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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編3:クララクライシス
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第三章 2

 その時、どこかから“ドーン”という大きな音が響いた。

「これは……大砲の音だな。一体何が起こっている?」

「みんな、見て!」

 のかなと同じように窓から体を乗り出すと遠くの港に黒塗りの大きな船が見えた。

「黒船のようだな」

「そんなもんは見りゃ分かるよ」

「『ペリーの黒船』って事でしょ?」

 頷いて狂志郎は続ける。

「ああ、そうだ。見たところ船は四隻か、となると時代は1853年、場所は浦賀沖。現代でいう所の神奈川県横須賀市だな」

「ついさっきまで京都だったのにずいぶんと飛ばされたみたいだね」

「それはともかく、せっかくの生ペリーじゃよ、ちょっと近くまで見に行こうよ」

「あの人だかりが見えないのか? あれ全部が江戸幕府の役人だ、近寄れんと思うぞ」

 するとことかは不敵な笑みを漏らした。

「ふっふっふ、各地に店を開いた私“達”が800年もの間何もしなかったとでも? 今や邪神の支配は各地に行き届き、この国を裏から支配してるんじゃよ。つまり、私が居れば顔パスという事じゃね」

「おおっ、いつになくことかちゃんが頼もしく見えるよ。凄いや、ことかちゃん!」

「はっはっは、もっと褒めてもいいんじゃよ!」

「プリティ、フレッシュ、ナイスバディ、エキゾティック、コケティッシュ!」

「うーん、もう一声」

「デンジャラス、ダイナマイト、ファンシー、ラブリー、ファンタスティック、エクセレント、ドラマチック、エレガント! …………ごめん、これ以上思いつかないや」

 肩をすくめてことかは言う。

「まあ、のかなじゃしな」

「まあ、のかなちゃんだしね」

「まあ、炎のだからな」

「みんなひどくない!?」

 一同は仕度を済ませるとことかを先頭として黒船の所へ向けて歩き出した。その最中、ことかに気が付いた町民が気さくに挨拶をしてくる所を見ると、扱い的には支配者というよりもアイドルかマスコットに近いようだ。

 人だかりの所までやってくると一人で役人と話をしに行き、戻ってきた時には付き添いを数人ほど従えて戻ってきた。

「都合は付いたよ。それじゃちょいとペリーとの交渉を冷やかしに行こうか」

「交渉かぁ……そういうの『マリー=マール』が得意そうだよね」

「そうじゃな。気に食わんヤツじゃけど、話術に長けてるのは認めるしかないけぇね」

「こういう時に居てくれたら助かるんだけどなぁ」

「ま、そこに居る人間だけでどうにかしなくちゃいけないのは今に始まったことじゃないけぇね。とにかくやれるだけやってみるんじゃよ」

「まあ、今の私たちは見てるだけなんだけどね」

「あははは…………」

 船から降りてきた団体とことか達は接触する。子どもが交渉の場に居る事に一団は困惑するが、これでも800年は生きている事を説明するとより一層困惑の色は濃くなった。だが、さすがにその程度で動じては居られないのか気にせずに一団は話し始める。

 やる事も無い狂志郎達は交渉の場に残ったことかと別れて、黒船を近くで眺める事にした。

「ことかちゃん、大人に混じって平然と交渉してたけど、なんか京都の時とは別人みたいに見えたね、どうしてだろ」

「当然だろう。一瞬で飛んだ俺たちと違い、ヤツの分け身は800年の歳月を過ごしている。記憶統合を行っているのなら、むしろ人格が原型を残している方が奇跡的だろう」

「800年かぁ。ことかちゃんに一体どれくらいの寿命があるのか分からないけど、人間にとってはあまりに長すぎるよね。不老不死を欲しがっている人もきっと退屈しちゃうくらいだろうね。私だったらどう過ごすんだろ」

「炎の…………」

 のかなは人と時間の流れ方が違うという事を改めて感じて、曖昧にほほ笑んだ。それはどこか人間的でありながらも、やはり怪物の片鱗を垣間見させる。

「まあ、それはともかく。なんだか変わった船だよね。なんで横に水車が付いてるんだろ、スクリューだけじゃ出力が足りないのかな?」

「この船にスクリューは付いていない。これは外輪船といい、現代のスクリュー船とは原理が異なるものだ。その違いは主に抗力と揚力の話になるが…………その様子では聞きたくはなさそうだな」

「ほえ?」

 のかなは苦悩したように語る。

「ち、違うんだよ。ドラゴンの本能的に難しい話は苦手っていうか…………。あっ、ちょっ、バカにしたような顔しないでよ! バカじゃないの! 私はバカじゃないんだよ! 年相応なの! 分かってよ!」

「ああ、分かった分かった。難しい話は光のに振る事にする」

「うがぁぁぁぁー! だ、駄目だ。周りの頭が良すぎて相対的にバカになっちゃう。こうなったらおバカなラーを召喚して私の相対的バカ率を下げるしかない…………!」

「それだとお前の立ち位置そのものは変わらないが本当にそれでいいのか…………?」

 発想そのものに問題があるとしか言いようがないが、真剣な顔をしているのかなに水を差す事はできず、生暖かい視線でそっと狂志郎は立ち去った。

 めろんの方へと足を運ぶと、なぜか明後日の方向を見つめていた。不思議に思った狂志郎がその方角に目を細めると何やら船の影のような物が見えた。

「あれは…………ペリー由来の船じゃないな」

「でも、この時代の日本の船でもなさそうだよ」

「何やら嫌な予感がするな…………ここから退避した方がよさそうだ」

 不信に思った狂志郎がのかなを正気に戻して船から離れた刹那、

「!」

 轟、という風を切る音と共に黒船に砲弾が直撃し、煙と炎が上がり始める。突然の攻撃に待機していた幕府の役人たちは不意を突かれ、二度目の砲撃で混乱した場は嵐の海のように逃げ惑う人の波が荒れ狂う。

「あの距離でこの精度、少なくとも現代艦レベルはあるな」

「冷静に観察してる場合じゃないよ! 早く逃げなくちゃ!」

「待て、このごった返しの中を動くのは得策ではない。陸への砲撃も来ているがお前なら十分迎撃できるだろう。避難が完了するまで時間を稼いでくれ」

「わ、分かったよ。やれるだけやってみる!」

 のかなは飛び上がると陸地へと飛んでくる砲弾を海へと叩き落とす。しばらくそうやって防衛していると人の避難も完了し、狂志郎達は一目散に撤退した。

 安全な所まで走るとそこには先に避難したらしいことかが待っていた。

「一体何があったんじゃよ、まるで合戦の時みたいな慌ただしさじゃったよ」

「お前は中に居たから見てないのか。現代艦レベルの船に砲撃されたんだ」

「ちぃ、黒幕の差し金か。せっかく黒船を借りて『鬼ヶ島』に向かおうと思っとった所じゃのに」

 今では懐かしい響きの言葉を聞いて狂志郎は聞き返す。

「『鬼ヶ島』はまだ現存しているのか?」

「そうじゃよ。京都での一件以来目立った動きを見せてなかったんじゃけど、ここ最近活動が活発になって来ていたんでそろそろケリをつけなくちゃならんと思ってたんじゃよ」

「それまでは行ってみようと思わなかったの?」

「海流の問題で動力無しの船じゃ近寄れんかったんじゃよ。あれじゃ桃太郎じゃって鬼退治に行けんよ」

「桃太郎…………か」

 あの侍の事を思い出した狂志郎は皆に提案する。

「一度『桃太郎』の城に行ってみないか?」

「どうして?」

「『鬼ヶ島に行った』という記録が無いからだ。『桃太郎』の話では必ず『鬼ヶ島』に行かなければならない。あの男が行かなかったのなら、まだその手段が残っている可能性はある。確か、船を造っていると言っていた。もしかしたらそれが使えるかもしれない」

「800年前の船じゃと? そんなもん使いものになるんか?」

「今の俺たちに『鬼ヶ島』へと渡る手段は無い。駄目元で一度行ってみるしかないだろう」

「うん、そうだね。道も整備されているみたいだし、前よりは早くつけるだろうしね」

 呆れたようにことかは言う。

「お前まだ走っていくつもりなんか。自動車とはまではいかんけど、さすがに馬車くらいはあるよ」

「でも走った方が早いし…………」

「じゃあ、のかなちゃんだけ徒歩って事で」

「うぇっ!? じょ、冗談だってば…………」

 一同は先日までとは違う整備された道を馬車で移動する。大きな揺れもない安定した移動は800年の歳月による進歩を感じさせる。

 桃太郎の城のある町までつくとのかなは大きく伸びをした。

「うーん、よく寝たなぁ」

「女子とはとても言い張れんレベルのあられもない寝顔じゃったけど」

「ほっといてよ。それにしてもこの町に来たのがずっと昔の事のように感じられるよ」

「時代的には間違いなくずっと昔なんだけどね」

「早速城へと行ってみるか。もはや過去の痕跡も無いだろうが、何か手がかりはあるかもしれない。幸い、顔役も居るから一番の難題である城への侵入は簡単だからな」

「おう、影のフィクサー、ことかちゃんにどーんとお任せじゃよ」

 そうして城まで来たことかが衛兵に話しかけると、驚いた表情で慌ただしく場内に引っ込み、しばらくして戻ってくると恐縮した様子で中に招き入れられた。

 現城主と対面するととても殿とは思えない腰の低さで話し始めた。

「これはこれはことか様、今日は一体どういったご用件で? 事前に申し付けてくだされば盛大にもてなしをする所存でしたのですが…………」

 ひそひそとのかなは話す。

「顔は似ているけど、性格は全く違うね。すごいへこへこしてる」

「800年も生きている権力の総本山がやってきたら社会人なら誰でもこうなるだろうさ」

「社会人って大変だね」

 ことかは言う。

「お前の先祖が鬼への対策を残していると噂で聞いたんじゃよ。それを私に見せてくれんか?」

「え、ええ、もちろん。京都の鬼を斬ったという家宝の『鬼斬の刀』でありますね。今すぐに用意致しますのでお好きなだけご覧になって…………」

「それじゃないね。うーん、船とか無いの?」

「船……でありますか、はてそのような物は言い伝えられておりませんが…………」

 ことかはため息をついて言う。

「外れみたいじゃね。まあ、元々期待もしてなかったけどね。……あれ? のかな、どうしたの?」

「はぁはぁ…………」

 荒い息ののかなは急に理性を失い叫びだす。

「くっ…………ウウウッ! GAAAAAAAAAA!」

「ちょっ、おまっ! 部屋の中で暴れるな!」

 暴走したのかなは凄まじいパワーで床をぶち抜き、下へ下へと進んでいく。

「ああ、拙者の城が…………」

「ごめんな! あとで建て直すから今は許して!」

 のかなを追って一同は地下へと潜っていく。今は使われていない地下道へとたどり着き、道なりに進んでいくと先に強引に開けられた扉の残骸があった。その部屋に入るとそこには立派な船が安置されていた。

「ほう! これがあのオッサンの遺産か、中々面白いもの残したね」

「しかし、何故こんな所に? これでは使おうにも使えないぞ」

「何か仕掛けがあるんじゃろ。問題はそれが分からん事じゃけど。のかなを正気に戻したら上に戻ってヒントでも探してみる?」

「その必要は無いみたいだよ。二人ともこっちに来て」

 めろんに呼ばれるままに船へとあがった二人はそこで見たことのある顔に出会う。

「よう、久しぶりやな」

「お前は…………ナルか」

 ナルは前と変わらない姿で言う。

「いやぁ、待ちくたびれたわ。800年も待たせるなって話やな」

 正気に戻ったらしいのかなは呆れたように言う。

「ここに誘導するだけなのに操らないでよ。無駄にお城壊しちゃったじゃん」

「800年前に意識を乗っ取られた事への仕返しや。油断してる方が悪いんや」

 ことかは意外そうに聞く。

「今日は普通に喋るんじゃね、前は謎の言語じゃったのに」

「さすがに人間の言葉にも慣れたわ、あと竜語じゃお前らには分からんやろ。ナル様の優しい心遣いに感謝するんやで」

「お前が居るという事は安倍の何某(なにがし)も制作に関わっているという事か」

「まあな、詳しい事はこれを見た方が早いやろ」

 一枚の式神を取り出したナルはのかなに渡し、それの起動を頼んだ。床に設置された式神は立体映像のように晴明の姿を映し出す。

『お久しぶりです、皆さん。これを見ているという事は少なくとも桑納さんはいらっしゃるという事ですね。それは何よりです』

「あの時代にビデオレターとは安倍さんの技術は凄いもんじゃね」

『この船が水の無い所に置かれているのを不思議に思われたかもしれませんが、ご心配なさらず。これは水の上ではなく空の上を走る船なのですから』

「飛行船……では厳密には正しくないがそう呼ぶしかない。オーパーツだな」

『あいにくその動力がナルだけでは補えなかったので完成には至らなかったのですが、桑納さんの力が合わされば問題なく動かせるでしょう。一体どのような脅威があってここに来たのかは想像もできませんが、その旅の幸運を遠くからお祈りしています』

 晴明は言葉を切ると、近くから人を呼び寄せた。その人物は困惑した表情で話し出す。

『こ、これに話しかけると記録として残せるのか? まことに奇怪な術だな…………』

「桃太郎さん!」

 気を落ち着けると真剣な面持ちで桃太郎は話し出す。

『天羽流、金時よ、聞こえているか? なんとも口惜しい事だが、拙者の手で鬼を討伐する事は叶わぬようだ。しかし、死してなお拙者の霊魂は鬼との闘いへ挑む貴殿らと共にある。臆せず存分に腕を振るうがよい。武運を祈っているぞ』

 そこで再生は終わり、役目を果たした式神は自ら燃えて灰となった。狂志郎達はすでに亡き二人の事を思い、黙祷を捧げた。

「それじゃ、オッサン達の為にいっちょ鬼退治に行こうかね」

「ああ、そうするにはちょうどいい日和だしな」

「鬼ヶ島かぁ、そこに黒幕が待っているのかな?」

「誰が待っていようと、私たちはやるべき事をやるだけだよ」

 顔を見合わせて頷いた一同を見て、ナルは元気よく言う。

「出航や! さあ、行くで!」


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