新宿
上京したての若者の考えや行動がどのように変化して行くのか。新宿を主に活動の拠点としている越塚ケンの人生観。
「お金持ちになるにはどうすればいいのか。」
新宿東口にある喫煙所。どこにでもいる一人の若い男が誰にも聞こえないぐらいの声で煙草をふかしながらたたずんでいた。彼の名前は越塚ケン。地方から大学進学のために東京に上京してから早3年が経過していた。貧乏過程で育った経験から常日頃金持ちになることばかりを考えている。
「普通が一番いいよ。俺は一般企業に就職して、普通のサラリーマンになって普通にお父さんになって、死んでいきたい。」
親友の堤コジロウである。彼もケンと同じ大学3年生である。バイト終わりにケンと飲みに行く約束をしていたため、いつもの集合場所で一服していた。
「コジ、お前なんで俺の独り言聞いてんだよいやらしいな。」
「いや聞こえる声で言ってるお前が悪いだろ、周りのみんなチラチラみてたぞ!」
「イヤホンしてたから自分の声の音量馬鹿になってたのかもな。」
「もう俺腹減ったし、疲れてるから早く行こうぜ!」
いつも二人でいくところは大抵同じ場所か、適当に決めたチェーン店の居酒屋である。この日はいつもよくいく鶏肉屋であった。
店に着くなり、ビールで乾杯した。
「んで、どうしたケン。なにがあったんだ?」
今日飲む約束というのも、ケンが話したいことがあるということで久しぶりに飲みに行くことになったのだ。
「いやさ、こないだ逆ナンされたんだよ。」
「おい、まじかよ!!お前ついに大学童貞卒業か??」
「うるせーよ!!でも緊張しちゃっても顔とか全然覚えてないんだよな・・・」
「写メは?お前、この就活でくそ忙しい中なにやってんだよ!」
「写メなんかねーよ!だって昨日バイトで働いてたら手紙もらったばっかなんだからよ!ていうかお前も彼女とこないだディズニー行ってたろ!!暇じゃねーかよ。」
「ついにお前も彼女ができるのか・・・うまい酒が飲めるな!!逆ナンはむかつくけどな。」
ケンの容姿は悪くない。中性的な顔立ちで、いわゆるジャニーズ顔である。しかし、大学生となってから彼女ができたことがない。草食系男子という言葉が嫌いだが、その言葉が当てはまるほど女性に積極的ではない。そのため彼女がほしいというだけで、3年間過ぎてしまったのだ。
「それで、手紙にはなんて?」
「んとな・・・」
”ゆうこです。
もし彼女とかいなければ
お友達になってください。
yuuuko.xxxxxx@xxxxxxxx ”
「ゆうこちゃんかー。それでメールしたの?」
「いや、それでお前を呼んだんじゃねーかよ!!」
「なに、俺がメールするの?ブラックメール?笑」
「ばかかよ!いや、こういうのってまんまと乗っかっていいもんかね?」
「お前今更何言ってんの?自分から行かないくせに来てもらったものも逃すの?だからお前は大学童貞なんだよ!おい、まさかリアル童貞じゃねーよな?」
「いや、もはやリアル童貞といってもらっていいです。そうだよな、メールしてみよう!!」
「当たり前だよ、かわいいんだろ?かわいい子に悪い子はいない!!とりあえず、飲もう!!!」
「だーーーついに彼女ができるのかーー!!家帰ってからメールするわ!!!」
いつもこのお店では二人で1万円近く食べて閉店ぎりぎりまで居座っている。コジロウと別れた後、電車にのり自宅へと帰宅した。
「ただいまーー。」
部屋は汚く散らかっている。もちろん一人暮らしなのでおかえりと返してくれるものは誰もいない。ただ彼は酔っているのである。
「あーーーーー、気持ち悪いよーーーーーー・・・メールしてから寝よう、もう気持ち悪い。」
”はじめまして。夜遅くにすみません!
○○で働いている越塚です。
お手紙ありがとうございます。”
「送信!!もう1時半か、明日もバイトだし寝よう!!いやちょっと楽しみだ!!!」
彼女との出会いが彼の平凡の考え方に変革をもたらすと同時に、人生をも変えていくのである。
3月29日
ケンは朝起きるとすぐに、ケータイを確認した。
「お!返事きてる!」
”3月29日3時23分
メールありがとうございます!
まさか返信くれるとは思いませんでしたっ!
少し引いてましたよね??笑”
ケンは素直に喜んでいた。女の子とのメールは久しぶりだったのだ。
「メール着てるーーー!!とりあえず返信しとかなきゃな!」
”おはようございます!お手紙うれしかったですよ^^
引いてるように見えました?
手紙なんてもらったことないので少し驚いただけです笑”
「なんかいいなぁ!ついに春が来たのかぁ!!!」
浮かれ気分でバイトの支度をした。するとすぐに返信がきた。
”3月29日9時45分
おはようございます!ほんとですか?
なんか顔ひきつってましたよ?笑
越塚さんってお名前なんて言うんですか?”
すぐに返信をした。
”そうですね笑 ひきつってたかもしれないです笑
越塚ケンって言います。
ゆうこさんは苗字なんていうんですか?”
”3月29日9時58分
やっぱりそうでしたか笑
村上ゆうこっていいます。ケンさんて言うんですね!
カタカナ珍しいですね!
ちなみにおいくつですか?”
”結構珍しがられます!
年齢は21です!ゆうこさんは?”
”3月29日”10時3分
え、ほんとですか!?!?
同い年くらいかと思ったんですけど!
私25です・・・”
「いや、年上だと思ってたけど結構離れてるな!てか俺そんなに老けてみられてるってことなのか?」
”そうなんです!ガキンチョなんです笑
ゆうこさん見た目若いですね!もっと若いかと思ってました!
年下苦手ですか?”
”3月29日10時20分
結構老けて見えますよっ笑
嘘です!冗談です笑
全然苦手じゃないですよっ”
ここでケンはバイトに向かわなくてはならなくなったため一度メールを止めた。
彼のバイト先は新宿のあるショッピングモールである。
彼はそこでアパレルのバイトをしている。その隣のお店にゆうこが働いていた。ショッピングモールはお店同士が隣り合ってるため通路に出ればすぐ、隣のお店の店員と顔を合わせることができる。
ケンは時折店が暇なとき通路にでて、客足をうかがっていたのだ。
そんななか突然ゆうこがケンに声をかけ、手紙を渡したのだ。
店内が閉まるアナウンスが鳴り出すのは、閉店10分前からだ。
いつも通り、閉店のアナウンスと音楽が流れ始める。
この日はいつもより客足が少なく、社員とケンだけで営業していた。
いつも通り、社員のネーさんは閉店処理を始める。
その時、
隣のお店の女の子がふとケンを手招きしていた。
ケンは非常に驚きながら、自分のことを指さし
「俺???」
といいながら近づいて行った。
そして、手紙を渡された。
ゆうことの出会いはここから始まったのだ。
バイト終わり、ケンは社員の人といつも通り東口の喫煙所で煙草をくわえ、今日の売り上げについて話していた。
そしていつも通り、中央線でN駅まで帰った。
かえりの電車でメールに返信をした。
”返信遅くなりました!
今バイト終わったところで、疲れましたよー・・・
どんどん老けていきそうです笑”
そうして家に帰宅した。
学校のレポートを書かなくてはならない。
「今日は徹夜ですなー!この課題を瞬殺できる謎の自信に比例して眠気が襲ってくる。。。」
一人暮らしを始めてから、非常に独り言が多くなった。
ケンはメールを待ちながら課題を進めていった。
しかし、2時を過ぎても返信が帰ってこない。
バイト終わりは9時で、返信したのはだいたい9時半ごろだったろう。
課題を終えたケンは2時30分に就寝した。
朝起きるころにはメールが帰ってきているだろうと思いながら。
”3月30日 3時12分
夜遅くなってごめんなさい!
バイトお疲れ様です★
私ね、○○(ゆうこが働いていた店)今月いっぱいでやめるんだ。”
ケンの寝起きは非常に悪い。
iphoneからアラームが鳴り響いている。
アラームを消すのと同時にメールを確認した。
「ん。。。メールきてるな。バイトやめるのかぁ・・・!?
バイトやめる??まじかよ!」
もうすでにケンはゆうこに心が傾いていたのだ。
すぐにケンは返信をした。
”おはようございます。
ゆうこさん○○やめるんですか??
会えなくなりますね・・・”
実際に、ゆうこが手紙を渡してからお店で会うことはなかった。
また、一切話したことがなかったが、ショッピングモールの従業員休憩室で時折、顔を合わせていたくらいであった。
学校に行き、授業を受け、友達とどうでもいい下ネタで笑い、そして帰る。
平日2回、休日1回のバイトをこなして、いた非常に普遍的な大学生の日常に、舞い込んできたゆうこの存在。
ケンにとってとても刺激的な存在になりつつあった。
”3月30日 15時39分
こんにちは!
そうなんだぁ。
だから手紙渡したってのもあるけどね!!”
授業中ではあったがすぐケンは返信をした。
そして、ケンは行動を起こした。
”もしよかったら、今度お食事に行きませんか?”
その返信はそんなに遅くなかった。
3月30日 15時57分
”いいですよ!行きましょう!”
少しずつ更新していきます。