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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編4:夜明ケモノタチ
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第二章9 魂が無いから

 放課後になった途端に咲月の周りに人だかりが出来た。今は転校生だからというよりも人気者だからという理由だろう。普段ならそんな人間には話しかけないクマ印であるが、今日は違った。

 強引に人を押しのけると叩きつけるように言い放つ。

「七夜君、顔貸して」

 只事ではない剣幕に外野は口を挟む事ができず、巻き込まれないよう逃げるように速やかに帰宅していった。

 人気のない空き教室へと連れ込んだクマ印は感情を押さえずに言う。

「お前だろ?」

「な、なんの話? お、俺、なんかしちゃった?」

「怯えた演技なんかしなくていいよ。……いや、するな。そういう被害者ぶった態度は私をイラつかせる。殺さない程度にしたいのに殺意が抑えられなくなる」

「言ってる意味が分からない……何かの冗談だろ? そうなんだろ!?」

「………………」

 クマ印が咲月の心臓めがけて手を突き出した瞬間、その腕は切断されていた。

「…………っ!」

 咄嗟に距離を取るとそこには先ほどまでの怯えた少年は居なかった。蒼いナイフを携えた殺人鬼は金色の瞳を夕闇の中で光らせていた。

「せっかくこっちが見逃してあげると言っているのに分からない子ね」

 クマ印は腕を押さえながら吐き捨てるように言う。

「何が『見逃してやる』だ。なのかちゃんを騙していたくせによくもそんな善人ぶった事が言えるもんだな!」

「…………騙してなんかいないわ、偶然だったのよ」

「殺人鬼の言う事なんて信じられないな」

「信じてくれないならいいわ。でも、私はもうあの子を傷つけられない。それだけは事実よ」

「………………」

 クマ印は聞く。

「どうして魔法少女を殺す?」

「それはある遺物を盗んだ子を探しているからよ」

「どうして遺物を探す?」

「私のおじさんは表向き保険の調査員だけど、本当は特殊機関員なの。遺物を盗んだ犯人を追う内に負傷して今は入院中。私はその仇を取るために動いているのよ」

「特殊機関……もしかして『執行管理局』か?」

「あら、詳しいわね。さすがは番長」

 クマ印は露骨に嫌そうな顔をする。

「番長は止めろ。あと女言葉もだよ。気持ち悪くて仕方ない」

「男言葉混じりのあなたに言われたくないわ。それと私の心は女なの、普段だって我慢して男の振りしてるのよ。大変なんだからね」

「…………調子狂うなぁ」

 気を取り直してクマ印は言う。

「これからどうする気なの? 正体がばれてもまだ魔法少女を殺しまわるの? それとも身をくらますの?」

「投降するわ」

「……なんだって?」

 咲月は言う。

「ただし条件があるわ。引き続き私が遺物を盗んだ犯人を捜すのを許可する事。無論、そちらに協力する以上、むやみに魔法少女を殺すなと言われれば身の危険が及ばない程度で従うわ。どう? 悪い話ではないと思うけど?」

 訝しむような表情でクマ印は聞く。

「条件を呑めないと言ったら?」

「あなたを殺して行方をくらますわ。今後、悪い魔法少女に混じって善良な魔法少女の死体があがるようになるかもね」

「ずいぶんな話だね、拒否権は無いって事か」

「物分かりが良くて助かるわ」

「…………分かったよ。ところで腕を拾ってくれないかな? それっぽい事を言って、お前が油断させようとしているとも限らないしね。それで信用するよ」

「いいわ」

 警戒しながら咲月が腕を拾おうと手を伸ばした瞬間、まるで意思を持つかのようにそれはとびかかり首を掴みかかる。不意の攻撃に怯んだのを見逃さずにクマ印は咲月を押し倒し、マウントを取る。

「……っ! だ、だましたわね!」

「騙した? 人聞きが悪い。私は初めから信用なんかしちゃいないよ。悪い魔法少女がいくら殺されようが別に構わないけど、お前を受け入れたらなのかちゃんが穢れる。それだけは許せないんだ。私の為になのかちゃんには綺麗なままで居てもらう」

「この変態! あなたこそ奏の前から消えてもらうわ!」

「……まだ自分の立場が分かってないみたいだね」

 クマ印は邪悪な笑みを浮かべると切断された腕を咲月の胸に添えて、

「…………っ!?」

 その指を“ずぷり”と埋め込んだ。

「う、うぐっ!」

「痛くは無いけど不快でしょ。寿命を吸い取って私に逆らえないようにしてあげるよ。あははははは!」

 何とか逃れようと咲月はもがくが、完全にマウントを取られた状態ではどうにもならない。諦めずに周囲に回答を探していると、一瞬壁に電流のような物が走ったのが見えた。錯覚かどうかを考えているうちにそれは柱のように突き出て横に居たクマ印を吹き飛ばした。

「ぐはっ!」

「一体何が…………?」

 起き上がったクマ印は心当たりがあるのか苛立ったように言う。

「なにをするんだ、スキャットマン!」

 壁をすり抜けて一人の紳士が現れる。激情のクマ印を叱責するように語る。

「冷静になれ! 君はその腕に取り付いているヤツに乗っ取られようとしてるんだぞ!」

「!?」

 手を見つめたクマ印は少し冷静さを取り戻したのか、大きく息を吸って手に持っていた腕を投げ捨てうなだれた。

「…………最悪だ。利用してやるつもりが危うく利用される所だった」

「大丈夫か、少年」

 咲月は状況が理解できずに固まっていたが、意識を取り戻すと立ち上がって服の汚れを払った。

「善良とは程遠い魔法少女を飼っているのね」

「君だってそうだろう、『切り裂きジャック』」

「あなたは私をどうする気? 監督不行き届きを無視して私を始末するのかしら」

「別に僕達は法の代行者じゃない。むしろ、身内の不手際を処理してくれて礼を言いたいくらいだよ」

「言うわね。私は魔法少女にこれ以上追いかけられたくないから協力関係を結びたいのだけれど、あなたはどうかしら?」

「構わないよ。ただ、その代わりにこれからは魔法少女を無闇(むやみ)に殺すのは勘弁してもらうけどね」

「分かったわ」

「それと仲間の証として君に異名を与えよう。これは僕が命名してもいいが、ここは友好の証として……ラブハート、君につけてもらう事にしよう」

 クマ印は驚いた様子で顔を上げると罰の悪そうな表情をした。

「なんで私が……死ぬよりもひどい目に合わせちゃう所だったのに…………」

「だからだ。二度と繰り返さないよう君には罪を自覚してもらわなければな」

「…………最悪」

 クマ印はため息をつくと神妙な顔で語り始めた。

「我が『ラブハート』の名において、汝に銘を与える。汝は『コンス』、それは闇に楔打つ光の名なり」

「………………」

 咲月は困惑したように聞いた。

「これ、なに?」

「俗に言う洗礼のようなものだ。かつて魔除けの為に魔法使いは本名を隠した、それの名残だよ。現代でも身バレは色々と面倒だからね、今も昔も変わらないのだろう。君も変身した魔法少女と会う時は異名で呼ぶように」

「コンスってどういう意味?」

「ナイフを持って徘徊する男の月の神様」

「…………あなた、仲直りする気ないでしょ」

 クマ印はツンとした表情で知らない振りをした。それを見た咲月はため息をついて言う。

「とにかく情報共有といきたいわ。私はまだ遺物を盗んだ犯人がどんなヤツかも知らないの。その犯人とデバイスをバラまいているヤツが同一人物だという事までは分かったのだけれど、話に出てくる人物の特徴に一貫性が無くてね。規模が大きいというわけでもなさそうだし、変身魔法とかあったりするのかしら?」

「それは…………」

 スキャットマンがギャラン=ドゥについての話を始めようとした時、“ぴりり”とクマ印のデバイスに着信が入った。

「あっ、ごめん。用事が入っちゃった、私はもう行くね」

「ラブハート!」

 これ幸いと逃げるようにクマ印は学校を後にした。そしてしばらく行った所で髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回すと大きなため息をついた。

「乗っ取られる……か。やっぱりお前はそういう類のヤツか。まあ、別に私を食べたってかまわないさ。だけど、まだお預けだ。言う事を聞けないのなら、スキャットマンにこの体を封印でもなんでもしてもらからな。分かったな」

「『ふむ、まあよいじゃろう』」

 体を包んでいた激情はその返事と共に引いていった。ひとまず平常心に戻ったクマ印は気を取り直してメールの送り主の元に向かった。

 それは前に情報集めの一環で悪い魔法少女、つまり『魔女(ベルダム)』退治を引き受けた件の続きだ。こんな事をしている場合ではないとクマ印も理解しているが、情報を対価としてもらっている以上、断る事もできない。頼りにしていた狂志郎はギャラン=ドゥの話を聞いてからはすでに別行動をしている。当然と言えば当然だが、もう少し情報を出すのを後にすべきだったとクマ印は今になって後悔していた。

「あっ、ラブハートさん」

 小学校の近くの店で合流したウィタカはきょろきょろと辺りを見渡した。

「えっと、ライトスタッフは?」

「後で来るよ、取りあえずは私達だけで行こう」

「そうですか…………」

 無論、来るわけはないのだが結果が伴えば問題ないだろうとクマ印は思っていた。話によれば件の魔女(ベルダム)は周辺の地域を魔法による暴力で支配しているらしい。この時間は学校に居るらしく、この戦いの為にウィタカが人払いをすでに済ませているそうだ。

「こんな状況をもう一度整えるのは難しいので、仕方ないですが行くしかないですね」

 学校に突入したクマ印達は警戒しながら無人の学校を進んでいく。そして体育館に踏み込んだ時、そこにそれは居た。

「ようこそ、反逆者達」

 大きな盾を携えた魔女(ベルダム)にウィタカは言う。

「コスモフラワー! あんたの悪事もここまでじゃん。あたし達が成敗してやんよ!」

(この子、本当はこんな口調なんだ…………)

 コスモフラワーはおかしさをこらえきれないかのように笑う。

「くすくす…………」

「何がおかしいじゃん!」

「別に。いくら御託を並べても所詮はボクと同じ考えじゃないか」

「どういう意味?」

 コスモフラワーは語る。

「結局は強いヤツが正しいって事さ。お前達の正しさを証明する為にボクを倒すんだろう?」

 クマ印は平然と返す。

「詭弁だな、お前の悪事と私達の正しさに関係はない。聞いた話によれば魔法少女の力で人を虐げてるらしいじゃないか。それのどこが正しいっていうんだ?」

「ボクの行動は全て正当化される。何故なら強いから。お前達だってその力を使って勝手な行動をした事が一度はあるだろう。それを正しいと胸を張って言えるのかい? それが間違いなら懺悔する準備はできているのかい?」

「ごちゃごちゃと! すぐさま黙らせてやるじゃん!」

「ウィタカ!」

 構えを取るとウィタカは目から光線を放つ、それは文字通りの速度でコスモフラワーに向かうが到達する前に対象を失ってしまう。

「消えた!?」

「ジェノサイドドップラー」

 残像のように消え去った後に突如として現れたコスモフラワーは盾を構えた強烈なタックルを叩きつけて一撃でウィタカをのしてしまう。

「う…………あ…………」

「これで終わり? 弱すぎて話にならないよ」

「………………!」

 想像以上の強さにクマ印は焦りを覚え、咄嗟になのかへの応援を頼もうとする。だが、ウィタカの工作のせいか妨害電波が発生しており、通信する事ができない。

(まずい……助けを呼べないのは想定外だ)

 コスモフラワーは視線をクマ印へと向ける。

「お姉さんはこの程度じゃないよね。じゃないと、悪いのはそっちだったって事になるよ?」

「……………っ」

 クマ印は札を取り、それを投げ放とうとする。

「火のと…………」

 だが、先ほどと同じようにコスモフラワーは消え去り、目標を失ってしまう。札を構えたまま周囲を見渡して反応を探る。

(体温感知も魔力感知も反応が無い、呼吸による僅かな空気の動きすら感じない。強烈なステルスだ。仕組みを見破らない限り、勝ち目はない。だけど、仮に見破れたとしても私は勝てるのか?)

 能力差を顧みて勝つのは難しいと理解したクマ印は電波の通じる場所まで撤退する事に決めた。それは体育館という閉所から敵の有利な広い場所へと出るという事でもある。そうなればクマ印の力では敵を捕らえる事は困難を超えて不可能となるだろう。だとしてもそれ以外に勝機は無いと見て走り出す。

 迷いなく出口に向かう姿を見て、コスモフラワーは姿を現すと言う。

「逃げちゃ駄目だよ。この子が殺されてもいいの?」

「彼女にもそれくらいの覚悟はあるだろうさ」

「そうなんだ」

 するとコスモフラワーは盾の裏から冷たく光る剣を抜き、自然な動作でウィタカへと突き刺した。

「ぐげっ」

「…………!?」

 潰れたカエルのような断末魔と共に飛び散る鮮血。驚くクマ印に当然のように言う。

「お姉さんが悪いんだよ。この子を見捨てたんだから」

「お…………前っ!」

「なんで怒ってるの? 自分が悪者だって言われたから? 別に変じゃないでしょ、だってお姉さん、弱いもん。弱ければ悪いんだよ」

 クマ印は吐き捨てるように言う。

「狂ってる…………」

「ボクは正気だよ? だってお姉さんより強いから」

 一瞬で接近されたクマ印は逃げる間も無く、盾を叩きつけられる。

「ぐっ!」

 腕の骨の折れる感覚を味わいながら、同時に再生をして火の鳥を投げ放つ。だが、光ですらかわすスピードの前ではあまりにも遅すぎる。

「ジェノサイドドップラー」

 残像のように消え去った次の瞬間に、盾を構えた突進が襲ってくる。それは一度では終わらず、クマ印は倒れる事すら許されずになぶり殺しにされる。

「ぶっ………ぐ…………」

 本来なら神経の方が耐えきれないほどの痛みでも再生能力は容赦なく働き、狂気すら正気に戻して痛みを流し込む。苦痛のあまり気絶と覚醒を繰り返しながらクマ印は自我すら保てないほどに摩耗していく。

 ようやく攻撃から解放されて倒れる事ができたが、体の方は異常ともいえるほどの再生力ですでに攻撃される前への状態へと戻っていた。

 そのあまりの不死身さに流石のコスモフラワーも辟易したように言う。

「お姉さん、もしかして死なない人? 勘弁してよ、そういう人が居ると世の中が狂っちゃう。でも、空間ごと破壊すればいくら不死身でも消せるかな? やってみよっと」

 そう独りごちると詠唱を始めた。クマ印はかろうじて意識こそ残っているものの、もはや指一本動かせないほどに消耗してしまっていた。

(ぐ…………が………………)

 周りの風景すらまともに認識できない朦朧とした意識の中、白の世界に神が降りてきたのをクマ印は感じた。それが幻覚である事すら理解できなかったが、そっと顔に触れた手の感触は確かにあり、故に問いかけるように心の中で呟いた。

(あなたはかみさまなのですか?)

 ううん、私はトゥルーハートだよ。と神は言った。

(わたしをすくってくださるのですか?)

 しばらくクマ印に触れていた神は残念そうに呟いた。

「あなたは救えない。だって魂が無いから」

(…………!)

 すっ、と空に還っていく神にクマ印は手を伸ばして叫ぶ。

(私はここに居る、助けてください。どうか助けて、助け…………て)

 無常にも消え去ったのは果たして本当に幻覚だったのか。いや、例え真実がどうであろうとも、神に見捨てられた事だけは今のクマ印にとっては真実だった。

 その錯乱した言葉を聞いたコスモフラワーはせせら笑う。

「命乞いなんて意味ないよ。それはただ陳情しているだけだよ、何の意味もありはしない」

 詠唱を終え、とどめの一撃を放つ。

「ディメンションカッター!」

 空中に発生した透明な板がクマ印に向けて落ちるとそれの触れた体育館の床ごと跡形も無く消滅する。

 穴を覗いて完全に消去した事を改めて確認するとコスモフラワーは息を吐いた。

「今回は簡単だったけど、次もあるだろうな。数が多いと面倒だろうなぁ……死体処理もしなくちゃいけないし」

 ふと、何かに気づいた。

「?」

 初めは風の流れる音だと思ったが、密室であるここにそんな物があるわけがないと気づく。そして、それが人の叫びだと分かった瞬間には衝撃で吹き飛んでいた。

「おおおおおおおおおおおおおお!」

「な、なに?」

 ウィタカの死体が燃え上がると共に空間に炎が渦巻き人の形を形成していく。それが先ほど自分が消し去った魔法少女だと気づいた瞬間にコスモフラワーの口から乾いた笑いが出ていた。

「は、ははは…………」

 弱さとは何だろうか、単に腕力の劣る事だろうか。自然界において、それは『生き残れない』事だ。種を残せず、絶滅してしまう事だ。ならば、如何なる状況においても生存する事ができたなら、それは『強い』という事になるはずだ。

 正真正銘の『強者』に出会ったコスモフラワーは勝ち目が無い事を悟り、逃げるために姿を消した。だが、虚空に召喚された機械剣がどこまでも追尾して盾に強烈なノックを浴びせる。

「見えているのか!?」

「命ある者が私の前で姿を隠せると思うな!」

「ちっ!」

 残像のように姿を消すと盾を構えて突撃する。

「ジェノサイドドップラー!」

 先ほどまでと同じ弾丸のような勢いを持った鋭い攻撃、しかし焦りにより冷静さを欠いたものであるからか相手の不意を突いてはおらず、クマ印は迎撃の体勢に入っている。

「炎影」

 盾を殴りつけた瞬間、クマ印の腕の骨は折れるが、即時再生しその勢いにより逆に金属の方が衝撃に耐えきれずに砕ける。

 持ち手を伝ってきた炎の牙に全身を浸食されてコスモフラワーは悲鳴をあげる。

「ぎゃああああああ!」

 体の一部を焼かれ、倒れた所を踏みつけられたコスモフラワーは荒い息をしながらクマ印を見上げて嬉し気に笑う。

「あはっ、お姉さんの方が強かったみたいだね。じゃあ、正しいのはそっちだ。なら謝らなくちゃね。みんなをいじめてごめんなさい、お姉さんを馬鹿にしてごめんなさい、魔法少女を殺してごめんなさ」

「お前はいらない子なんだよ」

 クマ印は耳障りだと言わんばかりにその頭を消し飛ばした。

「私の世界から消え失せろ」

 断末魔をあげる暇も無くコスモフラワーは絶命する。死体は熱により焼かれて辺りに腐ったゴムのような不快な匂いをまき散らした。

 クマ印はしばらく立ち尽くしていたが、やがて拳を振るってしまった事による記憶のフラッシュバックに襲われ、頭を抱えて倒れ込んだ。

「あ、あああ…………!」

 それは『対名炎影流』を受け継ぐためだけに存在していた時の記憶。殺したいほど憎んでいた死んだ父親への恐怖と怒りが混ぜこぜになって、こらえきれずにその場に嘔吐する。

 しばらく深呼吸をしてようやく冷静さになってきたクマ印は苛立ったように言う。

「くそっ…………なにが『魂が無い』だ」

 荒い息で地の底から響くような怨嗟の声を吐き出す。

「救いが平等ではないと言うのなら、私はそれを許さない。どんなに時間がかかったとしても、どれほど困難だろうともお前に否定(NO)を叩きつけてやる。絶対に…………絶対に…………絶対に!」

 クマ印は吠えた。

「おおおおおおおおおおおおおお!」

 それは怒りを堪えきれないかのように。それは激情に蝕まれて悲鳴をあげるかのように。だが、その感情は果たして誰の物なのか、もはやクマ印には区別がつかなかった。



 クマ印が教団に戻ってきた時、早田はその悲惨な姿を見て何があったのかを聞き出そうとした。しかし、その混沌とした漆黒の瞳を見た瞬間、言葉を失ってしまった。

「早田君、私はこの世界に楔を打とうと思う」

「楔?」

「今の私達ではトゥルーハートに、神に勝つ事は出来ない。神を否定するには人間の模範(パラダイム)にならなくちゃいけないからだ。そんな立派な人間はこの世界には居ない。だけど、永遠に近い時間があれば誰かがそれを成し遂げる日が来るかもしれない。私はそれに賭けたいんだ」

「その為に俺達に何をさせようと言うんだ?」

 クマ印は迷わずに言った。

「テロを行う」



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