第二章 1
望夜めろんが現場に駆け付けた時、全ては終わっていた。全ての機械兵は破壊され、火は完全に鎮火していた。
今は余力のある者が怪我人を運んだり、早くも街の修復に取りかかったりと戦いの事後処理が始まっていた。
全てが再生に向けて動き出した中、隅で膝を抱えた少女が居た。見覚えのあるその少女にめろんが近付くと少女は震える声で呟いた。
「どうして……どうしてもっと早く来てくれなかったの?」
「……のかなちゃん」
「私なんかじゃなくてあなただったらみんな助けられたかもしれないのに、どうして!?」
のかなは泣きながら何度もめろんに訴えた。それが八つ当たりだという事は分かっていた。それでも言わずにはいられなかった。自分の力の無さと自分だけ助かったやるせなさに耐えられなくて、どこかに消えてしまいたかった。
「……大丈夫だよ」
血と油に塗れ、傷ついたのかなが落ち着くまでめろんは優しく抱きしめた。
確かに自分は間に合わなかったかもしれない。それでもできる事はある。こうやって傷ついた友の痛みを受け止める事だ。
自分は元々強い、しかし誰もがそうあるわけでない。強くはない者達のために自分は強いのだとめろんは知っていた。
やがて少し冷静さを取り戻したのかなは申し訳なさそうに呟いた。
「ごめん……めろんちゃんは何も悪くないのに…………」
「そうでもないよ。私だったら全てを救えたっていうのは事実だろうしね」
何の驕りも無くさらっとそんな事を言えるめろんをのかなは羨ましく思う。自分はそうはなれなくとも、せめて強くあろうと力を振り絞って笑った。
「めろんちゃんには敵わないなぁ…………」
あまりに強大過ぎて落ち込んでいる事が馬鹿らしく思えてくる。望夜めろんとはそういう大空のような人間だった。そこに吹く風に当たり少し元気を取り戻したのかなは気持ちを切り替えるよう大きく深呼吸をした。
(…………くよくよなんかしてられない。下を向いてたらまた誰かを失う事になる。戦う事も落ち込む事も苦しいなら、私は戦う事を選びたい)
ジャネットの事を仕方ないと割り切ることはできない。それでも戦う事はできる。悲しみに潰れそうになっても、自分より強い仲間が支えてくれる。
自分は弱い。だからこそ下を向いてはいられない。一部の隙も見せず、強い意志で進み続けなければ勝利を得ることはできないのだから。
本当の弱さとは力の無い事はではない、進む事を恐れる事だ。どんな強者だろうと進まなければ後退していくだけだ。
進み続けたいとのかなは願う。そのために自分は生まれたのだろうから。
「めろんちゃん、ありがとう。泣いてたらいつか帰ってくるジャネットに笑われちゃうよね」
にこりとめろんは笑った。
「それでこそのかなちゃんだよ。諦めの悪さと元気の良さがのかなちゃんの取り柄だもんね」
「うーん…………それくらいしかないっていうのはちょっとあれだけどね」
よっ、と立ち上がったのかなはコンスに体を酷使されていたせいかバランスを崩し尻餅をつく。それにめろんは笑いながら手を差し出し、苦笑したのかなはそれを取って立ち上がる。
復活したのかなは街の修復を指揮しているパウラにジャネットの事を話した。するとパウラは全く気にしていない様子で「あいつの飯はしばらく無しで良さそうだな」と気楽な事を言った。
それがのかなに気を使った結果なのか、それとも本当に気にしていないのかはのかなには判断がつかなかったが、だいぶ気持ちが楽になるような気がした。
「ジャネットの事はいいからお前らは風呂入ってこいよ。血とか油が混じってひどい臭いだ。えんがちょーだぜ」
「あははは…………」
パウラが城の風呂を貸してくれるというのでのかな達はありがたくその好意に甘える事にする。脱衣所で変身デバイスではなく手動で変身を解き、取りだした普段着に体の汚れがうつらないよう気をつけながら置いてある籠に入れて風呂場に入って行った。
汚れた戦闘服はデバイスにより構成された物なので洗濯する必要はない。昔のように着替えて変身していたらこうはいかなかっただろうとのかなは文明のありがたみというものを感じた。
のかなが体を洗っているとふとめろんがじっと自分の事を見つめていることに気付いた。それが何か恥ずかしいような気がしてのかなは戸惑いながら聞く。
「え、えっと、めろんちゃん?」
しげしげと全身を眺めながらめろんは言う。
「んー、何かあったのかな? かすかにマリーちゃんみたいな力が混じってるんだけど…………」
「へっ!?」
おそらくのかなの中に居るコンスの事を言っているのだろう。誰も気付からない程の微細な変化であるが、そこに気付くのはさすがめろんと言ったところであった。
(どうしよう…………やっぱりコンスの事を話した方がいいのかな? でも、コイツの事はできれば話したくない。私の中にこんなヤツが居るなんて知られると思うと気分が悪くなる。めろんちゃんは気にしないかもしれないけど、私の問題だしこれはは秘密にしておこう…………)
考えを纏めたのかなはコンスの存在をごまかす事にした。そうする事が最善だとは思わなかったが、とにかくコンスの存在を知られたくなかったのだ。
「………多分それはさっきマリーと会っていたからじゃないかな? 目が覚めるかどうか不死炎で試していたし、その時に力の逆流現象が起きたのかも…………」
不死炎は解明されていない事の多い魔法系統だ。自分の炎を分け与えればその時に相手の力が逆流する可能性も無くはない。しかし今までそんな事が起きたことはなく、のかなはそれっぽい言いわけをしているだけなのだが。
「へぇ、面白いね。そんな事もできるんだ」
めろんはのかなに対しては基本的に疑う様子を見せない。のかなの嘘は知り合いならすぐに気付くほど分かりやすく態度に出るからだ。
これは嘘をついているのだとめろんはすぐに分かったが、ここは下手に問い詰めるよりも上手く利用した方が面白い事になりそうだと気付かない振りをした。
「じゃあさ、私にもやってみてよ」
「はいぃ!?」
にこりと邪気の無い笑顔でめろんは言った。
「私の力が移ればのかなちゃんも強くなれるかもしれないでしょ?」
「え、えっと……それは…………」
嘘をついた報いというべきか、正直に説明するよりも面倒くさい事になってしまったとのかなは頭を抱えた。ここでそんな事はできないと本当の事を話しても、めろんなら「遠慮しないで」と無理にでもやってくるだろう。
それに、すでに目に見えるほどの魔力を展開しているめろんをそう簡単に止められるとは思えない。最悪気絶するまで不死炎を吸われたり、電流を流されたりするかもしれない。
ぞくり、とヘビに睨まれたカエルのような危機感を覚えたのかなは体を震わせる。
(に、逃げなくちゃ! このままじゃ命が危ない!)
立ちあがって一目散にのかなは逃げ出す。
「あっ、のかなちゃん。お風呂で走ると…………」
「きゃあ!」
滑って転んだのかなは「あたた…………」と上半身を起こして頭の後ろをさする。こぶにはなっていないようだが一応回復はしておく。
「大丈夫?」
「ひっ!」
いつの間にか近くまで来ていためろんに驚いたのかなはしゃがみこんだまま後ろの壁まで後ずさった。そして、懇願するように謝り出す。
「ご、ごめんなさい! 私、嘘ついてたの。マリーの力が混じってたのは不死炎を使ったからじゃなくて、全て私の中に居るコンスってヤツのせいなの!」
「コンス?」
それからのかなは自分には奇妙な幻影が見える事、それを利用して前にマリーを助けた事、そしてそれをついさっき回収してきた事を話した。
全てを聞いためろんは納得したが、同時にのかなに悪戯をする事ができなくて少し残念でもあった。自分の興味は真実よりものかなの反応を楽しむ事にあったのだから。それでも次があるだろうと気持ちを切り替えて、めろんは湯船に浸かりながらのかなの話を聞く事にした。
「……っていうわけでさ、コイツのおかげでさっきは助かっただけどジャネットを見捨てる事になっちゃったし、体も乗っ取られちゃうし散々だったよ。お願いだから、もし私がおかしくなったと思ったら力づくでも止めてね。コイツに乗っ取られて好き勝手やられるくらいならいっそ死んだ方がマシなくらいだからさ」
「ふーん」
めろんは話に出て来たコンスという存在に興味が湧いた。自我を持った闇というものがどういう思考回路で行動しているかという事も気になったし、たった一本のナイフとのかなの体で機械兵相手に無双したというのも面白い。
のかなにはあまりよく思われていないようだが、めろんは一度会って話と手合わせをしてみたいと思った。
「なんだか大変だね。もしもの時は全力で止めてあげるよ」
「あの…………全力は勘弁して。多分、塵も残らないから」
微妙に困る台詞のめろんに苦笑したのかなはふと、この場に居ない人間の事を思い出した。
「そう言えば、ことかちゃんは一緒じゃないんだね」
瞬間、めろんの表情が曇るのが分かった。
「うん……。襲われたのはここだけじゃないんだ、ことかちゃんの方にも機械兵は来たんだよ」
嫌な予感がしながらものかなは聞いた。
「えっ!? それでことかちゃんは無事なの?」
「ことかちゃん“は”ね…………。それを庇ったアリスタさんが…………」
「そんな……アリスタさんが……………」
ことかのパートナーであるアリスタはマリーの作りだしたコピーであり、オリジナルではない。だが、それでも心は本物に違いないと複雑な思いを抱えながらも最終的にことかは受け入れることができた。初めはぎこちなかった二人も最近はようやく打ち解けてきて、オリジナルを失ったことかの傷も癒え始めていた。
「仲間の人の話ではことかちゃんは自分達を襲った隻翼の機械兵を追って行方が分からないらしいんだ。こういう状態のことかちゃんは危険で止められるのはアリスタさんを除けば私くらいしか居ないそうだから、のかなちゃんは見かけても手を出さずに私に連絡してね」
「うん…………」
ことかを襲った隻翼の機械兵。それはやはりあの時の天使なのだろうか。どこかデビッタの面影を持つあの天使がそんな事をしたとは思えず、現実との違いにのかなは困惑する。
ただ、今はことかの方が心配だ。自分と初めて会った時のことかは狂犬そのものだった。同じ魔法少女である自分すら殺そうとしたことかは一体何をするか分からない。このまま放っておけば敵だけに留まらず魔法少女や無関係な人間にまで被害を及ぼすことになるだろう。
そうなれば最悪犯罪者として処刑される事もありえる。ことかの友人としてそれだけは阻止しなければならない。めろんは手を出すなというがのかなは例え無茶でもことかを止めようと心に決めた。
「ことかちゃんの事は私に任せて、のかなちゃんは超能力の調査を続けて欲しいの」
「超能力の?」
こんな状況になったというのになぜめろんは超能力を探せというのかのかなには理解できなかった。悠長に謎解きなどしている場合ではないのは明らかだが、何か考えがあっての事だろうとのかなは次の言葉を待った。
「アルト君の力を借りて色々調べてみたんだけど、あれは正確には超能力じゃなくて『技術』だったらしいんだ。魔法制御回路のエネルギーを循環させ、スケィラと呼ばれるエネルギーを生み出す不思議な『技術』…………。魔法制御回路の危険性が発覚した今では失われたとされているけど、制御回路の痕を持つのかなちゃんなら再現できるかもしれないの」
やはり『エネルギー』と『技術』だったのかとのかなは自分達の推測の正しさを知る。しかし、その技術を再現させようとする事に関しては謎だった。
「再現するのはいいけど、今はそんな事をしている場合じゃないよ」
戦う力が増えるのはいい。だが、今はことかや機械兵の問題がある。デビッタの超能力の事は後回しにすべきだろう。
「ううん、今だからこそ再現する必要があるんだよ」
「どういう事?」
めろんは真剣な顔で語る。
「機械兵は過去にこの地球に来ている。そして、そいつらの力場を打ち破るためにはスケィラの力が必要なの。今回は昔と違って魔法少女のパワーが上がっていたからなんとかなったけど、次も上手くいくとは限らない。だからのかなちゃんにはスケィラの力を思い出して欲しいの」
焦ったようにのかなは言う。
「ま、待ってよ。『地球に来た』ってなんなの? その言い方じゃまるで別の星から来たみたいじゃない。それに思い出すって、私そんなの知らないよ」
めろんはきっぱりと言う。
「機械兵はある星からやってきた侵略兵器なんだ。あと、のかなちゃんは忘れているんだよ。だってのかなちゃんはデビッタちゃんと一緒に機械兵と戦っていたはずなんだから」
「…………っ!」
その時、のかなの脳裏に自分が倒したロボットの残骸がフラッシュバックした。
(そうだ……。あの時のロボットは…………)
段々と記憶がはっきりしてきて、それが先ほど見た機械兵と同じ物である事を確認する。
もし、このロボットが先ほどの機械兵と同じ力を持つのだとしたら今の自分の力では絶対に勝つことはできない。それこそ、めろんの言う通りスケィラの力でもなければ自分はここには居ないはずだ。
(忘れている? 一体どこから…………?)
汚染された自分の記憶は所々が改変されていて不確かすぎる。きっかけが無ければどれが正しくてどれが間違っているのかすら判断がつきそうになかった。
「…………分かったよ。私はスケィラの力を、それを生み出す『技術』を探してみる。もちろんことかちゃんの事もだけど、とにかくできるだけやってみる事にするよ」
こくりとめろんは頷く。
「私はことかちゃんの事を探しながら『技術』を探す。優先順位は違うけど、やる事はお互い同じになりそうだね」
「…………うん」
返事をしたのかなはじっと自分の手を見つめる。いつもと同じ自分の物だというのに今日は何故か全く知らない別人の物のようにのかなは感じた。
☆
鐘紡ぐり子は己の人生に概ね満足していた。
裕福な家に生まれ、何不自由の無い生活と少々厄介な友人と付き合って生きていく事はそれなりに楽しく、幸せであった。ぐり子自身としては歴史に名を残すような派手な活躍はできなくとも、歴史的人物を横で眺めるような観察者となる事を常々望み、そうなるよう行動してきた。
自分は主役でなくてもいい。素晴らしい友人が素晴らしい活躍をするという喜びを一緒に分かち合えれば自分も嬉しいのだから。そんなリスクの無い投資家のような生き方がぐり子の信条であった。
しかし今日、そんな安全でささやかな生活に一つの選択が迫られる事となる。
それはぐり子が学校から屋敷に帰って来た時であった。いつも通り、数人のボディガードの視線を感じながら門を潜り、玄関を目指して敷地内を歩いているとぐり子は妙な気配を感じた。
人間の物ではない、どちらかと言えば大きな獣の物のような……そんな生温かい気配を草むらの影から感じた。
(どこかの動物園から逃げ出したのかしらね?)
動物という物は相手の精神状態に敏感で、下手に恐怖したりすると襲いかかってくる場合もあり危険だという事を知っていたぐり子はできる限り平静を保ち、ポケットの中の緊急信号のスイッチを入れた。
そのコールを受けて隠れていたボディガード達が素早い動きでぐり子を囲みゆっくりと後ろに下げ、安全を確保する。無言でぐり子が草むらを指差すとその中の一人が注意をしながら様子を見に行った。
そのボディガードは草むらの中を見るとひどく困惑した様子でぐり子に耳打ちをした。それを聞いたぐり子は何かの冗談かといぶかしむ。
「なんですって? ロボット?」
草むらより引きずりだされたロボットは玩具にしては精巧すぎるようにぐり子には感じられた。ぐり子の気配に気づいたロボットが動き出し、ゆっくりと立ち上がろうとしてバランスを崩して倒れこむ。そしてロボットから確かな声が漏れる。
「『オレは……誰だ?』」
その後、ぴゅうん、とロボットはパワーを失い機能を停止する。
いかがいたしましょう、と困惑したボディガード達が問う。普段なら不審物として勝手に処理する所をぐり子に聞くという事はこのロボットの存在にひどく混乱しているのだろう。
それはぐり子自身も例外ではなかったが、これが爆弾魔の手の込んだ悪戯でも、はたまた融資してもらえないマッドサイエンティストのデモンストレーションでも少しくらいは付き合ってやってもいいだろうという気にはなっていた。
「これ、私の部屋に運んでもらえる? あとこの事は他言無用でお願いね。お父様とかに知られたくない私の気持ち、分かるでしょう?」
しばらくボディガード達はざわざわとしていたが、ぐり子の機嫌を損ねるのもまずいと動き始めた。ぐり子の部屋に運ばれたロボットはしばらくの間機能を停止していたが夕食から戻ったぐり子の気配に気がつくと再び起動した。
うわごとのようにロボットは呟く。
「『オレは……誰だ?』」
メモリの不調でも起こしているのだろうか、何も知らない赤ん坊のようにロボットは繰り返す。それに対しぐり子は答えを持たなかったがロボットの隻翼を見て、ふと脳裏にある言葉が浮かんだ。
「天使…………」
顔の半分が欠け、内部のパーツがむき出しの不気味なロボットであるというのに、ぐり子は何故かそれを愛おしく思い、ロボットの顔を優しくなぞった。
「『オレは…………天使?』」
「そう、あなたは天使………きっとね。じゃなくちゃ、こんなに綺麗な目をしていすはずがないわ」「『オレは天使…………』」
少し意識のはっきりした様子のロボットは問う。
「『お前は…………誰だ?』」
「私は友達からぐり子って呼ばれてるわね…………本名じゃないんだけど」
「『ぐり子………』」
それだけ聞くとロボットは安心したのか眠るように機能を停止した。
翌日、学校から帰って来たぐり子は再びロボットと会話する。自己修復機能でもあるのか昨日より喋れるようになっていて記憶こそ無いようだが、日常会話には困らない程度にはなっていた。
「あなたはどこから来たの?」
子どものようにロボットは言う。
「『分からないんだ。自分が誰かなのか、どうしてこんな姿をしているのか』」
「哲学的ね。その答えを持っている人間は少ないわ。大事なのは何をしたいかとか何をするかじゃない?」
「『そうかな? じゃあ、ぐり子は何をしたいと思っているんだ?』」
ぐり子は曖昧に微笑む。
「あなたのような存在を助けたいと思っているわ」
「『ならオレのような存在は誰を助ければいい?』」
難しい問いにぐり子は苦笑いをした。
「んー、そうね。私のような存在を助けてくれるっていうのはどう? お互いに助け合えば足りないところも補えるでしょう?」
「『…………助ける側が助けられるのか?』」
「ええ、そうよ、境界線などないわ。ヒーローは誰かを助けるかもしれないけど、そのヒーローだって誰かに助けられてる。線引きなんてできるほどこの世は単純にはできてないのよ」
「『…………』」
ロボットは沈黙し、己の中で何かを考えているようであった。思考を邪魔してはならないとぐり子は今日の所は会話を切り上げる事にする。
この奇妙な経験はおそらく己の人生の中でそう何度もある物ではないだろう。そう考えたぐり子はこの夏の夜の夢のような体験をレポートして書くことにした。
○月△○日
昨日、天使を拾った。これを機に近況報告も含めたレポートを記していきたいと思う。誰に見せるというわけではないが珍しい体験の記録は私にとって価値のあるものとなるだろう。レポートという体であるため、言葉遣いは相応の物とする。
私が拾ったのは鋼鉄製の天使だ。とても天使らしい見た目はしていなかったが、雨に濡れた子犬のような瞳がそう思わせたのだろうか。
彼女(彼?)は誰かの仕掛けでなければ私達の世界とは別の所から来たのだろう。……おそらくは魔法少女である友人と同じ世界から。
彼女はひどく疲弊しているようであまり長く会話する事はできないようだ。しかし、ほんの少しの応答でも私は不思議な世界の香りを感じてわくわくとした。
こんな気持ちになるのは魔法少女の友人の話を聞く時以来だ。まさか自分が物語の中の人物になるとは思ってもみなかったがそう悪くないものだと感じられた。
物語には困難がつきものであるため、私にどんな困難が降りかかるかいささか不安ではあったが今はそれを忘れて登場人物を演じてみるのも悪くない。
私の人生は言うなれば読書家のようなものであり外から眺めるのが信条であるためこうして実際に演じるのは破天荒な方の友人の方に任せておけばいいとも思うが、こうやって演じてみるとそう悪くないものだと感じられる。
正直、心配しているのは降りかかる困難よりもこういうスリルを感じる事により日常への感覚が鈍ってしまう事だ。破天荒な友人により持ち込まれた漫画を見ていると初めは普通に生活していた登場人物が戦いに興じてそれ以外が描かれなく事が多い。読者も作者もよりスリルを求めて現実からは乖離していく。私もそうなってしまわないか心配だ。
魔法少女の友人はよくこんな感覚を克服している物だと思う。もし、自分が魔法などを使えたらそれに夢中になってしまうだろう。他の人間とは違う特別な何かを持つという事がどれほど魅力的な物かという事は天使と出会った私にはよく分かる。
おそらく破天荒な方の友人ならこんな悩みは存在しないのだろう。この前、本屋で彼女に超能力の本を買わされたが、実際は彼女を口実にして私が買ったのかもしれない。私は超能力など信じていないがそういう特別な力が自分にあったらいいなと思う事はたまにある。
今の生活に満足していないわけではないが、現状とは違う変化を望むのは人の心理としては当然だ。しかし、それをよくない事だと感じてしまう時もある。
破天荒な方の友人は私よりも大人びた表情を見せる時がある。普段は私が愚行を咎めてばかりだが、彼女のそんな表情を知っていると同い年であるはずの自分がひどく青く感じられる。
彼女は風のような人物だ。捕え所が無く、気付かれると逆に包まれているような。釈迦の掌というべきか。全てが彼女の思惑通りに事が進んでいると感じる事がたまにある。不思議としか言いようがない。どうしてそこまで見透かしているのか、その秘密を知ってみたくもある。
ただ……彼女の事を凄いとは思うものの、尊敬などできないし増して彼女のようになりたいとも思えないのは何故だろうか。
正直、ただの馬鹿なのかそれとも天才なのか判断のつかない所がある。
もう一人の友人はおそらく魔法少女であるのだが、私がそれを判断する要素は彼女の語る話の中にしかない。嘘のつけない友人であるので真実である事は間違いないのだが、あまりの平凡さに時々騙されているのではないかと思う事もある。
何もかもが平凡……いや、どちらかと言えば劣り気味であろうか。勉強の方は全く問題が無いのだが身体的な能力は運動があまり得意ではない私にも劣る所がある。しかし、家庭の事情に加え、吃音という病を患っていた事を顧みれば仕方ないとも言える。
ただ気になるのは、彼女がとっさに見せる神がかった運動能力の正体だ。不意に飛んでくるボールを平然と取ったり、物が落ちるのを少し後で気づいたのに反応が間に合ったりなど反射神経だけは異様に良いのだ。
本人曰く「これだけが取り柄」らしいが、それだけでは済まない所がある。これは魔法なのかと聞いてみた事もあるが、反応を見るにどうやら違うようだ。どうやら後天的に身に付けた能力であるようだが、一体どのような訓練をすればこれほどの力が身に付くのか少し興味がある。
これは私の仮説だが、おそらく彼女は魔法少女の世界でも落ちこぼれでそれをどうにかするために進化した結果がこの反射神経なのではないだろうか。反射というよりは予知能力じみた反応速度ではあるが極限状態に置かれた生命の適応力は時に人間の想像など軽く超えるものなのかもしれない。
魔法少女はその幻想的な響きとは対照的に実際は傭兵のようなものであるらしい。マネージャーのような『パートナー』にスカウトされ、少女は魔法の力を与えられる。そして、時折湧き出す“怪物”と戦う事になるのだ。
戦えば富や名誉が手に入る。対価としては当然だろう。ある程度戦えば、もう魔法少女としては戦わなくていいらしい。あくまで彼女達は賞金稼ぎなのだ、必要な物が手に入れば自分の世界に帰っていく。
だが、中には戦いの激しさに囚われて抜け出せなくなる者も多いらしい。怪物相手に狩りをするというのは人間の原始的な部分を刺激する所があるのだろう。現実でも命のやり取りの熱さを忘れられずに戦場を渡り歩く人間が居るという。
不思議なのは魔法少女の友人が富や名誉を求めているわけではなく、戦いを求めるわけでもないのに魔法少女を続けている事だ。
本人曰く「魔法少女が好きだから」らしいが、彼女の話によれば殺したり殺されたりもそれほど珍しくない時代もあったらしい。そんな物騒な思いをしてもそう言える彼女は一体どういう思考回路をしているのか友人として少し心配になる。
前に彼女の家にお邪魔した事があるが、戸棚には魔法少女関連の漫画やアニメのDVDやたくさん入っていた。いわゆる『オタク』なのだろう。現実で思い知らされてもいまだに好きと言えるのは筋金入りと言わざるを得ない。友人の将来が心配だ。
この世に無償の愛など存在しない。どんな聖人でも与えるのは少なからず自分の気分が良いからである。愛を与える代わりに満足感を貰っているのだ。本当に嫌いな事は誰もしない。
彼女はそんな人間達と同じ人種なのだろう。別に問題があるわけでもない。むしろ、そういう人間は世の中に必要とも言える。
一円は一円の物としか替えられない。付加価値でもあれば別だが、それは厳密には一円でなくなったというだけだ。どんな物も同価値な物としか替えられない。等価交換というヤツだろうか。全てはいずれゼロに行きつく何も残らない。
だが、本当に何も残らないのだろうか。人間の行動が化学反応によって起こされているから、この世が始まった時から全ては決まっているなどという説は量子力学が否定している。ラプラスの魔はありえない。
ならば目に見えない思いはゼロサムの呪縛から解き放たれたものなのではないだろうか。魔法少女の友人は多くの人間を助けたらしい。
なら、彼女の満足感はそれに釣り合うよう等しく与えられたのか? そんなの誰にも分かるはずが無い。幸せの量など測ることはできない。
魔法少女の彼女には一体どんな世界が見えているのだろうか。ただの人間である私には窺い知る事はできない。しかし、彼女と同じ時を過ごしていると私もゼロの向こう側へ行けるような気がした。
○月△☆日
昨日書いたレポートを読み返してみたが、いささか読みにくいように感じられた。文体を普段と変えているのもあるが文字ばかりで分かりづらいのだ。誰に見せるわけでもないが後で自分が読む事を考えると会話も交えて書き綴った方がよさそうだ。
それに友人についてなど余計な事を書くと後で読む時に恥ずかしい気持ちになるかもしれない。というより既に恥ずかしい気持ちだ。しかし今日の分のレポートもあるし今更書き直す事もできないだろう。その場のテンションは恐ろしいものだ。今後は気をつけよう。
天使についてだが、ずいぶんと回復したようで二足歩行で立ち上がるまでになった。自己修復機能のおかげようだが、地球のロボット工学はこれほど凄くはないだろう。別の世界の技術は凄まじい物がある。
私は彼女に色々と質問をした。そして、同じくたくさんの質問をされた。私にとって彼女が未知であるように、彼女にとっても私は未知なのだ。
私はふと当たり前に会話が成立していることに改めて気付いた。全く別の存在と意思疎通ができるというだけでも驚くべき事だというのに今まで疑問を持たなかったのはやはり既存の映像作品に慣れ過ぎているからなのだろう。作られた常識とは恐ろしいものだ。
「今更だけど、ずいぶん日本語が上手いわね、それとも日本語に聞こえているだけ?」
「『日本語に聞こえているだけだろうな。これはテレパシーだ。昔もそうやって会話していた事があったような気がする』」
「昔も? 前はロボットじゃなかったって事?」
「『おそらくは。確信はないが知的生命体だった。それが猫なのか犬なのかはたまた神様なのかは知らないが、できれば人間であって欲しいね』」
人間ではなくともこれほどユーモラスな存在ならば友人として悪くないと私は思った。
「この地球で冗談を言うのは人間くらいなものよ。アンジェラ、どうやらあなたも人間みたいね」
ハハハ、と人間のように天使は笑った。
「『金属製の人間か、そりゃいい。まずい飯を食わなくて済むからな。ただ、ティーが飲めないのは残念だ』」
「あなたはお茶が好きだったの?」
自分で言った事に驚き、ハッとしたように天使は言う。
「『そう……みたいだな。どうして忘れていたのか…………。オレは本当に人間だったみたいだ…………』」
天使は蘇りかけている自分の記憶に困惑しているようであった。記憶が蘇るのは私としても嬉しい事だが、同時に不安でもあった。
けっして記憶の無い彼女を自分に縛りつけたいわけではない。記憶を取り戻す事により彼女がある種の『使命』に目覚めてしまうのではないかと私は心配していたのだ。
人間から機械へと進んでなったのではないとするならば、真実を思い出した時、人が取れる行動はそう多くはない。
記憶を取り戻しても所詮は機械であり元の人間とは別物だ。帰る場所など元々ないというのに人間の時の記憶がより望郷の念を募らせる事となる。
しかし、それは人間の時の居場所で機械には何の関係もないのだ。それにもし受け入れられたとしても変わってしまった自分に耐えきれるものではない。機械にされてしまった者に居場所は無いのだ。
そんな機械は自分をこのような存在にした者を怨み、復讐に向かう事になる。まるで自分と同じ悲しみを繰り返さないための『使命』を受けたかのように。そして、復讐を終えた機械はそこで終わってしまう。帰る場所などどこにもないのだから。
私は彼女の帰る場所になりたい。どんな時でも安心して帰ってこれるような魂の安らぐ場所に。人にはそういう場所が必要だ。例え機械であろうとも、人の心を持つというのならばそれは変わらない。
「あなたはここに居ていいわ」
「『どうしたんだ、急に』」
「帰ってくる場所が無くちゃ、悲しいでしょう?」
私の真意を読み取ったのか天使は悲しげな様子で言った。
『ありがとう…………。でも、オレは……………』
「続きは言わなくていいわ。ただ覚えておいて欲しかったの。あなたは人間で私の友達だっていう事を」
それからはしばらく彼女と会話をした。なんでもいいから話をする事が記憶を取り戻す手助けになるからだ。話すだけでは詰らないと彼女はゲームを所望した。
どうやらかなり手先が器用だったようで、トランプやサイコロを使うような物ではマジシャンのような素晴らしいテクを見せてくれた。私は途中からまるで勝てなくなったが彼女の言った「前はこれで食べていたような気がする」という言葉を聞いて合点がいった。彼女と賭け事をする前にその台詞が聞けて良かったと思う。
一度コツを取り戻すと動きはみるみる内に精錬されていった。彼女の技術はトランプやサイコロに留まらず、花札や麻雀、果てはスリにまで及んだ。どうやら器用というより手癖が悪いといった感じのようだ。
特に目の前で話している私から全く気付かれずにスっていくのはまるで魔法のようで実は魔法使いだったのではないと私は冗談を言った。
「『魔法使い………か』」
天使は曖昧な笑みでその言葉を受け止めた。まんざらでもないと言った感じだろうか。彼女の機械の面は基本的に動かないので表情は全て私の推測だが、そう間違ってはいないと思う。
○月△▽日
天使が部屋に居ないので私は少し焦った。慌てて呼びかけてみると外から彼女のテレパシーが飛んできた。テレパシーも声と同じように壁の有無で聞こえ方が違うのだとこの時初めて知る。
ベランダに行くと屋根の上に彼女は居て、遠くの空を見つめていた。背中の天使の翼が風を受けて心地よさそうだった。
「そんな所に居たの」
私の声にも気付かず、彼女は遠くを見つめていた。いつまでも羽を休めてはいられないのだろう。旅立ちの予感をその機械の瞳に見た。
「『あっ……。ああ、悪い。ぼうっとしていた』」
「そっちに行ってもいいかしら?」
そう言ってから私は屋根へと登る手段が無いことに気付く。彼女は言葉通り飛び上がったのだろうが人の身の私に同じ事はできない。
脚立でも持ってこようかと私が考えていると彼女は言った。
「『引き上げるからじっとしてな』」
「え?」
次の瞬間、私の体が見えない何かに抱きかかえられるようにふわりと浮いた。浮遊というよりは押しあげられていると言った方が正しいか。その透明なエレベーターに乗って彼女近くまで来た私は恐る恐る屋根の上に足を踏み出した。
「凄いわね、今のが魔法?」
彼女は苦笑した。
「『ただのトリックさ。魔法でも超能力でもない』」
そう言う彼女はどこか悲しそうだった。私は彼女が超能力に傾倒している事を知っていた。おそらくは彼女も私と同じなのだ。何か不思議な力にあこがれている普通の人間。
しかし、彼女は私とは違い、そこに救いを求めているようであった。
「けれど無知な私にとってはどれも同じに見えるわ」
「『方法が重要なのさ、その結果に至るための道のりが』」
「人工のダイヤモンド……ね」
彼女はやたら過程にこだわっているように感じられた。言うなれば罪を犯した人間が一生許される事が無いというような潔癖さと余裕の無さのようなものだ。
ダイヤを渡される側の人間にとっては人工でも天然でもそう大きな差は無く、大事なのはそこに込められた意味であるはずなのに彼女は形に残る物ばかりを求めているように私には思えた。
過程と結果は一つの道であり、一方だけが重要というわけではないが、今の彼女にそれを言っても納得してはくれないだろう。
私と彼女は考え方も違えば取り巻く環境も違う。私の考えが正しいと一方的に思い込み、それを彼女に強要するのはエゴでしかない。彼女の考え方にも一理あるのだ、その正しさを認め付き合うのが友人というものだ。
「『オレはそこに潜む意味を見つける事ができなかった。それは道が間違っていたのからなのか、それともそこには本当に何の意味も無かったのか。オレは確かめたい、自分は正しく生きられたのか。スプーンは超能力によって曲げられたのか』」
機械の彼女にとって確からしいのは形に残る物だけだ。記憶など曖昧で嘘にまみれたものでしかない。
形の無い物は忘れてしまえばそこに何も残らないのだろうか。私はそう思いたくはない。今感じている温かな気持ちが例え失われてしまったとしてもそれが全くの無駄になるという事はないと私は信じている。
「スプーン曲げ……。私の友達もそんな事を言っていたわね」
彼女は茶化すように言う。
「『その前の日はどんなテレビ番組がやっていたんだ?』」
「さあ? 私はテレビを見ないから。でも、彼女はテレビに影響されたわけじゃないでしょうね。あれは魔法少女の顔だったから」
『魔法…………少女?』
その単語が出た瞬間、彼女の表情が明らかに変わった。彼女の興味を惹けたのが嬉しくて私は調子に乗って言葉を続ける。
「そうよ、彼女は魔法少女なの。馬鹿げてるって思う? でも、あなたのような存在が居て、魔法少女が居ないということはないでしょう?」
『魔法少女…………? ううう……!』
急に天使は苦しむようにうずくまる。まるで脳の内側から広がっていく痛みをこらえるように頭を抱えて。
「ちょっと! 大丈夫!?」
私が心配して支えようとすると彼女はがしりと私の肩を掴んだ。痕が残るくらいに凄い力だった、今でもその感覚を明確に思い出せるほどに。しかし、そんな事がどうでも良くなるくらい彼女の表情は必死だった。
「『教えてくれ……! それは一体誰なんだ!? もし、アイツだとするならばオレは伝えなくちゃいけない………。『デビッタを殺したのはこのオレだ』と』」
「デビッタを殺した?」
「『ううう…………』」
その言葉の意味を聞く前に彼女は気を失ってしまった。とりあえず彼女を屋根から降ろそうと思ったが、重い機械の体は私の力では動かせそうになく、手を貸してもらったお手伝いさんに危険だから屋根に登っては駄目だと叱られた。
彼女の言う「デビッタを殺した」というのは一体どういう意味なのだろう。何かの暗号かそれとも本当に誰かを殺してしまったのか。
後者だとするならば、何故その事をこんな状態になってまで伝えなければならないのか。
情報が足りな過ぎる。まるで大事な部分だけを隠されたパズルを組み立てているように全容が見えてこない。おそらく考えても答えは出てこないだろう。かと言って天使に聞いてもはぐらかされるだけだ。
やはり魔法少女の友人に話を聞いてみるしかないだろう。友人が答えを持っていないとしても何かしらの情報は持っているはずだ。
私が問えば天使の存在もばれてしまうだろうが、彼女は信用できる友人だ。悪い事にはならないだろう。
○月△●日
誰かに見られているような気がする。魔法少女の友人に話をしたからだろうか。いや、彼女がそんな事をするはずがない。おそらくは天使を追う何者かが見ているのだ。
初めて天使と会った時、彼女には何者かと争った痕があった。その何者かがついにここまで来てしまったのだ。
怖い。
正直に言うと今こうして書いている瞬間さえ、ドアの向こうに居る得体のしれない何かが扉を壊してここに入り込んで来るような恐怖に襲われている。
あまりに怖くて破天荒な方の友人をこんな夜遅くだというのに呼んでしまった。本当なら魔法少女の方の友人を呼ぶべきなのだろう。
しかし、私達に迷惑をかけまいと正体を隠している彼女を頼る事はできない。私達は平等でなければならないのだ。決して一般人と魔法少女に分けられるような事があってはならない。
それに……この事態は私が招いた物だ。本来ならば天使の羽が癒えた時点で彼女は飛び立たなければならなかった。だというのに私はこの不思議な夢を終わらせたくなくて、彼女を籠に閉じ込めてしまった。
ごめんなさい…………。謝っても仕方が無いけど言わずにはいられない。
だけど、これを自己弁護の言葉で終わらせるつもりはないわ。この闇が例えどんなに強大な物だとしても、私は一歩も引かない。
私はあなたを守って見せる。
だって、この世界に心の休まる場所が無いなんて悲しすぎるから。私はあなたの帰る場所になりたい。




