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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編4:夜明ケモノタチ
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第二章4 親友

 なのかの家に親戚の兄が居候しているという事を聞いたるいはそれはもう冷やかしに行くしかないでしょと朝から放課後までずっと騒いでいた。だが実際に行く時になると急にヘタレ始めたがそれがぐり子の嗜虐心をくすぐったのか、無理やりに連行されるハメになる。

「待って! 待ってよぐり子! よく考えたら親戚のお兄さんって、なのかとあんまり関係なくない?」

「なに当たり前の事言ってるのよ、例え普通の兄妹だって私達にとって全く関係の無い赤の他人よ」

「だったら止めようよ…………。ほら、迷惑になるかもしれないし、度が過ぎてるって」

 にこりと笑ってぐり子は言う。

「私はね、自らの言動で破滅していく人間を見るのが大好きなの。そういう人間の悲惨な末路を見ているとね、『真面目に生きててよかった』『これからも真面目に生きよう』って思えるから。というわけで朝から近くで騒がれて苛ついていた私の留飲を下げる生贄になりなさい」

「ひぃぃぃぃぃ! ぐ、ぐり子の鬼! 悪魔!」

「うふふふふ、悲鳴が心地いいわ。もっと! もっとよ! 今日の事がトラウマになって夜な夜な脳が締め付けられるくらいに苦しみ悶えなさい!」

「ぬわあああああ! 脳がぁ! 脳が痛いよぉぉぉぉ!」

「あの…………家の前で何やってるの?」

「あら、なのか」

 なのかは自分の家の前で繰り広げられている喜劇に呆れたように言う。

「とりあえず中入ったら?」

「そうね、少し残念だけど。本当は今の苦しみに耐えきれず、自らチャイムを押して更なる苦しみへと堕ちていくるいを見たかったのだけどね」

「そんな事してたら日が暮れちゃうよ」

「ぐり子を止めてくれるわけじゃないんですね、なのかさん…………」

「だってるいちゃんの苦しむ姿を見てるとゾクゾクするし」

「ちょっ、ブルータスお前もか!?」

 くすくすと笑ってなのかは言う。

「冗談だよ、冗談」

「この状況じゃ洒落にならないんだよ…………」

「第一、人に会いに来ただけなのになんでそんなに怯えているのか不思議だよ」

「……あれ? 確かに」

 るいが正気に戻ったのを見たぐり子は舌打ちをした。

「チッ、せっかく思考誘導をしてるいを絶望の淵に叩きこんであげたのに。こんな早く愉しみが終わっちゃうなんて私は悲しいわ」

「友達を玩具にしないでよ…………」

「だって、人様の兄なんて見てもネタにもならないでしょ。こうやって遊ぶ以外にどうしろって言うのよ」

 るいは呆れた顔で言う。

「この口が真面目どーたら言うんだからなぁ。地獄に落ちるよ、きっと」

「で、なのかのお兄様とやらはどこなの? 引き延ばすと面倒だからちゃっちゃと済ませたいんだけど」

「見世物じゃないんだけどなぁ…………咲月さーん、ちょっと来て―」

 なのかが呼んでから少しすると階段から降りてくる音がしてリビングのドアが開いた。

「なにかな、奏ちゃん」

 咲月の姿を見たるい達は目を丸くする。

「なっ! 美形!?」

「これは意外な所を突いてきたわね。面白くなってきたわ」

 二人の反応から自分の呼ばれた意味を理解した咲月は苦笑を漏らす。

「なんていうか……個性的な友達だね」

「ごめんなさい…………。二人がどうしてもって言うから」

「別にいいよ、せっかくだから話でもしようか。俺、転校が多いから話のネタだけには困らないんだ」

 ソファに座り込むと咲月は言う。

「うーん、そうだなぁ…………砂の中に沈んでいた超古代文明の遺跡の話とか、イギリスの地下にあった謎の都市の話とかどうかな?」

「うさん臭いなぁ。超古代文明とか今時子どもでも信じないよ」

「え?」

「『え?』……ってまさかぐり子…………」

 咲月は真面目に言う。

「本当だって、俺が今こうやって首からかけてるナイフのアクセサリーだって地下都市からの掘り出し物なんだぜ」

 そう言ってテーブルの上に置かれた蒼い刀身のナイフは確かに幻想的なほどに美しくはあったが、るいに神秘を信じさせるほどの力は無かったようだ。

「これ持っててもお巡りさんに声かけられたりしないの?」

「ナイフの形状だけど全然切れないし、凶器にはならないから平気だと思うよ。サメの歯のお守りみたいなものだね」

「ふーん…………」

 興味無さげな反応を返するいの横に興奮で息を荒くするぐり子が居た。

「はぁはぁ…………ううっ、これは本当に価値のある物だわ。私には分かるのよ。ねぇ、一体いくら欲しいの? 一体いくらで譲ってくれるの?」

「こらこら、ぐり子。金持ちの悪い癖だぞ。そりゃ隣の芝生は青いかもしれないけどさ、どうせ手に入れたって物置の肥やしなんだから止めなよ」

「だけど、るい。こんな逸品、オークションでも見たこと無いわよ。贋作なんかじゃない、真作だってはっきり分かるもの。出すところに出せば数十億はくだらないわ」

「そういう問題じゃないでしょ、全く…………。ごめん、お兄さん。ぐり子が壊れたから今日はもう帰るよ」

「…………ちょっと待って。刀身だけならあげられるよ」

 るいは困惑したように言う。

「いや、いいよ。ぐり子を甘やかさないで」

「だって欲しいんでしょ? ほら」

 止める間も無く咲月はナイフの刀身を掴んで“ぼきっ”と力任せに折ってしまった。その光景を見たぐり子の顔は段々と青ざめていき、やがて悲鳴のような声をあげる。

「あっ…………。あああああああああ! ばかばかばかばかばか! な、なんてことしてるのよ!? せっかくの真作がぁ!」

「あれ? いらないの?」

 平然としている咲月にさすがのるいも引き気味になる。

「いくら何でもそれは無いでしょ。ドン引きだよ」

「えー? 心外だなぁ、いくら生えてくるって言っても奏ちゃんの友達だから奮発したのに」

「は? 生えてくる?」

「そうだよ。けどその前に一度くっつけちゃおうか」

 折った刀身と柄の断面を水の入った洗面器の中で合わせるとそれは瞬く間に接着し、元通りの状態となった。

「すごい…………」

「手で簡単に折れるくらいだから前に事故で折れちゃった事があったんだよね。その時にショックで混乱してたのか何故か『水につけてみよう』って思ったんだ。そしたら不思議な事にくっついたってわけ。それの応用で折れたまま単に水につけてたらどうなるのかって試したら、月の光が当たっている時だけ段々と再生するって分かったんだ。でも、刀身の部分からは再生しなかったから多分柄の近くにある根本の部分とは性質が違うんだろうね。俺の見立てでは人の『爪』みたいな構造なんじゃないかと思ってるんだけど…………。どうしたの?」

「まさか本物の超科学が出てくるなんて。さすがのるいさんでもついていけないだけですよ…………」

 ぐり子は目を輝かせて語る。

「素晴らしいわ! 現代科学では解明できない神秘、凄くワクワクする。是非とも本物を手に入れてやるわ! 無論、自分の手ででね。けどその前に先ほどの大きさで無くてもいいのだけど、刀身を分けてもらえるとありがたいわ。何かの手がかりになるかもしれないし」

「いいよ、はい」

 すると咲月はせっかく接着した刀身をまた力任せに折ってしまった。その迷いの無い行動にるいとなのかは呆れた顔をするが、後の二人にとっては関係ないようだ。

「水で濡れているかのような綺麗な刀身、清らかな雪のようになめらかな感触……たまらないわ…………」

 うっとりと見つめるぐり子を見てなのかは苦笑する。

「ぐり子ちゃんってたまに変だよね」

「なのか、あれは変じゃなくて変態って言うんだよ」

 るいは奇行に慣れているのか、淡々と話を変える。

「これ以上変な物が出てきても面倒だし、話題は私が決めてもいいかな?」

「どうぞ」

「お兄さんは好きな人とか居る?」

「ぶふっー!?」

 驚きのあまりなのかは飲みかけのジュースを吹き出してむせ込んだ。

「げほっ、ごほっ…………。る、るいちゃん、なんてこと聞いてるの?」

「お兄さん、イケメンだから彼女の一人や二人くらい居るかなって思って」

「居ないよ! 絶対居ないって!」

「奏ちゃん…………そんなに全力で否定しなくても…………」

 にやにやとしながらるいは言う。

「どーして、なのかがそんなに慌てるのカナー? 変ダナー?」

「ううっ…………。る、るいちゃんのいじわる…………」

「いやぁ、なのかさんも中々隅に置けませんなぁ。ムフフフ」

 なのかのピンチを悟り、咲月は助けるように素早く回答する。

「え、えーっと、転校が多いから深く人を知れる時間も無いし、今はそういう人は居ないよ」

 調子付いたるいは続けざまに言う。

「じゃあ、お兄さんの好きなタイプは? やっぱり顔がかわいい子? それともオッパイが大きい子かな? なーんて」

「それなら私分かるよ、咲月さんの好みの女の子は…………」

「…………あっ」

 咲月は何か嫌な予感を覚えて、咄嗟になのかの口を塞ごうとするがその虫の知らせはあまりにも遅すぎた。

「私達みたいな小さな子だよね。だって『ロリコン』だから」

 瞬間、場の雰囲気が凍り付いた。

「………………」

「………………」

「………………」

 るいは先ほどまでも陽気もどこに行ったのか申し訳なさそうな顔をしている。

「あの…………調子こいてましたすいません」

「どうして謝るの!?」

「だってほら、今から口封じのために筆舌しがたいエロ展開になるでしょ? 少しでも従順にしておいた方が後々楽かなぁー…………って」

「ならないよ! えっと、ぐり子ちゃん……だっけ? ……も何か言ってよ!」

「るい、生意気キャラの心が折れて謝りだすとバッドエンド直行よ」

「あっ! そっかぁ、しまった!」

「なんでそうなるのさ!?」

 話が通じないと思った咲月はなのかに助けを求める。

「なのかちゃん、誤解だって説明して!」

「えっ? 誤解じゃないよ。だって一緒にお風呂入った時に聞いたのちゃんと覚えてるもん」

「確定的な証言が出てきたな」

「これはもう言い逃れできないわね」

「ぐわあああああああああああ!」

 もはや逃れられぬと悟った咲月はがくりと肩を落とし、うなだれた。

(ううっ……俺が誤解を解いておかなかったばかりにこんな事に…………。今まで俺を育ててくれた叔父さん、すいません。今日、俺は社会的に死にます…………)

 その時、るいは言った。

「まあ、冗談はこれくらいにして」

「へっ?」

 キョトンとした顔の咲月にぐり子は言う。

「あっ、もう演技しなくて大丈夫よ。お兄さんって結構ノリがいいのね」

「じょ、冗談?」

 るいは当然のように言う。

「いくらなのかだって、悪意があったら気づくよ。お兄さんを疑ってる様子が微塵も無いって事は無罪って事なんだろうさ」

「そもそも本物のロリコンだったら、こんな簡単に欲しがってる物をくれるわけないでしょうしね。私だったら後でこっそり呼び出して、物を交換条件にあれこれするわ。無論、遅かれ早かれ破滅するでしょうけどそういう事をするのが変態ってものでしょう?」

「ぐり子が言うと生々しいからやめてよ…………」

 咲月は感心したように言う。

「君達は奏ちゃんの事を信頼してるんだね。どうしてそこまで信じられるんだい?」

 すると二人は顔を見合わせて意地悪そうな笑みを浮かべた。

「内緒だよね」

「ええ、私達だけの秘密よ」

「うーん、どうしても教えてくれない?」

「今はちょっと駄目かな」

「けど、そう遠くない内に“気づく”と思うわ。その時はお兄さんも仲間に入れてあげる」

 意味深な言葉と態度に翻弄された咲月は肩をすくめて返事をする。

「よくわからないけど、期待しておくよ」

「ねぇ、みんな、さっきから何の話をしているの?」

「ロリコンが世間一般では変態を意味するって話よ」

「へんたい…………変態…………」

 意味を理解したなのかは自らの言動を思い出して恥ずかしさに悶えた。

「うわあああああああ! わ、私、咲月さんになんて事を! ご、ごめんなさい! 悪気は無かったの! なんでもするから許して!」

 咲月は疲れたように乾いた笑みを漏らした。

「ハハハ…………別にいいよ。頼むから外で言わないでね、俺が社会的に死んじゃうから」

「ムフフ、これをネタにお兄さんを強請(ゆす)れそうだね」

「るい、それは二人に調教されて奴隷になるルートよ」

「私、ちょうどペットが欲しいと思っていたんだぁ。るいちゃんはお手とか上手?」

「ごめんなさい……私が悪かったです…………」

 皆は声をあげて笑った。



 やがて日が暮れてきたのでるい達は帰る事にした。いつもはもう少し早い時間に帰るのだが話が弾んでしまって遅くなってしまったようだ。さすがに女子二人では夜道は危ないのでぐり子の家から迎えが来る事になる。

 それまで外で話していると何かに気づいたぐり子がポケットからハンカチに包まれた蒼い刀身を取り出した。夜空に浮かぶ月に呼応するように淡く輝きだしたそれはその身に天上の物と同じ円形を映し出す。

「わぁ、綺麗…………」

「確かにこれは中々だね」

「…………そうね」

 ぐり子の淡泊な反応に違和感を覚えたなのかはその顔を見た。一瞬、瞳が金色に輝いているかのように見えたがそれは月の光が移り込んだだけの錯覚だったのか特にいつもと変わらないようだった。

「おっ、迎えが来たみたいだね」

 咲月の言う通り、ぐり子の家の車がやってきたようだ。

「ホントだ、こんなに遠いのによく分かるね」

「これでも夜目は効く方なんだ」

「へー、なんか猫みたいだね」

 家の前に止まった迎えの車に乗り込んだぐり子はなのかを見て言った。

「じゃあ、また明日ね」

「あ、うん…………」

 いつもと変わらないぐり子の調子になのかはさっきのは気のせいだったのだと思う事にした。

「じゃあね、お兄さん」

「また遊びに来てね」

「うん、ロリのうちにまた来てあげるよ」

「ハハハ……………」

 口の減らないるいに苦笑した咲月は走り出した車が角に消えて行くのを見るとなのかに言った。

「奏ちゃん、家の中に戻ろっか」

「そうだね…………」

 歯切れの悪い答えに咲月は首をかしげる。

「なにか気になる事でもあるの?」

「あっ……ううん、何でもないの。気にしないで」

「?」

「………………」

 なのかは違和感を考えすぎたと切り捨てる事にした。しかし、それが逃避に過ぎない事は心のどこかでは理解していた。

「………………」

 咲月は考え込むなのかの背を押して家の中に入れながら、三日月のように口を曲げてほくそ笑んだ。


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