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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
始まり編:不死炎の魔法少女
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第三章 間奏

 戦いにおいては連携が大事だと語ることかは親睦を深めるためと皆で新装開店の銭湯に行く事を提案した。唐突な提案だったが、何故か人数分の半額クーポンすら持っていることかにのかなは「『素直に行きたいって言えばいいのに』」と苦笑を漏らす。

 さすがに狂志郎は来なかったが、代わりにとめろんが自分に似た少女を連れてくる。初めは双子の妹か何かとのかなは思うがどうやらそれはアルトであるらしい。街に怪物が現れた時はこうやってアルトを影武者にして学校を抜け出すそうだ。

 ちらりと小熊を見たのかなは同じ事ができるのかと聞くと、当然のように小熊はのかなの姿になった。これなら容易に学校を抜け出すこともできるとのかなは思うが、中身が小熊では返って心配だと苦笑いをした。

 かくしてパウラを含む四人と二匹で銭湯に来たのかな達は束の間の休息を堪能することにした。

 脱衣所で服を脱ぎながらぶつぶつとアルトは文句を垂れる。

「ふぅ…………めろんにも困ったものです。魔法はこういう使い方をするものではないというのに。ついつい押し負けてしまう僕にも責任があるのでしょうか…………ん? どうしました、のかなさん」

 ちらちらとアルトの事を見ていたのかなははっとしたように顔を赤くする。

「『え、えーと…………。なんていうか、男の子の前で脱ぐのはちょっと恥ずかしくて…………』」

「今の僕は同姓ですしそこまで気にする事は無いでしょう。それにここにはあなたのパートナーも居るじゃないですか」

「『ラーはどちらかって言うとペットみたいなものだから大丈夫なんだけど、やっぱりアルト君だと意識しちゃうかも…………』」

 腕を組んでアルトは唸る。

「うーん、今の声と姿はめろんの物だから、僕の口調がそうさせるんでしょうかね? どうしても気になるようなら黙っていますけど…………」

「『だ、大丈夫だよ。こういう所で気を使わせちゃ悪いし…………』」

「そうですか、なら僕は先に行っていますのでゆっくり着替えてください」

 タオルを体に巻いて歩いていくアルトの後ろ姿を見たのかなは一切の恥じらいの無いその姿に何か哀愁のような物を感じずにはいられなかった。

(多分、かなりの回数変身させられてるんだろうなぁ…………。もう男の子も女の子も関係無いって感じがするよ)

 服を脱いで体にタオルを巻いたのかなは自分と同じ顔をしている小熊に奇妙な感覚を抱きながら中へと入っていった。

 広い銭湯の中でまずは体を洗おうとしたのかなはそこで信じられない物を見て目を丸くした。

「『こ、ことかちゃん、何やってんの?』」

 そこに居ることかは怪しげな手つきで後ろからパウラの豊満な胸をもみしだいていた。

「あっ、ちょっ! や、止めろって! この外道女!」

「すまんなぁ、私目が悪くて良く見えんのじゃよ」

「嘘つけ! まな板だからって嫉妬してんじゃねーぞ!」

 その言葉が逆鱗に触れたらしく怒った様子のことかが叫ぶ。

「誰がまな板じゃ! 小四でこんなにあるお前や(もち)()がおかしいんじゃよ! 私やのかなが普通なんじゃ! すでに望夜は片づけた、次はお前の脂肪を燃焼させてやるんじゃあ!」

「なに言ってんだテメェ! 頭おかしいんじゃねぇのか!?」

「『こ、ことかちゃん…………』」

 友の奇行に引き気味ののかなが、ふとことかの近くを見るとそこに放心状態のアルトが倒れている事に気づいた。

(あ、アルトくぅぅぅぅん! ことかちゃん、それめろんちゃんじゃなくてアルト君だよ! 目が悪いから間違えちゃったんだろうけど、ひどいとばっちりだよ! 組織と正義感の板挟みになって疲れ切ったアルト君も温泉で少しは休めるかな? って時にこの仕打ちはあんまりだよ! ショックのあまり泣いてるし、もうそっとしてあげようよ! っていうかラーはなんで楽しげにアルト君の胸揉んでるの!? それそういうものじゃないし、私がめろんちゃんに変な事してしてるみたいだから止めてよ! あとめろんちゃんは「やれやれ」って感じに微笑ましく見守ってないで、どうにしかしてあげてよ! かなり異常な状況だよね、これ。なんでそんなに冷静なの!? あああああ! いろんなことがありすぎて私もう何をどうしたらいいか全然分かんないよ!)

 のかなが悩む間にも目の前の光景は続けられる。

「ええんじゃろ、えんじゃろ、これが」

「ひゃあ…………あっ…………ふぅ…………」

「ううう…………僕って一体なんなんでしょうか」

「なんだか楽しくなってきたぞ」

「あははははは、賑やかだね」

 どうにかしなければとのかなは責任感のような物を抱くが、それは空回りするばかりで一向に解決策が浮かばない。

(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう)

 やがてぷしゅうと脳の処理限界を越えたのかなは混乱した頭でシャワーのホースを取ると、冷水の蛇口をひねり勢いよく水を噴射した。

「う、うあああああ! み、みんな、おち、落ち着いてえええええ!」

「うなあ! なにすんじゃあ!」

「ヒィ! あ、あたしが何したって言うんだ!」

「冷たい…………冷たいですよ…………のかなさん…………」

「やっぱり水浴びは気持ちいいなー!」

「あははははは」

 しばらくして冷静さを取り戻したのかなは自分の行動を思いだして恥ずかしそうに湯の中に沈み込んだ。

「『うう…………私、何やってんだろ』」

「あの状況だったしそんなに間違ってもないと思うけどね。荒療治だけど」

 恨めしそうにのかなはめろんをジト目で睨む。

「『めろんちゃんが止めてくれればこんな事は無かったのに…………』」

「ごめんね、もう少しだけ見ていたいって思ってたら止め時を逃しちゃって」

「『はぁ…………。それにしてもどうしてことかちゃんはあんなに胸に執着してるんだろう? 何かあったのかな?』」

「本人に直接聞いてみれば?」

「『やだよ、なんか私を同類みたいに思ってるから、絶対変な戦いに巻き込んでくるよ』」

「うーん…………なら、実際に同じ体験をしてみるとか。私のを揉んでみれば何か分かるんじゃないかな?」

「『え?』」

 予想外の言葉にのかなは困惑する。あっけらかんとしているめろんを見るにそんな大した事を言ったつもりはないのだろうが、のかなにとっては大変な出来事だった。

 さっきまで普通にめろんを見れていたのに意識した瞬間からのかなは恥ずかしさのあまりまともに見れなくなっていた。

 おろおろとするのかなをくすりと笑い、その手をおもむろに取っためろんはそれを自らの胸に押しつけてきた。

「えーい!」

「『は、はひ!?』」

 予想外の行動にのかなの思考はぐるぐると廻る。頭は真っ白であるのにどこか冷静な部分では「あ、これ中華まんだ」と感覚を過去と照らし合わせている自分が居ることに気づく。硬直したのかなが情報過多で動けずに居ると今度はめろんが後ろから抱きついてきた。

「『ちょ、ちょっと、当たってるよ、めろんちゃん!』」

 恥ずかしがるのかなの耳元でめろんはそっと囁く。

「かわいいなぁ、のかなちゃんは。一体何が当たっているのか言ってみてよ」

 のかなの顔が恥ずかしさでゆでダコのように真っ赤になる。

「『む、胸が』」

「うん、そうだね。あと当たってるんじゃなくて当ててるんだよ? 別に女の子同士だから恥ずかしい事もないのに、のかなちゃんはどうしてそんなに恥ずかしがってるの?」

「『おう、おう、おう……………!』」

 のかなもどうしてこんなに恥ずかしいのか理解できなかった。別に恥ずかしい事をしているわけではないと分かっているのに頭の中が白くなって何も考えることができない。蜘蛛に捕らえられた蝶のようにめろんから逃れる事ができない。

「かわいいなぁ、のかなちゃんは。うぶな感じが最高だよ。このまま食べちゃってもいいかな?」

「『はうはうはうはうはうぅぅぅぅ!』」

 かぷりと耳を甘噛みされた限界寸前ののかなはもはやめろんの手の上だ。この状態なら何をしても大丈夫だと思っためろんはおもむろに手を動かそうとしたがその瞬間、背後から胸を鷲掴みにされて思わず手を離す。

「ひゃあ!」

「はっーはっーはっー! ふぃーっしゅ!」

 相変わらず何かがおかしいことかがめろんを襲う。その間にのかなはパウラに回収されてどこかに行ってしまう。

「変態は変態同士で仲良くしてな、あたしらはノーマルなんだ」

「あうー…………。のかなちゃん…………」

 いまだ見せた事の無い悲しみの表情でめろんは二人の後ろ姿を見送った。少し頭の冷えたのかなは助け出してくれたパウラに礼をいい、大きなため息をついた。

「『ふぅ…………お風呂は開放的になるって言うけど、ここまで変貌すると大変だね』」

 神妙な顔でパウラは語る。

「ああ、そうだな。今更だが、あの外道女の手つきはヤバいぜ。ありゃ何人もの胸を揉んできてる動きだ、間違いなくプロだぜ。一度捕まったら絶対に逃げらんねぇ。それと大砲娘の方もプロだ。人間ってヤツはパニック状態の時に暗示がかかりやすいんだ。あの囁き、きっと何人もの人間を洗脳してきたに違いねぇ」

「『そ、そうなんだ…………』」

 どうやら少しパウラも二人の気に当てられておかしくなっているようだ。押さえが効くうちに早めにあがった方がいいとのかなは思った。

(けど、なんでみんなおかしくなっちゃったんだろう。まるで何かの毒に当てられたみたいな…………)

 考えるのかなはふと料理をする時にたまに嗅ぐ匂いを感じ、歩き出した。その香りを追っていくとそこには血の池のような赤い温泉があった。

(これは…………ワイン風呂かな?)

 ワイン風呂とは言ってもそれにアルコールが入っているわけではなく、香りを楽しむようなものだ。しかし、これにことかが関わってくると話は違ってくる。人に思いこませる魔法を使うことかが香りに酔ってしまい、その魔法が暴走しているとしたら、この香りは力を持って実際にアルコールを含むかのように人を酔わせる危険な物となる。

 はっ、としたのかなはみんなの元へと戻る。そこには完全にできあがったことか達が顔を真っ赤にして存在していた。

「はへぇー、望夜ぁ、覚悟せいやぁ…………」

「うーん、のかなちゃんのかなちゃんのかなちゃんのかなちゃん」

「こいつらプロだぁ! あはははははは!」

「うえええーん! どうせ僕なんて僕なんて僕なんてぇ!」

「なんかみんな楽しそうだな、ラー=ミラ=サンも嬉しいぞ」

 なぜか平然としている小熊以外はひどい有様であった。小熊に手伝うよう声をかけたのかなは一人ずつ脱衣所へと運びだしていく。

 取りあえず着がえを済ませたのかなは他の面々にも服を着せて水で濡らしたタオルを頭に置き、酔いを覚ますよう冷たい水を飲ませた。

 やがて正気を取り戻したことかが魔法を解くと他の者も目を覚まし、酔っている間の記憶のある者は自分の行動を思いだして恥ずかしそうに縮こまった。

「どっかに手ごろな穴ないかなぁ? 今とっても埋まりたい気分なんじゃよ…………」

「私もだよ…………。正直、のかなちゃんの顔がまともに見られないよ」

「なんだか知らないけど頭痛ぇ…………。何がどうなってんだ?」

「良く分かりませんが心なしかすっきりしたような気がしますね」

「『はははは…………』」

 茫然としたまま、のかな達は銭湯を出て家路につく。ゆっくりするどころではなかったがたまにはこういうのも悪くないと、少し仲が良くなったように見える皆を見てのかなは思った。


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