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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編1:地球に落ちてきた女
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第一章 2

 家へと戻ったのかなは燃え尽きた様子のことかにまとわりつかれ、恨めしいと呪いの言葉を投げつけられた。こういう事は珍しくないのでのかなはことかが落ち着くまで適当に付き合うことにした。

 これがことかなりのスキンシップなのだ。その証拠にある程度文句を言うと満足したのかいつものお調子者のことかへと戻っていた。

 ことかの気も済んだ所でのかなは二人に先ほど会った奇妙な天使の話をした。唐突に思い出した古い友人の事は除いて、だが。

「鋼鉄の天使…………か。幻覚にしても現実にしてもあまり良さそうなものじゃなさそうじゃね」

 こくりと同意するようにめろんは頷く。

「そうだね、敵意は感じなかったって言うけど警戒はしておいた方がいいかも。とりあえず、もしもの時のためにアルト君には一言入れておくよ」

「ありがとう、めろんちゃん」

 前の時とは違い、今度は組織のバックアップが受けられるという事がのかなには心強く感じられた。

「一体何者なんじゃろうね、そいつは。実はNASAの新製品じゃったりしてな」

「二十二世紀のお友達ロボットだったら楽しい事になりそうだけどね」

 呑気な想像をする二人にのかなは苦笑する。

「あんな見た目のドラちゃんだったら怖くて近寄れないよ」

 それを聞いたことかは声をあげて笑った。

「のかなは怖がりじゃからな。この前なんてヘビのおもちゃを仕掛けたらこっちが逆に驚くくらい凄い悲鳴を出したくらいじゃもんね」

 恥ずかしそうに顔を赤くしたのかなは必至にごまかそうとする。

「あ、あれは驚いただけで怖かったとかそういうんじゃないんだからね! 誰だって急にあんなものを見たら驚いちゃうって! 二人だって台所に出てくるアレとかたまに出てくる干物になったカエルとか見たら悲鳴くらいあげるでしょ!?」

 にやにやとした様子でことかは言う。

「いやぁ、今まで倒してきた化け物達より虫が怖いとはのかなちゃんはかわいいですなぁ、望夜さん」

「そういうとこがのかなちゃんらしくて私は好きだけどね」

 改めて怖がりなのだと証明され、のかなは軽くいじけ始めた。

「あうう…………。いいじゃん、虫が苦手だって。誰だって苦手な物くらいあるよ。怪物と戦ってる時だって覚悟しているから我慢できるだけで、本当はいつも逃げたいくらいに凄く怖いと思っているんだからさ」

 のかなをなだめながらことかは言う。

「どうどう。のかなは頑張っとるけぇね、怖がりでも気にすることは無いんじゃよ」

「いつもそれをからかってくることかちゃんが言いますか…………」

 すっとぼけた様子でことかは言う。

「だって私、お菓子よりも悪戯の方が好きじゃもーん」

「うう…………後で覚えといてよ、ことかちゃん」

 ことかの悪戯に打ち勝つためにもっと強い気持ちが欲しいとのかなは心の底から願い、とにかく今の流れを変えようとのかなは急いで言葉を紡ぐ。

「話は変わるけどさ、二人はスプーン曲げってできる?」

「スプーン曲げ?」

 のかなは机の中から曲がったスプーンと自分への課題用に渡された普通のスプーンを二人の前に置いた。

「昔、知り合いの魔法少女が見せてくれたんだ。どうやったのかは分からないけど魔法も機械もトリックも無しにやったって言ってた。この謎を解くのが彼女からの宿題なんだけど、いまだに解ける気がしないんだよね」

「無理ならいっその事、その人に答えを聞けば?」

 悲しげな顔でのかなは首を振る。

「多分、もうこの世界には居ないと思う。それに答えなんて聞きに言ったら彼女に笑われちゃうよ。あの天使にあった時、唐突に彼女の事を思い出したんだけど『この謎を自力で解いたら私の願いを叶えろ』とかとにかく無茶苦茶な人だったなぁ。普通、自力で解いたんだから私が願いを叶えてもらう側だよね。…………ま、それも何かの考えがあっての事なんだろうけど、私には何もかも分からないままなんだよね…………」

 いい加減この謎を解いてすっきりしたいかな、とのかなは言う。おもむろに曲がったスプーンを取ったことかはそれをしげしげと眺める。

「ふーん、本当に魔法もトリックも無しにこれをやったんか?」

「本人はそう言っていたけど信用できるかどうかは分からないよ。でも、私にもできるとは言っていたけどね。そもそもできないのなら課題として出す意味も無いし、トリックの有り無しはともかく私にできる事しかやっていないはずだよ」

「トリックならばあらかじめ亀裂を入れておいて軽い衝撃で折ったりテコの原理で曲げたり最初から曲げておいたりできるけど、そんな事をする意味なんてあるのかな?」

 うーん、と三人はこの難題に頭を悩ます。

「せめてそいつがのかなに何をさせようか分かれば少しは見当もつくんじゃけどなぁ…………」

「ねぇ、のかなちゃん。その人の事詳しく教えてくれないかな?」

「うん、いいよ」

 記憶を探るように宙を眺めながらのかなは語り始めた。

「その人はデビッタ=ガァルって言う魔法少女なんだ。前に友達と大喧嘩して左目の視力をほとんど失うと共に瞳の色が変わったていう後天的なオッドアイで色々とこだわりがある正直面倒くさい人だったなぁ………。腕は確かだけど、私とはあんまり相性が良くなくて友達っていうより傭兵仲間って感じの関係だったんだ。賭け事が大好きでそれによるトラブルが絶えなくて、巻き込まれた私が何度危ない目にあったか分からないよ」

「へぇー、賭け事が好きなんか。なんだか私と気が合いそうじゃね」

 のかなはなんとも言えない微妙な笑みを浮かべる。

「まあ、デビッタもイカサマ使いだから泥仕合になりそうだけどね。魔法はからっきしだけど、今まで腕一本で生きてきたって豪語する通り、とにかく凄い技術を持っていたんだ。マジシャンみたいにトランプのすり替えをしたり、ハトを出したりするのは序の口で目の前で話をしている人から気付かれずに時計をスったりできるくらいに手先が器用だったんだ。まあ、私を助手扱いしてイカサマを仕込もうとするのは止めてほしかったけどね。けど、その経験が色々と役に立ってるから人生って分からないものだよね」

「デビッタちゃんってハッタリ屋さんなんだね。なんだかのかなちゃんに似てるかも」

 ははは、とのかなはめろんの言葉を笑い飛ばす。

「まさかぁ、似てたらあんなに喧嘩しないよ。デビッタって頼りになるけど、強情でこうと決めたらテコでも動かないんだもん。私はあんなに分からずやじゃないよ」

(のかなも強情さでは引けを取らないと思うんじゃけどなぁ…………)

 ことかが苦笑しているのを見て、のかなは不思議そうな顔をした。

「ん? なぁに?」

「いやなんでも」

 適当にごまかしたことかは話を変える。

「しっかし、デビッタとやらはイカサマ師なんじゃな。そいつがトリックじゃないと言っても胡散臭いが…………。ま、とりあえず信用するとして。魔法も機械もトリックも無しにスプーンを曲げる方法か…………。そんな物があるとは思えんのじゃが、可能性があるとするならばおそらくそれは一つじゃろうな」

「超能力…………?」

 こくりとことかは頷く。だがその顔は浮かない。

「魔法少女の私が言うのもなんじゃけど、そんな力が本当に存在するんじゃろうか。別に物を曲げたり、瞬間移動させたりすることができないと言ってるわけじゃない。私が言いたいのはそれを行うための未知のエネルギーが存在するかということじゃ」

「えっと…………つまりそれってどういうこと?」

 なんとなく理解したらしいめろんが口を開く。

「なるほどね、エネルギーは元素の周期表のように法則に従って存在するって事だね」

「ああ、別に現在のエネルギー予想が完璧とは思わんけど、人間が自分の意思でコントロールできてしかも最適化も無しに金属スプーンを曲げるほどの力を持つエネルギーが存在するとは考えづらい。もし仮にそんな物があるとすれば必死こいて魔力の研究しとる世界が吹っ飛ぶよ。そのデビッタとかいうヤツが本当にそんなエネルギーを見つけたのなら世界を手に入れたも同じじゃ。そしてそのエネルギーのヒントをのかなに渡したのだとしたら、そいつはさしずめ『世界を売った女』といったところじゃな」

「世界を売った女……………」

 あの時、デビッタが自分の望みを叶えてくれと言ったわけが少し理解できたような気がした。彼女はのかなに世界を変える力へと到達するヒントを与えたのだ。

 その力を解き明かすことによって得られる富と名声は計り知れない物となるだろう。その対価として彼女はのかなに臨みを叶えてもらおうとしたのだ。

 しかし、それほどの価値を持つ物を譲り渡してまで彼女は一体何を叶えてもらおうとしたのか。彼女の全てを知るわけではないのかなでは想像する事もできず、また彼女が死んだ今となってはもう誰にも分からない事であった。

「未知のエネルギー…………。それがどんなものでもなかなか厄介な事になりそうじゃね」

「そうだね、世界を変えるほどの大発見となれば一体どんな事になるか想像もできないよ。そこそこの歴史がある魔法だってこうして隠さなくちゃいけないくらいだし、全く新しいエネルギーとなったら世界がガラリと変わってしまうかもしれない。この先にそんなエネルギーがあるとは限らないけど、その危険性は心に留めておかなくちゃね、のかなちゃん」

「うん…………」

 もし仮にそんな力が存在するというのならばそれがどんなに危険であるかということはのかなにも分かっていた。力が争いを呼ぶというのは歴史が物語っている。

 平和利用で作られた物ですら使う者次第で凶悪な武器にも変わってしまう。発明した者に罪は無いとしてもそれなりの責任があるのだろうとのかなは思う。

 だが、そんな危険性を孕んでいてものかなは知りたいと思った。むしろ知らなければならないと思った。世界を変えるほどの力を自分に渡そうとしたデビッタの思いと叶えられなかった願いを知るために行動しなければならないと思った。

 その結果として何が起きるかは分からない。だが、例えどんな結果が待ち受けていようともそれは全て自らの意思を持って行動した先にあるものだ。見えない恐怖に立ちすくんで、ここで立ち止まりたくはない。

 自分に思いを託したデビッタのために、なにより何も知らずには終われない自分のために。

(それにもし間違っていても道を正してくれる友達が居るから。私はありのままの自分で恐れずに進んでいきたい)

 のかなが顔をあげて二人を見ると、すでにどちらも覚悟を決めているようであった。次に紡ぐ言葉を理解されているのがのかなには嬉しく、同時にそこまで自分は分かりやすいものかと少し照れくさくもあった。

「私はこの謎を解きたい。そこにどんな困難があっても構わない。これを思い出した事には何か意味があるはずだから、何もしないなんてことはできないよ」

 その答えに二人は満足げな笑みを浮かべた。

「そうこなくっちゃね、ここで終わりじゃすっきりしないよ」

「そうじゃな、今こそ西の名探偵道下ことかさんの灰色の脳細胞が生きる時じゃ」

「二人とも………ありがとう」

 頼もしい、とのかなは改めて感じた。おそらく一人だった過去の自分ではこんな気持ちになる事も無かっただろうと、のかなは今この謎を思い出した理由が少し分かるような気がした。

「そうと決まったら私はアルト君の力を借りて色んな人に聞いてみようかな」

「ふむ、じゃあこっちは関西の方に戻って色々調べてみるとするかな。こういう金になりそうなネタへの嗅覚は鋭い連中が多いけぇね、一人くらいは有力な情報を持ってるかもしれんしな」

 立ち上がった二人はおもむろに魔法少女へと変身すると窓から外に出て行く。

「何か進展があったら連絡するよ。無くても今日みたいに遊びに来るかもしれんけど」

「あんまりアリスタさんを困らせちゃ駄目だよ、ことかちゃん」

 じゃあね、と言葉を残し流星のような勢いでそれぞれの方向に飛び立つ二人を見送ったのかなは静けさと広さを取り戻した部屋の中で独りごちた。

「今日はもうおそいし、明日マリーの所にでも行ってみようかな?」

 デバイスでマリーの友人であるパウラにメールを送ったのかなは晩御飯の用意をするために一階へと降りていった。



 いつの記憶だろうか。

 のかなはデビッタと背中合わせでマネキンのようなロボットの集団と戦っていた。族に言う宇宙から来た侵略者というやつだ。この時代の魔法少女は怪物や狂った同胞達だけではなくこういった敵とも戦わなければならなかった。

のかな達は長年連れ添ったパートナーのように見事な連携で敵を片づけていく。

「これで終わりだ!」

 最後の一体に銃型に加工された金属『ハートブレイカー』を向けたデビッタはそのトリガーを引こうとする。

「ちぃ!」

 だが、舌打ちと共に発射を諦め、代わりに蹴りを叩きこんで引き倒し、銃をロボットのボディに突きつけてもう片方の手を使用してトリガーを引く。

 そうして最後の敵を倒したデビッタは安堵したようにふぅと息を吐いた。

「『また腕が動かなくなったの?』」

「…………まあな」

 のかなが魔法制御回路の呪いにより吃音を持つようにデビッタもその影響で腕の肘から先が動かなくなってしまう時がある。場合を選ばないそれが今のように戦闘中に現れると命取りにもなる。予兆も無く唐突に起こるそれはある意味のかなの吃音より厄介なものであった。

「心なしか段々と頻度が高くなっているような気がするぜ。…………このオレもそろそろ年貢の納め時なのかもしれないな」

 デビッタの珍しい姿を見てのかなは肩をすくめる。

『弱気なんてらしくないね。どうせ引退するならその銃をちょうだいよ。明日の朝食代くらいにはなりそうだからさ』

 はぁ、とデビッタはため息をついて苦笑した。

「言ってくれるぜ。ま、こんなもんただの飾りだからくれてやってもいいけどよ、超能力が無くちゃガキのおもちゃにしかなりゃしないぜ?」

 やれやれとのかもため息をつく。

「『超能力…………ね。飽きないなぁ、デビッタも。そんなものが本当に存在すると思っているの?』」

「さあな。だが、魔法があるなら超能力もきっとどこかにあるさ」

「『ふーん…………。じゃあさ、仮に超能力があるとしたらデビッタはそれを使って何がしたいの?』」

 ようやく動くようになった手を確かめるように動かしながらデビッタは呟いた。

「そうだな…………スプーンを曲げたいな」

「『そんなの魔法でもできると思うけど…………』」

「魔法もいらないだろ、手でも曲げられるだろうし」

「『じゃあ、なんで?』」

 デビッタは皮肉めいた笑みを浮かべた。

「理由が無くちゃいけないか?」

 語るデビッタは年相応の子どものように無邪気で純粋であった。

「すげぇ力を使って馬鹿な事をしたっていいじゃないか。スプーン曲げなんて何の役にも立たない行為だ。けれど、もし超能力でスプーンを曲げられたとしたら毎日が少し楽しくなるかもしれないだろ? オレはそんな世界になる事を望んでいる。最適化された無駄の無い物だけに意味があるわけじゃないって思いたい。じゃなくちゃ、オレたちが生まれてきた事もこうやって守ってきた物も全て意味が無くなっちまう。オレは思うんだ、無駄こそが人生を豊かにしてくれるってね。だって人生は願望なんだから」

 それを聞いたのかなは苦笑した。

「『デビッタの人生には少し無駄が多すぎる気がするけどね』」

「あくせくするのは性にあわないのさ。…………さてそろそろ帰るとするか」

「『そうだね。ここに居てもオイルくらいしか飲めそうにないよ』」

「ふむ、そいつは上質そうだが胸やけしそうだ。オレたちには安いアッサムにミルクを混ぜたくらいがちょうどいい」

 軽口を交わしながら二人は歩き出し、帰るべき場所へ戻っていく。

 仲間というには情が足りず、敵というには憎みきれない。そんな奇妙な関係の二人はいつ途切れてしまうかも分からない細い命の道が未来永劫続いていくような錯覚を抱きながら、いつか争いが終わる日まで戦い続けるのであった。



(ん…………)

 朝の光に目を覚ましたのかなはしばらくの間、ぼぅと先ほどまで見ていた懐かしい夢の事を思い出していた。つい先ほどまで当たり前のように隣に居ると思っていた友人が今はもう居ないという事を目覚め始めた頭が理解するとのかなは無性に悲しくなり、すぅと透明な滴が頬を流れていった。

 大きく息を吸って気持ちを入れ替えたのかなはベッドから起き上がろうとして力を込めた。

(…………あれ?)

 だが、上から見えない何かで押しつけられているように体を動かすことができない。不思議に思ったのかなが辺りを見渡した瞬間、背筋が凍りついた。

 どこから侵入したのか部屋の中に昨日の天使が居たのだ。暗がりに居たせいで初めは気付くことができなかったがそれはずっと前からのかなの事を見ていたようであった。

(くっ! 動け、動け!)

 ゆっくりと近づいてくる鉄の足音にのかなは恐怖を抱きもがくが魔力では無い謎の力は上からがっしりと体を押さえつけて指一つ動かす事を許さない。

(あ……あ、あああ…………!)

 すっと伸ばされた機械の手がのかなの顔に触れようとする。人の物とは違う、無骨で冷たい感じのするそれを見たのかなの恐怖心は限界まで高まり思わず目を閉じる。

 その瞬間、

「!?」

 じりりりりとセットされていた目覚まし時計が響き、それと同時に鋼鉄の天使は苦しみ出して勢いよく窓を破って冷たい空気に満ちた空へと消えていった。

 同時に圧力から解放されたのかなは勢いよく起き上がり破裂しそうなほど高まっていた心臓を荒い息で鎮めようとする。

 やがて落ち着きを取り戻したのかなは大きく息を吐き、壊れた窓から外を眺めた。

(何をしに来たんだろう、あの天使は。それにあの押し付けられるような謎の力。まるで念動力(サイコキネシス)のような…………。まさか本当に超能力は実在するっていうの? 魔法ではない不思議な力が本当に…………?)

 深まる謎にのかなは思考を巡らすが朝の風の寒さに身震いして現実へと戻り、壊れた窓を魔法で修復すると朝食を取るために一階へと降りていった。

 その後、学校に行くために家を出たのかなは教室につくと鞄を机に置き、二人の友人の元へと向かった。

「よっ、のかな」

 軽い調子で挨拶をした少女の名は佐下るい。楽観的でトラブルメーカーだが、その行動力には目を見張る所があり、時に達観した物の見方をする意外な一面を持っている。

「おはよう、のかな」

 優雅に挨拶をしたのは鐘紡(かねつむぎ)ぐり子。家が裕福であり、その教養は時に大人をも驚かす事がある。のかなには恋慕とも独占欲ともつかぬ複雑な感情を抱いている。

「おはよ、るいちゃん、ぐり子ちゃん」

 二人はのかなの良き友人であるが、魔法少女の事はさすがに話すことはできないとのかなは考えていた。話を聞けば優しい二人の事だ、自分も手伝うと言いだすだろう。その気持ちは嬉しいが辛い戦いの世界にのかなは二人を巻き込みたくはなかった。

 だが、たまに作り話としてのかなは二人に魔法少女の話を語っているので薄々どころか完全にのかなが魔法少女であるというのはばれていた。その事に気付いていないのはのかな一人であるのだが、二人はそんなのかなの気持ちを汲んでか知らない振りを続けている。

「ねぇ二人とも、超能力ってあると思う?」

「超能力?」

 その響きに単なる雑談ではない雰囲気を感じたぐり子がるいをちらりを見ると、るいは「まあ、そうだろうな」と嘘のつけない友人に苦笑しているようであった。

「そうだな、超能力か……。それはどんな種類の物を言っているんだ?」

「え? 種類って?」

 予想外の答えにきょとんとした様子ののかなにるいは説明をする。

「一口で超能力って言っても色々種類あるんだ。発火能力(パイロキネシス)とかのエネルギー系、念話とかのテレパシー系、再生能力とかの体質系、回復とかの生命系、分身とかの空間系とかね。のかなのいつも話してくれる魔法少女だってこういう観点から見たらある意味超能力者かもしれないくらい、超能力ってヤツは範囲が広いのさ」

「ふーん……。るいちゃんって詳しいんだね」

「まあね、私は博学なのさ」

 ふぅとため息をついたぐり子は肩をすくめて言う。

「何言ってるのよ、昨日書店でそういう本を買ったんでしょ。お金が無いとか言って私に買わせた上に勝手に持って帰っちゃうんだから。ホントに困った奴よね」

「いやぁ、なかなか面白かったよ。今返すから待って」

 はい、とるいは鞄から取り出した本をぐり子に渡した。その表紙をつまらなそうな顔で一瞥したぐり子は語り出す。

「……まぁ、普通はるいが言ったみたいにそこまで細かく分類される事はなくて、基本は透視とかの超感覚の『ESP』と念力とかの現象を起こす『PK』に分けられるわ。それらを合わせて『PSY(サイ)』というのが一般的な超能力の呼び方ね」

 るいは意外そうな顔をする。

「なんだ、ぐり子も詳しいじゃないか」

「あなたと一緒にしないで、私は超能力があるとは思っていないわ。この世の全てが科学で証明できるなんておごるつもりはないけど、全ての現象には理由があるわ、そしてそういうタネがある限りそれは手品師のマジックと同じなのよ。マジックはタネがあると公言しているからいいとしても、超能力は嘘つきと誇大妄想家の巣窟だから信じる以前の問題なのよ。夢を見るのは勝手だけど、それに食われないように気をつけることね」

 本を鞄にしまったぐり子を見て、それだけ文句を言うならどうして買ったのだろうかとのかなは疑問に思う。すると、それに答えるよう傍に居るるいが小声で耳打ちしてきた。

(なんだかんだでぐり子も子どもだからさ、頭では分かっていても心では否定しきれないのさ。全く素直じゃないよね)

「聞こえてるわよ、るい」

 じっと睨まれたるいはごまかすように視線をそらしながら口笛を吹いた。苦笑したのかなは話を変えるように言う。

「えっと、それでさ、私が聞きたいのはスプーン曲げについてなんだけど、二人はどうやったらインチキをしないで曲げられると思う?」

「インチキっていうのは手で曲げたり魔法を使ったりするなってこと?」

「うん、そう。……って魔法なんてあるわけないでしょ、ぐり子ちゃん!」

「ふーん……。その謎が解けないから私達に相談したってわけか」

 こくりとのかなは頷く。

「ある友達がまるで超能力みたいにスプーンを曲げたからさ、だから超能力があるんじゃないかって思ったんだよ」

「超能力ねぇ…………」

 それからしばらくの沈黙が訪れる。やがて、このままではらちが明かないと思ったのかぐり子が口を開いた。

「超能力があるかどうかはとりあえず置いて、逆に考えた方がよさそうね」

「逆に?」

「その現象がどんな力によって引き起こされたかではなく、どんな原理で起きているのかを考えるのよ。さっきるいが言ったみたいに魔法少女も超能力者と同じ事ができるはず。使う力が違うだけでね。だから、まずは魔法でスプーンを曲げてみた方が答えにたどり着き易くなるんじゃないかしら?」

「え、えーっとつまりどういう事?」

 もう少し簡単に言うわ、とぐり子は言い変えて説明する。

「つまり、車を動かすにはどうするのかという事よ。それが手で動かしたものであれ、エンジンで動いたものであれ、下り坂で動いたものであれ、結果は全て車が動いたという事。でも車が動いたという結果だけで過程を推測する事はできないわ。だから過程を試行錯誤する必要があるのよ。超能力はある意味過程を無視して結果だけを求める力だわ。どんな過程でも超能力(ふしぎ)の一言で済まされるのだから」

 ぐり子はのかなに言い聞かせるように語る。

「そこに行きつく道を探すべきよ。だって、スプーンなんて手でも曲げられるものなのだから、曲げたって何の役にも立たないのだから。その友達が何かの意図を持ってあなたにそれを見せたのだとしたら大事なのは超能力を探す事なんじゃなくて、そこに隠れた意味を探す事なんじゃないかしら?」

「大事なのは過程や意味…………?」

 のかなはぐり子の言った事がなんとなく真実に一番近いように感じられた。

 ホームルームのチャイムが鳴り、のかな達は自分の席へと戻っていく。授業中、ぐり子の言った事を頭の中で繰り返しながらのかなはかつての友に思いをはせるのであった。


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