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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編4:夜明ケモノタチ
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第四章1 世界最後の日

 戦いの日が来た。

テレビでは日食が見られる地域や時間を流れている。咲月はそれを淡々と眺めると立ち上がって玄関のドアを開いた。

「や、おにーさん」

 佐下るいは待ち合わせていたかのようにそこに居た。

「私達に黙っていく気だったでしょ。そうは行かないよ」

 咲月は苦言を(てい)する。

「あのね、るいちゃん。俺達は遊びに行くわけじゃないんだ。下手したら死ぬかもしれないんだぜ」

「じゃあ、なんで私達に話をしたのかしら」

「ぐり子ちゃん」

 軍人のようなヘルメットを被り、何かをたくさん詰め込んだリュックを背負ったぐり子は言う。

「話をするだけして煽っておきながら待っててほしいなんて矛盾してるのよ。どうせどこに居ても安全じゃないんだから無理にでも付いていくわよ」

「…………ふぅ」

 るい達が協力者である事を話したことは失敗だったかもしれないと咲月は今更ながらに後悔していた。ただ、ぐり子の言う通りどこに居ても同じことになる可能性は決して低くは無い。勝手に行動されるくらいなら、一緒に行った方が幾分かはマシだろう。

「分かったよ」

「やったね。で、なのかは?」

「先に行ってるよ。魔法少女同士で打ち合わせがあるんだって」

「なんだか仲間外れね。こんな事なら私も魔法少女になっていれば良かったわ」

 るいは馬鹿にしたように言う。

「でも、ぐり子は才能無いって言われたじゃん。私と違ってさ」

「そういう事ならあなただけでも魔法少女になっていればよかったんじゃなくて? シミュレーターで気絶したるいさん?」

「うっ。だ、だってしょうがないじゃん。化け物はまだ猛獣の延長みたいなものだからなんとかなるけど、殺意MAXの魔法少女相手とか無理に決まってるよ。ドロドロとした悪意が矢みたいに肌に突き刺さってくるような感じがして、同じ人間だとはとても思えない。化け物が子犬なら人間は獰猛な狼だよ。とてもじゃないけど、私には無理だよ」

「猛獣より悪意のある人間の方が恐ろしいのは当たり前よ。だから私は悪意を念入りに根本から絶つと決めているの」

「……シミュレーターでは敵の魔法少女を名状しがたい感じにしてたよね? そんなんだから才能無いんだよ、ぐり子は」

「敵は根絶やしにしなくちゃ駄目でしょ、復讐が怖いじゃないの。ねぇ、お兄さん?」

「え?」

 不意の問いかけに咲月は動揺する。それは単に急だったという事だけではなく偶然にも自身がなのかに質問していた事と同じだったからだ。

「そ、そうだね。やっぱり恨まれちゃうのは怖いからね…………」

「そっかぁ…………。でも、ちょっとがっかりかも」

「がっかり?」

 るいは語る。

「ああ、別にお兄さんの答えがじゃないよ。魔法少女がそういう物ならって話。それって結局、銃が魔法に変わっただけの兵士だよ。夢も希望もありゃしない。私の信じる魔法少女は人を殺したりはしないんだ、その悪意だけを殺すんだ」

「そんな事は無理だわ、人の模範になるような立派な魔法少女が居たとしても、人は嫉妬し悪意を抱く。光が強ければ強いほど闇が大きくなるようにね」

「分かってるよ。だけどさ、魔法少女なんだよ。そんな理屈なんて関係ないよ。落ちこぼれだって、変身すらできなくなったって、訳の分からない力でハッピーエンドにしてくれるんだ。それが魔法少女なんだって私は思うよ」

「ありえないわ、馬鹿げてる…………でも、あの子ならもしかしたら」

 ぐり子は自分の言葉に首をかしげる。

「あの子……? 私は何を言ってるのかしら。なのか以外に魔法少女の知り合いなんて居ないのに」

「ぐり子、なにボケた事言ってるのさ。あの子って言うのは…………あれ? 誰だっけ?」

 元の世界の記憶は無意識化としては存在しているようだが、意識できるレベルには達していないようだ。相当時間が経ってこの様子では何か切っ掛けが無い限りは記憶の統合が行われる事は無いと考えた方がいいだろう。

「こんな所で言い合いしている場合じゃないや。行こうよ、お兄さん」

「近くに車を待たせてあるわ。そこまで行きましょう」

 本物の執事が運転するぐり子の家の車に乗って、咲月達はなのか達の待つ場所まで移動をした。郊外の廃工場跡近くのコンビニに少女達が不自然に集まっているが、おそらくその全てが魔法少女なのだろう。

 暇そうに髪を弄んでいたなのかは咲月達の到着を知るとそこへと駆け寄った。

「やっぱり振り切れなかったんだね、お兄ちゃん」

 咲月は申し訳なさそうに言う。

「だってさ、家を元軍人みたいな身のこなしの人が見張ってるんだぜ。ばれないように出てきたらあの人がクビになっちゃうよ。流石にそんなひどい事はできないって」

「言ってくれるわね。あの人はSASで教官を務めた事もある腕利きよ。例え魔法を使ったってその追跡術から逃れるのは容易ではないわ。まあ、バツイチの見た目は冴えない中年だから侮るのも分からなくはないけどね」

「バツイチってとこ要る?」

 なのかは困ったように語る。

「うーん、危ないって事本当に分かってるのかな? 下手したら死んじゃうかもしれないんだよ」

「それはなのかも同じでしょ? 私達だけ安全な所で待ってるなんて事できないよ」

「まあ、私達が足手まといなのは重々承知だけどね。いざとなったらさっさと逃げるわ。別にあなたの事を見捨てたわけじゃないから恨まないでね」

「ぐり子ちゃん…………」

 苦虫を噛み潰したような顔をしたなのかはため息をついて言う。

「しょうがないなぁ…………。確かチェンさん……だっけ? こうなる事が分かってたみたいで護衛についてくれるって。スキャットマンと一緒に戦った事もある人だし実力は確かだから、ちゃんと守ってもらってね」

「お兄さんの話だとあの人は私の部下だったそうだけど、あんなに信用できなさそうな人を部下にするかしら? おそらく時代ごとの権力者の下について己の愉しみの為に世の中を引っ掻き回して来たような人間よ。進んで飼いたいとは思わないわね」

「いや、ぐり子とは相性ピッタリだと思う、あの人。二人がそろうとなんか悪い事が始まりそうな雰囲気あるし」

「あ、それ分かるかも」

「どういう意味よ、それ」

 場をなだめるように咲月は言う。

「とにかく持ち場に着こう。そろそろ作戦開始の時刻だ」

「もうこんな時間? じゃ、みんなまた後でね」

 なのかは自分の持ち場へと走っていった。それとすれ違いに同じくらいの背丈のチェンがやってくる。

「よう、嬢ちゃん達。元気か?」

「まあまあね」

「そりゃよかった。正直こんな面倒事はごめんなんだが、他でもないスキャットマン達の頼みだ。このチェン様が特別に地獄の閻魔からでもお前らを守ってやるよ」

「地獄かぁ……そんな物本当にあるのかな?」

 チェンは即答する。

「あるよ。別に悪い事したヤツを裁いたりはしないけどな」

「変なの。じゃあ、何のためにあるのさ」

「そりゃ、そういう物が存在して欲しいヤツの為にあるのさ。神や悪魔ってのはそういう物だからな。魔法と一緒」

「魔法も誰かが欲しいと願ったからあるの?」

「もちろん当たり前よ。そもそもこの世の始まりの言葉は何だと思う? 「光が欲しいなぁ」だぜ? どんな物だって初めは望まれてそこにあるもんだ」

「へー、なんだか賢い事言うね、チェンは」

「あえて言わせてもらうが、俺はお前らの何十倍も生きてる仙人だからな? 本当に分かってんのか、この皇帝陛下は…………」

「分かってるよ、そういう設定なんだよね?」

「設定じゃねぇ!」

 ぐり子は言う。

「チェン、るいの相手をしてないで私の話も聞いてくれるかしら?」

「ああ、なんだ? 嬢ちゃん」

「私は誰かを忘れているみたいなの。おそらく魔法少女だと思うんだけど、あなたは分からないかしら?」

 チェンは神妙な顔で返す。

「他人の忘れ物なんて分からない、と言いたいところだが嬢ちゃんがそんな間抜けな質問をするわけないよな。最近、俺の頭の中で蠢いている(もや)の正体とそれは多分同じだ。そこのお兄さんに言わせれば別世界の記憶ってやつか」

「口で説明してもらうわけにはいかないの? お兄さん」

 咲月は語る。

「前にも言ったと思うけど、俺が話せるのはこの世界にある事柄だけだよ。それ以外は言葉にしようとしても君達の中に『存在しない』から説明する事ができないんだ。今、ぐり子ちゃんはそれが魔法少女である事を思い出した。だから俺は彼女が魔法少女であるという事だけは説明できる。でも、それがどんな物であったかは自分で思い出さなくちゃいけないんだ」

「面倒だな。忘れてしまって思い出せないようなものなら別に無くても良かったんじゃないのか?」

「そんな事ない!」

 るいの大声に皆は驚いたような顔をするが、当の本人が一番驚いているようだった。静かになった場にぽつりと呟くように続ける。

「……そんな事ない、と私は思うよ。今はどんな人だったのかも思い出せないけどさ、本当にどうでもいい人だったらこんなに思い出したいなんて考えないはずだもん」

 ぐり子は頷く。

「私もるいと同じ気持ちよ。チェン、さっきあなたは「全ての物は望まれてそこにある」と言ったわ。望むためには形が必要よ。それすらも分からない内に下らないものと決めつけてしまうのは愚かな事ではないかしら」

「………………」

 チェンは申し訳なさそうに言う。

「悪い。軽い冗談のつもりだったが、どうやら本気で怒らせちまったみたいだな。まったく、そいつが羨ましいぜ。こんなにも仲間から思われてるなんてよっぽどの幸せ者だ。そして、忘れられたままで居るなんてよっぽどの不幸せ者だ。俺はそういう可哀そうなヤツを見過ごしちゃおけないんだ」

「チェン」

 にやりと笑ってチェンは言った。

「嬢ちゃん達をこれほどまでに熱くするヤツか。俄然、思い出してやりたくなった。まあ、俺はあまり関係が無かったような感じだから、ほぼ無理な気もするがな」

「数は多い方がいいわ。あの子を知るのは私達しか居ないもの」

 るいは思い出したように言う。

「待って、確かNO(エヌオー)って人も知ってたような…………。あの人は今どこに?」

「ラブハートってヤツに憑りついていたのとは別のNOか。あんな恐ろしいヤツを別世界から連れてくるなんてお兄さんは一体どういう神経をしていらっしゃるので? 二人がかりで暴れられたらさすがに止められる気がしねーぞ」

「文句は後にして。戦闘が始まったら話をしている余裕なんて無いわ。早く探し出さなくちゃ」

 額に指を当て、チェンは神妙な顔をする。

「分かってるよ。今、気を探ってる。……ああ、駄目だ。人の数が多すぎて見分けがつかねぇ。こうなったら誰かアイツのポケベルにメッセージを送れ」

「ポケベル?」

「ってなに?」

 呆れたようにチェンは言う。

「おいおい、若いヤツがそんなんでいいのか? もっと流行に敏感にならなくちゃな」

「いや、多分古すぎて知らないんだと思うよ…………」

「お兄さんよ、あいつになにか連絡手段を持たせてないのか?」

「アイツがそういう束縛を嫌うタイプだって君ならよく分かってると思うけど?」

「だよなぁ…………」

 咲月は携帯を取り出すとその時計表示を見て呟いた。

「時間だ」

 あらかじめ決められていた通りに魔法少女達は動き出す。予行練習などロクにしていないだろうにその動きは迷いが無く、選び抜かれた精鋭のみがここに集まっているのだと分かる。

 その行動を少し離れた所で見ていたチェンは苛立ったように言う。

「始まっちまったか…………。どうする嬢ちゃん?」

「なぜ私に聞くの? ここで聞くべきはお兄さんじゃない?」

「『行く』以外に選択肢を持たないヤツに聞いてどうするんだ? 俺は正直このまま進むのは“ヤバい”と感じている。NOを見つけられなかったのもそうだが、こんな土壇場で記憶の糸口しか思い出せてない時点で俺達は“ツイてない”んだ。はっきり言ってこんな運勢じゃどんなに万全だったとしても負けるぜ」

「だけど行くしかないと思うよ。負けたら全部お終いなんでしょ? ねぇ、お兄さん?」

「ああ。流石に二度目の時間渡航を許してくれるほど優しい相手じゃないと俺は思う。だからこそ、ここで確実に倒さなくちゃいけないんだ」

「気持ちだけで勝てるんなら苦労はしねぇよ。俺はもしできるのならお兄さんにはこの場で時間渡航をしてもらいたいと思っている。この周回は失敗だ。間違いなく俺達は死ぬ。このままじゃ世界はギャラン=ドゥの物だ。それだけは絶対にさせられない。分かってるだろう?」

 誰の目にも明らかなほどチェンは焦っていた。人より長く生きているからこそ、いや危険察知が得意だからこそ生き延びたのだろうからこれが明確な死相だという事を本能で理解してしまったのだ。

 ぐり子もこの焦りようは只事ではないと悟ったが、だからこそ冷静に言った。

「チェン、あなたのしたい事は何かしら」

「…………嬢ちゃん」

「逃げたいのなら逃げなさい、私はそれを咎めはしない。あなたがどんな選択をしようと私は前に進むわ。だって自分で決めた事だから。運や神の為に私があるんじゃない。私の為に全てがあるのよ。弾丸だって矢だって魔法だって私の前では道を譲るわ。私がそうなるように決めたからよ。チェン、もう一度聞くわ。あなたのしたい事は何かしら?」

「………………」

 独裁者のような物言いに圧倒されてしまったのかチェンは肩をすくめて言った。

(わたくし)の喜びは覇王たる貴方に仕える事であります」

「よろしい。ならば、恐怖などと戯れている暇はないはずよ。これから私の世界を破壊しようとする逆賊共と事を構えなければならないのだから」

 ぐり子が魔法少女達の突入していった工場跡へと視線を向けるとそこから光が溢れ出し、轟音と共に空を貫いた。

 その後訪れた不気味なまでの静けさに皆は困惑したように顔を見合わせた。しかし、このままこうしていても仕方ないと咲月は言った。

「行ってみよう」


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