エピローグ
「久しぶりね、のかなの魔法少女の話を聞くのは」
「そうだね、最近はごぶさただったから」
たまにのかなは友人であるぐり子とるいに魔法少女の話をする事があった。もちろん自分の事とは分からないように色々と変更したうえで、だが。
いくらなんでも魔法少女が現実に存在するとは思わないはずだとのかなは思い、たまにこうして自分の冒険の話をするのだ。
照れたようにのかなは苦笑を漏らす。
「『あんまり出来のいいものじゃないから恥ずかしいけどね』」
「そうかしら、私は等身大ののかなって感じで好きだけど?」
どきりとしたのかなは慌ててごまかす。
「『私の話じゃないよ、ある魔法少女の話なんだよ』」
「そうだね、のかなが魔法少女の話だね」
『『もー! だから、私が魔法少女な話じゃなくって、別の誰かだって言ってるでしょ! 現実と空想の違いくらい分かってよね!』」
ぷんぷんと怒りだしたのかなを見て、るいはとぼけたように舌を出した。
「てへっ、怒られちった」
「ふざけ過ぎよ、るい。あくまでのかなの空想というのが私達のスタンスでしょ? のかなが話してくれなくなったらどうするのよ」
「悪い悪い。でも、嬉しくってさ。のかながこうやってまた魔法少女の話をしてくれるのが」
のかなは隠しているつもりだが、るい達はずっと前からのかなが魔法少女だという事を知っていた。
特に国語の成績が優れているわけでもないのかながオリジナルで話を考えるなどという事はまずあり得ない。魔法少女などというものが本当に存在するなどとはにわかに信じがたい事だったが、嘘のつけないのかなが相手である事とそう考えると色々とつじつまが合う事でるい達は信じる事にした。
「ずっと気になってたんだ。あの時、空から落ちた魔法少女がどうなったか」
のかなの話は悲しみで終わっていた。結末としては中途半端だと自分でも思っていたが、この先の話など考えられなかった。
そもそも先がある事すらあの時ののかなは想像してなかった。二度と魔法少女に戻る事は無いと思っていたのだから。
「『魔法少女は太陽の光に照らされて、もう一度立ち上がった』。その一言だけで良かったと思えるよ。私はその言葉をずっと聞きたかったんだ」
しみじみとしたるいの台詞にのかなは困惑する。
「『大げさだよ。空想の話なんだよ?』」
「それだけのかなの話が楽しみだったって事よ。実を言うと私もずっと気になっていたの。あの時の魔法少女があれからどうなったのか」
楽しみだったと言われたのかなは少し嬉しそうな顔で照れた。
「『彼女の話はあんまり好きじゃなかったんだ。でも、最近はほんの少しだけ好きになれたような気がする。彼女は力も無くて夢ばかり見てるような落ちこぼれだけど、そんな彼女でもたくさんの人に支えられて頑張れたんだ。その道はあまりにも辛くて苦しいものだったけど、彼女は自分の夢を叶えることができた。それが私には自分の事のように堪らなく嬉しいんだ』」
所詮は空想の話だけどね、とごまかすようにのかなは付け加える。楽しげにぐり子達は魔法少女の仲間達の物語を口ずさむ。
「『全てを失った漆黒、虚構と現実の果てに確たる真実を見つけ出す。隣にはかつての友が。その体は嘘でありながらも精神は真の存在なり』」
「『理想の光、虚構王との戦いを越えてなお輝き続ける。従者の獣に小言を言われながらもその顔より勝利の微笑みの消える時無し』」
「『無慈悲な執行官、邪悪なる闇に制裁を下す。彼の存在もまた闇でありながらも、その心には暗闇を照らしだす光の意志があった』」
「『悲しき複製達、彼らの魂は運命より解放され、自由を取り戻す。彼らは虚構の存在でありながらも真実でもある。何者も彼らの安寧を乱す事はできない』」
「『虚構王、死闘の末に心を取り戻す。今は従者に見守られながら優しき風の吹く世界で眠り続ける。いつかその目が覚める時、この世界はもっと良い物となるだろう』」
二人はちらりとのかなを見る。最後は自分で語れという事なのだろう。初め、のかなは恥ずかしがるように躊躇っていたが二人の期待のまなざしを受けると少しずつ言葉を紡ぎ出した。
「不死炎の少女、太陽の光により蘇り再び魔法少女となる。立派な魔法少女を夢見た彼女の道はいまだ険しくあらゆる困難が立ちはだかる。己の中に巣食う大きな闇、襲いくる恐ろしき怪物たち、人々の悪意。しかし、彼女には友が居た。多くの人間に支えられ、魔法少女は虚構王と対峙する。神のごとき凄まじき力を持つ虚構王。幻夢、天地引き裂く翼、天使の傷痕、虚構螺旋。古の魔王すら手駒にする力により、仲間達は次々と倒されていく。魔法少女も倒れかけた時、一筋の光が天より降り注いだ」
歌うように魔法少女の詞をのかなは紡ぐ、もう言葉を出すことに恐れは無い。自分はもう光の中に居るのだから。
「その光はある男の姿を形取る。彼の言葉は魔法少女に勇気と希望を与えた。そして、魔法少女は仲間達にそれを分け与えた。だが、それは魔法少女がかつて彼に与えた物であった。彼に支えられていた魔法少女もまた彼を支えていた。全ての因果は繋がっている。無限なる心の力を持って立ち上がった仲間達と共に魔法少女は虚構王へと挑む。繰り広げられる死闘の果てに魔法の真の力を魔法少女は見つけ出す。力を越えたその真実で魔法少女は虚構王の中に巣食う闇を破壊した。全ては闇の引き起こした悲劇だった事を知った魔法少女達は虚構王を許し、元の世界へと戻っていった」
のかなはスケッチブックの最後のページをめくり、そこに書かれた言葉を読み上げる。
「魔法少女がその後どうなったのかは誰も知らない。おそらく魔法少女らしく今日も誰かを助けているのだろう。いかなる闇が彼女を襲おうとも彼女が屈する事は決してない。なぜなら彼女は太陽をその身に宿した不死炎の少女なのだから…………」
そう語り終えたのかなはスケッチブックを閉じようとする。しかし、その寸前にスケッチブックはるいによって奪われた。
「物語はまだ終わりじゃないよ。未来は…………これからさ!」
開いた窓から外に飛び出したるいを追って、のかな達も走り出す。その途中で魔法少女は仲間達に出会う。
「おっ、のかな。なんか楽しそうな事をしとるね」
何気ない日常と、
「のかなちゃんも相変わらず元気みたいだね」
奇妙な非日常、
「騒がしい奴だな、炎の」
ここじゃない世界、
「お前も元気してるみたいで安心したぜ。もちろん私達も元気さ」
数えきれないくらいたくさんの風景をのかなは見てきた。膨大だと思える世界を越えるようなまだ見ぬ大きな世界がまだあって、まだまだ世界はその全貌を見せてはくれない。
名も無き草原でのかな達は立ち止まる。そこには幾つもの見知らぬ風が駆け抜けていた。
「るいちゃん!」
「なんだ、のかな!」
大きな風の中でのかなは手を広げる。
「私はもっと多くの事を知りたい! もっと多くの事を経験して、もっともっとたくさんの人に出会って、いつかあの太陽のように輝くんだ!」
風を背にるいは胸を張る。
「それは最高だな! 私だって負けないよ!」
ぐり子は呆れたように肩をすくめる。
「なら私はあなた達を影で支えていようかしら?」
ふっ、とるいは笑った。
「冗談だろ? お前も一緒に来るんだよ!」
人は重力の下に生きている。誰もが運命や因果というしがらみから逃れられない奴隷なのかもしれない。
「でも、私は出会ったんだ! その重力を打ち破った男に!」
かつて男が居た。彼は吃音という重力を打ち破った。人はいつも運命という決められた歯車の中で生きている。だが、彼も出会った。運命という重力を打ち破った一人の少女に。彼は無限の空へと続く大きな風を作った。いつか少女はその風に乗り無限の空へと羽ばたいていくのだろう。
「私もいつかなるんだ!」
スキャットマンに!




