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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編4:夜明ケモノタチ
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第四章2 ココロリンク

 危険は百も承知だった。だからといって、それは引き下がる理由にはならなかった。駆け込むようにギャラン=ドゥ達の本拠地へと踏み込んだ咲月達は内部に広がる異様な空間に目を丸くした。

 先ほど突入していった魔法少女達が虚ろな表情で宙に浮かべられ、その胸から光の綱でそれぞれ繋がれている。スキャットマンを初めとする錬金術師達も例外ではなく、ただNOである二人だけが正気を保っている。

 満身創痍で倒れているNOはやってきた咲月達に気づくと淡々と語る。

「遅れて来たのは正解じゃったな。しかし、見ての通り状況は悪いぞ」

「何があった?」

「『心』……いや魂を連結させられた。わらわにそんな生臭い物はないから平気じゃが、魂を持つヤツらにとってこれほど抗うのが難しい事もあるまい」

「ぐはっ!」

 トゥルーハートと競り合っていたクマ印が押し負けて吹き飛ばされる。からんころんと杖が打ちっぱなしの冷たい床を転がり、当人も倒れたまま立ち上がる事もできずに苦悶の表情を浮かべる。

「くっ、もう一人のわらわでも敵わんか。心や魂などに翻弄されるなど無念じゃ。ヤツは心を繋げている限り無敵なのじゃ。そのリンクを切断しなければ勝てん。モスピーダナイフでどこまでやれるか分からんが、後を頼む。せめて概念破壊が使えればこんな事には…………」

 ごほごほっとむせて、NOは目を閉じて脱力した。かろうじて死んではいないようだが、もう戦う事は無理だろう。

 咲月は手の合図で非戦闘員の二人を下がらせると律儀にも待っていたトゥルーハートと相対した。

「トゥルーハート」

「久しぶりだね、時間渡航者(タイムリーパー)。何回繰り返してここに居るのか分からないけど、二度とやり直しなんてさせないよ」

「それはこっちのセリフだ。もう二度と繰り返させたりするもんか。ここで終わらせてやる」

 影から男の声が響く。

「終わりになどならない。人が夢を持ち、それに向かって歩み続ける限り、必ず夢は叶う!」

 トゥルーハートはアームガードの付いた逆Y字型の剣を持つ手とは逆にデバイスを構え、天に掲げるように展開する。

GetRide(ゲットライド)!」

 圧縮が解除された剣は刃の部分が蒼く発光し、単なる実体剣とは一線を画する威圧感を見る者に覚えさせる。幻想的な魔法少女姿の両手に握られた無骨な武器達はそのアンバランスさからある意味、単なる凶器よりも鋭く死の連想を視覚情報として送り込んでくる。

 流石の咲月もその圧迫感から怯まずにはいられないが、右手で蒼いナイフを持ち、振り切るように構える。

(始祖『ゼタ=ゼアム』よ、(わたし)に巨悪を退ける強い気持ちをください…………!)

 瞳を金色に光らせ、トゥルーハートの体を結合している“何か”を視認する。その“何か”は常人では不可視の刃が通りさえすれば簡単に奪い取れる。その手に握られた強固な武装すらも“何か”無しでは形を保ってはいられない。

 だが、咲月はトゥルーハートが結合質を再生できる事を知っている。異能としては希少でも技術としては特別ではない。再生が容易ではないレベルで分割しなければ、単に斬るよりも効率が悪いまである。

(桑納月の時の事を考えれば完全に胴体から分離させない限り切断しても無意味だろう。魔法少女のスピード相手にどこまで食らいついていけるか。二刀流が単なるハッタリであればいいが…………)

 咲月は膝に力を込めると跳躍するように接近し、蒼いナイフから光の刃を鞭のようにしならせ攻撃する。トゥルーハートは雨のように高速で降り注ぐそれを的確な体捌きでかわしながら、接近戦でも変わらない怒涛の連続攻撃の隙を探す。

 心を読まれているかのような回避に業を煮やした咲月は一端距離を取るとナイフを持ち換えた。

「蒼刀――月光夜白!」

「!」

 突き刺すような光がトゥルーハートを襲い、その体をバラバラに分解する。流石にここまで“何か”を奪われては即座に修復はできないようだ。畳みかけるように咲月は必殺の一撃を放つ。

永久(とこしえ)に分割されろ!」

 床に転がっている肉塊の中からその頭部へと的確に切りかかる。だが、その攻撃は突如として浮かび上がった剣により受け止められる。

「なに!?」

「私が一人で戦ってるとは思わない事だね」

 トゥルーハートは切断面から影を伸ばし、己の体を繋いでいく。瞬く間に体を接続し、最後に頭部のズレを“きゅっ”と直すと己の影に言葉をかけた。

「ありがとう、ギャラン=ドゥ」

「なに、礼には及ばない」

 影に潜むギャラン=ドゥはただの傍観者ではない。単なる魔法少女の一人に過ぎないトゥルーハートをその英知と技術を持って最強の存在へと昇華させる究極のパートナーだ。

「よくもやってくれたね、お返しをしなくちゃ」

「くっ!」

 トゥルーハートが剣を交差させ、十字を作るとそれは始まった。

DirsIrae(ディエス・イラ)

 初めに闇があった。それを証明するかのように世界は漆黒へと包まれた。突然訪れた静寂に咲月が警戒していると不意に刃が飛んできた。それをナイフの光で受け止めると次は別の角度から刃が襲ってきた。一つ目の刃をまだ受け止めているために光を伸ばしてそれを受け止める。そしてその最中に三つ目の刃が襲う。なんとかそれも受け止めるがもはや限界に近い。

 闇に刻みこまれた怒りは消える事無く、咲月を追い詰めていく。

(このままじゃ……まずい!)

 四つ目の刃を受け止めようとした時、耐久力の限界に達した光はついに崩壊し、せき止められいた刃の嵐が一斉に襲い掛かってくる。

「ぐああああああああああ!」

 思わず断末魔を上げた咲月はふと痛みが無い事に気づく。いつの間にか元の空間に戻った事を知ると近くにボロ雑巾のように負傷したチェンが倒れていた。その意味を悟った咲月は驚いたように言う。

「俺を庇ったのか? どうして?」

 チェンは力無く笑った。

「へへ……あんたに死なれるとギャラン=ドゥを止められるヤツが居なくなっちまうからな。俺じゃアイツに勝てないのは分かってるんだ。なら、せめて盾くらいにはなってやろうと思って……な…………」

「チェン!」

 ギャラン=ドゥは言う。

「君は昔からそういうヤツだったな。情に厚いのが長所であり短所だった」

「残念だけどその犠牲は無意味だよ。ほんの少し生きている時間が伸びただけさ!」

 再びトゥルーハートは剣を交差させ、十字を作る。

DirsIrae(ディエス・イラ)

 再び闇が訪れ、攻撃が始まる。今度の咲月は刃を受け止める事なくかわし続けるが、それにも限界が来て受け止めざるをえなくなる。

「くっ!」

 先ほどと同じように追い詰められ、再び受け止めきれなくなった刃が激流のように襲い掛かる。

(こんな所で……! (わたし)は…………!)

 絶体絶命の刹那、無音の世界に風が吹き込んだ。

「クライシスクラッシャーアタック」

「!」

 刃の嵐の隙間を駆け抜けた風はそれを拭い去るように消し、無かった事にする。暗黒の空間すらその右手で消滅させ、圧倒的な存在感を放ちそこに君臨する。

「クララ=ヴィ…………!」

「くくく…………」

 コンスに操られるがままにのかなを殺したクララ。おそらくその中に元凶たる存在が居る事は想像に難くない。予想外の援軍に命を救われた事に咲月は安堵よりも焦りの感情が強かった。

「この体に死なれると困るから助けたのか、もう一人の(わたし)!」

「はて、なんの事ですの?」

「とぼけるな! お前の中に居るヤツに聞いてるんだ!」

 瞬間、飛んできた剣による衝撃波をかわして二人は構えを取る。

「今は言い争いをしている場合ではありませんわ。まずは彼女を倒す事が先決。皆既日食の時まで猶予もありませんもの」

「ちぃ! 確かにそうするしかないか…………」

 トゥルーハートは突然の闖入者に困惑を隠せないが、自らの必殺技を破られた事で敵だという事だけには納得したようだ。

「私の技を破るなんてあなた何者?」

「執行官クララ=ヴィ」

「なるほど、間抜け共の集まりの中にも少しはまともなヤツが居たって事ね」

「シェーラの仇、今こそ討たせていただきますわ」

「誰それ? 人違いじゃない? 私はまだ人を殺した事は無いんだよ」

 クララは怒りに満ちた表情で語る。

「分からないのなら殺しますわ。分からない振りをしているのならぶち殺しますわ」

「だから知らないって言ってるでしょ!」

 話の通じないクララに業を煮やしたのかトゥルーハートは言う。

「頭のおかしいヤツは病院送りにしてやるよ。麻酔代わりに食らっとけ!」

 腕を交差させ剣を翼のように背後に回すと、それらを振動させ不気味な音を奏でる。

DieZ(ディ・)auberflote(ザヴァーフレーテ)

 ボルテージが高まると音は指向性を持って二人へと襲い掛かる。クララは右手を前に突き出してそれを無効化しようとするが出来ずに腕の内から食い破られたかのように血が噴き出す。

「くぅ!?」

「無効化系能力があるみたいだけど、全身を守れてないんなら意味無いよ!」

 音の攻撃の巻き添えを受けて咲月は耳を押さえて叫ぶ。

「ううっ! く、クララ! 打ち消せないなら期待させないでくれ!」

「わ、(わたくし)は悪くありませんわ!」

 クララが必殺技(クライシスクラッシャー)を打つのに条件が必要である事を知っている咲月はそれに期待する事を止め、背後にもぐりこんで肉壁にする。音が軽減された所でそこから光の刃を敵に向けて伸ばす。それを視認してはいないが音を遮って近づいてくる何かを悟ると、トゥルーハートは攻撃を中断して回避行動をとった。

「うえっ……脳を揺らされて気持ち悪い上に“くらくら”しますわ…………」

「惚けてないで必殺技の準備をしてくれ!」

「あれはそうバカスカ撃てるものではありませんのよ。一定の周期を見切って初めて発動できる高尚な技なのですわ」

「ちぃ、役立たずな!」

「……あなた、命の恩人に対して無礼過ぎませんこと?」

 トゥルーハートと咲月は壁や天井を走り回り、束の間交錯して火花を散らす。天地すらもはや無用で相手を倒すためだけに互いに死力を尽くす。

「しつこいね、タイムリーパー! いい加減諦めてくれてもいいんだけど!?」

「それはこっちのセリフだ!」

 咲月は構えを取ると意識を集中する。

「我が眼に宿る月の光よ…………!」

 DNAの二重螺旋(ダブルヘリックス)を読み取るかのよう深層へと潜っていき、その回路に電流を通すように光を走らせる。

蒼刀(そうとう)――月光夜裂(げっこうよさき)!」

 (いかずち)のように鋭く空間へと切り込んだ光は攻撃を予測していても容易に避けられるものではない。故に防御する暇もなくトゥルーハートは解体される。

「ダメージの無い攻撃、何度やったって……!」

「そうかな?」

 先ほどとは違い、一点を集中して攻撃されたためトゥルーハートの修復は遅い。だが、それに気づいた時にはもう手遅れだ。

「俺は無駄が嫌いなんだ。あの時から今まで、全てはこの瞬間の為に一分の無駄も無く、積み重ねてきた。それを今、証明する!」

 咲月は渾身の力を込めてナイフを振り下ろした。

「トドメだ!」

「………………」

 瞬間、

「ニィ」

 トゥルーハートの姿が消え失せ、目標を見失った咲月の隙をついて再び姿を現すとそのナイフをはじき落とす。

「私達にも協力者ってヤツが居てね」

「この技術、カンパネルラの!?」

 剣を向けてトゥルーハートは言い放つ。

「どうやら形勢逆転みたいだね」

「うっ…………」

 焦る咲月だが、徒手空拳で戦えるような能力は無い。頼みの綱のクララを振り返るとそこに姿は無かった。しかし、それは絶望とは真逆に位置する意味を持つ消失だった。

「!」

 不意の突風に両手の武器をはじき落とされたトゥルーハートは何が起こったのかを理解する暇も無く、その場に拘束される。地面に炎の線を刻みながらその背後に実体化したクララの体からは白い煙があがっていた。

「こちらとて一人では無いのですわ。(わたくし)から目を離すとどうなるかという事が身に染みて分かったでしょう。まあ、チェックメイトの後では理解しても遅いのですけれど」

「ギャラン=ドゥ!」

「無駄ですわ。『クライシスライト』に触れられている限り、おかしな真似はできませんの」

「くっ…………」

 落とされたナイフを拾った咲月はトゥルーハートの前に立つ。

「ようやく追い詰めたぞ。この瞬間を一体何度想像したか、自分でも分からないくらいだ」

「……さっさと殺せば? それがお前の夢なんでしょ?」

「………………」

 咲月は憎しみを(たぎ)らせ、ナイフの柄を強く握った。だが、目を閉じて深呼吸をするとその手の力を弱めた。

「俺の夢は奏ちゃんと一緒に居る事だ。お前を殺す事はあくまで手段でしかない。それにこうして無力化したお前を一方的に殺す事は俺達の心に後味の悪い物を残す。だから俺はお前を殺さない。代わりに日食が終わるまでこうしていてもらう。例えるなら『お前の野望もここまでだ』ってやつだ」

 それは“夢”を叶えられる世界を作るために行動してきた二人にとってこれ以上ないほどの罰であった。殺されるよりも屈辱的な仕打ちを受けたトゥルーハートは視線だけで人を殺せそうな殺意を持って、獣のように叫ぶ。

「タイムリーパァァァァァ!」

「泣こうが喚こうが、お前の夢は叶わないよ」


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