表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編4:夜明ケモノタチ
92/204

第三章1 もう二度と戻らない

 からからから、と映写機のフィルムが空転し、映像は止まった。見せられた物を消化しきれずにもたれているかのように一同の表情は重かった。

 やがてこのまま黙っていても仕方ないと思ったのか、るいが切り出した。

「私達って死んじゃってるの? というよりこの世界ってなに? あのクマ印って人がのかななの? のかながなんで増殖してるの? なのかって誰? あの七夜って人は今どこに居るの? ここに居るNOって人とあのNOは同一人物? 考える事が多すぎて頭が爆発しちゃうよぉぉぉぉぉぉ!」

 ぐり子は淡々と言う。

「るい、あなたは少し黙っていなさい」

「ついさっきまで黙っていたよ! 私は黙ってもいいけど誰か代わりに説明してよ!」

「よかろう。要は清く正しいわらわに逆賊共が襲い掛かって秩序が失われてしまったという話じゃろう」

 NOの言葉にチェンは困惑したように語る。

「あそこまで悪逆しといてよくもそんな台詞が吐けたもんだな。しかしよ、お二人さん。ここに居るって事は俺も不死炎に取り込まれたんだろうが、映像に映ってなかった俺は一体どこに居たんだ?」

 アリスタが答える。

「ホーエンハイムに頼まれて鐘紡(かねつむぎ)様と佐下様の護衛をしておりました」

「なるほど。俺は勝てなくても負けるはずはないだろうから、説得されたとみるのが自然か。そもそもあの『番長』とか呼ばれてた嬢ちゃんがこいつらを無理やり殺せるほど非情にはなれんだろうしな。なのかとかいう魔法少女を挑発する時も下手くそ過ぎて失笑物だったしな」

「うん、あれはないよね。無理してるの丸わかりだったし」

「のかなのベースがあの人と考えるなら頷けるわ。悪い事をする才能が無いのよ。その割には天然で鬼畜だったりする所も似てるわね」

「友人に関する論評などはどうでもいいのじゃが、してこれからわらわ達に何をさせようと言うのじゃ?」

「どういう意味?」

 ため息をついてNOは言う。

「そもそもこの映像は世界の滅亡を証明する為の物だったじゃろう。忘れたのか?」

「いや、さすがにそんな事は無いけど…………。でも、私達にできる事なんてあるのかな?」

「お前達にできる事があるのかは分からんが、本気のわらわに不可能は無い。まあ、中々本気になれんのが性分なのじゃがな」

 チェンは言う。

「俺は焦らすのは好きだが焦らされるのは嫌いだ。あんな映像を見せといてそれで終わりって事も無いだろう。ちゃっちゃと本題に移ってくれ」

「分かりました」

 アルトゥースは語る。

「別に勿体ぶったわけじゃないんです。ただ、真実を受け入れる時間が必要だと思っていただけで。でも安心しました。あれほど悲惨な結末を見せられたら、尻込みしてしまうかもしれないと心配してましたので。これなら安心して任せられそうです」

 アリスタが続ける。

「単刀直入に説明しますと皆様には過去に戻り、あの世界の歴史を変えて頂くことになります」

「歴史改変ね、そんな事本当にできるのかしら?」

「本来ならばできません。時間は磁気テープのように巻き戻せるわけでも上書きできるわけでもないのですから。ですが、今は“神”によって平行世界が全て互いに結び付いた状態にあります。基本世界から分岐世界へと流している力を逆流させれば実質的に歴史の改変が可能だと思われます」

「明確な脆弱性じゃな。“神”とやらが対策してないとは思えんが」

「はい。基本世界へとアクセスするための“存在する”座標は完全に抹消されています。座標無しではどんな手を使ってもこちら側から接続する事は不可能です。しかし、意図的に行ったのかは分かりませんがシェーラさんは自らの技の反動で存在消滅した事により座標を抹消されずに保持しています。これを読みだせるのは彼女と縁のあったクララさんと天羽君だけです。そして、善と悪の二人の『コンス』はこの座標の取得に成功しました。基本世界に干渉できるようになった以上、もはや分岐世界に居場所を保持している意味はないのですが、善の『コンス』はあなた方に決断を求めているようです」

「決断?」

「はい、基本世界に向かい、“神”を倒すために戦ってくれるかどうかを」

 NOは鼻で笑った。

「なにを言い出すかと思えば。無論、行くに決まっておるじゃろう。やられっぱなしは性に合わん」

「待って、『決断』という事は何かしらのデメリットがあるはずよ、違う?」

 アルトゥースは淡々と語りだす。

「あなた方が基本世界に行き仮に神を倒せた場合、世界は元の形に戻ろうとします。その時、基本世界に居るあなた方は再構築され、元と完全に同一とはならなくなるでしょう。神を倒せなかった場合は世界によって存在を抹消されてしまうのでやはり無事ではいられません」

「分岐世界に残る選択をした場合は?」

「安全な分岐世界へ退避した後、コンスが神に勝てばあなた方は記憶を残すかどうかの選択ができると思います。負けた場合でも分岐世界のあなた方は今まで通りの生活を送る事ができるでしょう。神がわざわざあなた方を潰しに来るという事はその行動理念からしてありえません」

「つまり行っても得が無くて、残っても損は無いってわけだね」

「なら、どちらを選ぶかは決まっているな」

 胸中を確かめ合うように顔を見合わせた面々はこくりと頷く。

「私達は基本世界に行くわ」

 戸惑ったようにアルトゥースは言う。

「本気ですか? どちらに転んでもあなた方は消滅してしまうというのに…………」

「危険は百も承知だわ。だとしても誰かがやらなければならない事よ。人に神は不要なのだから。無論、空想としてはあってもいいかもしれない。だけど実在してはならないの。神にひれ伏すにしても陳情するにしても、人は人でなくなってしまう。多分、世界が始まった時には神様は居たと思うわ。でも、人はある時こう言ったと思うの、『何もしてくれるな、どうか見ているだけにしてくれ』ってね。人の始まりは自分達の力だけでやっていく事を選択した時。理不尽の中でもがきながら生きていく事を、不条理に立ち向かう事を決意した時のはず。その闇の中に炎を灯すような意思を奪い去る者が居るというのなら、人は戦わなくちゃいけない。それが例えどれほど強大でまるで歯が立たないような相手でも、人は立ち向かわなければならないのよ」

「……無謀と分かっていて戦うのは何故ですか?」

「私達が生きているからよ。あなたには分からない事なのかしら?」

「………………」

 アルトゥースは思いに耽るように目を閉じるとやがて大きく深呼吸をして言う。

「僕…………いや、『俺』にも分かるよ。だってずっとそう信じて進んできたんだから」

 気が付けばアルトゥースの姿は黒い髪の青年へと変化していた。それを見たるいは驚いたように言う。

「あれ!? アルト君じゃない!」

「ふーん、やっぱりそこに居たのか」

「まあ、映像を見せられた後から薄々感づいていていたがの」

「七夜さん…………と呼べばいいのかしら?」

 咲月は意地悪い笑みで言う。

「いつも通り『お兄さん』でも構わないよ、ぐり子ちゃん、るいちゃん」

「あうあうあう……あ、アルト君はどこに? どこに行ったの!?」

「ここに居るよ。俺には実体がないからね、ちょっと体を貸してもらってるんだ」

 神妙な顔で咲月は語る。

「君達の決意に水を差すようで悪いけど、俺の取得した座標は完璧じゃない。クララを経由して無理やりに読み込んだもう一人の(わたし)の物と違って、天羽狂志郎が『存在しない物』を“思い出す”事で手に入れた座標だからだ。たどり着ける事だけは分かるが、それがどのタイミングになるのか、俺達が同時に辿り着けるのか、そもそも無事でいられるのかどうかすら定かじゃない。それにもっと悪い事が一つある。それは『のかな』を奪われてしまった事だ」

「のかなを?」

「外を見て来た君達には分かるだろうけど、『のかな』は完全に暴走してしまっている。無数の次元に散らばっていた彼女達はRE:D(リィド)によって裏切り者である俺を殺すためだけの存在と成り果ててしまった。もう一人の(わたし)が座標を手に入れようとしていた以上、こちらもそれの入手を優先しなければならなかったのは事実だ。でも、のかなを失ったのは“神”への切り札を奪われた事に等しい。もし、基本世界で再びトゥルーハートが神になるような事があればその時点で俺達の負けだ。どんな手を使っても必ず阻止しなければならない」

「…………ねぇ、質問があるんだけど、いいかしら?」

「何かな? ぐり子ちゃん」

 ぐり子は躊躇いながら言う。

「あなたは本物の『コンス』……よね?」

 その言葉にショックを受けた咲月はうつむきながら細々と呟く。

「……そうか、信じられないのも無理はないか。もう一人の(わたし)が芝居を打ってるとも限らないわけだしね。もし、俺の事が完全に信じられないのなら協力はしなくていい。俺は自分だけでもやってみせるよ」

 思い詰めたような表情にぐり子は慌てて否定する。

「疑ってるわけじゃないのよ。ただ……なにかしら、『契約』したあの時と何か違うような気がするの…………。ねぇ、チェン、あなたもそう思うでしょ?」

「そうか? 俺には相変わらず恐ろしいヤツにしか見えないが」

「………………」

 考えるように黙り込んだぐり子はやがて呟きを漏らす。

「ねぇ、あなたの味方をしてくれる『コンス』は他にどれくらい居るのかしら?」

「味方なんて居ないよ。そもそも俺はもう一人しか居ないと思う。ところで『契約』って何の話? もう一人の(わたし)がそんな事するわけないし、ぐり子ちゃんは何かと契約を結んでるの?」

 明らかな齟齬だったが、この情報はまだ公開すべきではないと直感的に思ったぐり子は曖昧に誤魔化した。

「…………ごめんなさい、勘違いだったみたい」

「?」

 気を取り直して咲月は言う。

「これから君達を基本世界に送る。もう一人の俺はすでにそこに居るはずだ。何をしてくるか分からない、気を付けてほしい。もし向こうで俺を見かけても簡単には信用しないでくれ。もう一人の(わたし)が騙そうとしているか分からない。行動に少しでも怪しい点があったら疑ってかかるようにしてくれ」

「ずいぶんと慎重だな。合言葉を決めておくとかでなんとかできないのか?」

(わたし)の事は俺自身が良く知ってる、符丁くらい簡単に見破るさ。本当は関わり合わずに君達だけで解決できればいいんだけど、この事態の中で怪しまれずに行動できるのは俺くらいだ。気づかれてトゥルーハートに逃げられたら元も子も無い、どうしても関わらずにはいられないだろう」

「基本世界に行くってどんな感じ? はっ、と気がつくような感じで記憶が蘇るの? それとも私達の意識が上書きされるの?」

「それは分からない。俺は過去の俺と同一人物だから今のままで居られるはずだけど、君達は分岐世界で生きてきたほぼ別人だ。おそらく記憶が追加されて、それに合わせて人格が統合されると思う」

「そもそも体の無いわらわはどうなる? あの女に憑りついた後ならまだマシじゃが、下手するとサン=ジェルマンの保管庫の中なのじゃがな」

 咲月は意外そうに言う。

「え? 君も来る気なの? はっきり言って邪魔になるだけだし、全く考えてなかったよ」

「な、なんじゃと!? どうしてそんなひどい事が言えるのじゃ! こんな重要な事からわらわを外すと後で泣いて後悔するぞ! というより連れてかないと無理やりにでも行き着いて邪魔してやるのじゃ! そして、わらわを除け者にした罪は重いという事を分からせてやるのじゃ! ふははははは!」

 高笑いをするNOにぐり子は呆れたように語る。

「座標無しじゃ行けないって話、分かっているのかしら?」

「でも、なんかできちゃいそうな雰囲気あるよね。映像の中の圧倒的なNOを見ていたせいかな?」

「どーすんだ、お兄さん。こういう輩は味方だと役に立たない癖に敵だと厄介になるタイプだぜ。連れていきたくない気持ちは分かるが、もしもって事もある。不安の芽は潰しておいた方がいいと思うぜ」

「…………ふぅ」

 仕方ないとため息をついて咲月は言う。

「分かったよ、君も連れていく事にするよ」

「ほう! わらわの重要性をようやく理解したようじゃな。よかろう、このような事態などわらわの偉大なる錬金術の力ですぐさま解決してやろうぞ」

「目立ったら駄目だって事、全然分かってない…………」

 苦虫を噛み潰したような表情の咲月は深呼吸して気分を落ち着ける。

「とにかく君達を転送するよ。準備はいいかい?」

「問題ないわ」

「それじゃ……行くよ」

 咲月が手を横に振るとぐり子達の体は粒子状になり、空へと昇って消えていった。一人残ったNOに向けて言う。

NO(エヌオー)、のかなの中にあったはずのお前がここに居る事自体がイレギュラーなんだ、増してそれを基本世界に送ってやるんだから例え保管庫の中で目が覚めても文句は言うなよ」

「あの小娘の中か、瓶の中か…………。どちらも自由が無くて嫌じゃな。そうじゃ! 別に人型とは言わぬ、畜生でも構わんから体を用意してもらえんかの」

「………………」

 露骨に嫌そうな顔をした咲月は少し考えて問題児は監視下に置いた方がいいと思い、NOの姿を黒い猫へと変化させた。

 きょろきょろと自らの姿を見渡したNOはまるで本物の猫のように後ろ足で体を掻いた。

「『まあまあじゃな。餌は高級猫缶で頼むぞ』」

「贅沢言うな」

 咲月はアルトゥースの体から離れ、幽霊のような状態になると二人を見た。

「今までありがとう。君達のおかげで俺はここまで来る事ができた。あらゆる世界の中で揺らがずに俺達を支え続けてくれた事には感謝しかない」

「七夜様…………」

 NOは馬鹿にしたように言う。

「『そんな行為に何の意味がある。そいつらに自意識は無い、決められた通りの反応をしているだけじゃ。人形遊びをする歳でもあるまいに』」

NO(エヌオー)、理屈じゃないんだ。こういうのは」

「『カルトじゃの。まあ、よかろう。その感情は魂を防腐してくれる。魂など腐りそうなら捨ててしまっても構わない程度のものじゃが、まあ大事に持っていても損は無いじゃろうしな』」

 アルトゥースは言った。

「七夜さん、こちらこそ悪くない日々でした。また何かあれば僕達を呼んでください。そして……めろんをどうかよろしくお願いします」

「ことか様の事も。いつかRE:D(リィド)の呪縛から解き放たれる日が来る事を僕達はここから願っています」

 二体のケモノは別れを惜しむかのようにほほ笑んだ。それが例え、あらかじめ決められただけの反応だとしても彼らの魂が導き出した行動なのだと咲月は信じて疑わなかった。

「……さようなら」

 胸にこみあげてくる熱い何かを感じながら咲月は背を向けてNOと共に基本世界へと消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ