Aルート 2
「止めなさい」
延奏の拳を受け止めていたのは血塗れのマリーだった。予想外の事に全員が驚きの表情を見せる。
「『そんな馬鹿な!?』」
「くっ!」
返しの一撃をなんとか防いだ延奏は慌てて距離を取る。
「…………これはこれは驚きました。魂が無いのではなかったのですか?」
「『のかなじゃない…………あなたは一体?』」
マリーは己の血を化粧のように唇に塗ると不気味な笑みを湛えて言う。
「私に名前は無いのだけれど、そうね、『コンス』とでも名乗っておきましょうか。その方が説明する手間が省けていいでしょう?」
「『ふざけているの!? コンスは私よ!』」
「うふふふ……名前は役割を表す。私にはその役がふさわしくないというのね。なら、その名前はあなたにあげる。その代わり、旧くなったあなたを生贄とするわ」
胸元から蒼い刀身のナイフが取り出される。コンスの一撃を軽減し、マリーの体がばらばらになるのを防いだそれが今度はマリーの体を使い、延奏をばらばらにしようと猛る。
「『何者だか知らないけど、所詮は死にぞこないよ。延奏、さっさと片付けて!』」
「…………嫌な感じがしますね。まるで雲でも相手にしているように捉えどころがない。それでいて非常に凶悪な存在だと一目で感じ取れる」
延奏は構えを取ったまま制止する。それは警戒しているからでもあるが、単にマリーの隙が全くないからでもあった。
「くすくす……そうやって瀕死の私が死ぬのを待つのも手ね。でも、そんな卑怯者が全てを救うと口にするなんておこがましい事だわぁ。だから、あなたじゃ駄目なのよ。理屈は世界を存続させるけど、世界を救えはしない」
「手厳しいお言葉ですね。しかし、無謀と理解しつつも生きている者だけでどうにかしなければならない時もあります。それに――――踏み込めば一瞬で殺すおつもりでしょう?」
「うふっ」
マリーはナイフの刃をそっと指でなぞる。
「『なのか』の力を持つ『伝説の魔法少女』と呼ばれたあなたでも牙のある私は殺せないというのね。その判断は正しいわぁ。だけどその答えは詰まらない。魂を腐らせる。人である事の意味が無い。ならば、いっそ人でない方がいい。――ねぇ、あなたもそう思うでしょう?」
視線を向けられたディズは呪縛から解き放たれたかのように口を開き、問いかける。
「あなたはそのために私を蘇らせたの?」
「だとしたら?」
ディズは怒りも喜びもなく淡々と答えた。
「『ありがとう』ってお礼を言いたい」
満足気にマリーは笑って返事をした。
「うふっ、どういたしまして」
マリーは蒼い刀身のナイフをディズに投げ渡す。瞬間、延奏は踏み込み、一撃の元に瀕死のマリーを殺す。その後、ディズは連続する死の連鎖を受け継がれた力で受け止める。
「きっと、そんなに複雑な事じゃないんだ。難しく考えすぎてしまっているだけで」
「はあっ!」
「怒りや憎しみがあったって、魂は腐らない。それができるのが人間の力なんだ!」
光の線しか見えないほどの激しい交錯。まるで花火のように幻想的な風景に死を内包する。その最中、ディズは声を聞く。誰かが泣くような声、幼き子どものような無垢な声。
「『うっうっ…………ああああ…………』」
(誰? 泣いているのは)
「『ラー=ミラ=サンはのかなとずっと温めあっていたかったのに、居なくなっちゃうなら食べたくなんてなかったのに…………うっうっ、わああああん』」
ディズは延奏の胸に緑色の光を見る。一度は魔眼の副作用による幻覚かと思ったが、ぶつかりあう度に聞こえてくるその声により現実だと認識する。
(あなたはどうして泣いているの?)
「『……! 俺の声が聞こえるのか?』」
(私は声が“見える”の。あなたは何故悲しんでいるの?)
「『俺は大切な人を失ってしまったんだ。何もかもが欲しくなって、何もかもを失ってしまった。俺はどうすればよかったんだろう。俺はこれからどうすればいいんだろう』」
(………………)
延奏の攻撃は激しく、ディズは段々と傷ついていく。だが、それでもナイフの輝きは少しも衰えることなく、刀身に映る月は段々と満たされていく。
(私にその答えは分からない)
自虐的に小熊は言う。
「『お前にも分からないのか……なら、俺に分かるわけもないな』」
(私も大切な人を失ってしまってどうしたらいいか分からないんだ。でも、今私は生きている。きっと彼らは代わりの居る存在でいつか私はその代わりを見つけていくのかもね)
「『のかなの代わりなんていない! 居てほしくないぞ!』」
(………………うん)
激しい嵐のような猛攻の中、頑丈なハヤタのギターもついに砕け散る。むしろ、よくここまで持ったというものだろう。相手は世界を己の意思のままに従わせられる力を持つというのにここまでディズを守ってくれたのは奇跡とも言える。
(本当は代わりなんて居ないのかもしれないね。けど、人は代わりの無い物を失っても生きていけるんだ。それは決して強いからじゃない。むしろ、逆に凄く弱いからかもなのかもしれない。弱くて、寂しくて、悲しくて、きっと戦うなんて言えるほど強くはないんだ。そんなかよわい存在でも生きていこうとするなら、きっと『優しさ』が必要なんだ。私は多くの人の優しさでここに来る事ができた。優しさの形は人それぞれだったけど、一つとして同じ物はない大切なものだった。人は代わりの無い物を失っても生きていこうとするのはそれを証明するためなんだと私は思う。誰も同じじゃないって事を今すぐにでも誰かに伝えたいんだ)
死線が増えていく。世界がひび割れていく。
(心が痛いというのなら、辛くて動けないというのなら、私の光を分けてあげる。だから泣かないで。その輝きを曇らせないで。あなたは泣くために生まれてきたんじゃないんだから)
「『お前は…………俺を救ってくれるのか?』」
(……ううん、それだけじゃないよ)
蒼いナイフに月光が満ちた。
(一緒に救われていこう)
延奏の拳を受けてついにディズは膝をつく。再生能力はすでに限界に達し、荒い息を押さえることもできない。一方、延奏は息も乱さず、淡々とそれを見下ろす。
「あなたを殺す理由がありません。いい加減大人しくしていて頂けないでしょうか」
「おおおおおお!」
「…………ふぅ」
うんざりしたように延奏はディズを迎撃する。もはや勝負は見えた。これ以上は無意味だと思えば思うほど、対処が面倒くさく感じられた。
「どうしてあなたはそこまで抗うのです。無駄だとは思いませんか?」
「………………ふっ」
ディズは笑う膝をこらえながら微笑んだ。
「無理だとか、無駄だとか、それは詰まらない人間の考え方だ。怪物である私にはまるで関係のない事で至極興味がない。私はただ、お前の臓物をえぐりだして親愛なる友人に献上する事だけを求めているんだ」
「邪悪」
「お前はこれを邪悪というのか。なら、一度鏡でも見てみるんだ…………な!」
大地を蹴り、ディズは踏み込む。だが、その速度は延奏にすれば止まっているかのようだ。それでもとどめを刺しきれないのはいくら見切っていても可能行動速度に限界があるからだろう。神速と称されるような動きであっても、思考準備行動の流れを無視する事はできない。
ならば、そこに神経伝達速度という“無駄”が必ず生まれる。だが、怪物にそれはない。思考ではなく本能で行動するならば“無駄”は存在しない。インパルスの領域を暴力器官が克服する。
神経伝達速度は約『0.01秒』と言われている。その僅かに与えられた時間が今までディズの命を繋いできてくれた。だが、これ以上は持つまい。延奏は自身より遥かに強大で勝つ事など到底敵わないのだとディズは誰に言われなくても理解していた。
なら、この足掻きは無駄なのか? いや、そんなはずはない。諦めずに行動し続けなければあの緑色の光と語らう事はできなかっただろう。
「おおおおおお!」
今の攻撃速度はすでに見切られてしまっている。ならば、その先に行くしかない。
「光奪刀!」
ナイフから伸びた光の刃が地面に突き刺さる。完全なるゼロ速度がタイミングをずらし、一瞬後に砕けた光がさらなる加速へと導く。
「まさに疾風のごとき攻撃。しかし、正面からの打ち合いで私に勝てるとでも?」
一旦停止する事によるフェイントは有象無象には有効でも延奏には通用しない。すでに迎撃態勢に入られている。このままでは今までと何も変わらない。それどころか加速した分、踏み込みが深くなり回避行動に移るのが難しくなってくる。
しかし、それでもその瞳に憂いはない。光で目が眩んでしまっているのか、それとも与えられた僅かな時間が何か別の景色を見せているのか。全てはこの刹那の交錯により永遠に証明される。
「隙だらけですよ」
延奏の攻撃は完璧だ。逃げ場はどこにもなく、未来には絶望しかない。だが、それこそ浅はかな人間の考えだ。ディズはすでにその先に居る。
左半身を盾にして延奏の攻撃を受け止める。無論、方向力場で逸らそうとも全て持っていかれるだろう。いくら不死身の吸血鬼といえどもそれほどのダメージを受けてすぐに戦えるものではない。どう取り繕うともディズの敗北だ。
だが、その右手は光を求めるように動く。ナイフは刀身に集めた月光を解き放ち、彼岸へと到達する。
「蒼刀――――月光夜裂」
「くっ!」
さすがの延奏もここまで踏み込まれては回避が遅れる。しかし、最後の輝きとも言えるディズの光は延奏の胸元をかすり、むなしく過ぎていった。
「危ない所でした…………。もし、あと『0.01秒』でもあなたの行動速度が速かったならば倒れているのはあなただけではなかったでしょう」
半身を失ったディズはさすがに再生も鈍く、地面に倒れたまま空を見上げている。だが、その表情に憂いはなく、むしろ晴れやかだった。
「ああ…………綺麗だなぁ。こんな輝きがこの世で見られるなんて、私は幸せ者だ」
「どうやら狂ってしまわれたようですね。魔に魅入られし瞳を持つ者の代償というものでしょうか。しかし、己の道を進み続けられたのなら本望でしょう。冥福をお祈りします」
「くくくく…………はははははは!」
ディズの高笑いにコンスは不愉快そうな顔を見せる。
「『耳障りね。負けたって言うのにどうしてそこまで笑えるのかしら。やはり、あの子が人形ならばあなたもまた歪んだ歯車という事なのかしらね』」
るいに向き直ると問いかけた。
「『もう諦めた方がいいわよ。あなたの味方は誰もいない。破壊者は動けず、吸血鬼は狂った。魔王の手下も敗北し、あなたにはもう何の力も残っていないわよ。それでも戦うというの?』」
「………………」
難しい表情で沈黙していたるいはふと何かに気づくと苦笑を洩らした。
「延奏、一つ教えてよ、『0.01秒』だけ足りなかったんだよね?」
「そうです。殺しの才能を持つ彼女でも『0.01秒』だけ及びませんでした」
「うん…………なら、きっとそれは及ばなかったんじゃないよ。誰かの為に考えたからそうなっただけで本当は足りていたはずさ。無敵の暴力器官を自分の意思に従わせる事ができたんだ。邪悪を克服したんだ」
「邪悪の克服? 悪を捨て去り、悟りに至ったという事ですか?」
「違うよ。邪悪の克服って言うのは悪がない事じゃない。誰かの痛みを知る事、心を救う事を言うんだ。怒りや憎しみを捨てて戦う事はできない。だけど、それ以上の何かを持とうとするから、きっとそれを誰かが『魔法少女』って呼んだんだ」
「!」
めろんは手に緑色の光を持ち、不敵に微笑む。それを見たコンスは焦ったように叫ぶ。
「『サニティシステム! いつの間に!?』」
「奪われたのに気付かないほどのものなら、別にいらないって事でしょ? 私が有効利用してあげるよ」
「『延奏!』」
「遅いよ」
緑色の光を飲み込んだめろんはその瞳に炎を宿す。それはあの不死炎の少女と同じものだ。魂の形を等しくするなら、その精神もまた同一となる。
“それ”は延奏との接近戦を互角に渡り合い、太陽の如き光を放つ。
「太陽光の波動衝撃!」
「くっ!」
奇妙な音と共に白い波紋が空間に広がり、延奏を退ける。だが“それ”は猛りも驕りもせずに淡々とたたずむ。
コンスは感情のままに罵倒する。
「『怒りと憎しみに塗れて死んだ者がどうしてこの場に立てるというの? あなたは魔法少女じゃない、ただの復讐者よ!』」
「………………」
その復讐の原因を追及するのは容易い。だが、怒りに呑まれれば心を失う。自分がここに戻ってきた事の意味を考えながらのかなは語る。
「私は魔法少女を捨てた。だから今は何者でもないんだろう。魔法少女でものかなでもないのならここに居てもいいはずだ」
「『あなたって子はどこまでも私の邪魔を!』」
「コンス、お前は悲しいよ。誰かを傷つけなくちゃ生きていられないなんて。でも、それはお前が本当に望んだ事じゃないのかもしれないって思うんだ。本当に破壊するだけの存在なら、誰かを蘇らせようなんてしないはずだから」
「『あなたに私の何が分かるっていうの!?』」
「何も分からないよ。何も分からないから、きっとこれから知っていかなくちゃいけないんだ。善も悪も救われなくちゃ同じなんだ。なら、私が善と悪を分ける。まずは全部救ってから、それから全部考える!」
「『減らず口を! 今すぐその口を塞いであげるわ!』」
「来て! ラー=ミラ=サン!」
のかなは現れた小熊に騎乗するとサーベルを抜き、戦闘態勢を取る。小熊はぼんやりとした調子で思う。
(お前はのかな……なのかな? 魂が向こうにあるのならお前は一体誰なんだ? ラー=ミラ=サンには分からないぞ。でも、お前はなんていうか温かいな。……うん、きっとそういう事でいいのかもしれないな)
それは名前を持たない。だが、人の中に確かに存在するものなのだ。それを救いとし、それの為に争う。きっとこの少女はそういう物だった。だからこそ、それは太陽のように光を放ち、全てを照らす。
「騎士秘剣!」
騎乗のエネルギーを力に変換して鞭のように自在に操る。その複雑な動きは完全に回避するのは不可能とも言えるが、受けとめるつもりならさほど難しくもない。
ディズの魔眼ですら切り裂けない延奏の体がこの程度の攻撃で揺らぐはずもない。容易く突破できる。だが、これは始まりに過ぎない事はお互い理解していた。
「火鳥爆炎!」
「ラー! 上昇!」
延奏の反撃をかわしてのかなは空中へと逃げる。それに対し、延奏は追撃する事ができない。知っているのだ。武術というものが一つの例外もなく重力を基礎としている事を。故に重力から解放された者には太刀打ちできないのだと本能的に理解させられているのだ。
「対名炎影流、殺しに関しては並ぶ者無しとされた殺人拳も時代の波に呑まれて消えますか。他の人間にはごまかしが利いても対名炎影流の心得があるあなたが空中で迎えうつというのならいくら私でも競り勝つことはできないでしょう。どうやら、私もあなたと同じ場所に行く必要があるみたいですね」
延奏はゆっくりと地面から離れていく。己の杖を出し、拳闘士から魔法少女としての姿へと変わっていく。
「無限光機、展開」
各所に調整ダイヤルの付いた魔導杖はそれが旧い事の証明だが、今では禁止されている技術がふんだんに使われたそれは今の時代の杖にしてはあまりに凶悪過ぎた。
「球体コアの直径が見た感じ60センチ、三節までしか許されてないはずの魔力精錬管が七節、反応炉に二型オーバードライブ、聖者核式と因果逆転装置。魔力純度が85%で余裕の規定オーバー…………。ふざけているの? 違法とかそういうレベルじゃないよ、魔法少女を……人を一体なんだと思ってるんだ!」
延奏は淡々と答える。
「脆く壊れやすい蛋白質の塊ですよ。もっとも体の大半を代替物質に置き換えてしまった私達はもはやそれですらないのですけどね」
「延奏、それじゃ十五分と持たない! 全ての力を使ったら五分だって持つかどうか…………」
「心配せずとも私にこの杖を出させて三分と持った相手は居ません。それより自分の身を心配した方がいいですよ。いくら不死身だとしても、跡形もなく吹き飛ばされればただではすまないでしょうから」
延奏はかちゃかちゃとダイヤルを手際よく操作していく。旧式の杖は手動で調整しなければならないうえに複雑な手順を要する。いくら延奏といえども少しの時間が必要だ。この隙に攻め込むというのは難しいだろうが、逆に攻め込まれる心配はない。この猶予は互いにとって最初で最後の静寂となる。
ならば、とのかなはるいを見て言った。
「るいちゃん、聞いてほしいんだ」
「のかな」
「私はのかなじゃないよ。そして魔法少女でもない。名前すらない人間でもない。……ないないづくしで自分でも何言ってるか分かんないや。でも、大丈夫なんだ。私の中の輝きが全てを教えてくれるから。私は『伝説の魔法少女』と同じ形になるように改造された。それが強制されたのか、自ら望んでそうなったのかは分からない。だけど、私は始まりがどこだって構わないんだ。色んな人と出会って、別れて、私はたくさんの事を知った。その中には素晴らしい景色や時には目を覆いたくなるような悲惨な光景もあった。きっとこれからもいっぱい泣いたり笑ったりするんだろう。世界には限りがないんだ。私達がここで生きていようとする限りは。だから可能性を止めちゃいけないんだ。だから私は……限界へと挑戦する」
「のかな!」
「私が誰だって、誰が“私”だっていいんだ。私は初めから『伝説の魔法少女』だった。それは正しいからでも強いからでもない。どんな時だって“私”だからだ。憤怒に彩られた混沌の中だって“私”を失う事はなかった。だって“私”は初めからどこにでも居て、どこにも居なかったんだから。『空』こそが私の本質。空が空として存在する事ができるというのなら、それは何者にも染まりながら、何者にも汚される事のない究極を超えた存在だった」
のかなはディズの傍に落ちていた蒼いナイフを手元へと引き寄せると、創造の力へと変換する。
「ことかちゃん、マリー=マール。一緒に行こう」
散らばった欠片と捨てられた体と自身を創造の力で混ぜ合わせ、新たな存在へと変化していく。混沌より光を見出し、限りなく世界を照らす存在へと。誰が見ても空だと分かるのはきっとそこに太陽があり、力強く輝いていたからなのだろう。夜には月の光が優しく輝いていたからなのだろう。
その『空』は何もかもを取りこんでは無限に広がり、その海原にちりばめた星達を武器にして戦う。誰も置いていかないというのなら、全てを救っていくというのなら、その心は『空』ではなくまぎれもない『空』だった。
「限りなき『空』、NO」
柄に『Sans』と刻まれた機械仕掛けの剣を持って血の色にも似た紅の服に身を包んだ魔法少女によく似た容姿の少女は口を開く。
「…………この力を、錬金術の力を使うのは“久しぶり”だ。この姿である事を魂が忌避しているのが分かる。きっと過ちを繰り返してしまう事を恐れているんだろう。だとしても私は迷わない。力に善悪はない。善悪を決めるのはいつだって“心”なんだから」
「のかな!」
「私はのかなじゃない!」
るいは痛みを訴えるかのように言う。
「止めてくれ、のかな! 私はもうお前を失いたくないんだ。私にとってのお前はお前だけなんだ。誰でもいいわけじゃないんだ。救いなんて求めちゃいないんだ。私はこの痛みさえなければそれで十分なんだ。それ以上なんて必要ないんだよ…………」
「るいちゃん…………」
のかなは躊躇いながらも言い放つ。
「知ってるよ。知っていて私は戦う。私はみんなが思ってるほど高尚な人間じゃないんだ。誰も傷つけずに生きていくなんてそんな器用な事はできない。るいちゃんの痛みを知っていて、私はそれを背負わせる。痛みを隠すのはもう止めだ。私にも痛みがあるからそれを取り去らなくちゃ心安らかに眠る事ができないんだ。延奏から魂を奪い返さなければ私は私ですらいられないんだ」
「駄目だよ、のかな…………あいつには勝てない、死んじゃうよ!」
「………………」
のかなは優しく微笑んで言った。
「大丈夫だよ、たとえ私が死んでも私はどこにでも居るから。今は分からなくてもいつかきっと分かるから」
「分からない! そんなの分かりたくないよ!」
「…………時間だ」
すでに準備を完了していたらしい延奏は問いかけるように言う。
「もう済みましたか?」
「待たせちゃったかな?」
「いいえ。私のこれまでとこれからを考えればそれほど長い時間ではありませんよ」
「延奏、教えてくれ。あなたは私すら救おうと考えているのか?」
「はい。今すぐにでも私の体を引き裂いてあなたの魂を返してあげたいくらいです。あなたは悲しい人だ。誰もあなたを救ってはくれない。だから私が救いたいと思うのです」
「あなただって救われない人だろう。そして救われないまま死んだ。私と同じように。私達は似ているよ。めぐり合わせが違っていれば友達になれたかもしれない」
「けど、今は敵同士」
「私には魂が必要だ。それがなくては私は人間ではいられない」
「私もこの力がなければこの世にとどまってはいられない」
「…………生きるってのは残酷だね」
「しかし、譲る気はありません。私達が同じだというのなら、どちらが残ってもこの世は救われる。ただ、その救いは今の世界を破壊し、新たな世界を作り出すという事。他の人間にとっては同じ物でも私達にとっては違う。ならば…………」
「延奏、それは理屈だ。私はその先を目指している。そんな陳腐な答えを出すつもりならそれは魔法少女じゃない」
「ふっ、本当に私とよく似ている。ちょうど私もその先に向かっている最中だったのですよ」
「なら競争だ。どっちが先にたどり着けるか」
「いいでしょう、負けませんよ」




