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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編3:クララクライシス
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第二章 4

 晴明に連れられ、のかなは町外れの森へと歩いていく。そこの滝のある開けた場所で立ち止まるとくるりと踵を返し、向かい合うと口を開いた。

「時間もありませんし、早速修行と行きましょうか」

「はい、よろしくお願いします」

「まずは自分の意思で竜の力を出せるようにならなければいけません。あの時渡した石は持っていますか?」

「えっと、それなんですが私のデバイスになっちゃっていてそのままというわけでは…………」

「『でばいす』? すいません、あの石の事を指しているのは分かりますが『でばいす』とは何ですか?」

 のかなはデバイスが魔法少女の端末であり、自らの竜の力を制御していた事を説明した。それを聞いた晴明は興味深そうに頷く。

「竜の力を制御する道具。あなた方の時代ではそこまで研究が進んでいるのですね」

「でも、そんな機能あるなんて知らなかったし、今は壊れていて使う事はできないんです」

「別に構いませんよ。今回はそれを使わないようにと言うつもりでしたから」

「あ、そうなんですか」

「ナル」

 呼ばれたナルは寄りかかっていた木から背中を離すと口の端をあげて意地悪く笑った。

「『これからウチがお前を竜になれるよう誘導してやる。ただ、養殖物がすんなり上手くいくとは思えん。かなりキツイ事になるで、覚悟は出来てるか?』」

「大丈夫だよ」

「『ククッ…………。いい返事や。簡単に壊れてくれるなよ、贋作!』」

 ナルは大きく息を吸うと鋭い目つきになり、体の中から何かを引き出すようにうなり始めた。

「グ…………ギギギギギ……グガ…………ガ…………」

「うっ…………!」

 同調するようにのかなは息を荒くし、己の中にある何かに耐えている。それを見たナルは注意するように言う。

「『力を抑え込もうとするな! 流れに逆らえば飲み込まれる。流れそのものになりそれを操るんや! お前はその力の主や! 振り回されてどうする!?』」

「ぐ………ぐるるるる…………ぎああああ!」

 瞬間、のかなの目が変わった。

「GA…………」

「『このアホ!』」

 竜へと変わる直前、ナルが勢いよく殴りつけた。吹き飛んだのかなは受け身も取れずに倒れてうめき声を漏らす。

「『抑え込むなとは言ったけどな、流れに呑まれてどうするんや!』」

「ううっ……そ、そんな事言われても…………」

「『こりゃ無理に力の扱いに慣らした方がええな。オッサン、ちょいと結界張ってな』」

「ええ、準備は出来ています。その為にこの場所を選んだのですから」

 晴明は慣れた手付きで結界の準備をしながら言葉を紡ぐ。

「桑納さんは『火気』の持ち主。『水気』の土地であるここでは力が弱まる。暴走してしまった場合は即座に『水気』により弱体化させますので遠慮なくどんどん行きましょう」

「『いつまで倒れとんのや! 休憩は終わりや、さっさと立て!』」

「くっ……! …………はい!」

「『いい返事や! ガンガンいくで!』」

 のかなは(いざな)われるままに力を開放し、その度に叩き伏せられた。制御に失敗するたびに何度も気丈に立ち上がるが、数時間する頃には指一本動かす事も出来ないほどに疲弊し、倒れたまま荒い息を吐いた。

「はぁはぁ…………」

「『お前、呆れるほどに才能無いなぁ。案山子だってもっとうまくやれるわ』」

「どうやら意図的に暴走するように設定されているようですね。意識があったら人間に竜人がコントロールできるはずもありませんから」

「『ムカつく話やな。竜を兵器か何かと勘違いしとるんか』」

「この様子では残念ながら単体での制御は無理でしょう。未来の世界で外部から竜を制御していた道具が必要です。もしくは指揮権限のある人間か」

 がさごそと草むらが蠢き、そこからめろんが顔を出した。

「うわっ、やってるね。調子はどう?」

「『うーん…………ちょっと微妙やな』」

「そうなんだ。あんまり根を詰めすぎてもいけないし、休憩にしようよ。飲み物とか持ってきたんだ」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

「『…………ん?』」

 その時、違和感に気づいたナルは神妙な顔で意識を飛ばした。

「『おい、白いの』」

「ん? なにかな?」

 瞬間、ナルは驚いた表情で悲鳴のように叫んだ。

「『ななななんななな!? こ、こいつ竜の回線に入り込んできおった!』」

「ちょっと待って。めろんちゃん、喫茶店の時「聞こえない」って言ってなかった?」

「そんな事言ってないよ。「ことかちゃんは聞こえないんだ」って言ったから「なんの事?」って返しただけだよ」

「『ひぃー、気持ち悪いなぁ! なんやこいつ、タヌキか狐が化けてるんか?』」

 晴明は確かめるように聞く。

「失礼ですが、あなたは人間ですよね? なにか竜に関わる事で変わった事はありましたか?」

「んー……あっ、そういえばのかなちゃんが竜になった時、不思議と襲われなかったんだよね。でも、天羽君は襲われてたから運が良かっただけだと思うよ」

「………………まさか、指揮権限が?」

 のかなは体を起こして語る。

「ありえない話じゃないかも。めろんちゃんは組織幹部の懐刀、攻撃対象から外すように設定されていても不思議じゃない」

「『それでもこいつが竜の回線に入ってきてる事の説明にはならんやろ。ウチが感じ取れる限りではまじりっけ無しの人間や、頭の中に変なカラクリでも埋め込んであるんか?』」

「いや、それは単にめろんちゃんは脳波とか自分で操れるビックリ人間だからだよ。竜の回線とか言っても、厳密には何かの波長を飛ばしてるだけだろうし、それに合わせるくらいなら道具があれば誰だってできるよ。まあ、生身で合わせるのは普通無理だけどね」

「もしかしたら、これならやれるかもしれません。竜人になった時に抑え込まれてる意識を外から増幅させる事ができれば理論的には制御できるはずです」

 それを聞いたのかなは露骨に嫌そうな顔をする。

「ちょっと待って、まだやるの? もうへとへとなんだけど」

「『なに情けない事言うとんのや。仮にも竜族なら根性見せんか!』

「うへぇ…………」

 のかなは仕方なしに立ち上がると再び構えを取る。それを見て晴明は結界の内側のめろんに言う。

「いいですか、望夜さん。これから桑納さんの意識と同調してもらいますが、決して無理をなさらないように。少しでも危険を感じたらすぐに中止してください」

「よくわからないけどやってみるよ」

「『こいつ、本当に大丈夫なんか…………?』」

 ナルは一抹の不安を覚えながらものかなの竜化を誘発させる。

「ガググググ…………ギギギギギギ」

「うっ…………がる…………ぐぐぐぐ………………」

「うーん、結構変な感じ。眠る前の脳波みたいな、半覚醒状態っていうか」

 今までとは違う、安定した調子で進行していく。

「素晴らしい。やはり問題は桑納さんではなく、別の所にあったというわけですか。これなら数日中に本題に入れそうですね」

「ギギギギギ…………ウ、ウゲッ」

「!」

 明確に何かが崩れていく音を聞き、晴明は焦りを覚えた。

「ナル!」

「『あ、あかん! こいつ今までと大きさが…………! 抑えきれん! う、ウチの方が取り込まれる!』」

「駄目です! あなた用の対策結界は張って無いんですから、耐えてください!」

「『む、無茶言うなこのアホ! うっ、あああああああああ!』」

「ちぃ!」

 咄嗟に晴明はのかなを弱体化させるべく水気を収束させた。これで暴走は止まるかと思われたが、今回は違った。結界内にめろんが居た事により水気はそちらに向かったのだ。電気を操る魔法少女であることからその気質は木気、そのため事態はまずい方向へと向かった。

「水は木を育て、木は火を生む。失策でした、土気で水気を中和しても歯止めにはならない。せめて金気の用意を怠らなければ…………」

 札を投げて新たに結界を構築しながら晴明は活路を探す。

(このままでは山が平らになるほどの被害が出る。せめて力の流れる場所を町ではない方角へと誘導しなければ)

 張りなおした結界も内側からの圧力に耐えきれずに崩壊する。嵐のような風の流れが周囲の木々を力ずくでなぎ倒していく。

(駄目だ、間に合わない!)

 二体の竜の共鳴が凄まじい気の奔流を生んで地を走り、力を塞き止めていた晴明へと襲い掛かる。思わず目を閉じて身構えた瞬間、何者かが庇うように割り込み、右手をかざして膨大な気の奔流と対峙する。無謀とした思えない行動だが、当たりに透き通った音が響き渡ると初めから何も起こってなかったかのように奔流は消え去っていた。

「やれやれ、あまり無茶をなされては困りますわ。ここであなたに死なれると歴史が狂ってしまいますもの」

「あなたは……?」

 少女はニィと口の端を挙げて笑った。

「くくく……名乗るほどの者ではございませんわ。強いて言うなら正義の使者とでも」

「クララ!」

 騒ぎを聞きつけてやってきた狂志郎は言う。

「また炎のを狙いに来たのか!?」

「違います、この人は……!」

 晴明の発言を遮ってクララは言う。

「くくく…………様子を窺っていたらとんだ邪魔が入りましたわ.ここは一時撤退としましょうか」

 そう言って右手で宙を掻くとそこまでの距離を消し去ったかのように遥か遠くの崖の上へと瞬間移動をした。そして右手をポケットにしまい込むと振り返る事もなく悠々と去っていった。

 追っても無駄だと悟った狂志郎は晴明に声をかける。

「大丈夫か? あの女に何かされなかったか?」

「ええ、まあ。……それより早くあの二人の暴走を止めなければ!」

「暴走? 俺が見る限り、制御されているように見えるが」

「……なんですって?」

 晴明がよく目を凝らすと、確かに凄まじい圧力がそこにある事が分かったがその中心に立つ少女はまるで台風の目のように平然としていた。

 めろんの手の動きと同調するように二体の竜は咆哮し、力を放出するが先ほどまでとは違い、それは大地へとぶつかる前にギリギリの所で空へと受け流されている。そして何度かそれを繰り返した後に、逆に空へと還したエネルギーを収束し、のかなへと叩きつけた。

 まるで巨大な金槌で殴りつけたかのような衝撃が大地を砕き、耐えきれなくなった地形は音を立てて崩れ去っていく。

「GAAAAAAAA!」

 それは産声のような物であった。崩壊の止まった世界は静けさを取り戻し、あれほど孟狂っていた二体の竜も静止していた。

 のかなはゆっくりと目を開くと確かめるように両手を見て、それから驚いた表情で自らの全身を見渡した。

「うわっ、うわわわ! 本当にドラゴンになってる! 角も尻尾もあるしなにこれ変な感じ…………」

 晴明も同様に驚愕を禁じ得ない様子であった。

「制御が出来ている……? それよりも望夜さんはあの圧力の中で呑まれなかったのですか? 信じられない…………彼女は一体?」

「俺は知らないがどうやら他のヤツが言う通りの人物であるらしい」

 めろんは思い出したように言葉を紡ぐ。

「ごめーん、安倍さん。ちょっと制御に失敗しちゃってそっちに少し流れちゃったんですけど大丈夫でしたか?」

「え、ええ、まあ」

 あれほどの力を操って疲れ一つ見せない様子に晴明は理解が追い付かず、ただ苦笑いをする事しかできなかった。

 その後、意識を持ったまま竜人となる事ができたのかなは日が暮れてきたため宿に戻る晴明達と別れ、店に行くが一つ問題が発生していた。

「はっ? なったはいいが今度は人間に戻れなくなったじゃって?」

「ううっ、そーなの」

「本来意図してない動作のためにシステムが故障したのだろう。とりあえずあの竜人に手伝ってもらい、人に見えるよう変身させてここまで連れてきたのだが…………」

「けど上手く化けられてるみたいじゃし、なんとなく雰囲気爬虫類かなって程度で普通に人間じゃよ」

「尻尾」

 ことかは返す言葉が見つからず苦笑いでごまかす。

「ああ…………そりゃごまかしようがないね」

「でも悪い事ばかりじゃないよ。ほら、みてみて。こうやって握りしめると石炭が……ダイヤになっちゃった! あはっ、あはははは! …………はぁ、どうしよ」

「ま、まあ、平気じゃよ。私だって人間じゃないんじゃし。上手く化けるのには時間がかかるじゃろうけど。それより札の方はどんな塩梅になっとるの?」

「それは問題なさそう。ドラゴンになったおかげか扱える力の量と範囲が人間の時の比じゃなくなってるから念じるだけで世界滅ぼせるような札が作れそうなくらいだよ」

「洒落になっとらんけぇね? ……とにかく当面の問題は解決といった所か」

「ああ、先ほどまでの問題はな」

 含みのある言い方にことかは嫌な顔をする。

「今度は何じゃよ。一体どんな厄介事が増えたって言うん?」

「どうやら京都の山に妖怪が発生してしまっているらしい。坂田金時への依頼、つまり二代目である炎のは代わりにそれの退治をする事になる」

「ちょっと待て京都? ここ静岡県の近くじゃろ? もの凄い離れてると思うんじゃけど?」

「仕方あるまい。この時勢、日本の中心は京都だ。それが江戸、すなわち東京になるには徳川の時代まで待たなければならない」

「また徒歩…………」

「なんとかおサボリしたい所なんじゃけど、『金太郎』である以上、因果的にまあ無理じゃろうなぁ…………」

 めろんは聞く。

「どんな感じの妖怪なのか分かってるの?」

「京都の山に金太郎が関わるとなれば、おそらく『土蜘蛛』だろうな。時系列的には酒呑童子討伐後であるはずだが、あの嵐でヤツを仕留められたとは思えん。歴史は明確に狂い始めているようだ」

「歴史……か。クララによって歴史はある種の原点に立った。私たちはそこから『未来』に向かって進もうとしている。けど、それは私たちの意思なんだろうか? それは本当に正しい事なんだろうか?」

 狂志郎は言う。

「お前の持っている疑問は俺たちの中にもある。人は『未来』に向かって進み続け、そして世界は巻き戻った。それでもなお、俺たちは『未来』に向かって進もうとしている。見方によっては愚かとも思えるだろう。俺たちが何者かの良いように動かされているのかと聞かれたら答えは“YES”だ。しかし、分かっていてもそこから抜け出すのは困難だ。それが人間の限界で俺たちはその中で生きる事を強制されているのだから」

「だから諦めろっていうの?」

「それも一つの手だろう。しかし、俺たちは奴隷ではない。どれほどの苦痛があろうともその痛みに耐え、僅かな糸口を掴み必ず反撃する。それが戦士たる者の流儀だ」

 呆れたようにことかは言った。

「天羽味じゃなぁ。けど嫌いじゃないよ」

 確証の無い言葉だった。そんな事が本当にできるのかと聞かれたら、口約束でしか答えられない程度の物だ。だが、誰も証明を求めたりはしなかった。狂志郎という男はいままでもずっとそうしてきた。だから今度も必ずそうするだろうと誰もが確信していた。

「俺から言う事は何もない。明日は準備が出来次第出発する。今日はもう体を休めておけ」

 のかなは疲れを吐き出すように息を吐いた。

「ふぅ、もうクタクタだよ。お風呂どこ?」

「日本における銭湯の成立は最低でも二百年先だ」

「二百年かぁ…………寝る前に気軽に行けるような距離じゃないね」

「というよりお前はその体じゃ入れんじゃろ。タワシでこすってやろうか?」

「やだよ! 鱗が傷ついちゃうじゃん!」

「そういう問題なの?」

 にぎやかに会話を続ける三人を背に狂志郎は無言で店を出て行った。元々馴れ合いを好む性分ではないというのもあるが、目的は別にあった。


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