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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編2:完璧なキッスをして
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Aルート 3

 延奏が動く。杖から空を引き裂く光の(パイル)を打ち出し、世界に痛みを刻む。同時に多重展開された平行(パラダイム)空間より対消滅弾、魔力焼却弾、因果消失弾、封印弾、濃硫酸弾、HEAT弾、反応弾、パルス弾等を干渉しない限界まで空間に設置しつつ、概念操作により事象を書き変えてすでに命中した事にする。さらに打ち消される事を考えて対抗術式を発動させつつ、運命の選別により自身への攻撃意思反転と非連続体理論による自己の消滅への耐性をつける。

 約零秒間により行われた以下の攻撃はあくまで魔法少女の領域に過ぎず、邪神を取りこんだのかなにとっては容易く抵抗できる。

概念破壊(オブジェクション)

 全ての概念が一度消失したため、延奏の攻撃は全て無効となる。無論、この程度でダメージを与えられるとは延奏も思っていない。持てる呪文を運命の多重化によって同時に詠唱し、もっとも有効だったものだけを選択して打ち出す。

 存在を隔離領域へと隠し、過去を遡る以外の一切の行動による干渉をシャットアウトするが、時間はすでに方向性を失っており、行動そのものを起こすタイミングを得る事ができずに機械仕掛けの剣により切り裂かれる。

「『延奏! 手加減して勝てる相手ではないわ、『なのか』の力を使って!』」

 攻撃というものが相手に到達しなければ無意味である以上、上位次元存在である邪神と三次元でやりあうのは勝負にならない。延奏は『なのか』の力を使い、存在の状態を引き上げながら、数秒後の未来へと移動し、攻撃を開始する。

「のかな、あいつの姿が消えたぞ!」

「今より先の時間域に移動したんだ。因果の干渉も本体が未来に居るなら難しい。それは同時に今に居る私への干渉もできないって意味だけどね。どんなに力を付けたって、いや……力を付けたからこそこうなるんだろう。結局、直接攻撃するのが一番簡単で一番強いんだ」

 静寂の後に未来が襲ってくる。一瞬の交錯の後に反撃を試みても延奏はすでに未来へと移動している。いかに強力な力であっても速度がなければ意味がない。『なのか』の力の前では全てが時代遅れの旧きモノだ。

「くうっ!」

「のかな!」

「……大丈夫だよ、ラー。ただ、このままじゃまずいね」

 延奏の攻撃が本体による物理のみである以上、差し返すのは難しい。だが、空中の格闘術を持たないためにその威力は必殺ではない。ならばそこに活路がある。

 しかし…………

(未来を奪われてしまっている以上、私に勝機はない。例え未来を奪い返したとしても私の体が持たない。よくて数回攻撃を入れるのが限界だろう。一体どうしたら…………)

 のかなは少し考えて、自分にできる事と自分のしたい事を思い浮かべた。

(私は延奏に勝ちたいのか? それともコンスへの恨みから殺したいのか? 私は生き延びたいのか? それとも死んでしまいたいのか? 私は…………)

「!」

 その時、見つめた手の平から応えるように波動が広がって空に溶けていった。

「ふっ」

 拳を握りしめ、のかなは笑った。それは諦めではなく、覚悟を決めた目であった。

(そうだ。いつだって答えは私の中にある。やれるだけやってみよう)

 武術が旧い物となった時、何も新しい物は生まれなかったのだろうか。誰もその意思を受け継がなかったのだろうか。いや、そんなはずはない。それは確かに受け継がれていた。バリアと光線が支配するこの虚空の中で、太陽の波動がそこに息づいていた。

「ラー、やっぱり私は延奏には勝てないみたいだ」

「じゃあ、降参するのか?」

「それはなんか悔しいから、もうちょっとだけ頑張ってみようと思う。付き合ってくれる?」

 小熊は笑って答えた。

「いいぞ。その方がお前らしいしな」

「ありがとう、ラー」

 のかなは笑みを心の奥底に隠し、規則的に呼吸を始めた。大地から響くように風を生み出し、うねりとなって力を生み出す。

「おおおおおおお…………」

 仕草の中に攻撃を組み込むのならば奪う事も真似する事もできない。勇敢な姿勢自体が力を持つのならば記憶すら必要ない。人の意思を力に変える形としてはこれ以上ないほどに理想的だ。

 対するはその対極とも言える能力。誰が使おうとも変わらず力を発揮するそれに善悪はなく、ただの兵器に過ぎない。

 のかなは地面に降り立つと機械仕掛けの剣とラーをしまいこむ。地上は延奏の得意とする領域、今まで威力を出せなかった格闘が『対名炎影流』という絶対の破壊力を持つ戦闘術に代わってしまう。自ら死地に赴くような行動だが、のかなはあえてそれを選択する。

 地上ならば『対名炎影流』で戦わざるをえない。のかなはそれを知るが延奏はのかなの戦闘術を知らない。その僅かな優位に賭けるつもりなのだ。

「我が名において命ずる」

 気を失っているアリィの体を操作し、のかなに向けてスケィリオンを撃たせようとする。未来へと到達するには凄まじいエネルギーを必要とする。それを捻出するのはいくら邪神のパワーといえども不可能だ。ならば、自滅覚悟で無限のパワーを吸収し、未来へと到達する以外に方法はない。

 生き残る事はできないと理解していた。それでも、その姿は伝説となり人々の心に永遠に生き続ける。

「あうあ……すけィ、りオン…………!」

「『ジリリリリリリ!』」

 打ち出された無限の力は膨大な圧力を持ってのかなに襲いかかる。一瞬たりとも存在を許されないほどの暴力に凛然とした態度で立ち向かい、拳を繰り出す。

「おおおおお…………!」

 成長していく、最強の力と拳を交え加速度的に進化していく。

「おおおおおおお…………!」

 限界はない。この思いを止める事などできない。

「おおおおおおおおお…………!」

 死などに立ち止まらせられるものか。この波動こそ未来への力。衝撃こそ命の証。そうだ、今、

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 邪悪を克服した!

「スケィリィ・OF(オーバーフューチャー)!」

 拳と拳がぶつかり合った瞬間、全ては事象地平の彼方へと消え去り暗黒の世界が訪れる。音も光もまだやってきてはいない未開の時間。もし仮にそこに何かを刻むのなら、全てが現実になるだろう。そう、『ここ』こそが神の庭であり、人間の過去を無意味に変え、世界が一瞬前に作られた事を証明してしまう場所でもある。

 その領域に待つ人間が一人、それは神だ。そうとしか言いようがない。彼女はこの世を作ったのだ。ならば、全てを従える資格がある。全てを破壊する権利がある。

「終鳴延奏」

「まさかここまでやってくるとは。ですが不思議と意外ではありません。やはり武術家の勘というものでしょうか。最後は結局こうなると分かっていたようです」

 取られた構え。礼などなく、それは打ち出された。

(えん)(えい)

 完全なるその攻撃は回避する事ができない。炎の影のような独特の揺らぎが人の感覚を狂わせ、まるで黒穴に吸い込まれているかのような錯覚を起こし、退路を封じる。いくら邪神と一体となったのかなでもその運命(さだめ)からは逃れられない。

 だが、例え攻撃が完全だとしてもそれを打ち出す者が完璧というわけではない。状況次第で完全は打ち破れる。

幻日(パフィーリア)!」

 刹那の見切りと幻影を駆使して攻撃を逸らし、のかなは片腕の犠牲を経て攻撃を受けきる。

「炎影には弱点がある。それは攻撃がある程度の深さで命中した場合、反動やフォームの問題で『炎影』しか即座に打ち出せる有効な技が無くなってしまう事だ!」

「それがなんだというのです。まさか同じく『炎影』を繰り出し相打ちを狙おうとでも? この技を超える近接格闘術などありはしない。あなたもそれはよく知っているはずです」

「延奏、それは理屈だ。私はその先の地平に到達した!」

「面白い、ならば証明してください。私は真っ向から迎え打ちましょう!」

 握りしめた延奏の左手より必殺の一撃が放たれる。

「炎影!」

 のかなは左手を振りかざし、太陽の軌道をなぞって打ち出す。

太陽光の波動衝撃(サンライト・ストライク)!」

 二つの拳は示し合わせたかのようにぶつかり合い、激しい閃光を飛ばす。あふれ出した力の余波が互いの体を傷つけようとも怯むことなく、競り合いを続ける。

「うっ……くぅっ!」

 だがやはりというべきか、先に揺らいだのはのかなの方だった。人の意思を力に変えたとしてもそれは完璧ではなく、どこかに綻びを持つ。怒りにかられ、最後まで魔法少女でいる事ができなかったようにそれは不完全で歪だった。

「あなたの攻撃は完璧ではありません。私の炎影には遠く及ばない、未来永劫勝てる可能性など微塵もありはしない」

 何かに亀裂が入る音がした。

「私とあなたは似ています。きっと逆の立場でも逃げずに真正面から立ち向かったでしょう。勝ち目など必要ないのです。所詮生きる事は願望なのですから、自分の好きなように正しく生きればいいのです。その結果がどうなるかなど私達には興味がない。全ては時代が勝手に決めるでしょう」

 光が弾けた。

「あなたは『幸せ者』だった。その一点だけ私とあなたは違っていたようです」

 延奏の左手が砕ける。アンジェラとの戦闘で一度切り落とされていたために完全ではなかったのだ。

 砕けた手を伝って波動が延奏の核へと響く。それによって結合が揺らいだ所に蒼いナイフを打ち込み、『なのか』の力の一部ごと魂を奪い返す。

 力を失った事により未来に居続けることができなくなり、延奏は今へと戻ってくる。ダメージにより膝をついているがその表情は穏やかだった。

「ふっ、正面からの競り合いで私が遅れを取るとは。まだまだ精進が足りないようです」

「延奏」

「一瞬、あなたの姿に魔法少女が重なって見えました。あなたは魔法少女を捨てたと言いましたが、それでも魔法少女だったようですね。人の命を助け、心を救う。それこそが魔法少女の役目なのですから」

 立ち上がった延奏は己の胸に刺さったナイフの柄に手を当てるとそれを押し込んで取りこんだ。

「錬金術師の(ことわり)で語るなら等価交換というものでしょうか。これは多くの者の願いを受けてきた。思い悩みながらでもそれでも前に進もうとする強き意思、それは魂を決して腐らせはしない。その歩みを対価として、このナイフは魂の代わりになりえる物へと変わった。そして私が対価を得たのなら、あなたから不当に魂を奪う事はできない。それは等価交換の原則に反してしまうからです。私はもうあなたと戦う理由を持てない。つまり、あなたの勝ちです。どちらか一方ではなく、全てを救った。私は最後までそこにたどり着くことはできなかった。何故なら、救うための方法など本当は存在しなかったからです。未来には絶望しかなかった。しかし、あなたは新たな希望を作り出した。物事の(NO)を思うままに変えて、新たなる物を作り出す。つまりあなたは魔法少女でありながら錬金術師でもあったのですね」

 のかなは語る。

「あなたも本当はたどり着いていたんじゃないのか? いや、たどり着いていたはずだ。私と同じだというのなら。『炎影』しか打てなくても防御姿勢はとれる。あなたが退けば私は負けていたんだ。あなたは私に情けをかけたということなのか?」

「……どうでしょうね。ただ、一つ言えるのは誰かに私も救ってもらいたかったのですよ。私だって人間ですから。それに退くなんて悔しいじゃないですか、負けたみたいで。あなただってそう思うでしょう?」

「延奏…………。ふっ…………まあね」

 二人はまるで鏡のように苦笑を洩らし、その後のかなは表情を引き締めると自らの中に呼びかけるように呟いた。

「居るんだろう、コンス」

 疑念の欠片も無い確信した言葉に最早偽る事は無意味と悟ったコンスは呼ばれるがままに姿を現した。

「『あら、どうして分かったのかしら』」

「肉体が死んだくらいでお前が滅びるわけがない。マリーの体に潜んでいるのは分かっていたよ。それに二度も同じ手に引っ掛かるわけにはいかないからね」

「『うふふふ、“二度も”ね。果たして本当に“二度”だけで済むのかしら、もしかしたら何度も、何十回も繰り返しているかもしれないのに』」

 苛立ったようにのかなは叫ぶ。

「コンス! 訳の分からない事を言って煙に巻こうとしても無駄だ! 私は例え記憶を取り戻せなくてもお前を滅ぼすと決めたんだ!」

「『ふーん、そう。ならどうぞ。“一度”やってみればいいわぁ。できるものならね』」

「そうやって居られるのも今の内だよ。サニティシステム起動!」

 のかなは浄化の光を放ち、コンスを消し去ろうとする。しかし、予想に反して影は苦しむ素振りすら見せずに平然とそこに立つ。

「なっ!?」

「『これで“あなた”は“初体験”というわけね。卒業おめでとう。体の方はもう何度もやってるのにねぇ。うふふふふ』」

 楽しげに語るコンスを見て、のかなは絶望と共にその脳裏にある最悪の発想が浮かびあがった。

「まさか……延奏は、あの二人は“私達”なのか? もしそうなら一体何度繰り返して来たって言うんだ。一体いつから繰り返して来たって言うんだ。答えろ…………答えろよ! コンス!」

「『………………』」

 コンスは遠くを見ながら淡々と呟いた。

「『興味ないわ。どうせあなたは忘れてしまうのだし』」

「コンス!」

 その時、のかなは辺りの風景が泥のように溶けだした事に気づく。それだけではなく、人や物ですら確かではなくなっていく。

「これは……! そうか、これは夢だ。段々と思い出して来たぞ。あの時、世界が膨大な悪夢のような物に包まれて、お前がみんなを守るかのように光を放った…………」

「『………………』」

「どうしてなんだ。お前は私の敵じゃないのか? 一体何が本当で何が嘘なんだ。私には分からないよ。教えてよ、コンス!」

 コンスはいつからか持っていた蒼いナイフを眺めながら静かに告げた。

「『知りたいのなら思い出しなさい。生きたいのなら忘れなさい。あなたは初めから全てを持っているのだから。けれど得られるピースの数には限りがある。この短い時間で必要な物を全て集めきるのは天文学的確率だわ。でも、仮に何か奇跡のような事が起こってそれが為されるとしたら、後はそれを正しく組み立てるだけなのよ』」

 その言葉はいつかのかなのパートナーである『スキャットマン』の言った物と同じであった。いつもならば奪った記憶から読みとったのだと決めつけていただろう。しかし、今の状況下にあってはそれがコンス本人の物であると素直に受け止める事が出来た。

するとのかなの体から光が満ち、呼応するように何かと同調し始め、自己を残しているがゆえに記憶と精神が混ざり始めた。

「そうか、お前は……! いや“君”は。つまりそういう事なのか? 私は……“僕”は君から戦いを取りあげたのだと。だがこれを確信とするならば“僕”は……“僕”のやろうとしている事は!」

 のかなは怒りではなく悲しみに満ちた瞳で問う。

「何故だ、コンス。何故初めからそう言わなかった。そうすれば君の事をこんなに憎まずに済んだのに。君だって本当はこんな事は望んでないはずなのに」

 コンスは憎しみを露わにして吐き捨てるように言った。

「『どうかしら、あなたって本当にお気楽ね。私があなたを殺したいほど憎んでいるというのは確かな事実なのに。でもね、同時に殺したいほど愛しているのも事実。せいぜい苦しんで生きてもらうわよ』」

「コンス!」

 崩れだした世界、虚空に空いた穴に吸い込まれそうになりながらものかなは手を伸ばしコンスを掴もうとする。だが、無情にもその手は本人によって払われる。

「『お馬鹿さんなのねぇ。いつだってそうやってあなたは愚かで純粋で全てを救おうとする。でも、今のあなたに必要なのは私じゃないわ。私への憎しみなのよ。そして魔法少女で在り続ける事。その二つを保ち続ける事ができればあなたは誰にも負けない。あなたは初めから『伝説の魔法少女』なのだから。それを保ち続けるためには生贄が必要。怒りと憎しみと復讐心の不死炎を燃やし続けるためにはね』」

「そんなの……そんなの間違ってる!」

「『初めに間違ったのはあなたの方でしょう? まあ、いいわ。どうせ言っても分からないし、もうすぐ忘れてしまうもの』」

「コンス!」

「『さようなら、何もかも忘れて目覚めなさい。哀れなお人形さん』」

 全てが黒に塗りつぶされていく中でのかなは叫んだ。

「例え今は駄目だとしても、“僕”は諦めない。必ず“君達”を救ってみせる!」

「『……サニティシステムが暴走して精神が混濁しているのね。本当に下らないわ…………』」

 自分以外の何もかもが消え去るとコンスは蒼いナイフを握りしめ、月光と共にその力を空間へと解き放った。

「蒼刀――――月光(げっこう)夜朧(よろう)

 ナイフを突き入れられた空間がねじられ、元に戻ろうとした瞬間、反発力で破裂する。無残に破れた隙間に指を差しいれて力任せに引き裂くと後ろも振り向かずに出て行った。


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