偉人達のサロン
サキは一人、浮かない顔パリの街に出ていた。
「はぁ~…どうしよう…」
今朝、店長から一枚の紙切れを渡されて言われたのだ。
「フランスに居る魔法使い達の所在。参考に訪ねて、話を聞いてみると良い」
場所は意外と遠くなかったし、言葉はあまり通じなかったけど、地下鉄移動は楽しかったから、苦ではなかったのだが。
「迷った…」
地下鉄の降車駅は間違っていないはずなのに、どうにも目的の場所にたどりつけないというか…
「ていうか、ひとりでとかそもそも無理があったんですよぉ…てんちょーのあほーっ!」
と日本語でぶちまけても誰にも意味を理解されないのだが…
地図上ではこのすぐ近くなのだが、どうにもたどりつけない。
「もうどこなのよぉ~! はぁ…」
大きくため息をついて、帰ろうかどうしようか欄干に腰をかけるサキ。
と、そのとき。
「お嬢さん。何かお困りかな?」
流暢な日本語が耳に届いた。
はっとして顔をあげると、そこにはもじゃもじゃがいた。
天然パーマの髪の毛とそれに負けず劣らずパーマがかっている豊かなヒゲ。
「サンタさん…」
「ん? ハッハッハッハ! サンタクロースとは、そんなに似ているかね!」
豪快に笑うサンタ似のおじいさん。サキは唖然としてしまう。
「いやぁ、失敬失敬。きみ、キクカの弟子のサキだろう? 迎えが遅くなってすまなかったね」
「え? じゃあ、あなたがシェイクスピアさん?」
て言うか、迎えに来てもらうことになっていたのか…
「いかにも。私がウィリアム・シェイクスピアだ。さぁ、ほかの皆も首をなが~くして待っているよ」
自然な流れであっという間にサキの手をとり、人ごみの中を歩いて行くシェイクスピア氏。
そしてどこをどう歩いたのか、確認もできないまま、目的地の屋敷の前まで来てしまった。
「ふぁぁ…おっきいお屋敷ですね」
大きな鉄城門はかつて馬車が出入りしたことを彷彿とさせ、窓の数を見る限り、いったいなん部屋あるかもぱっと見ではわからない大きな屋敷。
典型的な左右対称の庭園に3階建てのロココ調の邸宅は、なるほどフランス貴族の旧邸宅というわけだ。
「ここが我々の隠れ家さ。ああ、住んでいるわけではないよ」
促されるままに中に入ると、さも当然というかの如く大きなホールにシャンデリアという組み合わせが出迎えた。
もはや言葉も出ず、唖然とするサキ。そこそこの中流層の家の子であるサキにはまったくもって常識の範囲外の贅の凝らし方だった。