新宿 東口経由西口
4月3日
あれからメールを何度も重ね、そうしてこの日がやってきた。
初めてゆうこさんと食事をする日である。
東口中央口改札で待ち合わせだ。
正直、顔も声も雰囲気もどんな人か覚えていない。
そんな人に、ケンは会おうと思ったその根源は独りでいることの寂しさからだろう。ワクワクとドキドキしかなかった。
電話が来た。ゆうこからだ。
「もしもしケン君?はじめましてゆうこです笑
東口中央口改札前であってますよね?私もうついてますよ!」
「初めまして笑 僕ももうついてますよー!」
「え、どこだろう??今向かいの柱にいるんだけど、どの辺かな?」
「あ、わかったかもしれない。」
手紙を渡された時の記憶を手掛かりに彼女を探した。
時間はかからなかった。
「こんばんは!ケンです!」
「こんばんは~。ゆうこです。」
ゆうこは恥らいながら軽く挨拶をした。
「え、めちゃくちゃかわいいんだけど!!!!!」
ケンは心の中でこうつぶやき小さくガッツポーズをした。
まさか、どこにでもいる男子大学生が、こんな綺麗なお姉さんと食事ができるなんて思ってもいなかった。
その思いが、ケンのゆうこに対する気持ちに拍車をかけていった。
「すごい雨ですね。」
「ほんと土砂降りね。もしかしてケン君雨男?笑」
「そんなことないと思うんですけどね笑 でも大事な日はいつも雨のような!」
「今日大事な日だったんだぁ。」
「あ、え、・・・そうですね。」
「わ~照れてる~。ケン君かわいいね!」
「照れてないです!! 早くお店に入りましょ!」
わずか数分しか話していないゆうこのことを、ケンはまるで、昔から憧れだったアイドルと一緒にいるかのように、心が高鳴っていた。夢のようだった。
「ここでいいですかね?」
よく大学生が飲みにいくような一般的な居酒屋を選んだ。
居酒屋のにぎやかさがケンを落ち着かせてくれると信じていた。
しかし、いつも友人とくる居酒屋がまるで高級料理店にいるかのように、ケンは緊張をしていた。すべてはゆうこという存在である。
「ケン君は何飲むの?」
「僕ビールで!ゆうこさんは??」
「私もビール!カクテルとかのほうが可愛いかな?笑」
「ビール好きの方がかっこいいですよ!!笑」
それからしばらくして一杯目のお酒が届き、乾杯をした。
時間はあっという間に経過していく。
男慣れしている、ケンはそう感じていた。そのため、意識的に自分の気持ちを抑制していた。彼女を好きになってはいけない。きっと数ある男の中で、大学生の俺は遊ばれているんだろうとさえ思っていた。
しかし、そんなことを意識的に思えば思うほど、無意識の中にあるケンのゆうこを思う気持ちに拍車をかけていく。
居酒屋を出るあたりには既に虜となっていた。
ここは新宿東口歌舞伎町。
たくさんの人であふれかえっている。
ケンとゆうこは2軒目に、いつもいく西口の居酒屋に行った。
「ゆうこさんて結構飲むと元気ですね笑」
「よく言われる~笑 ケン君はみため可愛いのに中身おっさんだよね笑」
「よく言われます笑」
「ケン君は今彼女いないの~?」
「僕いると思いますか~笑 しばらくいないっすよ!」
「え~いないの~!? その顔はいる顔だよ~笑」
「なんすかその顔って笑 ゆうこさんは彼氏いないんすか??」
「まぁいたら手紙渡さないよね笑」
「そうですね笑」
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。不思議なものだ。
毎日同じ時間で過ぎていく日常が、今日は3倍速で過ぎていった。
ケンはほどよくお酒が入り、気持ちよくなっていた。
そしてゆうこの終電が近くなり、二人は店を出ることに。
「今日はありがとうございました。ゆうこさんまた飲んでくださいよ~」
「ケン君酔っ払いすぎじゃん?いいよ!とにかく気を付けて帰りなね。」
ケンは浮かれ気分で中央線にのった。
彼にとって素敵な夜になったことは間違いない。
そして、彼はゆうこのことを好きになった。
”4月4日 00時47分
今日はありがとう。
すっごく楽しかったよ。
またぜひ飲みに行こうね!!
それじゃおやすみ~”
4月4日
ケンは二日酔いだった。今日はバイトがあるためあまりのんびりしていられない。
楽しかった昨日を振り返りながら、ゆうこにメールを返信して、シャワーを浴びた。
4月4日 12時26分
昨日は遅くまでありがとうございました^^
楽しかったんですけど、完全に二日酔いです笑
これからバイト行ってきまーす!!
「今日もがんばろー!」