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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編4:夜明ケモノタチ
81/204

第二章1 表と裏

 (昨日の人、無差別に殺しまわっているわけじゃないようだった。ある意味では被害の拡大を食い止めていたのかもしれないけど、だからって人を殺していいわけじゃない)

「なのか」

(今度あったら絶対に捕まえないと。あんな危険な人が表を出歩いてるって考えたら怖くてよく眠れないよ。一度スキャットマンと対策を練らなくっちゃ、あとは知り合いの魔法少女に協力を取り付けて、あとは…………)

「なのかってば!」

「はっ、はひぃ!」

 思考より現実に戻された七日奏(なのかかな)は何が起こったのか理解できずに溺れた人間のように慌てていたが、呆れたような友人の表情に気づくと照れたような笑みを漏らした。

「一日中ぼうっとして、もう放課後だよ?」

「あははは…………」

 友人である佐下るいは語る。

「最近付き合いも悪いし、悪い遊びでも覚えちゃったか?」

「え、えーっと…………」

「あっ、分かった。男でしょ。なのかったらおませさんだなぁ」

 焦ったようになのかは否定する。

「ち、違うよぉ! 私はまだみんなと居る方が楽しいし、先の話だよぉ」

「こういう人が一番早く彼氏作るんだよなぁ。ね、ぐり子」

 近くの席のぐり子はため息をついて返す。

「なんで私に振るのよ」

「だって金持ちじゃん? 許嫁の一人や二人や十人くらい居るんでしょ?」

「居ないわよ。そもそも勝手に結婚相手を決められて気分良いわけないでしょう。時代錯誤の考え方よ」

「えー? 私はそういうの結構憧れるけどなぁ。許嫁の優しい王子系とどこの誰かも分からない捨て猫クール系の狭間で私の心は揺れ動くの」

「どんな少女漫画よ。ま、ガサツで女子力の欠片もないるいには彼氏なんて一生無理だから憧れるのも分かるけどね」

「なんですとー!? ちくしょう、こうなりゃ女子力アームロックだ!」

「あっ、コラ! 止めなさい! そういう所が問題だって言ってるの!」

 乱闘騒ぎが始まったのを見たなのかは苦笑して、巻き込まれないようにさっさと立ち去る事にした。

「あははは…………じゃあ、またね」

 学校を後にしたなのかは家に帰ると昨日の疲れもあってか、しばらくベッドで横になっていた。ふとデバイスに目をやるとメールを受信していた事に気づく。どうやら昨日の件で相談をしていた知り合いの魔法少女から返事がきていたようだ。その文面によると『今日集まろう』との事。待ち合わせの時刻を見たなのかは現在の時間と照らし合わせ、遅刻しそうな事に気づくと慌てて飛び起き、弾丸のように家を飛び出した。

 待ち合わせの場所までたどり着くとなのかは荒い息のままぺこぺこと頭を下げた。

「ご、ごめんなさい! メールに気がつかなくて…………」

 待ち合わせの相手らしいクマ印の女子高生はにこりと微笑んで言う。

「別に平気くま。私も今来た所だったくま」

「あ、それなら…………」

 よかった、と発言しようとした瞬間、その態度は急変した。

「ってそんなわけあるかー! 自分から相談しといて遅れるってどんな要件じゃー! お姉さんは激おこですよ!?」

「ふぇぇぇぇ! す、すいませーん。ゆ、許してくださーい!」

「ダメ、許さない。クマフェイスの刑に処す」

 どこからか取り出したクマの着ぐるみ風頭部をなのかの頭に装着させる。あまり優れた意匠ではない頭部と人間のままの体が見る者のシュールさを加速させる。

 自分が好奇の視線に晒されてる事に気づいたなのかはもじもじと語る。

「あ、あの……これ、凄く恥ずかしいです」

「そうじゃなくちゃ罰にならないくま。お店に行くまで取っちゃダメくまよ」

「ううう…………」

 歩き出したクマ印は急に真面目になると言う。

「昨日の今日だから襲われたのかと思って心配したんだからね」

「あっ…………」

 その言葉を聞いたなのかは申し訳ない気持ちでいっぱいになり、呟きを漏らした。

「ごめんなさい」

「まあ、なのかちゃんなら逆に撃退できちゃうとは思うけどね。余計な心配だったかな?」

「そんな事ないです、ありがとうございます」

 ほっこりした顔でクマ印は言う。

「なのかちゃんはいい子ダナー。私がなのかちゃんくらいの時はそんなに出来た子じゃなかったよ。だって、お父さんが死んだ時、凄くすっきりしたもん」

「え?」

 意地悪そうな顔でクマ印は言う。

「小学生にはキツイぞー、この話。それでも聞きたい?」

「えっ、えっと…………」

 戸惑うなのかをクマ印は笑い飛ばす。

「ぷっ、あははははは! じょーだん、冗談だって。私のパパは元気よ。なのかちゃんがあんまりいい子だからからかってみただけ、あんまり真剣になられるとこっちが困っちゃうくま」

「冗談…………ですか」

「うん、冗談。私って悪い子だからさ、ひどい嘘とか平気でついちゃう。あんまり真面目に付き合ってると馬鹿を見ちゃうゾ☆」

「………………」

 目的の店が見えてくるとクマ印は興奮したように言う。

「おおっ! あれが噂のスイーツ店か! 只者ではないオーラがここからでも感じられるくま! なのかちゃん、早く早く!」

「……嘘つき」

「ほへっ? なんか言った?」

「待ってくださーい! 今行きまーす!」

 出てきたスイーツをこれ以上無いくらいの幸せそうな顔でクマ印はむさぼる。その表情があまりにも間抜けでなのかはくすくすと笑いを漏らした。しばらくの間楽しく談笑しながら食事をした所で、なのかは昨日の話を切り出した。

「とにかく凄い身体能力でした。こっちは魔法少女なのに全然追いつけなくて、間違いなく普通の人間じゃありませんでした」

「何か他に気づいた事はあった?」

「うーん………あっ、確か『目』が…………」

「目?」

「はい、初めは黒色なんですけど時間と共に目が金色に変わっていって、それが完全に変わった瞬間に変な攻撃をされて逃げられちゃいました」

「『能力者』ってヤツなのかな。魔法少女が居るんだからそういう人が居てもおかしくないか。徒党を組んでるって話は聞かないから、単独犯だろうね。ただでさえ忙しいっていうのに迷惑な人だなぁ…………」

「標的を選んでいるみたいでしたから、私達のような普通の魔法少女が襲われる事は無いと思います。ある見方をすれば悪い魔法少女による被害を未然に防いでるともいえます」

 クマ印は苦い顔をする。

「身から出た錆とはいえ悔しいね。同じ魔法少女の凶行を止められないのもそうだけど、それを殺して正義面しているヤツが居るってのも辛いよ。ああ、私にもっと力があったらなぁ」

「仕方ないですよ、正規の魔法少女じゃないんですし」

 クマ印は一般人の時、怪物(スクウィール)に襲われ死にかけていた所に錬金術の力である『不死炎』を移植する事で一命を取り留めたという過去を持つ。その作用で魔法少女となったのだが、適正年齢を通り越しての事なのでトカゲ並の再生能力を除けばその力はほぼ一般人と変わりない。

「分かってるけどさ、なのかちゃんみたいな小さい子だけに任せてらんないっていうか、せっかく命助けてもらったんだから私だって何かしたいんだよ」

 思い詰めた顔をするクマ印になのかは笑って返した。

「大丈夫ですよ。こうやって一緒にお話しして、美味しい物を食べて、たまに相談にのってくれるだけでも私にとってはすごくありがたいことですし、十分に『何か』できてますよ」

「え、ええ子や…………。お姉さん、嬉しくて泣きそ……。よし! 私の林檎タルト少し食べていいよ!」

 差し出された食いかけのスイーツを見て、なのかは顔を引きつらせる。

「い、いえ、これ以上食べると夕飯が食べられなくなっちゃうので」

 時計を見たクマ印は残念そうに言う。

「あっ、もうこんな時間なんだ。じゃあ、そろそろ帰らないとね」

 残りのスイーツをぺろりと平らげたクマ印は会計を済ませ、なのかと共に外に出た。もう日は完全に落ちて辺りは暗くなっている。

 途中まで一緒に帰り道を歩き、別れ際にクマ印は言った。

「次会うのはいつも通り休みの時になるかな? その時までサラバだくま」

「はい、さよーなら」

 去り行く背中に手を振ってなのかは家路についた。信頼できる人間に話したからか悶々とした気分も少しは晴れていた。

(私は一人で戦ってるわけじゃないんだ。今は焦らずに様子を見よう。いつか必ずチャンスは来る。その時までじっと耐えるんだ)

 がちゃっ、と家の扉を開けて玄関に入るとそこには見慣れない靴があった。

(あれ? お客さん?)

 不思議に思いつつなのかがリビングに行くとそこには一人の少年が居た。それは黒い髪の人形のように整った中性的な顔立ちをしている。体つきも華奢でもし髪が長ければ暗がりなどで女と見間違っても仕方の無い容姿だ。

 少年は曖昧な微笑みで口を開く。

「おかえりなさい」

「えっと、ただいま?」

 なのかが頭に疑問符を浮かべていると母がやってきた。

(かな)、おかえり」

「おかーさん、この人は?」

 母は困惑したように語る。

「話すと長くなるんだけど、叔父さんが海外に行くから預かってくれって。さすがに高校生に一人暮らしさせるのも難だし、仕方ないから請け負ったのだけど急な話よねぇ…………」

「無茶苦茶だなぁ…………」

「確かにそうだけど、この子が一番困惑しているはずよ。逃げないでちゃんと受け入れてあげなくちゃ。ってわけで(かな)、自己紹介しなさい」

「ええっ!? いきなり?」

「当たり前でしょ、初めにするのが自己紹介なんだから。つべこべ言わずさっさとするの」

「…………はーい」

 もじもじとしながらもなのかは話し始めた。

「えっと、七日(なのか)(かな)です。ゲームしたり雑誌を読んだりするのが好きです」

 少年はにこりと笑って返す。

「よろしく、(かな)ちゃん。俺は七夜咲月(ななやさつき)。『お兄ちゃん』でも『咲月君』でも好きなように呼んでよ。ゲームは俺もよくするけど、ジャンル的にあんまり合わないかもね」

「うん。よろしくね、咲月さん」

「『咲月君』でいいって。ま、呼びたくなったらで構わないけどね」

 いかにも男子という感じのさっぱりとした性格の咲月とはすぐになじめそうだとなのかは思った。通う高校がちょうどクマ印の物と同じだと聞いたので後でメールを出そうと考えながら部屋に入った所でふと思いつき、リビングへと再び戻ると口を開いた。

「七夜さん、一緒にお風呂入ろ」

「ぶふー!?」

 咲月は飲んでいたお茶を盛大に吹き出し、微妙な空気の中でなのかの母をちらりと見た。すると母はその肩に手置いて、グッドサインを出す。

「大丈夫!」

「ちょっ、叔母さん!?」

「咲月君は(かな)なんかに興味ないおっぱい好きの子だって本で分かってるから!」

「俺の部屋に隠してあった本、机の上に置いたの叔母さんですか!? そういうの止めてくださいよ!」

 咲月は困ったようになのかへと話しかける。

「あのね、奏ちゃん。男の人が女の人と一緒にお風呂入るのはまずいっていうかなんていうか…………」

「え? でも、お母さんとお父さん、たまに一緒に入ってるよ?」

「親年代のそういう生々しいのは聞きたくなかったな…………」

 さすがに小学生のなのかに男女の云々を説明するわけにもいかず、あんまり強く断るとかえって意識しているようになると思った咲月は流されるように付き合う事となる。

「分かったよ。俺は別にロリコンじゃないしね」

「ロリコン?」

「小さい子が好きな人の事をそういうんだ」

「咲月さんはロリコンじゃない……って事は小さい子が好きじゃない。……なのかの事、嫌いなの?」

「いや、そうじゃないけど…………」

「じゃあ、咲月さんはロリコンだね。なのかの事、好きだもん」

「うーん、なんて説明したら…………」

 今の自分では理解させるのは無理だと悟った咲月は誤解を解くのを諦めた。心配せずとも時間が経てば誤解だという事は自然と分かるだろう。どうにかしようと焦って行動する方が事態を悪くしかねない。

 とりあえず風呂に入った咲月はなのかの頭を洗いながらやっぱりロリコンじゃないなと改めて再確認した。

「咲月さん、背中洗ってあげるね」

「ああ、ありがとう」

 咲月は聞く。

「お父さんともよく入っているの?」

「ううん、お仕事が忙しいから」

「へー、お仕事は何をしているの?」

「お巡りさん。最近は事件が多いからあんまり帰れないみたい。たまに着替えを取りに帰ってくるけど、すぐに行っちゃうんだ」

「大変だね。……悪い事をする人が居なければそんな事も無いのにね」

「うん。誰かがどうにかしてくれればいいのに」

 咲月は曖昧な笑みを浮かべて言う。

「大丈夫だよ、きっとそんなにしない内に落ち着いてくると思うよ」

 なのかはどきりとして聞き返す。

「ど、どうしてそんな事が分かるの?」

「なんとなく…………かな?」

「ふーん…………」

 咲月の反応を見る限り、なのかを魔法少女だと知って言っているようではないようだ。ただ、何者かが事件の裏で解決のために動いている事は感じているようでもある。思いもよらない所からかけられた期待になのかは己の使命の重大さを改めて理解する。

「奏ちゃん?」

「あ、はい!?」

「のぼせちゃったみたいだね。あがろうか」

「そうですね…………っと、わっ!」

 バランスを崩したなのかは咄嗟に近くの布にしがみついた。取り払われた咲月の腰布の下から隠されていたものがあらわになる。少しの間場は硬直し、なのかは無意識的にそれに手を伸ばして触れようとしたが直前で阻止される。

「か、奏ちゃん、そんなことしちゃダメ!」

「いやぁ流れ的に許されるかなーって」

「許されないよ!?」

 あの親にしてこの子ありだと戦慄した咲月は身の危険を感じてそそくさと風呂場を後にした。逃げるように去ってしまった背中を見て残念そうな顔をしたなのかは自らも体を拭いて外に出た。

 着替えを終えて部屋に戻ったなのかはカーテンが微妙に開いていてそこから光が射し込んでいる気づき、閉めるために手を伸ばした。ふと窓の外に目をやると空には金色の満月が浮かんでいる。それを見て、なのかの脳裏に昨日の『能力者』の目が思い浮かんだ。

(今夜もまた、彼女は誰かを殺しているんだろうか。生きるためなどではなく、ただ己の快楽のために)

『私は選んで殺すわ。あなたと同じように』

(同じなんかじゃない…………。私は望んでなんかいないんだ、殺す事も戦う事さえも)

 なのかの葛藤など気にも留めず、月はただ冷たくそこにあった。


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