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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編2:完璧なキッスをして
33/204

第一章 3

「…………!」

 のかなが意識を取り戻したのは白いベッドの上だった。全身に包帯が巻かれていたがどうやら傷はもう塞がっているようだ。気を失う前の事を思い出し、生きていた事に驚くと共に他人の体だというのに無茶をした事を申し訳なく思った。

 横に置かれている机にある手鏡を取ったのかなはそこに映る自分の顔を見て、本当に自分がマリー=マールになってしまったという事を実感した。それは同時にマリーの精神がコンスに食われたという事を表わしている。

 もし、自分が元の体に戻れたとしてもこの体に入る意識はもう無いのだ。元はと言えば自分のミスが原因なので贖罪のためにこの体のままで居るべきなのかもしれない。だが、どちらにしてもコンスだけは倒さなければいけない事に違いは無い。

 今までは自分の記憶を奪っているという事で手心を加えていたが、他者に危害を加える存在なら消滅させるしかない。それが殺されたマリーに対する何よりの償いになるのだから。

 ふと、のかなは開けられた扉の音に顔を上げた。そこに居るのは花束を持ったパウラ=マッカートニーであった。彼女は呆れたような顔でのかなに近付くと軽い調子で話し始めた。

「取りあえず再起おめでとさん。だけど血塗れでぶっ倒れてるとかB流ホラ―じゃないんだから止めろよな。お前が無謀なのは知ってるけど、どんな無茶したんだよ。まあ、でも医者が言うにはもう傷がふさがっているので治療の必要は無いってさ。復活に喜び過ぎて鼻血でも吹いたか? なんてな、ハハハ」

 のかなは重い表情で口を開く。

「ごめん、パウラちゃん」

 その台詞にパウラはぎょっとする。

「パウラ“ちゃん”だって!? おい、マリー。頭大丈夫か? 血を出し過ぎて脳細胞が死んだのか? あんまり気持ち悪い事言うなよ。心配になるだろ」

 のかなはその反応に軽くショックを受け、改めて自分がマリー=マールなのだと理解する。いや、ショックを受けたのは自身がマリーだからではなく、マリーでなければならないからか。

 本当はここで自分がマリーでは無いという事を明かすつもりだった。しかし、それはマリーの消失という事実をパウラに突きつける事だ。

 いつかは知らなければならない事なのだとしても、今それを明かす事ができる勇気をのかなは持ち合わせていなかった。それが逃げになる事だと知りつつものかなはごまかす事しかできなかった。

 にこりと無理に笑みを作ってのかなは言った。

「――――からかってみただけだ、パウラ。あまり騒ぐな、病み上がりには堪える」

「…………マリー?」

 パウラは少しいぶかしむような顔をしたが、その疑問は突如としてやってきた喧騒に飲み込まれた。がやがやとした騒がしさに二人が驚く暇も無く、城内の兵士であるデーモンの一体が病室に入ってきた。

「大変です、マリーさま!」

「どうした?」

「配下に加わりたいと志願する者が多く駆けつけております。さっそく応対をお願いしたく…………」

「分かった、着替えをしたらすぐ行く」

「はっ!」

 起き上がったのかなは包帯を外し、服を着替える。その顔は紛れも無くマリー=マールの物だ。しかし、パウラは言う。

「お前、本当にマリーか?」

 のかなは睨みつけるように言う。

「私がマリー=マール以外の誰に見えるというのだ? あまり馴れ馴れしくするなよ、パウラ。お前は私と知り合い以上の関係ではないのだからな。もう見舞いも済んだろう。さっさと去ね」

 その言葉にカチンと来たのかパウラは苛立ったように言う。

「あぁそうかい。せっかく人が心配してきてやったのに心配しがいの無いヤツだよ、お前は。魔王でも何でも勝手になっちまえ、バーカ!」

 勢いよく閉められた扉を見てのかなは悲しげな顔をした。

(ごめん…………ごめんね)

 それは誰に対する謝罪だったのか。その答えも出さないまま、のかなは心に仮面を被り人の前へと出る。城の上から見える山のような人の数はマリー=マールという存在への期待の大きさと直結している。一度は破れたものの、再び蘇り絶対的な支配者に挑もうとする者。期待、憧れ、崇拝、欲望。向ける視線に秘められた思いは人の数だけある。

 のかなはあまりの事の大きさにしり込みするが、自分はマリーだと言い聞かせると言葉を発した。

「静まれ」

 あれだけ騒がしかった群衆がその一言で黙りこむ。魔力など込めなくとも、その存在自体に力がある。

「私の復活を知り、集ってくれた事を嬉しく思う。この中には純粋にそれを祝う者だけではなく、私を利用しようと企む者、寝首を掻こうとする者、私に成り変わろうとする者も居るだろう。だが、初めに一つ言っておく。したければするがいい、できるものならな。貴様らが臓物にいかなる悪意を潜ませていたとしても、それごと従わせるのが“王”。だが、元より言うがままに従う家畜など私は必要としない。この力に抗おうとせん者こそ我が元に集え!」

 瞬間、のかなの目が怪しく光り、群衆が跪く。マリーの持つ膨大な魔力によって放たれる『恭順』の魔法は屈強な男ですら頭を垂れずにいられない。多くの者が崇め奉るように地に頭を擦りつける。

 そこには悔しさという感情は一切存在しない。人間性やプライドを一切取り除いた『従う』という喜びのみが心に刻み込まれる。無条件で従う事こそが彼らの喜びであり、快楽なのだ。心の隙があるからこそ、何かで埋めようとする。それは悪い事ではない。悪いのは不完全に彼らを作った大いなる存在なのだから。

 だが、不完全な存在の中にもそれを良しとする者が少なくとも居る。敬意こそ見せても自己を保つ者。愚かな群衆を馬鹿にする者。元より過ぎた狂信を持つ者。力に興味を示す者。そもそもどうでもいいと思っている者。

 彼らはそれぞれの意思を持ち、城へと入っていく。時代さえ違えば彼らの事を人々は勇者と呼んだのかもしれない。だが、ここは裏の世界であり、今は力こそが正しく単純な方が喜ばしい。

 玉座に座るのかなに謁見した者は片手で数えられるほど僅かだった。むしろ、復活したばかりのこの時点では多い方だと言えるだろう。あまり数が多くとものかなには裁き切れる気がしなかったので逆に好都合だった。

「まず、軽く人となりが知りたい。各人、目的と求める褒美を語れ」

 そう言われて「僭越ながら」と前に出たのは金髪の騎士だった。いかにも良家の生まれというように整った顔をしており、その佇まいからは気品すら窺えた。

 彼はのかなの前で跪くと自分の事を語りだした。

「雷撃のハロルドと申します。ある国で騎士をしていましたが、今は見聞を広め自己を磨くために武者修行の旅をしています。あなたに仕える事で良い経験が出来ると考えました。目的は『自己研磨』、求める褒美は少しの路銀と新しい装備でしょうか」

 無難すぎる答えにのかなは少しつまらなそうに答えた。

「お前の働き次第でそれは叶えられよう。…………ふむ、次」

「なら俺の番だな」

 出てきたのは自分の丈と同じほどありそうな大剣を持つ隻眼の大男だった。鍛え上げられた体は鎧の上からでも己の強靭さを主張する。外見通り礼節など程遠いのか、のかなの前でも腕を組み不遜な態度を見せる。

「俺は竜殺しのカイツ。傭兵をやっている。戦う理由なんて掃いて捨てるほどある。褒美はくれるというのならなんでも貰う。お前はどこまで俺に払ってくれるんだ?」

 あまりに無礼な言葉に側近が怒りを露わにする。

「貴様!」

 それを手でなだめてのかなは笑う。

「くくく」

「…………何がおかしい」

 のかなは邪悪な笑みで心を見透かすかのように言う。

「私が世界一つをくれてやると言って、お前はそれを管理できるのか? 他者に侮られまいと威嚇するのも結構だが、まだまだ青いな。だが、それが良い。私はお前の事が気にいったぞ、褒美を取らす」

 ぱちん、と指を鳴らすと兵士が褒美として装飾の施された小刀を運んでくる。しかし、カイツは見向きもせずにのかなを睨みつける。

「どうした? 受け取らないのか? くれる物は何でも貰うのではなかったのか? この私がお前の価値を認めてやったのだぞ、もっと喜んでみたらどうだ?」

「………………」

 カイツは小刀を無造作に掴むとのかなに向かって投げつける。それは玉座の座る顔のすぐ横へと突き刺さる。そして大剣を抜くと、戦闘体勢を取る。兵士たちは応戦しようとするが、のかなはそれを止めると小刀を片手に立ちあがる。

「誰が相手でも虚仮(こけ)にされて黙ってはいられないか。くくく、まるで狂犬だな」

「オラァ!」

 悠然と立つのかなにカイツは踏み込み、大剣を振り下ろす。それを僅か半歩でかわしたのかなは続く薙ぎ払いの刃を小刀で軽々と受け止めると火花を散らせながら滑らせて一気に懐へと潜り込む。そして空いているもう片方の手でガラ空きのボディに必殺の一撃を叩きこむ。

太陽光の波動衝撃(サンライト・ストライク)!」

「ぐほっ!」

 黄金色の光の環が弾ける音と共に巨体が宙を舞って壁を破壊する。

「他者を落とさなければ自己を証明できない愚かさを恥じよ。さすればお前はもっと強くなれるであろう」

 乱れた服を整えたのかなは何事も無かったかのように玉座に座る。

「次の者」

 皆が困惑してざわめく中、一人飛び出した男は感涙極まったようにのかなの前に膝をついて祈りをささげた。

「さすがでございます、さすがでございます! あの愚かな蛮族を軽々と倒してしまわれるとはさすがは我が魔王でございます!」

「お前、名は?」

 ひれ伏したように男は地面に頭を擦りつける。

「ははーっ! 我が魔王に名を呼んで貰おうとは恐れ多き事、無礼ながらも申し上げますとワタクシは『ペドロ』と申します」

「ペドロ」

 名を呼ばれた事でペドロは恍惚の表情をする。

「はぁぁぁ! 我が魔王に名を呼んで頂けるなど何たる光栄。御身の復活を焦がれる思いで待ち望み、耐え忍んだ日々の全てが報われた思いです。初めてそのお姿を拝見した時からずっとお役に立つ事を夢見ておりました」

「お前の欲しい物はなんだ?」

「ワタクシの望みは全てが我が魔王の糧となる事でございます」

 それを聞いたのかなは淡々と言う。

「つまらんな」

「は?」

 絶望したペドロの表情を楽しげに眺めるとのかなは言う。

「私の役に立ってくれるというのに労わせてはくれぬのか? 私はそれほど器量の小さい人間ではないぞ」

「し、失礼しました。お許しをー!」

 のかなは優しく呟く。

「遠慮せずとも良い。お前は私に認めてもらいたいのだろう? 褒めてもらいたいのだろう? ならばそう言え。欲望こそ人間のエネルギィ。お前が私の役に立ってくれるというのなら、その分だけ聖母のような愛を注ごう。私がそうしたいのだ、分かるな?」

「ははーっ! ありがたき幸せ!」

 感動のあまり気絶してしまったペドロは兵士達に運ばれていった。そして現れるのは豊満な体付きの女。美人だが気の強さが顔に出ている嫌いがある。彼女は品定めするようにのかなを見るとくすくすと笑って言った。

「私ね、ケリィ・オズボーンって言うの」

「!」

 瞬間、ハロルドと兵士達が同時に動き、ケリィを取り囲んだ。その行動に眉をしかめたのかなは近くの兵士に問う。

「どうした?」

 焦ったように側近は言う。

「オズボーンとは『四邪神』が一体、オズボーン・マッドマンの事。それを名乗れるのは紛う事無き親族。つまり我らが敵。おそらく我らの力を恐れ、先手を打ってきたに違いありません!」

「ほう」

 のかなはにやりと楽しげに笑った。

「それがどうした?」

「なっ! マリー様!」

「彼女は我が配下になりたいと言っているのだぞ、その意思と実力さえあれば路傍の石でも私は従えよう。それが出来ぬのなら王を名乗るべきではない。そうだろう?」

 ケリィはにっこりとして言う。

「さっすが魔王様は話が分かる。私、パパに幽閉されてろくに外も出れないから退屈してたの。なんとか抜け出してみたらなんか面白そうな事しているみたいだし、参加しないわけにはいかないでしょ?」

 側近は辟易としたようにため息をつく。

「この女、オズボーンの娘だと? 己の存在の重大さを分かっているのか? 下手をすれば世界全土が争いに包まれるというのに…………」

「フッ、面白い。混沌こそ我が望み。では最後の者」

 先ほどの騒ぎにもまるで動じなかった黒いローブの者は何も言わずに不気味に佇んでいる。奇妙に思ったのかなが兵士に確かめさせようとすると不意に震えだしたローブはバランスを崩してその場に倒れ込んだ。

「いてて…………」

 どうやら子どもが底の高いブーツのような物と棒などを駆使して体躯を多く見せていたようだ。それだけなら特に問題はないのだが、その生意気そうな顔にのかなは見覚えがあった。

(げっ、るいちゃん)

 恭順の魔法はペドロのように元から心酔している者と深い友情で結ばれた者には効かない。だとしてもこの状況でここに居る意味がのかなにはまるで理解できなかった。

 動揺をなんとか隠しながらのかなは問いかける。

「き、貴様、どうしてここに来た?」

 待ってましたとばかりにるいは語りだす。

「職安に行ったらここの求人が出てたんだよ。アルバイトのつもりだったんだけどなんか正社員の面接とかち合っちゃったみたいでさ、そういう事なら事前に連絡してよって文句の一つでも言ってやろうかと思ってたらさぁ、そしたら入口で追い返されちゃったのよ。だから仕方なくこうやって変装して入ってきたの。すっごい大変だったんだからね!」

「…………おい」

 のかなに睨みつけられた側近は焦ったように言う。

「た、直ちに追い返します!」

 兵士に取り押さえられたるいが引きずられながら暴れる。巻き込むわけにはいかないのだとのかなはすまなく思うが、ふとるいの性格を思い出した。このまま変に私怨を残せば敵対勢力として現れる可能性が高い。そういう無茶をするのが佐下るいという人間だ。敵対する危険性を考えれば、多少危険にさらされるとしても手元に置いた方が安心できる。

 そう考えたのかなは口を開いた。

「待て、一つ聞きたい事がある」

「放せ、放せよこの野郎! …………うわ! 急に放さないでよ!」

 床に叩きつけられたるいは尻をさすると、少々怯えながら質問に答える。

「な、なんだよ。悪いのはそっちなんだからね、訴えたりしないでよ!」

「それはお前の態度次第だ。確かお前…………トランペットが得意だったな」

「そうだけど…………どうしてそれを?」

「この後、部屋に来い。お前がどんな鳴き声の鳥か教えてもらおう」

「そ、それって…………」

 何を勘違いしたのかるいは顔を赤くしてもじもじと「そ、そういうのってまだ早いと思う、第一女同士だし…………」と呟いていたが、のかなにそんな意図は無く、その頭はこれからどうしたものかという方針について考えるので一杯だった。

 紹介も終わり、志願者達は割り当てられた自分の部屋に行ったり、装備を整えにいったりと好きに行動をする。戦いが始まるまでのしばしの休息といった所だ。

 自分の部屋に戻ったのかなはベッドに倒れ込むと大きく息を吐いた。

(はぁ…………今回はなんとかなったけど、マリーの代わりはキツイよ。…………この先、私は『模倣者(エミュレイター)』に関わる者へと戦争を仕掛ける事になるのだろうか。でも、そうしなければことかちゃんへはたどり着けない。それに…………コンス、あいつにもだ。私の体が今この世界に無い事はなんとなく分かる。表の世界へと逃げたあいつを捕まえるには別の世界に干渉できるという『模倣者(エミュレイター)』の力を借りなくちゃ。マリーの仇を取り、私の体を取り戻すためにはきっと今まで以上に非情にならなくちゃいけないんだろう。私のしている事はマリーの模倣(エミュレイト)。けど、そこに何かが混じっている気がする。誰かを従わせる事、畏れられ崇め奉られる事。そんな事あるはずないのに、どこか懐かしいような気がする。私は何かを忘れてる。私は誰? 私は何者? ――――問うまでも無いか、私はどこまで行っても私なのだから)

 こんこん、と扉がノックされる。慌てて気を引き締めたのかなは声を作って対応する。

「な、何者だ」

「『私だよ、私。呼びつけておいて何言ってんのさ』」

「分かった。入っていいぞ」

 不機嫌そうな顔で部屋に入ってきたるいを見た瞬間、のかなは噴き出した。

「ぶはっ! あはははは! な、なにその格好!」

 おそらく気を利かせた兵士によって着替えさせられたのだろうが、るいは人形のようにフリルのドレスを着せられていた。普段のガサツさのせいかまるで品が無く、服を着せられた猫のように不格好だ。

「笑うな! つーかアンタ、さっきとキャラ変わり過ぎでしょ! オンオフ激しすぎ!」

「違うよ、るいちゃん。これが本来の私なの。よく知ってるでしょ?」

「いや、初対面だし知ってるはずもないでしょ。それともどこかで会ったっけ?」

 るいの鈍さに苦笑しながらのかなは言う。

「もう、るいちゃんたら。私はのかなだよ」

「のかな? えっと、私の知るのかなはパンク系ファッションの癖に物静かで何考えてるのか分からないようなヤツなんだけど…………」

「あっ」

 その時、のかなはここが表の世界ではないという事を思い出した。予想外にるいに会えた事が嬉しく、つい浮かれてしまったがここには誰一人として本当ののかなを知る者は居ないのだ。先ほどまでの笑顔もどこにいったのか、のかなは悲しげに言う。

「そっか、そうだよね…………。ごめん、るいちゃん。今の事は忘れて」

「…………なんだか訳ありみたいだね。話を聞かせてよ」

「だけど」

「嫌っていうの? そりゃないよ、“のかな”。私達は友達だろ? なら隠し事は無しさ」

「…………るいちゃん」

 何故、どんな世界においてもるいは元気付けてくれるのか。それはきっとるいには表も裏も無いからなのだろう。考えなしの愚か者だと言われても、草原に吹く風のように自由でどんなに時が経っても変わらない、色褪せない、その熱さは。どんなに迷ったとしても見つけ出して助けてくれる。佐下るいとはのかなにとってそういう存在だった。

 話を聞いたるいは少しも疑う事なく受け入れた。

「なるほど、別の世界か。こりゃまたずいぶん大変な事になってるね」

「うん。ことかちゃんの行方も分からないし、私の体も取り戻さなくちゃいけないし、問題は山積みだよ」

「そうかな? 私にとっては至極単純に見えるけど」

「どういう事?」

 にっ、とるいは楽しげな笑みを作る。

「この世界の全てを支配しちゃえばいいのさ。そうすれば友達も見つかるし、のかなも体を取り戻せる。名付けて世界征服大作戦だ」

「む、無茶苦茶だよ…………」

 困惑するのかなにるいは言う。

「のかな、これは可能性じゃない。私はお前の中に確かな力を見た。あとはやるかやらないかだ。お前に宿る力を信じろ。敵を打ち倒す武力ではなく、これから変わっていける可能性でもない。お前という存在の力を信じろ。誰になんと言われようとここに私とお前を繋いでくれたその力は本物だ。なら、やる事は決まってる。そうさ、いつだって私達にできるのはたった一つの選択だけ。『明日に向かって走る』ただそれだけだ」

 るいのそれほど頭の良い方ではなかったが、単純さ故か言動に嘘が無く、その言葉には人を惹き付けるような力があった。何の根拠も無い『ハッタリ』、しかしそれを自信満々に突きつけられるほど不思議と信じたくなってしまう。それを信じて人が行動し、嘘が本当になる。佐下るいはそんな不思議な人間であった。

 やってみよう、とのかなは思った。どんな困難でも自分達なら乗り越えられると思った。先ほどまでの心細さはもうどこにもありはしなかった。


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