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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編2:完璧なキッスをして
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第四章 3

「あなたが模倣者を殺していた犯人…………」

 ウィタカは目の前に平然と立つ男を睨みつける。悪びれもしないその姿に怒りを覚えながらも感情的になっては駄目だと必死に冷静さを取り繕う。

「理由を教えてくれる?」

「それが俺の任務だからだ」

「任務? ならあなたは任務で死ねと言われた死ぬの!?」

「そうだ」

「――――!!」

 ウィタカは反射的にハヤタの顔を叩いていた。感情的になってはいけないと理解しつつもあふれ出る涙を堪える事ができなかった。

「やっと見つけた、分かり合える仲間だと思っていたのに…………!」

「裏切った覚えは無い。ただ知らなかっただけだ」

「出ていって! 顔も見たくない!」

 本当は気付いていた。ハヤタが模倣者を殺しまわっている事を。ディズの件でそれは確実な物へと変わったというのにそれでも気付かないふりをしていた。そうしていれば日常を続けていられる。自分と同じ存在が傍に居てくれる。だが、それは夢だ。いつかは現実に立ち返らなければならない。それでもあと少しだけ夢を見ていたかった。現実があまりにも過酷すぎるから。

「こんな気持ちになるのなら、出会わなければよかった…………!」

「………………」

 ディズはすでに目を覚ましていたが眠っているふりをした。起き上がればウィタカは涙を拭いていつものように振る舞ってくれるだろう。胸の傷を隠したまま楽しげに微笑んでくれるだろう。しかし、それに甘えるのは本当の仲間ではないような気がした。

 つい先ほど知り合ったばかりのディズではあるがそれでも二人の事は仲間だと思っていた。付き合った年月で仲良くなるのは当然だが、だからと言って年月を経れば仲間というわけでもないだろう。ならば、自分にも何かできる事があるのではないか。悲しみの声が耳に響く度にそう信じる気持ちは段々と強くなっていった。

(私は怪物だ。英雄にはなれない。だが、それとこれとは話が別だ。どうせ残り少ない命なら行かずに後悔するよりも行って後悔したい。初めから駄目なんて決めつけられたくない)

 ディズはそっと部屋を抜け出すとハヤタの後を追った。本能的に目の波長を変えて足跡を追跡する。

「『待って!』」

 強い波長は目を合わせずとも相手に意思を伝える。振り向いたハヤタは無表情に口を開く。

「何の用だ?」

「『あなたはこのままでいいの?』」

「元々こうなる運命だった。一緒に居た事自体がおかしかったんだ」

「『…………あなたの任務は否定しない。誰かを殺す事が間違ってるなんて迷いなく言えるほど私は高尚な存在じゃない。確かに殺人者と獲物が一緒に居るのはおかしいよ。だけど、それならどうして一緒に居ようと思ったの?』」

「拠点が必要だったからだ」

「『それだけじゃない。利用価値なんかじゃないはずだよ。だって今、ウィタカさんは生きてる。模倣者全てを殺す事があなたの任務なら殺さなくちゃいけないはずだ。それをしないのはあなたが迷っているからなんじゃないの? 本当はウィタカさんの事を大切に思っているから…………だから』」

「ディズ」

 ハヤタは遮るように言った。

「俺は動く死体だよ。合理的で情なんて少しもありはしないんだ。君を連れてきたのは間違いだった。あそこで二人殺すのは無理だから、こうして分断する必要ができてしまった」

 鈍器のように構えられるギター、向けられる殺気は氷のように肌に突き刺さる。

「君を殺す。彼女はその後だ」

「『ハヤタ…………』」

 ディズは目の波長を変えるとナイフを取り出し、構えを取る。

「『私は幸せ者だ。醜い怪物であるからこそ、こうやって何かを変えられる可能性がある』」

 月の光をハヤタの武器に見る。かなり頑丈な武装だが防御力を無視する光を奪う攻撃なら破壊する事ができるだろう。

(…………よし、“光”は見えてる。頭の負荷もそれほどじゃない。この現象に名前を付けるなら“光奪い(ナイトハイド)”とでも言った所だろうか。怪物は夜に怯える者から僅かな月の光さえ奪い去る。そんな浅ましく醜い力でも何かができるのなら…………!)

 ディズは地面を蹴った。その瞬発力はアスファルトを軽く陥没させる。弾丸のようなその突進をハヤタは難なく受けきる。いくら速度があっても体躯は少女の物に過ぎないのなら同じく怪物の一つであるハヤタに防げない事があろうか。返しに打ちだされるギターの一撃は重く、少女の体を軋ませる。

「『ぐっ!』」

 吹き飛び、無様に倒れながらもすぐに起き上がった時には傷は再生している。千切れさえしなければその体は不死に近い。

 問題は精神の方がそれについてこられるかだ。理性を消し、怪物となれば敵を殲滅する事はできるだろう。しかし、それでは何も取り戻す事はできない。人間としての勇気で怪物を克服しなければこの先に未来は無い。

(戦闘経験の差は歴然だ。パワーも同等で“光奪い(ナイトハイド)”もばれているのなら勝ち目はない。一体どこに勝機があるっていうんだ…………)

 ディズはふとアンジェラの言葉を思い出した。

(そうだ、弱いのは元からだ。大事なのはそこからどうするかなんだ。『可能性を実力に変えていく事』、やってみなくちゃわかんない!)

 深く息を吸ってみると狭まっていた視界が広がり、光り輝く世界が見えた。ありとあらゆる場所に光があり、その気になればそれを奪う事ができる。翼の無い生き物であるなら、基点が無くては生きていけない。その基底を奪えるのならば例え誰が相手だろうと劣る事はないだろう。

(世界が広がった…………。ハヤタの武器を破壊する事ばかり考えていて周りが見えていなかった。地面も木も石も風も何もかも、ここには存在している。それら全部私の味方だ、ハヤタには使えない私だけの物だ!)

 この世界はあまりに眩しすぎて直視には耐えない物だ。どれもこれもが光を放ち、自分を押しつぶそうとしてくる。それでもディズは目を閉じようとはしなかった。自分もまたそれらに負けず劣らず輝く一個の存在だったのだからもう悲観や失望などありはしなかった。

 欲望を押さえようとはしなかった。どんなに浅ましく醜くとも、求める気持ちが止まなかった。自分は卑しい怪物で、それで十分だった。意味や価値など必要なかった。理屈ではなかった。ここに立っているというだけで誇らしい気持ちになれる。これは正しい事だ。誰かに決められたからではない。悩んで苦しんで、それでもここに居たいと願った結果であるから正しいのだ。

 体が――――動く。

「『光奪い(ナイトハイド)』」

 その太刀筋は実体の無い風を捉えた。不規則にのびる川の流れのような光に切れ込みを入れて、鋭く裂く。切れた風は分かつ衝撃で真空波となって遠くのハヤタを襲う。

「……! こんな使い方が!?」

 その一瞬の怯みの内に接近したディズはナイフを外側に持ち替え、下から打ち上げるように打ち出す。やらせる物かとハヤタはカウンターの姿勢を取る。だが、ナイフは直前で何かに引っかかったように制止する。理由など分かるはずもない。ナイフから伸びた光が地面に突き刺さりタイミングを外したなどと光の見えない者に理解などできるはずもない。

「『光奪(ナイトヒドゥン)――――(ブレイド)!』」

 光が砕け、クラウチングスタートのように勢いを増してナイフが打ちだされる。さしものハヤタもその勢いには敵わず体勢を崩す。

「っ!」

(今だ!)

 ディズは迷わずに武器を狙う。しかし、

「君は甘い」

 重さに振りまわされるくらいならと武器を捨てるハヤタ。目標を失ったディズが一瞬停止した所を見計らってボディブローを叩きこむ。

「『うぐっ!』」

 そのまま蹴り飛ばし、からんころんと飛んだナイフをついでとばかりに蹴り飛ばして完全に無力化する。

「狙いが分かっていれば対処もしやすい。君はあまりに未熟すぎる。それにだ、俺は武器が無くとも戦いを続けるぞ。君は俺の手足を千切ってでも止めるというのか? できるはずがない、君は怪物にしては少し優しすぎる」

 ギター型の武器を拾い、背負うとハヤタは痛みにもだえるディズに踵を返した。

「さらばだ、もう会う事はないだろう」

「『待っ…………て』」

 力なく伸ばした手はすぐに苦しみの海の中に消えてしまう。何か特殊な力でも働いているのか再生能力が利かず、ディズは倒れ込んだまま苦しみのあまり嘔吐した。胃液の酸味と滲み出る汗が一切の思考を奪い去ってしまう。

 しばらくして波が収まるとそこには静けさしか残っておらず、ナイフを拾ったディズは苛立ったように傍にあった街灯を殴った。

「『…………!』」

 へこんだ金属の冷たさだけが確かな現実感だった。



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