プロローグ
銀色の髪の少女が無機質な廊下を歩いていた。人形のような整った顔立ちに獣のようなしなやかな手足、その瞳と表情からは彼女が相当な自信家である事が窺える。その右手は何かを隠すかのようにポケットの中にしまわれている。
自動ドアを抜けて暗闇の部屋へと入り、彼女がその中央で立ち止まると途端に眩しい照明にさらされた。
「上級執行官、クララ=ヴィ。君が何故ここに呼ばれたのか分かるね?」
彼女、クララは不敵に言い返す。
「いいえ、総司令。私の行動は全てが正義。糾弾される点など一つもありませんわ」
「………………」
ざわめきだす室内。無作為に言葉が飛びかう。
「一体何人殺したと」
「精神病の兆候が見られる」
「罪悪感すらないとは」
「邪悪な…………」
雑音をかき消すかのように総司令は言う。
「クララ=ヴィ、君は当局に多大なる貢献をしてくれた。本来ならばなんらかの刑に科せられるべきだが、その功績を持って君を自主退職という形にしたい。この判断に賛成する者は挙手を」
「賛成」
「賛成」
「賛成」
「賛成」
「反対」
クララは困惑する場の空気を楽しむかのように笑った。
「くくく…………」
「…………クララ」
「冗談ですわ、総司令。少々『くらくら』させたくなっただけですの」
「君は疲れているんだ。ゆっくりと休養を取るといい」
「お気づかいありがとうございますわ。しかし、私にはやるべき事がありますので」
「…………………」
踵を返し、部屋を出ていくとクララは口元を歪めて不敵に呟きを漏らした。
「我が正義は不滅…………!」
☆
「クララ、なぜ殺す?」
「愚問ですわね、全ては我が正義のため」
「これが正義だって? この光景が正義だとでもいうのか!?」
血と肉の海の中でクララは不敵に微笑む。
「そう、これこそが正義。私達、人の正義。かつて×××を滅ぼしたように自分達と違う生き物を殺す野蛮な生物。人に高尚さなど求めるのは愚か。知性などと嘯いても、所詮は血の詰まった革袋に過ぎない」
「お前が人を語るな! お前は邪悪だ!」
「くくく…………流石『伝説』様は言う事がご立派ですわね。しかし、人ではないあなたが人間を語るのもおかしな話。化け物なら化け物らしく黙って人に殺されていればいい」
「クララ、最後の警告だ。これまでの競り合いでお前が私に勝つ事はできないのが分かっただろう。このまま背を向けて立ち去るというのなら私はお前を見逃してやる。だが、そのポケットから『クライシスライト』を抜いて私に襲いかかるのなら容赦はしない」
「…………確かに私ではあなたに勝てない。それは認めるしかありませんわね」
クララはくるりと反転し背を向けた。
「しかし、同時に正義が退く事があってはならないのも事実」
「クララ……お前!」
ニィ、とクララは口の端をあげて笑った。
「我が正義は不滅ッッッ…………!」




