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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編1:地球に落ちてきた女
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第三章 上

「来たか………!」

 機械兵達が次々と地上に降りてくる。ノミは確かに今日の夜になるかもしれないとは言ったが、それはあまりにも早すぎる襲来だった。念のために訓練を軽くしておいたのかなはその判断が正しかった事を知るが、同時にまだ心の準備が完全ではない事が少し心配だった。

 防衛準備を完了していた魔法少女達が協力し、辺り一帯を覆うほどの巨大な隔離空間を展開する。そして誰かが撃った魔法を引き金として戦闘が始まっていく。

 もはやのかなに悠長に心構えをしている時間はない。彼女達が囮になっている内に月にある機械兵の本拠地を叩かなくてはならないのだから。

「のかなちゃん、頑張ってね」

「頼んだぜ、のかな」

「うん、二人も気をつけてね」

 めろんとパウラの二人に見送られ、のかなは近未来的な船の形をしたノミの宇宙船に乗りこむ。すでにノミとアンジェラは搭乗を完了している。後はのかなだけだ。

 ノミの座るシートの後ろに手で掴まるように乗ったのかなは音も無く遠ざかっていく地上を見つめ、それが小さくなると今度は空を見上げた。

 大気圏離脱には大きなGがかかると聞いていたのかなは強くシートを掴むが、その必要はないとノミに言われる。

「シビックにより機内のベクトルはコントロールされている。だから速度はあってもかかる衝撃はエレベーターよりも少ないはずだ。そう気を張らなくていい。月に着くまでは少し時間がかかる。気を紛らわすために何か話でもしていようか」

 そう言うとノミはシートベルトを外して座席を倒し、後ろに居るのかなとアンジェラの顔を見た。

「こうしてみると改めて懐かしいと感じるな。あの時は私とデビッタだけだったが、今度はのかなも居る。知っているか? デビッタはこの船に乗っている間、ずっとのかなが居ない事をぼやいていたんだ。正直、しつこすぎて胸やけするかと思ったよ」

 それを聞いたアンジェラが恥ずかしそうに怒鳴る。

「お、おい! それは言わない約束だろ! つーか、お前だって寂しがっていたろ!」

「チームが欠けていたらそう思うのは当然だ。ただ、キミの場合はまるで王子様を待つ姫のような顔だったのでね」

「ううう…………」

 恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしたアンジェラは恨めしそうな目でノミを見る。

「い、いいぜ。お前がそういう気なら、こっちだってお前の秘密を暴露してやる。気付いてないと思ってんだろうけどな、スキンシップの時の手がいやらしいんだよ、このレズ女!」

「レズ?」

 予想外の事にノミは動揺する。

「ななな、何を言ってるんだキミは!?」

「しかもオレだけじゃなくて、色んなヤツに手出してたろ。無知なヤツが多かったからあんまり噂が立たなかったものの、一部ではのかなと合わせて変態コンビ扱いされてたんだぞ! 手を出すにしてもせめて身内だけにしろ!」

「うぐっ!」

 予想外のとばっちりにのかなは慌てて問う。

「ちょっ、ちょっと! なんで私まで変態扱いなのさ!? 私、別に変な事してないよ!」

 はぁ、とアンジェラはため息をつく。

「……お前さ、ピンチになると笑う癖があるの気付いてる? それが凄く不気味でトラウマになるって言われてるんだよ。能力の不死身さも相まって妖怪『ぶち壊し』って名前で有名なの。しかも魔法少女オタクだから、それが悪く伝わって負けた魔法少女の写真をコレクションする変態って事になってるんだよ」

「ちょっ、嘘でしょ!? 私そんな悪趣味じゃないよ! デビッタはどうして訂正してくれないのさ!?」

 しれっとした顔でアンジェラは言う。

「お前弱っちぃからさ、相手がびびってくれた方が得だろ?」

「余計な気遣いだよ! マイナス面が大きすぎるでしょ!」

 さめざめとした様子でのかなは顔を手で覆った。

「どうりで初対面のはずなのに避けられてる時があると思ったよ……。ああ、頭が痛い…………」

 そうして落ち込んでいたのかなだが、仕方ないと割り切って話を変えた。

「あっ、そうだデビッタ。ぐり子ちゃんがさ、嫌じゃなければいつ帰ってきてもいいって言ってたよ」

 それを聞いたアンジェラはなんとも言えない曖昧な表情で返事をした。

「…………そうか」

「っていうか絶対帰らなくちゃ駄目だからね。ちゃんとしたお別れも言ってないのにさよならなんて失礼だよ。お世話になったんだからしっかりお礼を言わないとね」

「ああ……そうするよ」

 とりあえずアンジェラは喜んで見せたが、その笑みが作られた物であるのは明白だった。アンジェラはもうどこにも帰るつもりはなかったのだ。

 他の誰かの生を奪ってこの世に生まれた瞬間から自分の終わりを決めていた。あの時つけられなかった機械兵との決着をつけ、全ての因縁を断ち切る。それこそがデビッタの願いであり、アンジェラの存在意義であった。

 その先はない。自分は間違いによりここに居るのであって、いつまでもこの世界に留まっていいはずがないのだ。それが例え誰かに望まれたのだとしても、間違いは消さなければならなかった。

 だからこそぐり子から逃げた。彼女と向き合えばデビッタという枠を外れて、アンジェラとして生きてみたくなるから。自分という間違いすら彼女は許してくれそうな気がするのがアンジェラには怖かったのだ。

 自分はデビッタという皮を被っただけの偽物であり、それ以外の何者でもない。空っぽなのだ、アンジェラという存在はどこにもない。全てデビッタの場所を借りているだけで、アンジェラ個人の考えは存在しない。

 誰でもない自分になりたかった。量産型の体に誰かの記憶と意識を持つ自分がこの世界を生きてみたくなった。

 新たなる自我の目覚め、それは許される物ではない。段々とデビッタとのズレが生まれ始めているのをアンジェラも認識していた。やはり入れ物が違えば中身もそれに伴い変容していくのだ、変化を抑える事はできない。

 自分の中からデビッタが消えていく。その度に体が軽くなり、どこまでも飛んでいけるような気がする。だが同時に大切な物もどんどん無くなっていき、最後には何も残らないのだと分かる。

(オレは……誰だ?)

 問いに対する答えはいつかのようには返ってこなかった。

「デビッタ?」

 呼ばれたアンジェラは意識を現実に戻す。

「あっ……ああ、なんだ?」

「そろそろ着きそうだから準備してってさ」

 気がつけば船はすでに宇宙空間へと飛び出し、月が目前まで迫っていた。座席を戻すとノミは最後の問いをする。

「デビッタ」

「なんだ?」

「お前は死ぬ時、私達を怨んでいたか?」

 一瞬の間をおいてデビッタは言う。

「それは……死んだヤツにしか分からない事だ」

「…………そうか」

 悲しげに微笑んだノミは表情を切り替え、気を引き締める。

「行くぞ」

 宇宙船が月に着陸し、三人は月へと降り立つ。

 のかなは自分が宇宙空間であろうともバリアも張らずに普通に行動できる事に改めて驚いていた。理論上は可能であるとは分かっているものの下手をしたら一瞬で死ぬ可能性もあるのだ。平静を装っていたが内心ではどきどきとしていた。

 初めて月の大地を踏みしめた時、のかなは大きな世界の欠片に触れたような気がした。おそらく過去に月に来た宇宙飛行士も同じ感覚を味わっていたのだろう。だが、今は悠長に宇宙旅行を楽しんでいる暇はない。自分達には使命があるのだ。

 いきなりの交戦を避けるために本拠地より少し離れた場所に降り立ったのかな達はそこから飛んで基地を目指す。重力が小さいお陰かのかなでも十分飛んで行けそうだったが、エネルギー温存のためアンジェラに引っ張られる形で飛行する。

 のかなは飛んでいるのに風を感じない事を不思議に思う。真空だからという事は分かっているがここは地球とは違う場所なのだと改めて実感し、ホームシックのような感傷に浸った。。

 ふとのかなは先行するノミの顔を窺う。星を失った彼女は自分とは比べ物にならないほどの寂しさを感じているのだろう。それがどれほどの物なのか、のかなには想像すらつかない。

 誰もが帰る場所を探している。それは星であったり、心の拠り所であったり、死に場所だったりと人によってさまざまだが、そのどれもが安らぎを求めている事には違いない。

 みんなが同じ物を求めているのに分かりあえない。いや、同じ物を求めているからこそ分かりあえないのかもしれない。それは誰かから奪わなければ得られないものなのかもしれない。だからこそ、人は誰かから居場所を奪う。

 それは違う、とのかなは叫びたかった。この黒と白が支配する空虚な世界でそれを否定したかった。すでに知っていたのだ、隣に居るアンジェラが段々とデビッタではなくなっていく事を。居場所を奪っても誰かにはなれないのだ。コピーは所詮コピーでしかない。

 だから、この悲しい戦いを止めなければならない。奪っても何も手に入れる事はできない、そこにはただ傷つけられたという痛みだけが残る。

(デビッタ……どうか私に痛み(ハァト)を断ち切る力を…………!)

 のかなの祈りは銀河の闇に溶け、三人は機械兵の基地へと到着した。

 シビックのベクトル操作により光学迷彩と足音の消去を行うがほとんどの機械兵が出撃してしまった今ではあまり意味をなさないように思える。しかし、マザーコンピュータを確実に破壊するためと考えれば決して無駄ではない。

 順調に進んでいた三人の前に分かれ道が現れる。事前にこのような場合は戦闘力の観点からノミ一人とのかな達二人という分け方する事に決めていた。最新型のシビックを持つノミは逆にのかな達が心配されるほどのパワーがある。それに加え、シビックの迷彩が必要である以上、のかなは二人の内どちらかにつく必要があった。

 真空のため声を出せないのでテレパシーをもって三人は会話をする。

「『のかな、危険を感じたらすぐに撤退しろ。私達で対処できなくとも後続の部隊がなんとかしてくれるはずだ。私はキミを失いたくない、命を大事にしろ』」

「『うん、分かってる。だけどここは敵の中枢、そんな簡単に脱出はできないと思う。そもそも“特攻”部隊っていうのはそういう意味で言ったんでしょ?』」

「『それに退く事を考えてたら迷いが生じる。生き残りたければ死の先を行くしかない。オレ達はいつもそうやって戦っていたんだ』」

 似た者同士の二人に苦笑したノミは心配などする必要も無かったと二人から離れ、別の道を進んでいく。

「『全く、キミ達というヤツは……。生きていたらまた会おう』」

「『帰ったらミルクティーでも入れるよ。デビッタには……ワックスでも塗ってあげる』」

「『それはありがたいね。女の子はおしゃれをしなくちゃいけないからな』」

 分かれたのかな達はほの暗い通路を進んでいく。センサー類をメインとする機械兵には明かりは最小限でいいからなのだろうが、その暗さが化け物の内部に居るかのような錯覚をのかなに抱かせる。

 道の途中で大型機械を運ぶような巨大なエレベーターに乗り、のかな達はどんどん下へと降りていく。ゆっくり、ゆっくりと深淵へと近づいていく。掴まっている手すりの振動だけがこの世界に居るという事を強く認識させてくれる。

「『なあ、のかな』」

 神妙な顔でアンジェラは言う。

「『こんな時だというのに……逆に今だからなのかもしれない。言っておきたい事があるんだ。……聞いてくれるよな?』」

 こくりとのかなは頷く。

「『もしかしたら……いや言葉を濁すのは止めよう。今のままのオレ達では確実に機械兵のボスには勝てない。アイツは基本スペックこそ他の機械兵と大差ないがマザーによる演算補助を受け、凄まじいベクトルコントロールを持つ。かつてのデビッタは『先の地平』のスケィラの力でなんとか相打ちに持ち込んだが、それが精一杯な程の強敵だった。今のオレにはその力はない、あれはデビッタだけが到達した世界だからだ。オレのベクトル操作ではヤツには勝てず、『先の地平』に到達していないお前のスケィラでも勝てないだろう。正直オレは迷っている。ここでお前を行かせてしまっていいのだろうかと、勝てない相手だと分かっているのに退かせないでいいのかと』」

「『………………デビッタ』」

 機械兵のボスを倒さずにマザーを破壊する事を提案しないというのはそれが難しいという事の表れなのだろう。

 戦いの前に不安を煽るような事を言うべきではないとアンジェラも重々承知だったが、これだけは聞いておかなければならないとも思ったのだ。

 この戦いはおそらくスプーンを必死で曲げるようとするように愚かで惨めな物になる。勝つためにはそれにくじけずひたむきに勝利の鍵を探し続ける覚悟が必要となる。感情と理屈の事象の地平を越え、その先にある物を掴む。あまりにも遠く、厳しく、そして儚い戦い。

 不安げなアンジェラにのかなは微笑む。

「『正直、嬉しかったんだ』」

「『……なにが?』」

「『月に私を誘ってくれた事。あの時付いていけなかったら今度こそはって思ってたんだけど、今は強い人がたくさん居るから私の出番なんて無いって諦めてた。だから嬉しいんだ、今こうして隣に居られる事が』」

「『のかな………………』」

 ぎゅっと拳を握るのかなの瞳は強い意思を秘めていた。

「『例えこの先に絶望しか待ちうけていないのだとしても、私は後悔しない。どんな困難があっても必ず真実にたどり着く。そして聞きたいんだ。あの時デビッタが何を願い、私にこのスプーンを託したのかを』」

 のかなの取りだしたいつかのスプーンは闇の中で鈍く輝いていた。曲がっていないそれをしばらく眺めたのかなは懐にしまいこみ、前を見る。

 エレベーターは終点についた。目の前には巨大なゲートがあり、その先に強大な存在が待ち受けているという威圧感がそこから漏れ出している。

 アンジェラはのかなが準備を完了したという頷きをすると共に軽くゲートに手を当て、厚さ何センチもありそうな鉄の壁を紙切れのように吹っ飛ばした。

 中へと入っていった二人は広く白い部屋の中で証明に照らされる。部屋の奥にあるのはバリアに守られたコンピュータの柱と演算を補助するサブコンピュータの群れだ。あれがマザーコンピュータという事で間違いないだろう。

『『あれを壊せば……! ハートブレイカー!』」

 アンジェラは目にもとまらぬ早撃ちでマザーを狙う。だが、スケィラを伴った強力な攻撃もベクトルの力場の前では全て無意味だ。

 間に割り込んだ黒い影が弾丸を弾き飛ばし、二人の前に立ちはだかる。

「やはりやってきたか、悪魔のサル共」

「『お前は……!』」

 のかなはその姿を見た事があった。マリーの世界でジャネットと戦っていた悪魔のような機械兵だ。あの時とまるで変わらない圧倒的な存在感と破壊的な力をその身に纏っている。

「私はNEW‘S(ニューズ)。そして古き貴様らを破壊する完全なる知性」

「『ニューズだと……!? たかがAI風情が大きく出たもんだ!』」

 全てを見下すかのように尊大にニューズは言う。

「生物でないからこそ完全だ。かつて魔法少女に破壊された私は月から貴様ら人間の事を観察していた。人間のなんと愚かな事か! 意味も無く争い、他者を騙し、星を汚していく。何も変わらない、私を作った者たちもそうだった。母なる星を汚し、失う時までその大切さに気付かない。そして失えば他の場所を求め、また繰り返す! 貴様らは力を持った悪魔のサルだ! 消さなければならない。そうしなければこの星は破壊される!」

 アンジェラは銃を構えて睨む。

「『へっ! 何と言おうがこの星はこいつらのもんだ、お前が口出しして良い事じゃないんだよ!』」

「なんとエゴに満ちた考えだ……。何故分からない、私こそが真にこの星を統治するにふさわしいと!」

「『それがエゴだってんだよ!』」

 ハートブレイカーより弾丸が打ち出される。スケィラを纏ったそれはやはりニューズには通じず、力場の前に消滅してしまう。

「いいだろう、抗うと言うのなら…………滅びるがいい、悪魔のサル共!」

 とっさにニューズの狙いを理解したアンジェラは叫んだ。

「『……まずい! 逃げろ、のかな!』」

「『っ!』」

 ベクトル操作による人間の反射速度を遥かに超える速度でニューズは接近し、何の行動もできないのかなにその手で触れた。

「破壊だ!」

 圧倒的なベクトルの流れにさらされたのかなの体は切り刻まれた水風船のように血を全身から噴き出す。

「『ぐっ……!』」

だが、その瞳はまだ輝きを失っていない。その身に纏っていたスケィラがのかなの命を瀬戸際で繋ぎとめたのだ。

「なにっ!?」

「『あの時のようにはいかない、こんな私でも少しずつ前に進んでいるんだ!』」

 初めてニューズと戦った時、のかなは何もできずに倒された。あの時の無力感と絶望は今でものかなを苦しめる。一度自分を殺した相手であるニューズから感じる恐怖は相当な物だ。その姿を見ているだけでも足がすくむほどにのかなは恐れを刻まれている。

 だが、それでものかなは戦う。恐怖を克服するには戦うしかないと理解しているから、圧倒的な力と絶望に抗い続ける。

「『全てのスケィラをここに!』」

 スケィラを乗せた燃える右手を勢いよく繰り出す。圧倒的な重さを持つその攻撃を持ってしてもニューズの力場は突破できず、逆にのかなの腕が破壊される。

「脆弱!」

「『くっ……!』」

 体の再生を始めたのかなに援護が入る。

「『下がれ、のかな!』」

 アンジェラが『ハートブレイカー』より弾丸を放つ。先ほどよりパワーの向上とした攻撃だが、やはりいともたやすく跳ね返され、逆にアンジェラを襲う。

 しかし、それは計算の内だった。アンジェラは己の力場を展開し、跳ね返ってきた弾丸を衛星のように自らの周りに周回させる。

「『ベクトル操作はお前だけのものじゃない。世界の中心とまではいかないが、基準点くらいにはなってみせるぜ!』」

 周回したスケィラと『ハートブレイカー』の弾丸を合わせて放つ。限界を越えたスケィラの重さでも力場を通ることはできないが、さすがのニューズも圧倒的な重さを前に一瞬の怯みを見せた。

「『底が見えたな、ニューズ!』」

「つけあがるな!」

 いかなる攻撃でも当たらなければ意味はないとばかりにニューズは加速を始める。人間の反応限界を遥かに超えた機械の挙動はのかな達では捕えることができない。

 重力の無い宇宙空間では速度が直接攻撃力に繋がるわけではない。殴り飛ばせば殴られた側がその勢いで飛ぶだけだからだ。

 しかし、宇宙用に設計され、ベクトルを操る能力を持つニューズにとってはそんな常識など何の意味も持たなかった。

「これが完全という事だ」

 ニューズの速度についていけず、目で追うのが精いっぱいなのかなに不意の一撃が炸裂する。ベクトル操作を最大限に生かした“飛ばさない”攻撃。衝撃を一分たりとも逃がさないそれを受け、くの字に折れ曲がったのかなは叫びを上げることすらできずにその場に崩れ落ちる。

「『のかなぁぁぁ!』」

 ニューズの速度に追いつこうと加速していたアンジェラの動きが一瞬止まる。ほんの僅かな隙、それをニューズは見逃さない。

 凄まじい速度で距離を詰めたニューズはベクトルの力場など意に介さずアンジェラを肘と膝で挟み込んで破壊し、床に叩きつけて踏みつぶした。

「貧弱!」

「『がはっ…………!』」

 それほど固くない装甲はいとも簡単に粉砕され、アンジェラは機能を停止する。機械に“死”はないと言えども、原型をとどめないほどに破壊されればそれは“死”に違いない。

 静かになった世界でニューズは高々に言い放った。

「星の痛みを知らず、ただ破壊するだけのモノに私は倒せない。自己完結せし機械こそが完全。この腐敗した世界に私が立ち、驕り高ぶった貴様たちを裁く時が来たのだ」

 悪魔のような翼を広げたニューズは空中で静止し、地球の機械兵へと命令を送る。

「破壊せよ! そこから新しいモノが生まれ、この星を救う! 敬意を払え、己を生存させる全てのモノに。大気に! 大地に! 水に! そこに潜む力を感じ、ベクトルを巡らせろ。古きモノを根絶やしにするまで動き続けろ! 私達は星を変えるために生まれて来たのだ!」

 ニューズは地球を掴むようにぐっと宙を握りしめた。


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