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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編4:夜明ケモノタチ
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第二章0 失われた伝説を求めて

 月が綺麗だった。そして声が耳障りだった。知性の欠片も無い興奮したセリフを壊れたレコードのように繰り返し、鼓膜から脳味噌に入ったノイズが芋虫のようにシナプスを駆けずり回るのを感じていた。

「やっべー、マジやっべーよ。こいつこんなに金持ってるし。あたし達、大金持ちじゃね?」

「魔法少女なんて正直ダッセーって思ってるけど、こういう事ができるから止めらんないのよね」

 血まみれの死体が転がる傍で金勘定をしている異様な恰好の二人、見た目はアニメや漫画でいう所の『魔法少女』とでもいった所だが、この邪悪な姿を見てそれと結びつけるものは居ないだろう。

 遠くからサイレンの音が聞こえてきても、彼女達は微動だにしない。類まれなる力を手に入れた自分達を止められる者など居ないと知っているからだ。人のコトワリに従わず、人の命をむさぼるのならば、もはやそれは人ではなくただのケモノだ。

「クズ共が…………」

「あ?」

 いつからそこに居たのか、全身黒ずくめの女がそこに立っていた。他の全てが漆黒だというのに目だけは天上に浮かぶ月のように輝いていて、闇の中で怪しげに浮かんでいた。

 魔法少女達は奇妙に思いつつ、目の前に現れた女を見て不機嫌そうに言う。

「あーあ、頭をおかしいヤツのせいでせっかくのいい気分が冷めちゃったよ。ね、どうしてくれんの? これ」

「土下座させよーよ。土下座、土下座」

「いいね、それ。でもって写真とってネットにあげよっか。すっげー人気でそー、ぎゃははははは!」

「………………」

 女の右手はいつの間にか蒼いナイフが握られていた。その刀身に月の光が集まると共に閃光が走り、全ては終わっていた。

「あっ?」

 断末魔を上げる暇もなく、魔法少女達は細切れの肉塊となって元からあった死体の傍に散らばった。辺りに広がった鉄の匂いの中で深呼吸をすると女の目の光は段々と失せていってやがて闇と同化して何も見えなくなった。

 踵を返し去ろうとした時、別の魔法少女が空から落ちてきた。それに気づいた女は近くの壁を蹴って一気にビルの屋上まで駆け上がる。すれ違った魔法少女も即座に反転するとその後を追う。逃げる女はいくつものビルを昇り降りし、入り組んだ路地裏を走り回って追手を巻こうとするが、やがて振り切れないと悟ったのか給水塔のある屋上で立ち止まった。

「どうして私を追うの? 別にあいつらの仲間ってわけじゃないでしょう? あなたは無邪気すぎるもの」

 地面にふわりと着地したハートを象った杖を持った桃色の魔法少女は言う。

「あなたが人を殺したからです」

「あれは人ではなかったわ。膨大な力を得たばかりに人の心を失ったケモノよ」

「なら、その人たちと同じ事をしたあなたも同じじゃないんですか?」

「違うわ、私は選んで殺すもの。あなたと同じようにね」

「……あなたを拘束します。抵抗するなら力づくでも」

 女は余裕の笑みを浮かべていたが、心の内では少しまずいと感じていた。一度落ち着いてしまった後は再び“高まる”まで少し時間がかかる。ああいう手合いが出ればこういう魔法少女も来るのだということは理解していたというのにあまりに興奮しすぎて頭が上手く回っていなかったようだと今更ながらに反省する。

 このままでは叩き伏せられると悟り、仕方なしに女は時間稼ぎの言葉を紡ぐ。

「ちょっと待ってもらえるかしら」

「なんですか? 投降する気になったんですか?」

「私も本当はこんな事したくなかったのよ。だけど、ある機関から脅されていてこうするしか方法が無かったのよ」

「そんな………………」

 でまかせとはいえもっといい嘘があっただろうと女は思わない事もなかったが、大事なのは嘘が見破られない事ではなく話題を逸らすことなのでこの時点で目的は達成している。

 否定してきたらどう言い返してやろうかと次のセリフを考えていると、魔法少女は訴えかけるように言った。

「どうしてそんな重要な事を黙ってたんですか!?」

「はっ?」

 予想外の回答に思わず素になった女は困惑したように返す。

「あなた、もっと人を疑う心を持った方がいいわよ」

「まさか嘘…………? どうしてそんな嘘をつくんですか!? 一体何が目的なんですか?」

「時間稼ぎに決まってるじゃない…………調子狂うわね、この子…………」

 女の瞳が金色に輝き始める。それと同時に視界に普段は見えていない光が射し込み始めた事に気づくと淡々と言った。

「じゃあね、お馬鹿さん。説教なら私よりもお仲間の魔法少女にするのね」

「はっ! ま、待って!」

 女の手が素早く動くと魔法少女の目の前の空間が突如として破裂した。その衝撃に怯んでいる隙に素早く撤退する。

 逃げられた事を知った魔法少女はがくりと肩を落とした。

「あうう…………。どうして上手くいかないんだろう…………」

「気にすることはないよ、『ライトスタッフ』」

「あっ、スキャットマン」

 魔法少女が声の方向へと視線を向けるとそこには帽子を目深にかぶった猫男が給水塔の上に立っていた。そこから下に降りると呟くそうにそっと囁く。

「君には素晴らしい才能がある。焦らずに少しずつ経験を積んでいけばいい」

「そうは言っても今回何にもできなかったし、私向いてないのかも」

「彼女は手慣れていた。並大抵の魔法少女では為す術も無く殺されていただろう。君は無傷でそれを退けたんだ、むしろ誇っていいくらいだ」

「…………うん」

 頷いた魔法少女は遠くの月をぼんやりと眺めていた。



 ある日、世界は崖っぷちに立たされた。今までの戦争とかがただの予行練習に過ぎなかったと思えるほどに怪物(スクウィール)の侵略は激しく、誰も認識できないままあったはずの景色は束の間消えていく。

 なぜ、世界の命運を背負っているのが魔法少女だったのかは誰も知らない。多分、『錬金術師』達は知っていたんだろうけど、答えてくれるはずもなかったし、目の前の事をどうにかするので精いっぱいだったからずっとそのままにしていた。

 今思えば誰も疑問を持たないようにされてたんだろう。これだけの魔法少女が居て、誰も真実を求めないなんてそんな事あるはずない。

 でも、それは根拠のない理想で本当は誰も真実なんて求めてなかったのかもしれない。正しい事なんて求めても現状は良くなんてならない、誰にも感謝なんてされない。無駄なんだ、無意味なんだ。私達に背負わされた使命はあまりに重く、多くの人は耐えきれなくなって暴走したり自殺したりした。

 希望なんてどこにもなくて、でも絶望に満たされていたわけでもなくて、空っぽだった。私達は空っぽの人形だったんだ。

 私は魔法少女になんてなりたくなかった。別の誰かがやってくれればいいって思ってた。私はみんなが言うような一番すごい魔法少女なんかじゃない。何の変哲もない普通の女の子なのに、誰も気づいてくれなかった。

 もしも才能が無かったらこんなに苦しい思いをしないで済んだのかな? 自分には出来ないから仕方ないって笑ってごまかせたのかな?

 ……ううん、多分できない。落ちこぼれのあの人がいる限り。あの人の太陽のように大きな背中が私達の目に映っている限り。

 あの人だけは多分、魔法少女になろうとしたんだと思う。誰かを救うとか、お金持ちになりたいとか、凄い力を手に入れたいとかじゃなくて、魔法少女になろうとした。それにどんな違いがあったのかは説明できないけど、そんな必要も無いくらいに揺らがなかった。

 何があの人をそこまでそうさせたのだろう。私にその理由は分からなかったけど、彼女がそこに居る限り私もここに居るんだろうって事だけは分かったんだ。

 誰かが語り継ぐから『伝説』なのなら、きっとあの人は…………


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