでいいんだよ。この単純さで詐欺の標的にならないか心配だけどな。
しかし、今日のエリナはまだ心配そうに俺を見てくる。う~ん、これはもう使い物にならないか。エリナはこの単純な思考が可愛いかったんだけどね。
「あのね、私、最近変な夢を見るんだ」
ありゃ?……心配してくれたんじゃなかったの?
しかし、変な夢……か。あの時の、死ぬ寸前の走馬灯のような現象を時々夢で見るんだよな。もうあの感覚味わうのは嫌だな。夢だから忘れるのが唯一の助けか。
「一体どんな夢なんだ?」
変な夢とは言っても、いろいろある。この年で言うなら怖い夢かな?
「なんか、不思議なの。私じゃない女の子が夢の中で檻の中に閉じ込められた一人の男の子を助けようとするんだけど、その男の子は見つけてすぐに死んじゃった。その後、その女の子は死んじゃった男の子を見て泣いていてね、……怖いの。レイくんがいつかこの男の子のように死んじゃうんじゃないかって」
エリナ、そんなこと考えていたのか。もう単純じゃないのね。俺、勘違いしてたよ。…それにしても変わってるな。夢の事覚えているなんて。いや、これがこの世界の常識なんだろうな。……エリナが異常である可能性もあるが、
「こっちにおいで」
エリナは呼ばれてこっちに近づいて来た。とりあえず俺に出来ることは限られている。今の俺に出来ることは──
「え?」
俺はエリナを軽く抱き締めた。心配している時って、こんなことすると良いって、よく言うよね。言うよね!?誰か頷いて!?
俺がくだらない一人芝居を頭の中で繰り広げていると、
エリナが体重を預けてきた。どうやら効果はあったらしい。ほら、見たか!効果はあるんだぞ!
「なんでだろう、レイくんの腕の中、すごく落ち着く」
エリナ……満足するまでここで落ち着くがよい。
俺とエリナはそれから一時間近くそのままでいた。
……俺は可愛い幼なじみに恵まれてるな。
前世の日登美と言い、エリナと言い、なぜに俺にはこんなに可愛い幼なじみに恵まれているのだろうか。それにしても折角、異世界に転生したんだ。前世でやり残した事は呆れる程ある。だが、この世界でやるべき事、それはもう決まっている。それは─────
(俺はもう前世のように、幼なじみを泣かせるような事はしない。この世界では、悔いの残らない生き方をしよう。それがきっかけで俺が死ぬことになろうとも──)
俺、レイザードは自分にそう誓ったのであった。
エピローグからの~プロローグ(笑)