第一章 1
魔法少女仲間であることかが凶弾に倒れたというニュースは桑納のかなを病院へと走らせた。ごく最近は特にいざこざも無く安定していた所にこれとは世の中何が起きるか分からない。警戒していなかったとはいえ、実力者であることかがやられてしまうとは相手も相当の使い手である事が窺える。
走った事で切れた息を整える暇もなく病室へと飛び込んだのかなは変わり果てた友人の姿を見て言葉を失った。ことかの瞳は虚ろでまるで人形のようにそこに佇んでいた。廃人と呼ぶに相応しく、そこには一筋の希望すら窺えなかった。
ことかのお付きであるアリスタは言う。
「僕が発見した時にはもう…………」
のかなの魔法は死人すら蘇らせるほどの力を秘めているが、それを持ってしても手の施しようがなさそうだった。今のことかからは何か大切な物が失せてしまっている。有り体に言うなら人の魂にあたる物が抜け落ちてしまっている。いかに神に等しい治癒能力を持ってしてもそれだけは補う事はできなかった。
友の実質的な死を目の当たりにしたのかなの胸中は意外にも穏やかだった。あまりに唐突過ぎてまだ脳が理解できていないのかもしれないが、心のどこかでことかが生きている事を感じ取っていたのだ。目の前に死に体を突きつけられても、のかなは蜘蛛の糸のようなものが自分とことかを繋いでいる事に気付いていた。常人なら信じられるわけもない幻想を魔法という奇跡の使い手だからこそ信じられた。
「犯人は分かってません。ただ、魔法の使い手ではないみたいです」
躊躇いがちにアリスタは言う。
「桑納様は『模倣者』という言葉をご存じでしょうか?」
のかなは首を横に振る。
「いえ、知らないのならいいのです。おそらくこの問題は僕達にしか解決できないでしょう。桑納様の手を煩わせるまでもありません。お気になさらず、そしてこの事は他言無用に」
こくりとのかなは頷く。
「ありがとうございます、桑納様。ことか様の喪失は勢力圏に大きな影響をもたらしますので、しばらくの間は秘密裏にしたいのです。そして不届き者の処理もしなければならないので」
穏やかな顔で語るアリスタはやはり自分とは住む世界が違う人間なのだとのかなは感じた。元々、ことかはのかなとは異なるタイプの人間であった。表と裏、正と邪とでも言うような、同じ世界に身を置きながらまるで違う生き物なのだ。本来なら出会うはずもなく、いつ道を違えても不思議ではなかった。
出会ったのが突然ならば別れる時もまた突然なのだろう。それは少し寂しくもあった仕方のない事だとのかなは理解した。しかし、同時に別れに納得ができないのなら気が済むまで抗ってみようとも考えていた。例え現実がどれほどの困難を叩きつけてきたとしてもそれが自らの意思で選択した事ではないのなら従う必要はない。それができるだけの力を自分が持っているという事をのかなは今までの戦いから学んでいた。
病院を後にしたのかなは日常へと戻っていく。敵と呼べるような存在に平和を脅かされるような事もなく、学生として忙しく日々を過ごす。それは満ち足りた生活であり、のかなが魔法少女であるという意味を消していく。
ことかという存在の消失も時の流れと共に慣れていく。人は忘れていく生き物だ。そうでなければ積み重なる思い出に潰されてしまうだろう。それでものかなは例えこの世界に力が不要なのだとしりつつも、一度牙を手にした者がそれを砥ぐことを忘れてしまえば遠からずその闇に飲まれるとして鍛錬を怠る事は無かった。
(私にできる事はいつも同じ。延々と奏を積み上げる、ただそれだけ。でも、最近なにかが変だ。何かが歯車が噛み合ってないような、まるでここが別の世界であるかのような…………)
疑問は時間と共に増大していく。しかし、それが何なのかまるで理解ができない。おかしいと分かっているのにどこから狂っているのか今の状態では知る事ができない。おそらく、あまりにも問題がマクロ過ぎているから。所詮、人間の身では何が起こっているのかも理解できないのだ。
「のかなはアンダーワールドって信じる?」
不意にのかなの学友である佐下るいが言った。落ち着きのなさそうな雰囲気を持つ彼女はテレビや雑誌の影響を受けやすくミーハーな所がある。今回もまたどこかから影響を受けてきたのだろう。もう一人の友人である鐘紡ぐり子に言わせれば「単純」といった所だ。
るいはさも得意気にどこかで聞いた言葉を語りだす。
「この世界の裏側にコトワリから外れた奴らの集う場所があるんだってさ。そこには現実の私達と少し違った『虚像』とも言える存在が居るんだって。どんなヤツだと思う? もう一人の私は。きっとのかなは呑気だから裏世界でも変わらないんだろうね。だって月は満ち欠けをするけど、太陽はいつも同じ姿をしているんだもんな」
それは見せかけだけで天体はいつも同じだよ、とのかなが返すとるいはつまらないとでも言うようにため息をついた。
「ロマンが無いよ、のかなは。ほら、ぐり子を見てみなよ」
言われるがままにぐり子を見るとそこにはノートに美青年を描く姿があった。どうやら上手く描けたようで自己陶酔に入り夢を見るようにため息をつく。
「星の王子様、あなたは一体どこに居るの? 早く私を迎えに来て…………」
のかなの知るぐり子はかなり強烈な現実主義者であり、そんな非力な乙女のようなセリフはもっとも嫌うものだろう。確固とした自我を持ち、いかなる状況でも冷静に対処するのがぐり子のアイデンティティーであり、他人が見ている所で気を緩めるはずはないのだ。
言いようのない違和感にずきん、とのかなの頭が痛んだ。視界が歪み、吐き気がする。るいの存在がおぞましい怪物のように感じられる。
「ねぇ、大丈夫? 調子が悪いんなら家まで送るよ?」
問題ない、とのかなは返す。最近るいはトランペットに凝っているらしい。そこから出した音符に人を乗せたくてたまらないのだ。プロならともかく素人の物に乗るのはいくら魔法少女であるのかなでも遠慮しておきたいものだ。
少しでも頭痛を和らげるためにのかなはスノコの上で横になるがここには大豆が無いために効果は無いようだ。せめてダイオウイカでもあれば少しは違ったのだろうがここはバス停であるのは仕方のないのだろう。
のかなはマリーから拝借した力によりナイフを作りだすと、道端を歩くペンギンのネクタイの根元を切り始めた。ネクタイを失ったペンギンはコウゼンワイセツでしょっぴかれて行った。当然の結果だ。彼らが悪いのではない彼らの存在が悪いのだ。でも、彼らは変わろうとしないので結局彼らが悪いのだ。
自らの家へとたどり着いたのかなは庭に咲く花に気付かれないよう家の屋根へとよじ登って窓から自分の部屋へと入った。同時に鞄を窓から放り投げると壁に寄りかかっている水色で星の模様のある熊が立ちあがって机の上の消しゴムを食べた。するとどんどん大きくなって家を突き破ってしまった。このままではニッショウケンのサイバンに負けて一文無しになってしまうだろう。こうなったらもう死ぬしかない。のかなの目に金属光沢の銃が映った。それを拾い、こめかみに銃口を当てる。
(…………い)
瞬間、死を感じとったのかなはその生存本能により自己の優先度を世界より高く置いた。そのおかげで段々と狂っていた物が分かるようになってくる。この世界の自分以外の全てがおかしかったのだ。のかなの自分だけが正しいと驕るエゴを押しつぶそうとする世界の力が文字となって襲いかかる。
『君は幸福か? 君は幸福か? 君は幸福か? ならばイキタマエ。なんだ、君は幸せではないのか? ならばシニタマエ、シニタマエシニタマエシニタマエ。君の人生とは薬物中毒者がトリップしている妄想なのだよ。だから存在価値などアリハシナイ』
(やっぱりおかしいよ…………)
『花に見つかってはいけないよ、彼らは何でも欲しがるからね。花を見てはいけないよ、彼らは何でも自慢するからね。もし、彼らの言葉を聞きたくないのなら塩水を持つといい、しょっぱいから飲むと元気がデル……………』
(この世界は『正常じゃない』。いや、世界にとっては私こそが『正常じゃない』のかもしれないけど…………)
人を模倣する怪物。どちらの世界においても同じ顔を持つ。それは強者の証明。時と場合で顔を使い分ける必要の無い絶対的な存在。逆に顔を持たず、誰が見ても同じに見えるのならばそれもまた…………怪物。
(元から私は“フツウ”じゃないよ)
銃の引き金が引かれる。それと同時にのかなの左腕から溢れだした力が顔の無い怪物を作りだし、弾丸を掴み取る。
(だって魔法少女だからね。ありがとう、スケィリオン)
スケィリオン。重さを持つ『スケィラ』を集める事により生みだされる無限の力を秘めた怪物。その力は限りが無いとされるがコントロールは困難を極め、五秒程度しか安定させる事はできないという弱点を持つ。さらに専用の装備ではなく左腕の生体電流で操作しているため、溜まった熱量を放出する時間が必要であり連続使用はできない。
改めて異様としか言いようの無いこの場の風景を一瞥したのかなは自らがどうしてここに居るのかを推測した。
(ことかちゃんの病室から出た時に引きずりこまれたみたいだね…………。ここが自身の影の住む裏世界だとするならばここの私と入れ替わりで来たはずだ。ここの私がどんな人間かは知らないけど、今の私みたいに世界にとっては『おかしい』事になってるんだろうなぁ。ううっ、帰るのが今から憂鬱だよ…………)
一体いつから正気ではなかったのか。それを知る術は無いが、ともかく多くの時間を無駄にしてしまった事は間違いない。自分がここに来たのはおそらくことかの意思によるものだろうとのかなは考える。表の世界では廃人となってしまったことかもこの世界では別の形で存在しているはずだ。それを探す事を主な目標にすべきだろう。
(右も左も分からないこの世界で人探しは無謀だ。誰かの力を借りられたらいいんだけど…………)
助っ人のアテは無いこともない。この世界においても佐下るいはのかなの友人であり、取りあえず話が通じる。それは表のるいが常識知らずであるからこのおかしな世界では返ってまともなのだろう。逆に現実主義のぐり子は目も当てられない事になっている。
どうやらこの裏世界では一部のバイアスが逆になるようだ。現にのかな自身も鎮圧者としての魔法少女の側面が一般人に危害を加えるように変わってしまっていた。しかし、それ以外は表のままだ。そう考えるとこの世界の一般人のるいに頼るのは少々荷が重すぎる可能性もある。『模倣者』という存在があのことかを廃人にしたのだと考えるとかなりの実力者である事は間違いなく、戦闘になった時のためにもっと強い仲間が必要だ。
まず、のかなが思いついたのは望夜めろんの事であった。自他共に認める最強の魔法少女であるめろんはのかなの良き友人だ。魔法少女としてあまり優れたものではないのかなを差別せず、その自信に溢れた態度は不安になりがちなのかなを勇気づけてくれる。
めろんの協力を得られればそれだけで事態はほぼ解決したも同然だろう。それほどまでに彼女の力は凄まじい。逆に言えば彼女が敵に回ればそれだけで事態の解決が困難になるということでもあるが。この世界でも協力的な人格であればいいが、そうでなかった時を考えると不用意に接触すべきではないだろう。
頼りになりながらものかなの能力で対処できそうな魔法少女と考えると落ちこぼれの身としては厳しいものがある。やはり少々無茶でも接触してみるしかないのだろう。
そう思ったのかなは変身デバイスを取り出すと駄目元でこの世界のことかへ、その後めろんへとメールを出した。通話する事もできたが、相手の状態が分からない以上直接話した方がいいと考えた。返事が来るまでしばらく時間がかかるだろうと思ったのかなはその間に装備を整える事にした。
そのために変身しようとしたのかなはデバイスがエラーを起こしている事に気付く。どうやらこの世界では表の魔法は使えないようだ。世界の法則が違うのだから当然と言えば当然だが、こういう時に精密故の脆さというものを実感する。
基本武装である火の鳥の札も使い物にならず、魔法陣はただの落書きのようだ。唯一使い物になるのはマリー=マールから盗み取った『創造』能力くらいだ。これはのかなに巣食う闇である『コンス』という存在の力によるものなので一般的な物とは法則が異なっているのだろう。のかながマリーから奪い取った能力が使える事に気付いたのは月での戦闘からだが、本来万能の力であるそれものかなの非力さにかかればナイフ一本生成するのが精いっぱいだ。
幸い、のかなは武装した相手に対抗するために一通りそれらを扱う技術をシミュレーターから学んでいたので無駄にはならないがどうにも格好がつかないという感もある。せめて伝説級の武具でも生成できれば良かったのだが、無い物をねだっても仕方ない。
この名前の分からないナイフも良く見れば蒼い刃が美しく、この世界では太陽の代わりに輝いている月の光を集めて振れば闇を切り裂いて淡く光の軌跡を残す。無機質な刀身はため息が出そうなほどに綺麗でずっと見ていても飽きないような魔力を秘め、どの角度からでも刃に映り込む白い月を生物の血で紅く染めたいと持つ者に思わせる。おそらく妖刀の類である事には違いなく、のかな自身、精神浄化装置が自らに組み込まれて無ければ正気を保てないだろうと思う。
これを平然と扱う『コンス』の恐ろしさを改めてのかなは感じる。のかなを苦しめる事を生き甲斐だと公言するそれは得体のしれない『影』の力とそれによって奪い取ったのかなの記憶を持つ。宿主が死にかけた時は助け舟を出すくらいの甲斐性はあるが、その恩恵を考慮してものかなにとっては取り除きたい目の上のたんこぶである。
ともかく、マリーの力が『コンス』による恩恵である以上、いつ使えなくなっても不思議ではないのでのかなは最低限の覚悟と共に予備兵装として先ほど自害に使った銃に弾が残っている事を確認して拾っておく。それほど銃の扱いは上手くは無いが何かの足しにはなるだろう。変身ができないため、タンスにしまっていたお手製の魔法少女の服を引っ張り出し、バッグに詰めておく。表とは違い、その服は小悪魔風味だったが贅沢は言ってられない。むしろこの世界ではこれがあっているのだから現在着ている私服のパンク系デザインも含めて受け入れるべきなのだろう。
のかなの準備が終了すると共にめろんからメールが返ってくる。そこには短く「あなたは誰?」という疑問と「私を呼びつけるなんていい度胸だね」という不安を感じさせる文面、さらに「今、行くよ」という文字が風を伴って僅かに残っていた家の二階部分を吹き飛ばした。
(くっ…………! これは)
嵐のような風が止み、どこからか聞こえてきた笛の音にのかなが目を開けるとそこには電柱の柱に立ち笛を吹く一人の少女の姿があった。彼女は笛から口を話すと威圧するように言う。
「私は『破壊者』望夜めろん、その本質は『自在』。そんな私を縛りつけるあなたは誰?」
「私は桑納のかな。表の世界の人間だよ。不躾で悪いけど『道下ことか』という人と『模倣者』についてなにか知っていたら教えてほしい」
「『道下ことか』……表の世界でのベルテルスの名前だね」
「知っているの?」
当然のようにめろんは言う。
「『概念を統べる者』ベルテルス。この世界でその名を知らない者は居ないよ。『模倣者』という支配者階級においてもその力は絶大だ。平民にしか見えないあなたには雲の上の存在のはずだけど、一体何の関係があるの?」
「ことかちゃんは私の友達だよ」
迷いなく言ったのかなにめろんは感心を示す。
「ふーん、『模倣者』の友人…………なるほど、これは面白いかも。道理で私の前にしても物怖じしないわけだよ。単なる狂人のように見えて中々…………」
「ことかちゃんが『模倣者』? 『模倣者』って一体何なの?」
歌うようにめろんは語る。
「『模倣者』、それはこの世界の支配者を表わす言葉。天を裂き、地を震わすほどの力を持ち神と例えられるような存在。ここではない別の世界に介入し、争いを呼ぶ傲慢な貴族。その代償としてここでは無い世界での写し身が死ぬとその世界に魂を引っ張られてしまうと聞くよ。逆はどうなるのか分からないけど、おそらく同じ事が起きるんじゃないかな?」
(だから表のことかちゃんがあんな事に………………)
めろんの話で今のことかの状態に説明がつけられる。つまりこの世界でベルテルスに何かがあったと考えて間違いは無いだろう。ことかと連絡が取れないのは気がかりだが、無事で居て欲しいとのかなは願う。
表情からそれを読みとっためろんは意外そうに言う。
「正直こんな事は初めてだよ。私が狂人の言う事を信じてしまいそうになるのは。あなたは単にイカれているだけじゃないみたい。別の世界なんて眉唾だと思っていたけど、こうも見せつけられると妙に真実味が出てくるね」
のかなに近づくとめろんは悪い笑みを浮かべる。
「『模倣者』同士の争いには興味は無いけど、あなたには興味が出てきたかな? どうやらこの世界については何も知らないようだし、戦いはしないけど道案内として付いていってあげるよ」
「望夜さんが?」
これはのかなにとって予想外の事だった。めろんの他者に対して友好的なバイアスはこの世界では逆になっているように思えたからだ。しかし、めろんは好奇心が強く興味を持った物事には好意的な反応をする所があるのでそれが変わっていないという事なのだろう。
それでも表とは違い、飽きられたら義理も情も無く捨てられるという容赦の無さを持ち合わせている事には変わりないが、めろんの言葉はのかなには嬉しいものだった。
「不満かな?」
「ううん、十分過ぎるくらいだよ。よくて情報提供程度でまさか協力してくれるとは思ってもみなかったから」
「でも、馴れあいをするつもりは無いよ。私は縋られるのが嫌いなんだ」
「分かってるよ。きっと表の望夜さんも同じ事を思ってるだろうからね」
それを聞いてめろんは呆れたように言う。
「表の私と知り合いだったんだね。道理で気易いわけだよ。全くの別人だっていうのに。でも普段なら一瞬で消し飛ばしてる無礼さだというのにそんな気になれないのは無意識に影響を受けているのかな? なら、お決まりとして一応聞いておくよ――――表の私はどんな人間?」
少し考えたのかなは端的に表わす。
「理想の魔法少女…………かな?」
「は?」
ふざけているのかと威圧するめろんにしどろもどろしながらのかなは言う。
「え、えっと、向こうでは魔法少女が傭兵的な物として一般的ではないけどあって、私と望夜さんは同じ魔法少女仲間なんだ。まあ、望夜さんに比べれば私なんて全然なんだけどね」
合点がいったとめろんは言う。
「ふーん、想像通りだね。別世界でも私ならあなたのような平凡な顔の人間に劣るはずがないもの。けど、二人もの私が目を付けたのならあなたも少しは見どころがあるって事だから自信を持っていいよ」
「ははは…………」
(こっちのめろんちゃんは本当に歯に衣を着せないんだなぁ…………。上手くやっていけるのかちょっと心配かも。…………って、ちょっと待って)
ふと、のかなはめろんの調子からこの世界に魔法少女という存在が無い事に気付く。ならば、どうしてデバイスのメールが届いたのだろうか。その疑問をめろんにぶつけると何かの葉のような物をポケットから取り出した。
「これは伝書草。所々に生えているこれは念を込めると別の場所に居る誰かへと言葉を届ける事ができるの。電波で送る研究もおこなわれているけど、まだ実用的じゃないよ。そういう意味では中々凄い物を持ってるみたいだね」
「変身という本来の機能が使えないけどね…………」
「できないとなにか困るの?」
「私の場合は変身できなくてもそれほど戦闘では問題無いけど、やっぱり締まらないし何より変身しないと多分誰も私が魔法少女だと分からないと思うし…………」
自分で言ってむなしくなってきたのかなはため息をついて話題を変える。
「とにかく、ことかちゃんを探さなくちゃ。望夜さんはここ最近でベルテルスについての噂とか聞いた事はないの?」
「うーん、ちょっと心当たりは無いかな。強力な『模倣者』に何かがあったとすればそれは勢力図に大きな影響が出るから情報統制が厳しいんだ。ベルテルスといえば他の三体と合わせて『四邪神』と呼ばれているからそこを当たってみるのもいいかもね」
「『四邪神』?」
「『概念を統べる者』ベルテルス、『世代の代弁者』ジマーマン、『オールナイトロング』ブロックマン、『プリンスオブダークネス』マッドマン。これらは単なる敵や味方では言い表せない関係にあって一言で語るのは難しいね。でも、その中の誰かの目に留まればそれを利用してベルテルスにコンタクトをとれる可能性はあるよ」
「じゃあ、今からでもその内に誰かに会いに」
ぴしゃりとめろんは断言する。
「無理だね。相手はこの世界の支配者であり貴族。いくら自称知り合いと言っても平民のあなたじゃ彼らに謁見する事はできないよ。私ならできるけど、そういう風に使われるのは嫌いだって事を分かって欲しいな」
「そっか…………。じゃあ、どうすればいいかな?」
「武功を上げるとか、信徒として多くの信仰を集めるとか、色々あるけどちょっとあなたには難しいかもね」
「信仰集めかぁ…………、マリーとかならそういうのが得意そうだけど」
のかなの呟きを聞いてめろんは意外そうな顔をする。
「ん? それってマリー=マールの事?」
「知っているの?」
「まあね。彼女は有名人だから。『創造』能力を持つ強力な存在で何も無い状態から一気に神の座までのし上がったんだけどベルテルスの怒りに触れて滅ぼされちゃったんだ。今も再起の時を待ってるらしいけど、『創造』能力も消えちゃったらしいし噂では日々の生活にも困るあり様らしいよ」
おそらく表のマリーをのかなが倒した事によって裏も同じような事になってしまったのだろう。それでも待遇が違うのはマリーの『裕福度』のバイアスが逆なせいなのかもしれない。マリーが悪いとはいえ、自分に原因が無いとは言い難いのかなには彼女が少し不憫に思えた。
「マリーと話ができないかな? そうなったのには私も関係があるだろうし、放っておけなんだ」
「それは難しくは無いと思うけど、同情は為にならないよ。何せ彼女には借金があるからね。溺れる者は藁をもつかむ。優しさと甘さは違うよ。引きずり込まれないようにね、狂人さん」
関わるべきではないというのは分かっていた。しかし、その現状を知っていて見捨ててしまうのは魔法少女として何かが違うとものかなは思った。
「情けは人のためならずとも言うよ、望夜さん。そう簡単に切り捨てたくないの。それに私は魔法少女だからさ、救いたいなら救っていいと思うんだ」
「ふーん。その甘っちょろい感性、私には分かんないや」
のかながデバイスによりマリーにメールを送ると現在位置を送ってきた。それに従ってのかなは移動をする。魔法少女でなくともめろんは空を飛べるようでのかなの遅さに文句を言ったが、これも一興かと自分で納得を示した。




