表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編2:完璧なキッスをして
32/204

第一章 2

 どうやらマリーは住居と呼べる所には居ないようだ。スラム街の一角に入り込んだのかなが記された場所の近くまで来た時、誰かが揉めているような声が聞こえてきた。

「ま、待ってくれ、それを持っていかれたら明日からマリーはどう暮らしていけばいいのだ?」

「そんなの知らないね。こちとら事前事業じゃないんだ。“よしみ”だからっていつまでもなんとかなると思うなよ」

「そうだ。君のような甲斐性無しにはボク達はうんざりしている。力なき叫びなど無駄なんだ…………」

 揉めているのはマリーとその友人であるパウラとジャネットのようだ。何やら様子がおかしく、マリーから何かを取り上げようとしているようだ。理由は分からないが見過ごす事はできないとのかなはその場に踏み込む。

「待って!」

「なんだ? この女。あたし達は借金の取り立てをしてるんだ。邪魔すんなよ。あんたが代わりに払ってくれるっていうなら話は別だけどさ、そうじゃないんなら引っ込んでな!」

「………………」

 マリーの借金がどれほどのものかは知らないが、金持ちというわけでもないのかながおいそれと払えるようなものではないのは確かだ。せめてこの場は立ち去って貰おうとのかなは金目の物を探すがどうにも見つからず。騙すようで少し気が引けるが『創造』の力で作ったあのナイフを鞘に入れてパウラに投げ渡した。

「全部払えるわけじゃないけどそれをあげるよ、良い値段で売れるはずだ。私はマリーと話があるんだ。今日の所は帰ってよ」

 パウラは受け取ったナイフの妖艶な美しさを見て値打ちものだと理解し、それを簡単に渡してしまうのかなを金払いのいい人間だと思ったのか愛想の良い顔をした。

「へへっ、そういうので良いんだよ。よかったな、マリー。飼ってくれそうなヤツが見つかって、せいぜい気にいられるように媚び売っとけよ」

「社長さん、忠告しておくけどそいつは疫病神だ。まあ、わざわざこんな所まで来るって事は相当な物好きのはずだから余計だったかな?」

 二人は去り際にセリフを残すと悠然と去っていった。静けさを取り戻した所で憎々しげにマリーはのかなを睨みつけた。

「誰が助けてくれと言った? 情けをかけてさぞ満足だろうな。だが、それは驕りだ。マリーは助けてくれと言った覚えは無い。誰にも私は飼いならさせない。あいつらのように誰かに魂を売ったりしない。私はマリー=マールなのだぞ。お前が何者でも私は与する事は無い。分かったらさっさと()ね! マリーは他人が嫌いなんだ!」

 ぼろぼろの服を纏い、髪は乱れて肌は荒れて何日もろくに食べていないマリーの姿はのかなの知る物とはまるで異なっていた。瞳は荒みきり、まるで狂犬のように見る者全てに噛みつく。それでもマリーの持つパワーはまるで変わっていなかった。むしろ極限状態に置かれた事で凝縮された怒りが熱いマグマのように煮えたぎってそれを増大させているようにすら見えた。

 手を差し伸べたのかなは礼の言葉もなく噛みつかれた事に怒る事も無く、冷静に言い放つ。

「助けられたのにマリー=マールはお茶も出してくれないの? そんなケチな人物だとは思ってなかったな。まあ、いいや。どうせそんな小物じゃこんな大仕事はこなせないだろうし大人しく帰るよ」

「大仕事だと?」

 のかなが踵を返した所でマリーはそれを呼びとめる。

「待て。貴様が私の事を何と表わそうが構わぬが、力及ばずと勝手に決めつける事は許さん。誰に対して物を言っている。私はマリー=マールなのだぞ。不可能とは私が決める事で貴様が決める事ではない!」

 まずは話を聞かせろ、とマリーはのかなを招く。それでこそマリーだとのかなはにやりとする。自らの能力に絶対の自信を持つという所はここでも変わってなかったようだ。拠点であるテントに招かれたのかなはガスバーナーで沸かされたミントティーを差し出される。それを軽くすすった所で改めてこの空間の異様さに気付いた。所々に何かの式が書かれた紙が張り付けられ、この場所には不釣り合いな難解な本や論文が隅に積み上げられている。

「お前のような凡人には理解できんだろうが、これがマリーの再起する秘策だ。この方程式さえ完成されば借金など一発で返せるのだが、今日のあいつらと来たらこれを奪おうとしてきた。それを守った事だけは感謝してやる。ありがたく思うのだぞ」

(うーん、それって感謝している人の態度なのかな…………?)

 苦笑を漏らしたのかなはなんとなく張りつけられた紙を眺めていたが、やがて思いだしたように呟きを漏らした。

「…………あれ? これってもしかして人体融合の方程式?」

「なに!? 貴様、今なんと言った?」

 マリーに首元の服を掴まれたのかなは苦しげな声を漏らす。

「ぐぇ! …………だ、だからこれって人体融合の方程式でしょ? 今では禁止されてる錬金術系統の技術だ。二つの生物を融合してパワーアップなんていう単純な発想から生まれて多くの怪物をつくりだした悪魔の術なんだよ。幸い、これを使える人間はもう残ってないけどね」

「むむむ…………まさかこんな凡人に理解されるとは。貴様は一体何者だ?」

 ようやく自己紹介ができると首をさすりながらのかなは言う。

「私は桑納のかな。別世界の魔法少女だよ。訳あってベルテルスにコンタクトを取らなくちゃいけない。そのためにあなたの力を貸して欲しいんだ」

「魔法少女だと?」

 正気を疑うような視線を向けたマリーにのかなは『創造』の力を見せつける。それを見たマリーは疑いながらもある程度の理解を示す。

「なるほど、単なる狂人というわけではなさそうだな。ベルテルスに破壊されし『創造』の力、それが今一度我が手にできるなら手を貸すのもやぶさかではない」

「つまりそれって」

 口の端を上げて挑発的にマリーは笑う。

「私と融合しろ、のかな」

 予想通りの提案にのかなは困惑を隠せない。

「正気で言ってるの? 融合するとそれぞれの意識が違和感なく統合されるとしても、それは全く別の人間だ。第一、私は言ったはずだよ。人体融合ができる人はもう残ってないって」

「それは嘘だな。方程式の断片から即座に見抜くほどに精通した人間が使えない事があろうか、もし仮にそれが本当だとしてもこのマリー=マールなら理論さえ分かれば可能だ。さらに言うならその『創造』の力、おそらく『私』から盗んだ物なのだろう? ならば『私』に一言通すのが道理というものではないか?」

 鋭い洞察は腐ってもマリーと言ったところか。事実、のかなは人体融合こそできなくとも別の魔法少女と融合する技術を持っていた。しかし、それはシミュレーターではテストする事が出来ないために実地実験しか手段がなく、被検体も居なかったためにテストすらしていない。

 理論的には可能だと知っていても、人間を素材にして新たな存在を生みだすという危険性を無視する事はできなかった。

(一時的な融合のはずだけど、もしかしたらということもある。記憶障害が起きるかもしれないし、最悪反発しあって存在自体が消滅という事もある。そうなったらいくら私でも復活する事はできないだろう。そんな危険を冒すくらいならもっといいパワーアップ方法がある。わざわざこんな無茶をする必要は無いんだ)

 しかし、『創造』の力をのかなが使いこなせない以上、マリーとの融合は不可欠なのだろう。マリーが『創造』の力を持てばその力で先ほどのナイフなど目ではない価値の物体をいくらでも作り出せる。それが単なる魔力による幻想ではない事はのかな自身よく理解している。

 マリーを救うためには『創造』の力が必要だ。それを理解していても、融合の危険性と不安感は拭えない。おそらくそれはマリーの言う通りのかなが驕っているからなのだろう。救うなどと高尚な事を口にしても、所詮施しを与える自分に酔いしれているだけで身の危険が及べばそんな事など忘れてしまうような偽善者。

 それに気付いたのかなは自らの浅はかさを恥じた。そして、魔法少女としてマリーと融合する事を決意した。そこに迷いがあろうとも、後悔は無いだろうから。何かに怯えて情けなく生きるくらいなら、どんなに困難でも格好良く生きたいと思ったから。

「分かったよ、マリー。でも融合は一時的な物にするよ。それしかできないし、するつもりもない。できるだけ危険を避けるために記憶も意識も融合しない、混ぜ合わせるのは身体だけだ」

「うむ、それで構わぬ。マリーとてお前のような凡人の知識や意識など得たいとは思わないからな。むしろ願ったり叶ったりといった所だ」

「じゃあ、さっそく作業に取り掛かるよ。ちょっと資料と場所を借りるね」

「ああ、支障無い」

 マリーから人体融合についてのノートを受け取ったのかなはデバイスを起動してこの世界の法則に従って魔法を書き換えていく。その書き換えに問題が無いか確かめるためにのかなは試しに火の鳥を起動してみるが、特に不具合は見られない。どうやらこの世界の法則を完全に理解できたようだ。

 今度は人体融合のために地面に錬成陣を描いていく。理論的には波長を合わせれば触れるだけで融合する事も可能だが、なにぶん初めての事のために慎重に作業を進めていく。特にのかなのステータスはマリーと開きがあるため、取り込まれないように注意しなければならない。

 しばらく難しい表情でデバイスの画面とにらめっこをしていたのかなはやがて頷くとふぅ、と息を吐いた。

「できたよ。セーフティーを何重にも組み込んだから少なくとも肉塊になる事は無いよ」

「そうか、そうか。これでようやくマリーも再起する事ができるのだな。明日のパンに困る事の無い生活の何と素晴らしい物か。思わず泣けてくるぞ、マリーは」

 今までの苦労を思い、涙したマリーは顔を拭うと嬉しげに笑みを浮かべる。やはり気位の高いマリーに貧乏生活は相当堪えたのだろう。今ばかりは顔の険が少し和らいでいるように見えた。

「陣の中心に立って私と額を合わせて」

「こうか?」

「そんな感じ。精神の波長を合わせていくから深く呼吸をして集中して」

「うむ」

 のかなが目を閉じてマリーの波長を探す。その体から溢れる力で陣が起動し、二人の境界を消していく。何もかもが溶けていくような感覚、だがその中でもれっきとした自己があり、それらは混ざり合う事は無く、身体だけが同じになっていく。自らの体でありながら別の誰かの物でもある。不思議で奇妙な感触。まるでコントローラーが混線しているかのように互いに優先度は存在せず、五感だけが平等に伝わっていく。

 やがて一つとなった二人は新たな存在となり、衝撃と共に生まれ落ちた一人は自らの体の感触を確かめるように手を握ると、高笑いをした。

「ふ…………ふはははははは! 体に『創造』の力が満ちているのが分かるぞ! これこそがマリーの求めていた力だ! ここからマリーの歴史が始まっていくのだ! はははははは!」

 その脳内で呆れたような声が響く。

「『私の声で悪役みたいな事を言わないでよ。恥ずかしいじゃんか』」

「ふふふ、気にするな。深く知れば悪もそう悪いものではないぞ。…………ふむ、どうやら感覚を共有しているようだな。『創造』のコツを教えてやるのは少々惜しいがどうせ今の私には意味が無い。せめてもの礼だ――――力の使い方を教えてやろう」

 マリーは虚空に手を差し込むとそこから水晶玉のような物を取り出す。その中では小さな宇宙が輝き、膨大な力が凝縮されている事が分かる。

 そこからほんの少し力を引きだすと目の前に金塊を始めとする宝の山が現れた。無論、まやかしなどではなく新たな世界から持ってきた紛れも無い現実。『創造』とは神の力であり、単純な物体を生みだす程度の作業に思考などするまでもない。

「俗っぽくてすまんな。貧困は天才を凡人に変える。まずは借金を片づけたかったのだ。この『銀河水晶』は『創造』の力を可視化したもので無くてもいいのだがあった方がイメージは楽になる。これ自体も力を持っており、使い方を知っていればちょっとした願望機くらいにはなるだろう。そうだな、七つくらい集めれば簡単な願いが叶うかもしれんな。私は試した事は無いが」

 外へと出たマリーは空高く飛び上がると品定めするように地上を見渡した。そして「ここで良いか」と独りごちるとその地点を跡形も無く吹き飛ばした。

「『ちょっ! 何やってるの、マリー!?』」

 悪びれる事もなくマリーは言う。

「復活は派手にやらなければな。愚か者共には分からん。これから空き地に城を建てるのだが、どんなデザインにしようか。城内兵は無難にデーモン、リザードマン、デュラハンにしようと思っているがワーウルフなども捨てがたい。ただ動物系は抜け毛がな…………。うーん、どうしたものか。のかな、お前はどう思う?」

「『勝手にしてよ…………。半分は私の仕業なんで頭が痛い状態なんだからさ』」

「ふっ、まだまだ甘いな。ベルテルスに謁見しようというのならこの世界を支配する気でなければならんぞ。奴らと来たらまるで面倒くさがりの引きこもりだ。領地を半分ほど支配されてやっと動くなど領主の風上にもおけん。逆に言えばそれだけやらなければ奴らと接触する事など不可能だと知れ」

 話をしながらもマリーは作業を続け、見るからに禍々しい城を作成すると辺り一帯の地形を自分好みに書き換えてしまった。その豪快な力の使い方にのかなは圧倒されるばかりだったが、それだけではなくその力の使い方を一瞬も見逃すことなく学習していった。

 城に入ると凶悪なモンスター達が赤い絨毯の横で列を作り跪いて頭を垂れていた。そこを悠々と通って玉座に座ると懐中時計を取り出し、残念そうに呟く。

「もう終わりか。楽しい時間はすぐ過ぎてしまうものだな。だが、侵略に必要な物は全てこの城に内包した。特別な力など無くとも私の英知とそれらの道具があれば事足りる。――――感謝するぞ、魔法少女。このマリー=マール、全力を持ってその恩義に答えよう」

「『ああ、うん。そうだね…………』」

 この短い時間で多くの者の怒りを買っただろうと考えると、マリーに頼ったのは間違いだったのではないかとのかなは思わない事もなかった。

 融合時間の終了が近づいたのでそれなりに広い場所に移動する。狭い所だと別れる時の反発力で壁に激突する事もあるからだ。やがて眩い光に包まれた少女は二人に分裂した。特に滞りなく融合は終了した…………かに見えたが二人がお互いの顔を見た時、それは驚きに染まった。

「あれ? え? えええええええ!?」

「マリーの顔で馬鹿面を晒すな、無礼者」

 頭が痛いと目頭を押さえる顔は桑納のかなの物であったが、その態度は紛れも無くマリー=マールの物であった。

「どうやら分離に失敗してしまったようだな。それ以外に問題は無いのが幸いか。また融合するのか、それともこういう時は頭でもぶつけあえばいいのか? 魔法少女よ」

「ちょっと待って、デバイスで式を確認してみる」

 マリーの顔でのかなは黙りこむ。

(…………おかしいなぁ、どこも間違ってないはずなのに。何がいけなかったんだろ。融合は上手くいったから問題は無いみたいだし、身体の方も大丈夫だ。精神だけが分け間違えるなんて、そんな事ありえるんだろうか。普通なら空っぽの器である肉体に引き寄せられるはずだし、まさか何か別の魂が入りこんだなんて事があるわけが………………あっ!)

 のかなは自分の中に『コンス』という存在が居た事を思い出す。その精神が換算されていなかったために分離が上手くいかなかったのだ。急いで自分の中に『コンス』の中の存在を探すがそれは見つからない。つまり、今『コンス』はマリーの精神と共にのかなの体の中に居るという事になる。

 それを理解した瞬間、マリーの様子がおかしくなる。

「なんだ、体の中に何かが…………。うっ! 止めろ! マリーを食べようとするな! マリーはおいしくない! そんなとこ齧るな! 止めろ、お願いだから止めてくれ! 助けて……―…のかな、助け」

「マリー!」

 駆け寄ったのかなをマリーは力任せに振り払う。地面に転がったのかなはマリーが邪悪な笑みを浮かべるのを見た。

「――――あらあら。駄目よ、私の事を忘れちゃ。寂しくって意地悪したくなっちゃうじゃなぁい?」

「コンス…………!」

 のかなに巣食う闇『コンス』。その戦闘力はまるで才能の無いのかなの体でも計り知れないものがある。それを押さえこむ事ができたのはのかなの中に闇を浄化する『サニティシステム』があったからだ。

 しかし、今はマリーの体となっているのかなにその力は存在しなかった。代わりに素晴らしい魔法の才覚を秘めたマリーの体があるがこの世界のマリーに魔法制御回路は無い。つまり、才能はあれども魔法は使えないという事だ。そこに『創造』の力が無ければのかなは非力な存在と何ら変わりが無い。

 コンスがおもむろにナイフを取り出したかと思うと次の瞬間にはのかなの目の前に移動していた。驚くのかなを楽しげに眺めながらその切っ先で服を切り破ると、肌に軽く突き刺して血をにじませる。

「…………っ!」

 コンスは自らを振り払ったのかなを見ながらナイフに付いた血をちろりと舐めとる。

「うふふふふ、非力過ぎて泣けてくるわけねぇ。悔しげなその表情が最高だわぁ。さあ、ここよ鬼さん。私を捕まえてごらんなさい」

「くっ、ふざけるな!」

 のかなはいつものように拳を繰り出すが、相手の動きを見切れない事に気付く。人間を越えた反応速度も別の体では適応されない。軽く受け流され、腕を切られて血を流す。それは皮を切る程度でまるで殺す気が無いと分かるが、だからこそ遊ばれるという事実がのかなを苛立たせる。

「はぁはぁはぁ…………!」

「もう終わり? 早いのねぇ…………」

 不死炎という回復能力無しではすぐに息切れしてしまう。思い通りに体が動かない事に苛立ちを覚えたのかなは唸りを上げる。

「ウ、ウウウウウウウ!」

「なにそれ、狼の真似事? そんな事をしてもどうにもならないわよ」

 吼えても何も変わらない事は分かっていた。普段ならそんな体力を消費するだけの無駄な事はしなかっただろう。だが、今ばかりは炎のような怒りが身を焼き、叫ばずにはいられなかった。

「おおお…………!」

 思考にフラッシュバックが起きる。空を飛ぶ鳥に手を伸ばし、届かないむなしさ、怒り。踏まれた花。照りつける太陽。黄金のかぶと虫。草原の駆け抜けていく自分の息使い。切りつけられた月が血を流す。ゴミ捨て場のテレビの山がくだらないニュースを映す。交差点を急ぎ足で行く人々。

「おおおおおお…………!」

 翼をもがれた鳥。人を殴りつける拳。切り刻まれたキャンパス。落ちてくる隕石。誰も居ない電車。緑色の宝石。白黒のテレビ。糸の絡まった操り人形。鳥が空を飛んでいく、手は虚空を掴む。

「おおおおおおおお…………!」

 変化していく、魂の形に合わせて。それこそが自らを規定(パラダイム)する証。奇跡と呼ぶべき意思。不可能を否定(NO)し、新たな未来を形作る魔法。知っている、この輝きを。どんな状況からでも蘇り、最後には逆転するその名前を。

「私は! 魔法少女だ!」

 のかなは全身から血を噴き出す。無理矢理に魔力を体に循環させたために致命的なダメージを負う。だが、そのお陰で魔法を使うための回路ができた。出血多量ですぐに死せるがこの一瞬だけは体に宿る膨大な魔力を持って最強の一撃を打ち出す事ができる。

「精神を肉体に転写した!? まさかここまで…………!」

 驚愕と戸惑いというコンスの見せた一瞬の隙を見逃さず、のかなは強烈な一撃を打ちこむ。

落陽の波動衝撃(サンダウン・ストライク)!」

 極光の輪が伝播する奇妙な音と共に威力が発生し、コンスは吹き飛ばされる。なんとか受け身を取りナイフでの防御にも成功しているものの、刃は完全に砕かれ、そこを伝った衝撃はその手を食い破って赤く染めていた。

「…………迂闊だったわ。どんな形でも『伝説』は変わらないのね。予想外の事で驚いたけど、まだまだ楽しませてくれそうじゃない」

 力尽き倒れたのかなを楽しげに見つめるとコンスは踵を返した。

「また会いましょ。今度は独りよがりじゃなく、私を感じさせてくれることを期待するわぁ」

「待て……コ……ンス…………」

 暗くなる視界の中でのかなは手を伸ばすが、自らに駆け寄ってくる二つの足音と焦った声を聞きながらやがて血だまりの中で意識を失った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ