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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編3:クララクライシス
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第一章 4

 外に出た狂志郎達はしばらく歩いて、ここには地図も案内板も無い事に気づいた。そしてそれが迷ったという事なのだと理解するまでに時間はそうかからなかった。

「せめて誰かに場所を聞いてから来るべきだったね…………」

「人に聞こうにも訛りが強くて分からん。ここはバベルの塔崩壊後か?」

「ことかちゃんが居ればなんとかなったかもしれないけど…………」

「それは現代人として何か負けた気がするな」

「だよねぇ…………」

 仕方なしに城に戻ろうとした所でのかなは騒がしさに気づいた。

「向こうで何か人だかりが出来てるね。行ってみようか」

「野次馬根性だな」

 のかなが人の集まっている広場に付くと中央で声を出している男が目に入った。

「誰か『蓬莱の玉の枝』に心当たりがある者はおらんか! 本物を見つけ出した物には褒美を与える!」

「ふむ、『かぐや姫』か」

「どういうこと?」

 配られた写し書きの一枚を取って狂志郎は語る。

「『蓬莱の玉の枝』はかぐや姫が婚約条件として五人の皇子に持ってくるように言った品物の内の一つだ。しかし、それにしてもずいぶんと未来的なデザインの写し書きだな」

「ちょっと見せて」

 のかなは写し書きを見ると首をひねり、やがて手をぽんと打って納得した。

「あっ、これ見覚えあると思ったらめろんちゃんの『トリニティハート』だ」

「なんだと?」

 望夜めろん、圧倒的な能力を持つ第二世代の魔法少女。邪神ですら汚染できない精神構造をしており、もしかしたら人間ではないのではないかとのかな達には思われている。それは大げさかもしれないが少なくとも確率を操作できる程度には人間離れしてはいる。

「魔導杖を探してるって事はめろんちゃんが『かぐや姫』ってこと!?」

「決めつけるわけにはいかないが可能性は高いだろう。仮にこの写し書きが偶然の一致でないのならこの時代の人物ではない事は確かだ」

「とにかくお城に戻ってことかちゃんに話そう。考えるのはそれからだよ」

「ああ」

 急ぎ足で城に戻るとそこにはことかの姿は無かった。どうやら手際のよい事にもう店の許可を貰って場所を取りに行ったらしい。場所を聞く事はできたが、土地勘の無いのかな達ではそこにたどり着けるかは怪しい。

「ついさっき出てったんだって。はぁ…………間が悪いよ」

「どうする? 炎の」

「うーん、ことかちゃんが夜に帰ってくるとは限らないし、手紙を残してこっちだけで動いた方がいいかも。店を切り盛りするとなると付いてはこられないだろうしね」

「そうか。だが、そうなると食糧などの準備が居るな。俺達はヤツのように異次元空間を持っていないからな」

「あっ、そう言えばそうだね。うーん、補給の事を考えたらことかちゃんは居ないと駄目かも。助ける前に野垂れ死にってなったら本末転倒だからね」

 その時だった。どこからともかくことかの声が響いたのは。

「ふっ、そう来ると思っとったよ!」

「ことかちゃん!? …………あれ? 気のせい?」

「ここじゃここ!」

 声のする方をよく見るとそこにはデフォルメのかかった小さなことかが立っていた。

「むっ、『一寸法師』」

「旅をするとなれば私の力が居るじゃろう。そう思って分け身をしておいたんじゃ。店よりは手狭になるが隔離空間も出せる。見ての通り戦闘能力は無いからサポートしかできんけどね」

「ううん。十分過ぎるよ、ことかちゃん」

 どこかから迷い込んだのか野良犬はくんくんとことかの臭いをかいでいたが、不意にぱくりと噛みついた。

「あっ」

 一瞬、何が起こったのかのかなは理解できなかったが、少しすると慌てたように叫んだ。

「大変だ! ことかちゃんが死んじゃった!」

「勝手に殺すなこの人でなし!」

 ことかは両腕を上げて呑みこまれるのを必死に耐えている。

「ふぉぉぉぉぉぉ! やらせはせん! やらせはせんよぉぉぉぉぉ!」

「ワンちゃん、それ食べちゃ駄目! ぺってしなさい! ぺって! あっ、待って! どこに行くの!? ことかちゃん、カムバァァァァァック!」

「…………ハァ」

 やがて救出された唾液塗れのことかは言った。

「なるほど望夜が『かぐや姫』か。らしいと言えばらしいな」

「ことかちゃん、臭いからあんまり近寄らないで」

「こいつ一度、ショゴスかシュブニクラの粘液塗れにしてやろうかなぁ…………」

「真偽がどうであれ、とにかく行ってみる事にしよう。第二世代の魔法少女はデバイス無しでは本当にただの人間だ。襲われたらひとたまりもないだろう。助けは急いだ方がいい」

 それを聞いたのかな達は微妙な表情をした。

「うーん、そう…………なのかな?」

「あぁ、もうダイス振らないでぇ! 卓がぁ! 卓が壊れるぅ!」

「お前達の中のそいつは一体どんなヤツなんだ………………」

 狂志郎は面倒になりそうだと思い、深くは聞かない事にして話を変えた。

「ここが静岡県だとするならば皇子の使者がやってきた事も含めて『かぐや姫』の場所はそう遠くないはずだ。例え徒歩でも今日中には着けるだろう」

「良かったぁ。空飛べないから長距離移動はキツイもんね。私はラーに乗ってくけど、天羽君は馬でも借りる?」

「徒歩で問題ない。訓練では重装備で何百キロも歩かされた事もある」

「へー、すっごい。そういう事を聞くと天羽君で本当にエリートなんだって思い知らされるよ」

「これで性格が良ければ言う事ないんじゃけどなぁ」

「…………食うか?」

「やめっ! やめぇぇぇぇぇ! 私をクマ公の前に晒すな! く、食われるぅ!」

 くんくんとことかの臭いを嗅いだ小熊は鼻を鳴らして嫌そうな顔をした。

「こいつ、腐ってるぞ。食べられないから捨てた方がいいぞ」

「………………」

「ラー………………」

 のかな達は城の者から道を聞くと、『かぐや姫』を目指して歩き出した。舗装されていない道は予想しているよりもはるかに歩きづらい。小熊に乗っているのかなは悪路による揺れからかあと少しで到着という頃にはすっかり参ってしまっていた。

「ちょっ、ちょっと待って。休憩しよ…………」

「だらしがない奴じゃなぁ。天羽なんて平然としとるよ」

「特殊訓練を受けてる人と同じにしないでよ。こっちは変身してないとほぼ一般人なんだからね」

「いいからキリキリ進むんじゃ。こんな調子じゃ日が暮れるよ」

「ひぃーん! 天羽くぅーん!」

 はぁ、とため息をついた狂志郎は言う。

「休憩は時に進む事よりも重要だ。無理な進軍は部隊の崩壊を招く」

「ほら、お許しが出たよ。専門家には従わなくちゃ。あっ、あんな所に茶屋が! お団子お団子!」

「そこは走れるんか、この駄目人間…………」

 のかなは椅子に座り、お茶をすするとふぅと息を吐いた。

「いやぁ、この一杯の為に生きてるって気がするよね」

「熊に乗ってただけの人間が言うか。しかし、ずいぶんと独特の味じゃな、このお茶。控えめに言って美味しくないんじゃよ」

「現代の物は大衆向けに改良されている。さらに言うなら工業化もされていない時分に一定のクオリティを求めるのが無謀だろう」

「悪い意味でふるさとの味じゃな。のかなはよくこんなの飲めるね」

「へーきへーき、毒じゃなければなんでも飲めるよ」

「悪食じゃなぁ…………」

 やがて「お待ち」という声と共に団子が運ばれてきた。

「来た来た! やっぱりこれが無いとね」

「すっごい手作り感あるんじゃよ。衛生的に大丈夫? 保健所どこ?」

「保健所の成立は昭和十二年まで待たなければならん。保健所の成り立ちは結核に対する保健所法の…………」

「いっただっきまーす!」

 その瞬間、黒い影のような物がのかなの前を横切った。

「あ、あれ? 私のお団子は?」

「はぐはぐはぐはぐ!」

 気が付けば野性児のような少女が手づかみで団子をむさぼっている。

「あーっ! 私のお団子!」

「す、すいません! 私の連れが粗相を!」

 眼鏡をかけた目の細い柔和そうな男性はぺこぺこと頭を下げた。

「同じ物を弁償しますのでどうかご勘弁を」

「あれが最後だったんです…………。なんかかぐや姫の噂で繁盛しているらしくって」

「うーん…………それは弱りましたね」

 男の連れは状況が分かってないのか団子を食べ終わると呑気にぺろぺろと手を舐めていたが、やがてのかなに気づくと満面の笑みで言葉を発した。

「かんのうのかな!」

「えっ?」

「らびす、りぃ、なる、たいようのかな。あっしゃむ、るー」

「言葉のようだな。しかし、聞いた事のない言語だ」

 男は呆れたように言う。

「『私はナルです。美味しかったです。ありがとう』だそうです」

「らびす! べど、げどろ! ぎぃ、がるう!」

「なんか怒っとるみたいじゃな。どうしたんじゃろ」

「あーはいはい、分かりましたから。この場は勘弁してください」

 少女の言葉を男は理解しているように男の日本語を少女は理解しているようだ。やがていくら言っても無駄だと理解したのか不機嫌そうに少女はむくれた。

「お詫びと言ってはなんですが、代金の他にこの石をお受け取りください。聞いた話によれば珍しいものらしいので売って何かの足しにでもしてください」

 透明な石のような物を押し付けられたのかなはそれを見て目を丸くした。

「これって…………」

「では失礼」

「待ってください!」

 のかなは神妙な顔で聞いた。

「あなたの名前は?」

 男は唄うように呟いた。

安倍晴明(あべのはるあき)と申します」

「………………!」

 その瞬間、のかなはまるで石にでもなったかのように硬直し、男が去った後ですらしばらく沈黙していた。

「あの男、眼鏡をかけていたぞ」

「そりゃ目が悪いからじゃろ。それがどうかしたんか?」

「眼鏡が日本に伝わったのは宣教師が来てからだ。まだ一般には流通していないはずだぞ」

「海外にでも行っとったんじゃないの? 変な二人組じゃったけど、襲われたわけじゃないんじゃしそこまで神経質にならんでもいいと思うけどね」

 狂志郎は呆れたようにため息をついた。

「……本気で言ってるのなら貴様は馬鹿だぞ」

「んなっ!?」

安倍晴明(あべのはるあき)、いや安倍(あべの)(せい)(めい)は竹取物語に出てくる人物の子孫だ。本物だとするならば時系列がおかしい」

「今更何を言ってるんじゃ。お伽噺が跋扈している時点で時系列など無意味じゃろ」

「それは違う。でたらめなように見えて時間その物は通常通りの流れだ。あくまで平行に存在しているにすぎない。『生まれる前に居る』アイツだけが明確に時系列を無視してきたんだ」

「時間の影響下にないって事は…………この事態と何か関係があるってわけか!?」

 ことかは男の去っていた方角を見て苛立ったように言った。

「ちぃ! なにやっとるんじゃスマシ! 分かってたらとっ捕まえんか!」

「無茶を言うな。俺一人ならともかく、炎のがこの調子では戦えん」

「そうじゃ! のかなじゃ! なに固まっておるんじゃ! 昔ながらの知り合いにあったわけでもあるまいし! ぼけっとするな!」

「………………」

 明らかにのかなの調子が違う事に気づいたことかは怒りも忘れて聞いた。

「どうしたんじゃ、のかな。さっき飲んだお茶に当たったか?」

「さっきあの男から何か貰っていたな、見せてみろ」

 すっとのかなが先ほど受け取った物を差しだす。その透明な石のような物体にことかは見覚えがあった。

「これ、お前のデバイスか? どうしてこんな所に?」

「馬鹿な、デバイスは『廃れた』はずだ。これは偽物だ」

「いや壊れとるけど、確かに本物じゃよ」

 狂志郎は何かに気づき呟きを漏らす。

「そうか、そのデバイスの本体は天然由来の物、すでにこの時代にはあったという事か。それが現代の持ち主の手に渡った事でデバイスの形を不完全ながらも取り戻したのだろう。あいにくと完全となるには『スタンス』が弱かったようだがな」

「おそろしい偶然もあるもんじゃな。望夜でもあるまいし一体どんな確率じゃ」

 のかなは確かめるように口にした。

「偶然じゃないよ。多分引かれあったんだ。あの人もこれも」

「知り合いじゃとでも? なに言っとるんじゃ、この時代の人間が現代まで生きてるわけがないじゃろ」

「ううん、ことかちゃん。何かが存在する形は決して一つじゃないんだよ」

「記憶……書籍……伝承……。お前の札はあの男の流派か」

「うん」

 仮想現実にてのかなに戦いの技術を教えた人物。師などとは一度も思った事は無いというのにこうして顔を合わせると何も言えなくなってしまうのはその技術に意識せずとも敬意を抱いているからなのだろう。

「あの人の生き方なんて考えた事すらなかった。でも、こうして実際に会ってみると……なんだろう、何故かあの人の事を知りたいと思うんだ」

「やれやれ……ま、多分会えるじゃろ。確証は無いが因縁はある。そりゃもう売りに出せるほどにね」

 狂志郎は言う。

「もう休憩は十分だろう。先に進むぞ」

「あ、待ってよ天羽君。お団子は無いけど別の甘味頼んだから」

「………………」


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