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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
始まり編:不死炎の魔法少女
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第一章 3

(ぎ、ぎりぎりセーフ………)

 なんとか学校に間にあったのかなは疲れを吐きだすように大きく息を吐き、気合を入れるように自分の頬を叩いた。

 いつもと変わらない表情で教室に入り友人の二人と他愛の無い話をして、授業中はめろんと何を話したらいいかということを考えて過ごした。時に今朝衝突してしまった少女の事を思い出して暗い気持ちになることはあったが、おおむね幸せな気分の続く一日であった。

「のーかな」

 昨日の騒ぎの影響で早く学校の終わったのかなは二人に遊ぼうと誘われた。確かに昨日断ったこともあり今日は付き合いたいのだが、頭の中はめろんの事で一杯であり悪いとは思いつつも大事な用事があると断った。

 二日続けての事に不満げにるいは言う。

「ちぇっ、付き合い悪いなぁ………」

「るい、のかなの家の事は分かってるでしょ。無茶言わないの」

 そうやって気遣ってくれるのが申し訳なくのかなはしゅんとした。

「『ごめんね』」

「気にしなくてもいいのよ。用事があるのなら仕方ないもの」

(うう……………)

 ぐり子の優しさがのかなの良心を痛ませる。しかし、友達に嘘をつくという辛さがあってものかなは魔法少女と話がしたいのだ。

 それはただ単に友達として仲良くなりたいということだけではない。真実を知りたいのだ。あの時の戦いの結末を。

(怪物が現れたってことはまだ戦いは続いているのかもしれない。どうしてもそのことを聞かなくっちゃ)

 全てが終わったということをこの目で確認しない限りはのかなの気持ちは休まらない。そして、あのパートナーがどうなったかということを知らなければこの先ずっと心につき纏ってくるだろう。

(できれば生きていてほしい………そして会ったらこの怒りを全部ぶちまけてやるんだ)

 生きていれば地の果てまでも追っていって文句を言ってやる。その怒りに嘘は無いが、どこか本気で憎み切れていないということものかなは自覚していた。だからこの怒りが消えないように強く心に刻みつける。

 二人と別れたのかながめろんにメールを出すと、『そのままそこで待っていて』という返事が返って来た。不思議に思いながらのかなが学校で待っていると誰もいないというのに急にどこかから少年のような声のテレパシーが送られてきた。

「『あなたがのかなさんですね?』」

「だっ、だれ、誰です、かっ?」

 警戒しながらのかなが辺りを見渡すと目の前に二つ尻尾のある黒い体毛の細長い動物が現れた。

「ふぇ、フェレッ」

「『イタチです』」

 のかなの台詞を遮ってきっぱりと言った彼は丁寧ながらも強引に話を進めていく。

「『僕はアルトゥース・ルービンシュタイン、アルトとでも呼んでください。僕は望夜(もちや)めろんの協力者です。今日はめろんがあなたを家に呼びたいというので迎えにあがりました』」

 唐突な話に驚きながらのかなはテレパシーを送る。

「『えっ!? そんなの聞いてませんけど……………?』」

 やっぱりか、という顔になったアルトはため息をつく。

「『すいません………めろんは少し強引というか人の都合を考えないところがあるので………もしお時間があればでいいのですが、家に来てもらえませんか?』」

「『はぁ………いいですけど』」

 断る理由も無かったので、のかなは軽い気持ちでアルトに付いていく。動物に導かれてどこかに行くなんてちょっとメルヘンかもとぼんやり思っていたのかなは急にアルトに名前を呼ばれ、体をビクッと震わせた。

「『のかなさん?』」

「『ふぇ? ………な、何の話でしたっけ?』」

 ふぅとため息をつき、アルトはもう一度話をする。

「『ちゃんと聞いていてくださいよ。あなたの所属についてです。少々調べさせてもらいましたが“桑納(かんのう)のかな”という魔法少女の記録はデータベースにはありませんでした。まあ、僕たちの組織もお互いの情報全てを共有し合っているわけではないのであなたが魔法少女ではないと言っているわけではないのですが、何も出てこないと色々と気になってきます。だから、できればあなたの事を詳しく教えてもらいたいのですが……………』」

 この質問に対し、のかなは考える。

 自分という存在の情報が無いということはまずあり得ない。昔の事とはいえ、ちゃんと魔法少女をやっていたのだから。

 それが無いということは記録が誰かによって抹消され、闇に葬られたということなのだろう。あんなひどい戦いがあったのだ、全てを無かったことにしようとする者が居たとしても不思議ではない。

 ともなれば自分という存在はそれにとって忌むべきものであり、生存を知られれば始末するために刺客を送られる可能性もある。

 そう考えたのかなはこの協力者が信用における存在と分かるまで答えを明言することは避けることにした。

「『うーん、そう言われてもよく分かんないよ』」

 これ以上質問しても意味はないと思ったのかアルトは話題を変えた。

「『そうですか………それはそうと今朝の紙魔法は凄かったですね。あれをできる魔法少女はそうそういませんよ』」

 のかなは意外だと驚く。

「『そうなんですか? でも、これができなかったら他の人に素早くメッセージを送れないじゃないですか』」

『別にそんなことをしなくてもデバイスの通信機能を使えばいいじゃないですか』

 その言葉ではっ、としたのかなは笑ってごまかした。

「『そ、そうでしたね、忘れちゃってました。私っておっちょこちょいだなぁ、あはは………』」

「『のかなさん………?』」

 いぶかしむような目で見てくるアルトをごまかすようにのかなは急かす。

「『あー! ほら、そろそろじゃないんですか!? 急ぎましょうよ、私歩いたからちょっと疲れちゃいまして早く休みたいんです』」

「『え、ええ、もう見えてきますけど………』」

 はぐらかされたアルトは納得できない表情でめろんの家に到着した。

 そこはごく普通の一軒家という感じで何か特別ということはない。だが、のかなにはどこか温かみが感じられるような気がした。

 ぼぅっとのかなが眺めていると玄関のドアが開き、母親らしき人物が話しかけてきた。

「あら、アルト。それとそこに居るのはめろんのお友達かしら」

 緊張のため吃音がひどくなりのかなの声が出なくなる。

「っ………はっ」

「?」

 初対面の人間にはできるだけ声であいさつしようと思うのかなだが、どうしても声が出ないので仕方なくスケッチブックを取り出し説明する。母親らしき人物は気の毒そうな目でのかなを見つめる。

「なるほど………上手く喋れないのね。めろんはすぐ来ると思うから部屋で待っているといいわ」

 こくん、とのかなは頷き家へとあがった。

 招かれた部屋は少女趣味というものを体現したかのようであり、のかなのやたら人形が多いだけの幼稚な部屋とは異なりバランスが取れているようにのかなは感じた。

 部屋の隅にアルトの寝どこらしきバスケットがあり、部屋に入って来たアルトはそこに収まった。

 そわそわと落ち着かない様子ののかなが部屋の中を見ているとアルトが唐突にテレパシーを送った。

「『のかなさん』」

「『はいっ!?』」

 あまりの慌てっぷりにアルトが苦笑を洩らす。

「『そんなに驚かなくても……………』」

「『す、すいません……………』」

 のかなが落ち着くまで待ってからアルトは話し始める。それはとても真剣な表情で自然と場の空気が緊張していくようであった。

「『のかなさん。出会ったばかりの僕を信じろというのが無理かもしれませんが、スクウィールと戦う魔法少女をサポートするパートナーとしての僕を信じてほしい。協力者として魔法少女のあなたの秘密を守る誇りは持ち合わせているつもりです。………だから教えてくれませんか、あなたの秘密を』」

「『アルト君……………』」

 直感的にのかなはアルトが自分の特殊性に感づいたのだと理解した。このまま秘密にしておけば彼がのかなの秘密に気づくことはないだろう。それにまだ信用できるかどうかも分からない。迂闊に話すのは危険だ。

(信じてほしい………か)

 アルトの瞳がかつてのパートナーと被る。あの時のパートナーと同じく偽りの無い強い意志を秘めた瞳だ。それを見たのかなは自分の気持ちが揺らぐのが分かった。

 たとえ裏切られたとしても信じたいと思う気持ちが消えない自分は愚かだと思う。それでも何も信じられなくなるのは嫌だとのかなは覚悟を決めた。

「『分かったよ。あなたが他の誰にも言わないって約束してくれるなら私の秘密、話してあげる』」

 深くアルトは頭を下げた。

「『ありがとう。のかなさん』」

 それにこくりと頷き、のかなは真剣な表情で語りだす。

「『私は………ずっと前に怪物が現れた時になった魔法少女なんだ』」

「『なんだって!?』」

 アルトが信じられないとショックを受ける。

「『そんなバカな………あの時の魔法少女は全員死亡したと記録されていたはずだ。………すみません、ちょっとマテリアルドライブを見せてもらえませんか』」

「『いいよ』」

 のかなが杖型のマテリアルドライブ『ラヴハート』を取り出すと、念入りにアルトはそれを調べ始めた。

「『安定器や制御装置の無い旧型魔導杖、それにこの製造番号………間違いない、魔導大戦時代の物だ。まさか本当に生き残りが居たなんて………』」

 ぶつぶつと呟きながら思考に入ったアルトを不思議そうにのかなは眺める。

「『アルト君、もうしまってもいいかな?』」

「『え? あ………ああ、どうぞ』」

 のかなの秘密を知ったアルトはそれからしばらく難しい顔で黙りこんでいたが、やがて深刻そうな面持ちで重い口を開いた。

「『………のかなさん。この事は誰にも話さない、もしくは話すとしても本当に信用のおける相手にした方がいいと思います』」

「『どういうこと?」』

「『これは僕の想像ですがあなたは何か巨大な陰謀に巻き込まれている可能性が高い。魔導大戦………あなたが魔法少女になった時期を僕たちはそう呼んでいるのですが、あの時期は組織内もかなり混乱していました。魔法少女の技術もまだ試行錯誤の段階で、今では禁止されている術式も多く使われていたと聞いています。その時のデータのおかげで今の魔法少女があるのですが、データのために人体実験的な事を行っていたという噂もあります。とにかく組織にとっては暗い過去です』」

 ずきり、とのかなの胸が痛む。自分の中では今も続いている事なのに過去と言われたのが言葉にできないもやもやとなってのかなの心に纏わりつく。

「『過去………ですか』」

「『当事者たちは全員死に、全ては忘れ去られていくはずでした。………しかし、生き残りがいたとなれば話は別です。曖昧にされていた過去が暴かれれば今幹部の椅子に座っている者たちの首がたくさん飛ぶことになるでしょう。もしかしたら自らの保身のためにあなたの命を狙う者が居るかもしれない。はっきり言ってあなたは魔法少女を辞めるべきだ。このまま戦えば遅かれ少なかれ誰かに気づかれる。そうなればあなたの命が危ない。僕は魔法少女の協力者としてあなたをこれ以上魔法少女として戦わせるにはいきません!』」

「『………………』」

 戦うなと言われたのかなは悲しげに目を伏せた。

 優しさから言われているのは分かる。しかし、それがとても嫌な事を言われていると感じてしまう。

 のかなにとって魔法少女は宿命であった。怪物が出れば戦わずには居られない。見て見ぬふりなどできるはずがない。もし魔法の力が無くなってものかなは戦い続けるかもしれない、例えそれが無謀だと分かっていても。

 大切な物を守るためにのかなには魔法の力がどうしても必要であった。

「『できないよ………魔法少女を辞めるなんて』」

 アルトものかなの業の深さを理解したのか強くは言わなかった。

「『分かっています。あなたがそう簡単に魔法少女を辞められないということは。だから一つ勝負をしませんか?』」

「『勝負?』」

「『あなたの時代とは比べ物にならないほど魔法少女の能力は進化しています。失礼ですが今のあなたの能力ではまるで歯が立たないでしょう。それはあなたが魔法少女を続けていれば必ずやってくるであろう刺客に対しても同じ事が言える。だから能力の差を理解してもらうために今の魔法少女であるめろんと勝負をしてもらいたいんです』」

「『私が勝ったら?』」

「『あなたが魔法少女を続けていくことを認め、僕はそれを全力でバックアップします』」

「『もし私が負けたら?』」

 当たり前の言葉がアルトから吐き出される。

「『魔法少女を辞めてもらいます。護身のためにアイテムは取り上げませんが、以降は普通の人間として暮らしていってもらいます。怪物が現れたとしても絶対に戦いには出ないでください。負けたという事の意味はあなたにも分かるでしょうから』」

 アルトより提案されたこの勝負、のかなは圧倒的な不利を感じずにはいられない。自分は長いブランクがあり相手は現役の魔法少女、しかも能力に差があるとなれば勝つことはおおよそ不可能だ。

 だがそれでも自分を殺しにやってくるであろう刺客よりは弱いはずであり、確かにこの程度の相手を倒せないようなら魔法少女は辞めた方が身のためなのだろう。

 この勝負から逃げることはできる。だが、逃げたとしても状況は良くならないどころか、アルトの協力を得られるチャンスを失ってしまう。魔法少女を辞めさせられるというリスクを背負ったとしても協力を得たいと思ったのかなは勝負に応じることにした。

「『………分かったよ、勝負する。けど、ちょっと条件を付けさせて』」

「『条件とは?』」

「『勝負は一週間後、それと私に最新の魔法と装備についてのデータをちょうだい。できればやり方とか仕組みとかの詳しい情報も含めて』」

 それを聞いたアルトが難しい顔をする。

「『対策を立てようっていうんですね。でも、対策程度ならともかく一週間程度で新しい魔法を覚えるのは無理だと思いますよ。今と昔じゃ魔法体系が大きく異なりますから』」

「『それでもやるしかないよ。本当は一週間だって長すぎるくらいなんだから。ほとんど伸び代の残っていない私じゃ現役のめろんちゃんの成長速度には絶対に勝てない。ブランクを解消して最近の魔法を学んだって戦いになるがどうかってところだと思うし、実は今すぐに戦った方が勝算あったりしてね。はぁ………いやになっちゃうなぁ………』」

 勝てないと分かっていながら戦いをしようとするのかなにアルトは疑問に思う。

「『………自分から言っておいてなんですが、あなたは本当に勝負を受けるつもりなんですか?』」

「『どうして?』」

 理屈で考えるアルトはおかしさを感じずにはいられない。

「『勝てないと分かっているのに戦うなんて変です。しかもそれはめろんの実力を知らないから楽観視しているというわけじゃない。自分が相手に敵わないことを知りながら戦いを挑もうとしている。まるで死に急ぐかのように』」

 それに対しのかなは困ったような顔をする。

「『………うーん、なんて言ったらいいのかな?』」

 そしてぽつりと呟きだす、ただ淡々と。

「『夢………だからかな』」

「『夢?』」

「『うん、立派な魔法少女になるのが私の夢なんだ』」

「『だから勝てない戦いをするんですか?』」

 そんな事はないとのかなは首を横に振る。

「『勝てないなんて分からないよ。今までだってずっと勝てない相手と戦ってきたんだから』」

「『めろんは強いですよ?』」

「『なら私はもっと強くなる。自分の大切な物を守れるくらいまで』」

 そう告げるのかなの瞳には強い光があった。この先に希望など一つも無いはずなのに光はまるで曇る様子を見せず、自ら光放つように輝いていた。

 確かに才能の無いのかなは魔法少女と呼べるような存在ではないのかもしれない。それでもこの輝きはまさに魔法少女のようであった。

(勝算なんてこれっぽっちも無いはずなのに……………)

 それでも奇跡のような何かが起きてしまいそうな気がするのはアルトにとって不思議極まりないことであった。だが、不思議でも分からないというような事は無かった。のかなの姿はいつか見たテレビで見た魔法少女にどこか似ているような気がしたのだから。

「『のかなさん、あなたは……………』」

 アルトが何かを言いかけたその時、

「ただいまー!」

 めろんの元気な声と階段を昇る足音が聞こえてきて会話は中断された。

 がちゃ、と扉が開きのかなを見ためろんがにこりとほほ笑む。

「いらっしゃい、のかなちゃん」

 のかなも嬉しそうに笑う。

「『おじゃましてます』」

「待たせちゃってごめんね。これでも急いで帰って来たんだけど………」

「『ううん、平気だよ。アルト君と話してたし』」

「へぇー、なんの話をしていたの?」

 アルトは事前に考えていたのか、なめらかに説明していく。

「『君の話だよ。魔法少女の君が凄いって話したら、のかなさんがぜひ君と手合わせがしたいっていうんだ。色々と準備があるから一週間後なんだけど………どうかな、めろん』」

 二つ返事でめろんは頷く。

「いいよー。えへへっ、のかなちゃんって凄い魔法少女みたいだから一度戦ってみたかったんだ。ちょっと楽しみかも」

 何気に過激な事を言っためろんはのかなに擦り寄る。

「ねぇねぇ、火の鳥ってどうやるの? あれ可愛かったから絶対教えてもらうと今朝からずっと思ってたの。教えてよ、のかなちゃん!」

「『えっ、えーっと………』」

 めろんの押しの強さにアルトと顔を見合わせて苦笑いしたのかなはゆっくりと説明を始めた。

「『それはね……………』」


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