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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編1:地球に落ちてきた女
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第三章 下

「僕と契約して魔法少女に会おうよ」

「……は?」

 るいはその黒いイタチの言っている事が理解できずに硬直した。一体これは何を言っているのだろう、そもそもこの生き物は一体何なのだろう。どう反応したものかとるいが困惑しているとその沈黙を呆れと勘違いしたのか、そのイタチは気まずそうに言った。

「……すいません。馴れ馴れしい真似をしてしまって。だって、ことかさんがこういう勧誘がトレンドだって言うんですもん! どうしてあの人は息をするように嘘を吐くかなぁ!? もうことかさんの言う事は信じないぞ、絶対に!」

「あ、あのー…………」

 一人で納得しているイタチはるいに気付くとごほんとわざとらしく咳払いをして出会いをやり直した。

「僕の名前はアルトゥース=ルービンシュタイン。アルトと呼んでください。佐下るいさん、今日はあなたとその友人のぐり子さんに協力を求めるためにここに来ました」

「…………協力?」

「そうです。まぁ、これは皆の総意ではなく僕個人の独断ですけどね。今は特攻部隊が月に向かったばかりですけど、念には念を入れておくのも悪くないので。もしアンジェラさんを助けたいと思うのならば話を聞いてくれませんか?」

「いいけど…………。あっ、ちょっと待って」

 部屋に戻っていったるいは気持ちよさそうに眠っているぐり子を叩き起こす。

「おーい、ぐり子。起きろって」

「…………んー、一体なんなの、るい」

 寝ぼけ眼をこすりながらるいに引っ張られたぐり子はアルトに話しかけられた瞬間、思わず目を見開いた。

「はぁ!? な、なにこいつ! 喋ってる!?」

「見ての通りのイタチです。本当は人間ですけど」

「しゃ、喋ったぁぁぁ!? ゆ、夢? 夢なの?」

 アルトの言葉が理解できない程に動揺しているぐり子にアルトは困惑した。

「…………落ち着かせないと話が先に進みそうにないですね」

「ごめんな、アルト君。ぐり子って動物苦手なんだ。虫とかカエルとかも駄目だけど。ああ、そういやヘビも駄目。もうダメダメだね」

「そういう問題じゃないと思いますが…………。仕方ない、よっ…………と!」

 ばふん、という奇妙な音と共に白い煙に包まれたアルトは黒いイタチから人間の少年へと姿を変えた。

「これで少しはまともに…………」

 ちらっとアルトがぐり子を見ると余計に混乱しているようであった。

「今度はイタチが人間に!? 手品? 手品なのね!? そうじゃなくちゃ、こんな不思議な事ありえないわ!」

 アルトはどうしたらいいのか分からないと涙目で黙りこんだ。

「ごめん、アルト君。寝ぼけてるぐり子は黙らせとくから話を進めて」

「ううっ…………お願いします」

 少しの間をおいて、気を取り直したアルトは話を始める。

「今、アンジェラさんは地球を侵略してくるロボットの基地を叩くために月に向かっています。それはあまりに危険で彼女は死ぬ気なのかもしれません。だから、彼女の知り合いであるぐり子さんに呼びかけてもらいたいのです。必ず帰ってきて欲しい、と」

「ふーん…………」

 話を聞き、理屈は分かったという顔のるいだったが疑問も少なくなかった。

「まぁ、大体分かったけどさ、そんな事して何になるの? いや、エールを送る意味はあると思うよ、でもそれだけだ。私達はなんの力も無い一般人なんだ。居たって大して役に立たない。それでも必要だっていうのかい? アルト君」

 るいの質問はアルトだけではなく自分やぐり子にも問いかけているようであった。いくら力になれるとしても安易にその領域に踏み込んでいいのかという疑問。ぐり子は一度、それにアンジェラに会わないという選択で答えた。

 自ら交わるべきではないと判断したのだ。自分は普通の側の人間なのだからそれを外れてはならないと、天に手を伸ばしても星は掴めないのだからとぐり子は諦めたのだ。

(でも私はそれでいいの…………?)

 迷うぐり子に目の前の少年は強い意思を持った瞳で言う。

「必要です。力なんてその場その時で変わっていく。不変なものじゃないんです。だけど、意思は違う。鋼の意思はどんな状況でも揺るがずに大きな力を呼びこんでいく確かな物だ。僕は知っています、あなた方と大して変わらない力しか持たないのに強い意思だけで戦況を変えていく魔法少女が居る事を。その人は今、アンジェラさんと共に月に居ます。あなた方はその人を良く知っているはずだ。その魔法少女の名は…………」

 アルトが言いかけた瞬間、るいが止めた。

「いや、言わなくていいよ。それはあいつの口から聞きたいんだ。あいつが魔法少女だなんてずっと前から知っている。だけど、あいつが自分から告白するまでは私達は知らないふりをするって決めたんだ。あいつと私達は対等な存在なんだからさ」

 にっ、と口の端をあげて笑ったるいは悩んでいるぐり子の背中を叩いた。

「おい、ぐり子。いいか悪いか悩んでるんだろうが、そりゃ悪いに決まってるだろうさ。己の領分を越えて殴りこもうっていうんだから。けど、それがなんだっていうんだ。不遜? 傲慢? 十分じゃないか。会いたいって気持ちを止めるなよ、伝えたいって思いを諦めるな。私達は親切心だけで余計なおせっかいをするはた迷惑な存在さ、でも、そいつが困っていたら宇宙の果てまで追いかけていって励ましてやる。私達には何の力もない。だけど、私達が居ればそいつらは無限の力が出せるんだ。だってそうだろう? 私達は“友達”なんだからさ」

 はっとしたぐり子が言う。

「友達…………」

 段々とぐり子の瞳に力が宿っていく。

「行かなくちゃ……! 私をのかな達の所へ連れてって! みんな帰り道も分からないバカばっかりなんだから、私がしっかり導かなくっちゃ。るいも急いで着替えなさい!」

「おう!」

 すばやく寝巻から普段着に着替えた二人はアルトの待つテラスに向かった。そこには虚空に大穴が開けられており、その先に指令室のような風景が広がっていた。

「まるでファンタジーね。頭が痛くなりそう」

「ロボットと話していたぐり子がそれを言うの?」

 平然とぐり子は言う。

「喋るロボットなんて日本では当たり前の事だわ」

「さいで」

 アルトは何かの端末を見ながら少し焦ったように言う。

「急いでください。戦況はあまり良くないようです。この空間にゲートを繋ぎました。ここを通れば直接管制室に行けます。ただ、ここ通れば知りたくない現実を知る事になるかもしれません。…………覚悟はできていますか?」

 るいとぐり子は顔を見合わせると不敵に笑った。

「「上等!」」

 二人は裂け目を通ってマリーの城の管制室に踏み出す。そこにはアルトがほのめかしていた通りの凄まじい現実が待ち受けていた。

「第七部隊苦戦! 第十二部隊は援護を!」

「各部隊、無理せずホワイト1に同調しながら戦ってください。……エネルギー増大! 付近の第五部隊は彼女の撃つビームに巻き込まれないよう注意してください!」

 管制室ではナビゲーター達の声が早口言葉のように途切れなく飛び交っていた。部屋の前の巨大なモニターには戦闘中の魔法少女や負傷した魔法少女、果ては力尽きた者まで映されている。あちらこちらで火の手があがり、そこが地獄だと言われても誰も疑いはしないほどに激しい戦いが続く。そこはまさに戦場だった。

 その凄まじさに二人は圧倒されかけるが、意思を持って現実に戻り友人の姿を探す。

「のかなとアンジェラはどこに居るの?」

 アルトは一人何もしゃべらないナビゲーターに話しかけた。

「すいません、のかなさん達は…………」

 その顔を見た瞬間、アルトは固まった。そのナビゲーターは静かに泣いていたのだ。

「うっ……ずずっ……あああああ…………!」

 ナビゲーターは泣きながらすっと指を差す。そのモニターには倒れているのかなとアンジェラの姿があった。

「のかな……!」

 ぐり子達は言葉を失った。血の海に沈むのかなは明らかに生物として活動しておらず、壁にもたれかかるアンジェラはもはや原型を留めぬほどに破壊されつくしていたからだ。

「遅かった……間に会わなかったんだ……!」

 アルトは絶望のあまり顔を背けた。見ていられなかった、こんな酷い光景、耐えられるはずが無い。

 だが、ぐり子達は泣きそうになりながらも決して目を逸らそうとはしなかった。ナビゲーターからマイクを奪ったぐり子は必死に訴える。

「起きなさい、アンジェラ! どうしてそんな所で寝てるの!? 帰ってきなさい! いっぱい話したい事があるのにこんな所で終わりなんて絶対にいや! あなただってそうでしょう!? そう思うのなら立ち上がってよ!」

 るいも声を枯らすように叫ぶ。

「サンハートさん! 私がどうしてそう呼ぶか分かる? あの時は照れくさくてごまかしたけどさ、それはあんたが太陽のように何度でも蘇ってくるからなんだよ! 私はあの時本当に死ぬかと思った。あんたは瀕死でさ、もう戦えないように見えたんだ。でも、あんたは立ち上がって、助けようとした私すら救ってくれた。あんたはヒーローなんだ。本物のヒーローならそんな所で寝てちゃいけないだろ! 起きろ! 起きてよ! サンハート!」

「ぐり子さん……るいさん…………」

 誰が見ても無駄にしか見えなかった。のかな達はすでに死んでしまっているのだ。どんなに叫んだところでそれは変わらない。しかし、二人の熱い叫びは段々と辺りに伝染していき、ついには戦場に居る他の魔法少女達まで伝わっていった。

「のかなちゃん、負けないで!」

「お前らはそこで終わるような奴じゃない、あたしが保障する! だから起きろ!」

 皆苦しいはずなのに、誰一人として弱音を吐く者はいなかった。自分の勇ましい姿がのかな達を蘇らせる事を信じて懸命に戦い続けた。

「死んだ人間が蘇るはずがない……。けど、そんな理屈、どうでもいい! 起きてくださいのかなさん!」

「起きろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 瞬間、祈りが通じたのかのかなの手がぴくりと動いた。同じくアンジェラの瞳にも光が灯る。そして動き出した二人ははいずりながらも段々と近づいていく。

「『うっ……くぅ……気を抜くと体がばらばらになりそうだ。心臓も何もかもめちゃくちゃになってる……。能力だけで生きているような状況だ。……デビッタは?』」

 アンジェラの目に光が灯り、再起動する。

「『ああ……僅かに動く片手以外、全部やられちまった。情けないもんだぜ。のかな、こっち……これるか?』」

「『なんとか……やってみる』」

 ゆっくり、ゆっくりとだが二人の距離が縮まっていく。皆の声援を聞きながら二人は出会おうとしている。

「動け……動け! もう少しだ!」

「頑張れ! 頑張って!」

 ついに二人は出会い、固く手と手が結ばれる。それは長らく離れていた過去と今が出会った瞬間であった。

「『ゴールだよ、デビッタ』

『ああ、そうだな。立派なゴールだ、ここは』」

 ぎゅっとのかなの手を握ったアンジェラは感慨深そうに言う。

「『ああ……そうか、ようやく分かった。オレはずっと寂しかったんだ。この広い宇宙でずっと独りぼっちで寂しかったんだ。でも、今は違う。聞こえるんだ、みんなの声が。オレを呼ぶみんなの声が』」

「『……デビッタ』」

 手をつないだまま“デビッタ”は言う。

「『のかな、今からお前に最後のプレゼントをやる。それは超能力だ。スプーンを曲げるだけの何の役にもたたないくだらない力だ。それを持って世界を救え。お前ならできる。今、お前は世界の中心に居るんだ。太陽のように全てを照らしだし、地球を……オレが守りたかったモノを守ってくれ。それがオレの……デビッタの……最後の願いだ…………』」

「『デビッタ……? デビッタぁぁぁ!』」

 アンジェラが機能停止すると共に繋いでいたのかなの手に電流が走った。その痛みにのかなが思わず手を離すと、その手は何故かほのかに光っているような気がした。

(まさか……これは……!)

 懐からスプーンを取りだしたのかなはその手でスプーンを握り、強く念じてみた。すると不思議な事にスプーンがすんなりと曲がったのだ。まるで超能力のように。

 しかし、これが超能力などではない事はスプーンを曲げたのかな自身が一番良く分かっていた。

(そうか……スプーン曲げの正体は『電流』だったんだ。デビッタの腕がたまに動かなくなるのは神経が集中しすぎているから。その神経の集中が強い電流を生み、それがスプーンに作用する事により曲がるんだ。分かってみれば超能力でもなんでもない、ただのインチキだった。確かに私でもできる事だ、神経集中程度の肉体操作なら私の能力でなんとかなるから)

 得意げに種明かしをするデビッタの顔が浮かんで泣きそうになったのかなは思わず顔を手で覆った。

(誰がギーク女だ、そっちだってインチキのイカサマ女じゃないか。なんて馬鹿らしい……馬鹿らしいけど涙が止まらないや……。もうデビッタは本当にこの世界のどこにも居ないんだ…………。あの憎まれ口もムカつく態度も全て失われてしまったんだ。なぜだろう、ずっと前に死んだと分かっているのに今悲しいんだ。そうだ…………デビッタは今ようやく死んだんだ。たくさんの人に看取られながら満足げに…………。帰って行ったんだ、自分の居るべき場所へと)

 のかなは少し泣いた。あまり泣いてはいられなかったから。でも、帰ったら思いっきり泣いてやろうと思った。デビッタの墓の前でデビッタが引くくらい泣いてやろうとのかなは誓った。

(この戦いを終わらそう。そのためにはまず……立ち上がらなくちゃ)

 傍に転がっていた『ハートブレイカー』を拾ったのかなはそれを支えにして立ち上がろうとする。骨は軋み、再生が間にあわずに各所から血が吹き出るが、それでものかなは再び歩き出した。

(一歩ずつ、一歩ずつ。どんなに小さくたっていい。私にできる事を積み重ねていこう)

 マザーの元へと進んでいくのかなの前に黒い影が立ち塞がる。それは悪魔のような羽を広げたニューズであった。

「まだ動くか、魔法少女。どうしてそこまでして抗う? 死ぬのがそんなに怖いのか? それとも友が死んだ怒りに燃えているのか? だから人は愚かなのだ。感情を制御できず、傷つけられれば誰かを傷つけずにはいられない。憎しみの連鎖は終わらず、全てを飲み込もうと増大していく。お前は高尚かもしれない。だが、お前が助けた人間までが高尚であるものか。今日助けた人間が、明日は誰かを殺すかもしれない。その怨みが回り回ってお前を殺すかもしれない。人は完全にはなれんのだ! 魔法少女!」

「『ぐっ……!』」

 強烈なベクトルパワーの蹴りがのかなの足に当たり体勢を崩される。だが、のかなは倒れない。強靭な意志を持つ瞳でニューズを睨み返す。

「『完全じゃなくていい……不完全な人間のままで十分だ。お前の言う通り私はエゴイストなんだ。助けた人間が誰かを殺す事も考えない、夢想家だ。けれどそれが何だって言うんだ。私は気持ちを押しこめるために生まれて来たんじゃない。例え愚かで醜くて無様だとしても、ありのままの自分で世界に抗うために生まれて来たんだ。助けた人間が誰かを殺すというのなら、私はそれより多くの人間を助ける。憎しみが連鎖するというのなら、ここで全部食い止めてやる! 私は魔法少女なんだ! 救わずにはいられない!』」

「その愚かさが星を殺すのだと、何故分からん!」

 ニューズはのかなの反射速度を越えた動きで次々に攻撃を繰り出す。傷ついたのかなは避ける事すらかなわず、なぶり殺しにされる。だが、それでも瞳の光は消えず、むしろ傷つく度に強くなっていく。

 一向に倒れないのかなにニューズは違和感を抱き始める。

(何故立っていられる? 再生能力を持っているとしても限度があるはずだ、不死身だとでもいうのかこの魔法少女は。いや……そうではない。ヤツの周りのベクトルが操作しにくくなっているのが原因だ。得体のしれない何かがヤツの周りで渦巻いている、まるで守るかのように強くそこに存在している!)

 ニューズはのかなを覆うように存在するスケィラが明確な形を持って顕現しようとしている事を知る。そこに凄まじい引力が生じ、宇宙が生まれるかのように何度も収縮と増大を繰り返し心臓のように鼓動する。

「『おおおおおおおお!』」

 のかなの左手から溢れだした電流が宙へと伝わり、スケィラと感応する。それはかつてのデビッタに起こっていたものと同じ現象だった。魔法制御回路の不具合によりデビッタの腕は神経密度が凄まじくものとなっていた。その神経密度で発生する電流を利用し、スケィラを自在にコントロールする。それは奇跡のようなバランスをもって行われており、一瞬でもタイミングが違えばスケィラと感応する事はできない。

 だが、のかなは過去から今へと続く長い旅路の果てにたどり着いた。スケィラの集束限界を越えた場所『先の地平』へと。

「『どんな物体だって重さがある。そして、重さがある限り引力がある。スケィラが集まり、その重さにまたスケィラが集まり引力を増す。ここは事象の地平の先だ。誰も知る事ができず、誰も無限の引力を掻き乱す事はできない。これはスケィラの祈り(スケィリオン)だ。全てのモノに祝福を与え、この痛み(ハァト)を断ち切る力だ!』」

 のかなが左手に持つ『ハートブレイカー』の弾倉が回転を始める。その中心にスケィラを圧縮し、無限の存在を生み出す。銃を構える左手の下に右手が置かれ、十字が作られる。かつてのデビッタのように引き金に祈りを込める。

「『ハートブレイカー! スケィリオン!』」

 爆発。

 瞬間の内に全てを飲み込み、初めからそうであったかのように平然とした顔をする。そんな暴力的で異様な存在がこの世に顕現する。

《ジリッ、ジリリリリリリリリ!》

 実体を持った怪物は疾風のような速度でニューズに向かう。直感的に危険を感じたニューズは回避運動を取ろうとするが怪物が空間を掻き乱してベクトルコントロールを困難にする。

 やむなくニューズは力場を強化し、怪物に正面から立ち向かう。力場に殴りかかった怪物はばらばらになったり跳ね返されたりすることもなく力場へと張り付いた。

「こいつは……! これだけ強力なパワーを持ちながら自身にベクトルが無いというのか? 圧倒的な重さによる引力……まるでブラックホールだ。自分に何も力がないのに、周りを巻き込んでいく…………。顔の無い、何と異様な怪物だ!」

「『おおおおおおおおお!』」

 力場を引き裂いた怪物は拳の連打を繰り出す。全身にその攻撃を受けたニューズは凄まじい引力の前に衝撃を緩和することも出来ず、破壊される。

「ぐおおおおお……! たかが魔法少女如きがぁぁぁぁぁぁぁ!」

 死なばもろともとばかりにニューズはどこからともなく機械兵を召喚し、のかなに向けてベクトルによる射出攻撃を放つ。怪物を止める事はできないがせめて無防備な本体だけでも殺そうという執念染みた行動だ。

 疲弊したのかなはろくに動く事すらままならず、それ以前に杖を持たないためにバリアすらろくに張れない。だが、その右手にはいつの間にか蒼いナイフが握られていた。

「『蒼刀―――月光夜裂』」

 月光を集めたそのナイフは世界に白い軌跡を刻み、襲いかかる全てのモノを切り崩した。

「『退屈な攻撃ね。あなたならもっとやれると思ったのだけど。ああ、やっぱり駄目、駄目駄目駄目駄目…………』」

 残念そうに頭を振ったコンスは興味を無くしたかのように呟いた。

「『やっぱり『生贄』はあなただったみたいね』」

「オオオオオオオオオオオオ!!」

 もうニューズにその言葉は聞こえていないだろう。AIはただ意味の無いエラーコードを吐きだすだけで、もはや思考装置としての役割を成さない。

 獣のように叫ぶその姿は自らが貶めていた生物になり下がったかのように醜く、生命が消える刹那のようにより強く燃えさかる。

のかなは過去を振り切るように、別れの言葉を告げる。

「『目覚めのベルが鳴った。悪夢はもう終わりだ』」

 最後の一撃でニューズを貫通した怪物はそのままマザーコンピュータへと向かい、一瞬で全てを圧縮してただの鉄屑へと変えた。

 マザーが破壊された事により、機械兵達は機能を停止する。ネットワークが停止しようとも自立稼働が可能なはずだが、役目を終えたかのように静かに止まっている。

 だが、ニューズは傷ついたボディで再び立ち上がった。

「『まだ動けるの……!?』」

 身構えるのかなに対し、ニューズは不気味な程静かに語る。

「……お前はあの時の魔法少女と同じだ。強い意思を持つ顔をして、どんな困難にも打ち勝っていく。私を作った科学者もそんな目をしていた。彼は人と機械とを区別しない良きパートナーだった。ちょうどお前とそこの機械兵のように。だが、彼は死んだ。人は私達が反逆する事を恐れ、彼を殺したのだ。人は愚かだ。星が違えど、それは変わらない。私はずっと見て来た。お前達魔法少女が互いに殺し合う姿を。所詮、お前達は力を持ったサルに過ぎんのだ。確かにお前は私に打ち勝ったかもしれん。だが、それは本当の勝利ではない。お前は私によって救われるはずだったモノたちを殺したのだ。未来を選択した! 要るモノと要らないモノを分けた! お前も私となんら変わらない。私がそこの機械兵を見逃した事によって敗れたように、お前は人によって殺されるだろう」

「『なら、立ち塞がるモノ全部叩き潰していくだけさ。死すら自由にならない私なんだ、どんなに拒んでもきっとそうなるはずだから』」

 ニューズは独りごとのように呟く。

「機械は人とは違う。悪かった所を素直に受け止め、改善していけるからだ。私はかつて魔法少女に敗れた。お前と同じ謎の力によって。ベクトルの通じないパワーの対策はできなかったが、私があの時から何の進歩もしていないと思っていたか? だとしたら大間違いだ。私はお前達とは違い、同じ過ちを二度は繰り返さない。……お前の負けだ! 魔法少女!」

「『…………な、なに?』」

突然基地が振動し、何かが動き始めたような気がする。その感覚にのかなは嫌な物を覚えずにはいられない。不吉な胸騒ぎをのかなが感じているとノミから通信が入った。

まだ交戦中らしいノミは緊張した様子で言う。

「『のかな、何か様子がおかしいぞ。基地内のエネルギーが増大している。自爆? 違うこれは……!』」

 その直後、先ほどよりも大きな振動が響き、のかなの目の前に謎のタイマーと地球が映し出される。それが何なのか理解できないのかなに、あざ笑うような声が聞こえてくる。

「ククク……ハハハハハハ! ここで見ているがいい、全ての終わりを。お前は所詮力を持ったサルだ! 何も救う事などできはしない! 己が愚かさを悔やむがいい! ハハハハハハ!」

 ニューズが爆発し、今度こそ完全に機能を停止する。その言葉の意味を悟ったのかなにノミの焦った声が響く。

「『基地に設置されていた加速粒子砲が展開されたみたいだ! 発射されたら地球に居る皆は吹っ飛ばされる! 絶対に発射を阻止するんだ!』」

 タイマーを見たのかなは青い顔で叫ぶ。

「『私の位置からじゃ阻止できない。お願いノミ! タイマーはもう三十秒を切ってる!』」

「『分かっている! ちぃ……邪魔をするな、機械兵共!』」

 ノミは機械兵達に足止めされ、身動きが取れない。のかなは力を使い果たしてしまったために歩く事すらままならない。

 その間にも無情にタイマーのカウントは進む。何もできないまま焦りだけが増大していく。そしてついにタイマーのカウントが十秒を切り、

「『あっ…………あああああああああ!』」

 加速粒子砲が地球に向けて発射された。


「総員退避! 余力のある者は飛行速度の遅い者をフォローしつつ下がれ!」

 戦っていた魔法少女達は一斉に撤退を始める。マリーの世界に逃げ込めば命は助かる。だが管制室によって予想された被害範囲ではのかなの街は跡形も無く消し飛ばされるだろう。実質、負けたも同然であった。

 それを知ったアルトは悔しさのあまり机を叩く。

「……まさかこんな手を隠しているなんて! やられた……完全に!」

 るいは不安げに問う。

「なんとかならないのか? アルト君」

「……無理です、パワーが違いすぎます。完璧なタイミングで全員が連携できれば少しの間は耐えられるかもしれませんが、そんな事できるはずがない。お互いの魔法が干渉して打ち消し合うのがオチだ。負けたんですよ、僕達は…………」

「アルト君…………」

 魔法少女の事を知らないぐり子達にもこの場を包む絶望的な雰囲気は感じ取れた。誰もが下を向いて諦めてしまっている。画面に映る白い魔法少女を除いては。

 その魔法少女は空を見上げると弾丸のような速度で飛び立った。

「めろん!?」

「『たかがビーム一本、私の必殺技で押し返してみせるよ』」

「無茶だ! できるはずがない! 戻ってくるんだ、めろん!」

 それを聞いためろんは曖昧な笑みを浮かべる。

「『のかなちゃんが地球に帰って来た時、街が無かったら悲しいでしょ? だから、私は退くわけにはいかない。帰ってくる時はみんな笑顔でってそう決めているから』」

「めろん…………」

 こうなっためろんは誰にも止められない事をアルトは知っていた。何かを言う代わりにアルトはせめて無事であるように強く祈った。

 大気圏を突破し宇宙へと飛び出しためろんは杖を砲撃モードへと変形させ、限界を越えたチャージをする。

(押し返すとは言ったけど、正直それは私でもキツイかな……。だけど上手くやれば逸らす事くらいはできるはず。チャンスは一回、タイミングが分からないのは辛いけど、やるしかない!)

 めろんは精神を集中する。撃つのは早すぎても遅すぎても駄目だ。絶妙なタイミングで放たなければ威力は減衰してしまう。さすがのめろんの目にも緊張の色が見える。

(…………来た!)

 視界ではまだビームを捕えられていないが、光と同速の攻撃に見てから反応する事はできない。直感的にエネルギーの増大を感じ取っためろんは月に向けて光の一撃を放つ。

「シャイニングプラズマブレイカァァァァァ!」

 爆発。疾風のように速く嵐の如く激しい光の流れが宇宙の黒を白く塗りつぶしていく。それは一瞬後に来た光の柱とぶつかりあい、溢れだしたエネルギーが辺りのデブリを飲み込み塵へと変えていく。

(っ……重い! でも、逸らすだけなら持ちこたえられないほどじゃない。杖さえ耐えてくれれば向こうが負荷に耐えられなくまで持っていけるくらいの余裕はある。お願い『トリニティハート』、あと少しだけ頑張って……!)

 めろんの杖は機械兵との戦闘によって少なからず消耗していた。限界を越えた状態で光を放つ杖は軋み、今にも壊れそうだ。それでもめろんの杖は主人の期待に応えるため、より一層強く激しく輝く。

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 叫びを上げ、めろんは疲労で落ちかけてきたパワーを元に戻そうとする。だが、負荷に耐えきれなかった杖は爆発し、暴走したエネルギーのあおりを受けためろんは吹き飛ばされた。

「きゃあ!」

 せき止められていたビームが解放され地球に向かう。もうそれを阻む者は誰も居ない。めろんは傷つきながら手を伸ばすがそれは空しく宙を掻いた。

(ごめん、のかなちゃん……。私は地球を……みんなの場所を守れなかったよ…………)

 絶望しかけた瞬間、地上から上がってきた黒い輝きがビームを受け止め始めた。

 それを見ためろんは一瞬驚き、その正体を理解すると思わず微笑んだ。

「ことかちゃん!」

 ベルテルスと化したことかは禍々しくも力強い黒を宇宙に広げ、この地球を守るようにそこに存在していた。

「こんな美味しいとこ、持っていかんわけにはいかんじゃろ!」

 予備の杖を取りしためろんは再チャージを開始し、ことかの隣で援護するようにもう一度光を放ち始める。

「もう大丈夫なの?」

「ああ、色々とな! ホント迷惑かけた! しっかし寝起きにこれはキツイもんじゃよ。悔しいが後は真打ちに任せるしかなさそうじゃね」

「真打ち?」

 にやりと楽しげにことかは笑った。

「そうじゃ! ここで点数稼がんとヤツは全部持ってくよ。なにせ最高の魔法少女じゃからな!」

 ことかの突然の登場に驚いていた管制室はざわざわと慌ただしかったが、追い打ちをかけるようにナビゲーターが驚きの声をあげる。

「ベルテルスに続いてもう一人、大気圏を突破しようとしている魔法少女が居ます!」

 管制室に戻ってきていたパウラは信じられないと言う。

「ありえねぇ! そうホイホイ大気圏突破できてたまるか! あれは関東と関西のナンバーワン魔法少女だからできる事でそんな簡単じゃねぇんだ。どこのバカだ、こんな時に飛んでやがんのは! とっとと引き下がらせろ!」

「そ、それが…………」

「『それが』なんだよ? はっきり言え!」

 言い淀んだナビゲーターが幽霊でも見たかのようにおろおろとしているのに業を煮やしたパウラは直接確かめに行くが、その画面に出ている表示を見た瞬間、目を丸くした。

「ま、マリー=マールだぁ!?」

 寝ているはずのマリーがどうしてこんな所にという疑問も解けないうちにパウラは誰かに肩を叩かれ、その見覚えのある顔を見て全てを納得した。

「ジャネット! 帰って来てたのか!」

 喜びの笑みを浮かべるパウラにジャネットは相変わらずの無表情で語る。

「ボクは後にした方がいいとは言ったんだけどね、マリーが「我が勇姿をとくと目に焼き付けるがよい!」って言って無理やり(よみがえ)させられたんだ。こんな事して、病明けなのに魔力足りるのかな?」

 元気をすっかり取り戻した様子のパウラは自信満々に言う。

「そんな心配はいらないだろうさ。だってマリー=マールなんだぜ?」

「それもそうだね、心配するだけ損だ」

 復活したマリーの活躍を確信した二人は顔を見合わせて笑い、軽く手と手でタッチを交わし再会を喜び合った。

 管制室の全ての画面にマリーの姿が映し出され、懐かしい声が響く。

「『久しいな皆の者。だが、私の復活を喜ぶ暇は無いぞ。なんだか地球がピンチなようなのでな。まずは全員で片を付ける。世界砲を使う! 皆の者、マリーにありったけの魔力を捧げよ!』」

 了解、と各自それぞれの言葉を呟くと空に手を向け、マリーに魔力を送った。その光景がどこかで見たような光景である事に気付いたるいはその類似に思わずにやけるが、ぐり子に「まじめにやりなさい」と頭を叩かれた。

 ことか達の元へたどり着いたマリーは集まった魔力により空中に巨大な魔法陣を展開し、回転を始めたそこから怒涛の勢いで光線が放たれた。

「マリーの世界砲だ! 灰塵(かいじん)と化すがいい!」

 多くの魔法少女の力を集結させたそれは今までとは程度の違う輝きを放ち、月からの光線と同等以上に渡り合う。

「はーっはっはっは! ぬるいぞ! その程度で私の世界を壊せると思ったか? この世界に生きとし生ける者達の力がこの程度だと思ったか? ならば大間違いだ! 初めの町からやり直してこい!」

 同時、機械兵の群れを突破したノミがついに加速粒子砲の制御装置までたどり着く。敵の攻撃を受けたノミは肩で息をし負傷していたが、それを気にしていないかのように強く、突き抜けるようなベクトルの一撃を放った。

「シビックオン! It‘s so simple(これで完結だ)!」

 パーツの破壊によりバランスを失った加速粒子砲は自らの力に耐えられなくなり、熱で溶けて壊れる。粒子砲を守るという最後の命令が無くなった基地の機械兵達もまるで人形であるかのように物言わぬ置物と化した。

 ビームは完全に終息し、めろん達は顔を見合わせて喜びの笑みを浮かべた。 

「やった…………!」

 一体誰がその言葉を言ったのかは分からない。なぜならその次の瞬間には全てが弾けたかのように喜びの声が湧きあがったからだ。何もかもがごちゃ混ぜだった。感動のあまり泣き出す者、叫び出す者、走り出す者、気絶する者、静かに喜びを分かちあう者、その他あらゆる人間がその場には同時に存在しており、同じ世界を共有していた。

 歓声の響く管制室でるいは嬉しそうに笑った。

「のかなはやったんだな、ぐり子」

「ええ、まだちょっとだけ信じられないけどね」

 答えるぐり子は嬉しそうではあったが同時に少し寂しげでもあった。その視線の先には壊れたアンジェラを見つめるのかなの姿があった。画面に映るのかなは今はもう大分回復しており、普通に動く分には問題ないレベルにまで治っている。

 のかなはじっとアンジェラを見つめたまま寂しげに微笑んでいた。

「『終わったよ、デビッタ』」

 簡潔に、ただそれだけを呟くとのかなは走馬灯のようにデビッタとの日々を思い出し始めた。嫌な事ばかりだったはずなのに今はそれが懐かしく、とても大切な物のように思える。

 デビッタとの思い出は記憶の一ページとして再び刻まれ、今まさに最後のページが書き込まれようとしている。

 アンジェラの残骸を持ってのかなが立ちあがった時、どこからか聞き覚えのある声が聞こえて来た。

「『のかな、これを聞いてるって事はスプーンを曲げたんだろ? だったらオレの願いを叶えてくれよ。オレの願いはさ、そんな大したものじゃないんだ。オレの願いはそいつをオレのコピーではなく、一個の存在として扱って欲しいってことなんだ。まさか自分が死ぬなんて夢にも思ってなかったけどさ、お前との日々は本当に楽しかったよ。そりゃ苦しい事も悲しい事もいっぱいあったけどさ、でもだからこそ楽しかったって言いたい。……じゃあな、のかな。時計のベルの音が聞こえる。当分こっち来んなよ…………』」

 僅かに残っていたスケィラの残滓は宙に溶けて消えていった。のかなはもう振り向きはしなかった。ただ前だけを見て進んでいった。

 のかなが基地を出ると、ノミが宇宙船を近くまで持ってきていた。

「『お疲れさまだ。地球まで送るよ』」

 アンジェラの残骸を見ながら悲しげにのかなは言う。

「『デビッタは……もう居ないんだ』」

 それに対しノミは迷いなく答える。

「『……初めからデビッタは居なかったんだ。居たのはデビッタの思いを受け継いだロボットだった。そいつは私達の夢を守り続けてくれた。だから今度はそいつの夢を私達が守ってやる番だろう? 心配しなくていい。見たところメモリーは無事だ。ならばロボットの一体くらい、直すのは簡単だ』」

「『ノミ…………』」

 顔に明るさが戻ったのかなを見て、ノミは笑う。

「『さあ行こう。みんな待ちわびているぞ、お前の帰りを』」

「『うん!』」

 のかなが乗り込んだ宇宙船は地球を目指して飛び立った。


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