第二章7 立派な魔法少女
「ううううう…………!」
怪物を倒したなのかは返り血で血みどろになりながら、むせ返るような臭気の中でサイレンのような不機嫌な唸り声をあげた。
近くに降りてきたスキャットマンが声をかけようとした時、まるで爆発するかのように口を開いた。
「もうやだぁ!」
「どうしたんだい?」
「どうしたもこうしたもないの! ラブハートさんには中々会えないし、殺人鬼には毎回逃げられちゃうし、なんか私がナンバーワン魔法少女だっていう意味分かんない噂が流れてて面倒だしでもう我慢できないの!」
「ラブハートか…………彼女は最近怪しい新興宗教にハマっているようだったが…………」
「宗教!? 私よりそんなものが大切なの? ……ううん、悪いのはラブハートさんじゃなくて宗教なのかも…………。そうだ……そうに決まってる! ラブハートさんを正気に戻すためにも悪い宗教は滅ぼさなくちゃ!」
「そうだな、君の言う通りだ。彼女にはもっと君と会うように僕から言っておく。それと君は疲れているようだから今日はもう帰って休みなさい」
「うへへへ…………ラブハートさぁん…………」
ラブハートことクマ印の戦闘能力が低いと言っても、ちゃんと役割は存在する。再生能力と回復能力は戦闘に不可欠なものだ。いくらなのかの能力が高いと言っても一人で戦い続けるのはさすがに無理がある。
事情があって来る事ができないのはなのかも分かっているが、だとしても苦労が軽減されるわけでもないので日に日に積もっていくものもあった。
(多分、なにか厄介事に巻き込まれているのは分かるけど、一言言ってほしいよ。私だってラブハートさんの役に立ちたいんだから)
なのかにとってクマ印は年上でもあるが後輩でもあった。能力的にも優れているという事もあって色々と頼ってほしいと思っていた。しかし、同時に頼りたいという気持ちもあって、複雑な心境だった。
もしクマ印がただの落ちこぼれならばここまで惑う事も無かっただろう。だが、そこには理屈では無い力があった。過去か、人格か、それとも別の何かかがそうさせるのか。強迫観念にも似た絶対的な意思がそこにはあり、周りの人間を惹きつける。
ミロのヴィーナスのように欠けているからこそある種のカリスマがあった。幸せではなかったからこそ持つ影。それこそが本来平凡であるはずのクマ印をこの異常な世界へと繋ぎとめている。
なのかはクマ印をどうしたいのか自分でもよく分かってはいなかった。自分と同じこの闇の世界に繋ぎとめていたいのか、それとも光の中へと解き放ちたいのか。難しい事は考えてはいなかった。ただ一緒に居て、楽しい気分になれる。そんな事がいつまでも続けばいいという事だけを思っていた。
(このお店、前にラブハートさんと一緒に来た所だ。あの時は熊の被り物をさせられて恥ずかしかったな…………。なんだかもうずっと前の事みたいに感じられるよ…………)
ぼんやりとなのかが思いをはせていると、ガラスに映った風景の中に見覚えのある姿が入り込んだ。
「!」
その瞬間、一気に現実へと引き戻されたなのかは振り返るとその姿を追って走り出す。向こうにも気づかれて逃走劇が始まるが、何とか行き止まりの路地裏まで追い詰める。
途中で魔法少女へと変身していたなのかはその人物に向かって言い放つ。
「ようやく追い詰めました、通り魔さん。観念して大人しく投降してください!」
「………………」
通り魔と同じ姿の女性は困惑したように返す。
「誰かが追ってくるから誘い込んでみたら、まさか魔法少女だなんて。ごめんなさい、がっかりさせて悪いけど多分私は人違いだわ」
「言い逃れしようとしても無駄です! こっちはもういい加減うんざりしてるんです!」
「参ったわね…………。あ! そうね……知ってるか分からないけど、『ラブハート』っていう魔法少女にかけあってみてもらえるかしら? 私が人違いだって証明してくれるから」
「えっ? ラブハートさんを知ってるんですか!?」
驚いた様子のなのかを見て、女性はほっと胸をなでおろした。
「何とか誤解は解けそうね」
その後、クマ印に電話をして説明を受けたなのかは申し訳なさそうにぺこぺこと頭を下げて平謝りした。
「ご、ごめんなさい! 気を悪くされるかもしれませんが、あまりにも似てたから…………」
「いいのよ。せめて外に出る時は変装しなくちゃいけないのは分かっていて、そうしなかったこっちが悪いのだし。それにある意味、『私』のせいである事には変わりないしね」
「?」
「せっかくだからお茶でもしていかないかしら? 『私』の事を話さなくちゃいけないだろうし、『ラブハート』の事も聞いてみたいしね、魔法少女さん」
「なのかです、七日奏」
「私は桑納月よ。よろしくね、なのかちゃん」
そう言って桑納月はにこりと微笑んだ。路地裏から出て少し歩くと洒落た雰囲気の店へとたどり着いた。慣れていない人間には入りづらい雰囲気だが、気にする事なく悠々と入っていく。可愛い制服の店員に案内され、二人は向かいあうようにテーブルに着く。
注文をした所で桑納月は落ち着かない様子のなのかに気づいた。
「どうしたの?」
「えっと、こういう所には慣れてなくて…………チップとか払った方がいいんでしょうか?」
「ぷっ、あははははは」
笑い出した桑納月になのかは困惑する。
「あのー………」
「はぁはぁ……ご、ごめんなさい。あんまりおかしな事を言うもんだからつい」
(なんか見た目と中身が違う人だなぁ…………)
「それじゃあ、『私』の事について話してあげるわね」
わざとらしく咳払いをして桑納月は『夜光族』の事について語りだした。クマ印に話した時とは違い通り魔の正体がおそらくは男であるという事も含めて情報を提示した。
それを聞いたなのかは何か引っかかる所があったのか真剣な顔で考え込んでいる。
「目が金色に…………ですか」
「何か心当たりでも?」
「…………はい、あんまり信じたくないけど。まさかぐり子ちゃんがそんな………………。でも、犯人は男の人なんですよね? 信じていいんですよね?」
「可能性は高いけど確実とは言えないわ。女の『夜光族』でも高い能力を持つ者は居るわ。そもそもの始祖が女であるわけだしね。全然おかしい事じゃない」
「そう…………ですか…………」
「………………」
浮かない顔のなのかを見かねてか桑納月は言う。
「信じたくないの? ならば信じなければいいわ」
「そんな事できません。私は魔法少女なんです」
「だからって全ての責任を負わなければならないなんて事はないわ。あなたの志は立派だと思うけど、無理をしては駄目。無理は自分の我儘の為だけにするものよ、そうしなければ報われたいと思うようになる、報われるために正義を行うようになる。そして報われなければ誰かを傷つける。人はそれを邪悪というのよ。あなたはまだそうなっては居ないわ。でも、そうなりかけている」
「………………私はどうしたら」
桑納月は淡々と語る。
「簡単よ、諦めなければいいの。方法さえ選ばなければ大抵の問題には対処できるわ」
「対処できない問題に直面したら?」
「その時は対処できる人間に頼りなさい。火事の時に消防士を呼ぶようにね」
「………………」
なのかは決意を秘めた瞳で顔をあげた。
「分かりました。でも、これは私の問題です。限界ギリギリまで自分で考えてみます」
「それがいいわ。安易に人に頼ると癖になる。どんな状況でも助けてもらえると思ってしまう。そしてそれが思い込みに過ぎないと分かった時、逆恨みをする。人はそれを邪悪というの。あなたはまだ幼いけれどずいぶんしっかりしてるわね。誰の影響かしら」
「多分、ラブハートさんのせいです。あの人、あんまり強くないのに無茶ばかりするから…………」
「困った子ね」
「でも、凄いなって私は思います。はっきり言って私は戦うのが怖いです、逃げ出したい事なんてしょっちゅうです。けど、私より弱いはずのラブハートさんはいつも誰よりも早く一番前に居るんです。どんな強大な敵が相手でも必ず立ち上がるその力強い背中を見ていると私の中にあった弱い気持ちが消えていって、絶対に負けるもんかって思えるようになるんです。誰かは私がナンバーワン魔法少女だって言うけれど、魔法少女の本当の力は才能や技術なんかじゃない、心なんだって私は思います」
「心…………」
桑納月は言う。
「なるほど、あの子はニーチェの言う所の『超人』なのね」
「超人?」
「その定義はひどく曖昧で説明するのは難しいけれど、あの子を見ていれば分かるはず。物理的な弱さに屈することなく、絶えず挑み続ける人間。時代や環境に影響されない強い意志を持つ存在。それは人の理想でありながら、悪夢でもある。それほどの意思を持つ人間が襲い掛かってきたら倒すのは容易ではないわ。本気でかかることね」
くすくすと笑いながらなのかは語る。
「その言い方だとなんか私とラブハートさんが戦うみたいですね。まさかぁ、そんな事ありえませんよ。操られてっていうのはあるかもしれませんけど、そんなラブハートさんなんて簡単に倒せちゃうますよ」
「……だといいわね」
「?」
思い出したようになのかは言う。
「そうだ、操られてって言えば……。聞いてくださいよ、ラブハートさんが最近怪しい宗教にハマってるらしくて早く助けてあげなくちゃって思うんですけど、怪しい宗教団体がどういうものか全然情報が無いんです。桑納さんは何か知ってはいませんか?」
桑納月は真剣な顔で返す。
「ごめんなさい、怪しい宗教団体は知らないわ。……でもそんな物があるなんて怖いわね。あの子には注意するように言っておくわ」
「お願いします。純粋なラブハートさんを誑かすなんて許せません、一緒に悪い宗教を撲滅しましょう!」
「ええ、私も協力するわ。最近は色々物騒だけど、だからこそ頑張って平和にしなくちゃね」
「はい!」
何かが致命的にかみ合わないまま、二人は協力を誓った。その後しばらくお茶を飲みながら他愛の無い話をして店の外に出た。
桑納月は言う。
「何かあったら私に相談してちょうだい。きっと役に立てるわ」
「ありがとうございます。でも、戦うのは危ないので魔法少女に任せてくださいね」
「心配してくれるの? 早田君には隠しているけど、私は結構…………」
瞬間、桑納月の目が金色に染まった。
「!」
「どうしたんですか?」
人混みの中に目を向けてシルエットに目を這わせるように動かすと、視線は集束し対象に向かって走り出した。
突然の行動に反応できず、なのかはぼぅっとしていたが意識を取り戻すと慌てて追いかけた。
「もう! どうしたんですか!」
なんとか追いつくとなのかは膝に手をついて荒い息をした。そして顔を上げるとそこでは蒼いナイフを構えた桑納月が道化師の少女と睨み合っていた。
「やっと見つけたわ。あの時はよくもやってくれたわね」
口を閉じたままで少女の物とは思えない男の声が響く。
「あの時? そうか、お前はあの教団の…………」
「曲がりなりにも教祖様をやられたからには報復しなくちゃ面子が保てないのよ」
「教団? 教祖? 桑納さん、何を言ってるんですか?」
今度は少女の口が開き、正常な音色が響く。
「お姉さんの欲しい物はなに? この『ギャラン=ドゥ』の命? それとも私が持つ遺物?」
「あなた、ギャラン=ドゥっていうの?」
「違うよ。私は魔法少女『トゥルーハート』、『心の魔法少女』」
「殺す!」
「……! 桑納さん!」
なのかが止める間も無く、桑納月は斬りかかる。それは軽く身を引いてかわされるが、避けたはずの顔は横に切れ目が入り“ずるり”という湿った音と共に上半分がずれた。
上手くいったと桑納月は笑みを浮かべるが、道化師の少女は片手で顔を押さえると、その切れ目を指でなぞり消してしまう。
「馬鹿な! 確かに接合質を奪ったはず!」
「うん、確かに異能としては凄い力だね、異能としては。錬金術は多分、そこから派生した力なんだろうね。だから」
少女が手に持っていたステッキを軽く振ると桑納月の腕は糊でも洗い流されたかのように“ぽとり”と地面に落ちる。
「こんな事もできちゃう」
「くっ!」
桑納月は反応して身を引いていたのだが、圧倒的な実力差の前には無意味のようだ。幸いにも切断されたのは左手でまだ武器も右手も残っているが、戦意よりも段々と恐怖の方が上回りはじめていた。
「焦らなくてもいいよ、お姉さん。もうすぐみんなの夢が叶うんだから」
「夢ですって?」
「誰だって幸せになりたいでしょ? 美味しい物を食べたり、お金持ちになったり、モテモテになったり、褒められたり、気に入らないヤツをぶっ殺したり、他人を媚びへつらせたりしたいでしょ? だから、私はそれを叶えてあげる事にしたの。そんな世界になった時にはお姉さんは好きなだけ私を殺すといいよ」
「…………!」
なのかはこの少女がラブハートと同じ『超人』である事に気づいた。だが、そのバイアスはマイナス方向へと振り切っていて完全に狂気の色に染まっている。その筆舌しがたい負のオーラは邪悪という言葉などでは表しきれない真の純黒であった。
勝てない、と本能で理解してしまった。それでもなのかは何故か足を前に踏み出していた。本能を超えた何かが無意識的に体を動かしていた。
「トゥルーハート!」
「んー? なーにー?」
「事情はよく分からないけど、あなたは悪い事をしたんですよね? なら、私が倒します!」
「無理よ……あなたじゃ勝てない! 早く逃げなさい!」
なのかは笑って言った。
「桑納さんは言いました。無理は自分の我儘の為にするものだって。ここで逃げたら私は魔法少女じゃなくなっちゃう。私が魔法少女であるために絶対に逃げたりなんかしません!」
「あなたって子は…………」
少女は馬鹿にしたように言う。
「すごーい、かっこいー、ぬれちゃうー。…………まあ、冗談はこれくらいにして、一つ言わせてもらうけどさ」
不意になのかの影から出てきた道化師の少女はステッキを振りかざした。
「命を粗末するヤツは死んじゃえ」
「なのか!」
今まで話していたハリボテは溶けて無くなり、桑納月は慌てて動き出すが間に合いそうにはない。その目にはステッキから伸びる常人には不可視の光の刃が映っている。
あまりに上手く事が進んだ為か道化師は思わず笑みを浮かべるが、なのかは動じる事なく小さく呟く。
「変身」
それを行う為の隔離空間の展開により道化師を吹き飛ばす。防御をしながら攻撃の準備を整えた。ひどく地味ながらも、極めて高度であまりにも効果的な一手だった。
桑納月は流れが変わった事を感じた。いや、流れを“変えた”のが正しいと思い直した。本人は納得していないようだが、どこかの誰かが言う通りこの少女は確かに魔法少女として一つの頂点に居るのだと確信した。
なのかが動く。
「スターライトカーテン!」
振りかざした杖の先からファンシーな星が飛び出し、周囲に光のカーテンを展開する。物理的抵抗は無いようだが、観賞用という事もないだろう。攻撃魔法を軽減する為の結界と考えるのが自然だ。
「そこのお姉さんの為に防御障壁でも張ったのかな? でも、そんなの意味ないよ!」
道化師の少女はステッキを振り、なのかを狙う。常人には見る事の出来ない刃を回避するのは困難だ。しかし、身体能力による問題を知恵によって克服してきたのが人間だ。そしてなのかは知恵の他に勇気をも持ち合わせていた。
なのかは不可視の攻撃を“見て”かわした。
「!?」
はっ、と桑納月は気づく。
(なるほど……攻撃は見えなくても確かに存在してるって事ね。光の雨の中ならその軌跡は浮き出てくる。だけど、見えていても変幻自在な光の刃を避け続けるのは容易な事ではないわ。一撃でも貰えば致命傷なのに全く動じてない。この子、相当戦い慣れてるわね)
「スターライトセイバー!」
杖を流星の剣に変えた一撃を道化師の少女の攻撃の隙に叩き込む。直撃こそ避けられてしまうもののダメージは与えられたらしく少女は膝をつく。
「くぅ! ……ああ! もうやってくれるなぁ!」
「降参してください。そうすれば悪いようにはしません」
「見下しちゃって、腹立つなぁ。じゃあ、もう手加減は止めさ。私も本気で行くよ」
少女の影が囁く。
「トゥルーハート」
「……分かったよ、ギャラン=ドゥ」
「逃げる気!?」
道化師の少女はあざ笑うような笑みを浮かべる。
「逃げる? 違うね、見逃してあげるんだ。私は人を殺すことが嫌いだからね。なにせ人間は無価値だから殺せば殺すほど損をしちゃう。そんな割に合わない事、誰が進んでやるもんか。死狂い同士で勝手に盛り合ってろ、バーカ」
「待って!」
少女はマジックショーで使うような箱を出し、その中に入って蓋を閉じると箱は独りでに展開し、その姿はもうそこには無かった。
しばらく辺りの様子を窺っていたなのかは警戒と変身を解くとくっつけた腕の調子を見ている桑納月に話しかけた。
「腕、大丈夫ですか?」
「感覚はちゃんとあるわ。一応医者には診てもらうつもり。駄目ならあの子に治してもらおうかしらね」
戸惑いながらもなのかは聞く。
「桑納さんは怪しい宗教団体の人なんですか?」
「……怪しいかどうかは別として、そうね」
「どうして桑納さんみたいな人が?」
「そうしなければならないと思ったからよ」
桑納月は淡々と語る。
「はっきり言って、宗教って嫌いだわ。弱者が強者にマウントを取るために道徳を玩具にしてるんだもの。醜いったらありゃしない。弱者が善で、強者が悪? 僻んでるだけじゃない。馬鹿じゃないの?」
「桑納さん…………」
「……だけど、私達にとって必要な形である事だけは認めなければならなかった。初めはただのボランティア団体にするつもりだったの。けど、怪物や……何より魔法少女によって人の心につけられた傷跡はひどくて、それでは不十分だった。宗教だって十分じゃないのは分かってるわ。だけど、何もせずに立ち上がれるほど人は強くはないの。間違っている事を知りながらも私達はそうせざるをえなかった。だけど、私は信じたいの。いつか人が本当に強くなって、神様に「助けは要らない、どうか見ているだけにしてくれ」って言える日が必ず来るって。私達の宗教が本当は愚かでどうしようもないものだって誰に言われなくても一人一人が気づく事ができるようになるんだって思いたいの。そうじゃなかったら悲しすぎるじゃない。だから私は……私は…………」
「………………」
なのかは悲し気に呟いた。
「やっぱり悪い宗教です。だって、こんなにも桑納さんを苦しめているじゃないですか。そうやってラブハートさんも惑わすっていうんですか? だったら許せません!」
「………………許さなかったらどうするの?」
「ラブハートさんに何とかしてもらいます」
桑納月は苦笑した。
「自分でどうにかするわけじゃないのね」
「私にそんな力はありません、人より戦うのがほんの少し上手いだけなんですから。だから桑納さんが言った通り、対処できる人に任せます」
「あの子はハリボテよ。そんな事なんて出来るわけない」
「出来ます。ラブハートさんは凄い人なんです。普段は全然駄目だけど、非常事態になると信じられないくらい凄いんです。その気になれば世界だって救えます、宗教の一個や二個をどうにかするくらい簡単なんです!」
一欠けらの疑いの無い瞳を見て、桑納月は呆れたように息を吐き、そして心の底から笑った。
「……そこまで言われると否定するのもなんだか馬鹿らしいわ。立派な魔法少女であるあなたがそこまで言うのなら、あの子に私の未来を託してみましょうか。曲がりなりにも聖女様であられるわけだしね」
「早めに返してくださいよ、ラブハートさんは私の物なんですから」
「あなたがこっち側に来れば万事OKじゃない?」
「やっぱり悪い宗教です!」
二人は顔を見合わせると声を上げて笑った。




