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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編4:夜明ケモノタチ
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第五章1 ORSTED IR.

 心の牢獄に囚われていた者達が解放されていく。それを見て、のかなは全てが終わった事を悟る。だが、安堵したように息を吐いた瞬間、何故か背筋がゾクリとするような感覚が走った。

「…………!」

「のかな?」

 咲月の呼びかけも耳に入らず、悪寒が錯覚などではないと理解すると自らに言い聞かせるように呟きを漏らした。

「まだ…………あいつが居る」

 ギャラン=ドゥの懐から『マリーの世界』を回収したのかなはそれを覗き込む。吸い込まれそうな独特の輝きを持つその核を見つめていると本当に体が中に入ってしまった事に気づく。

 目の前に続く赤いカーペットの先にはいつか見た扉があった。その時は違い、案内人は居ないが代わりに一人の道化師がそこでは待っていた。

 道化師はやってきたのかなを見ると不敵な笑みを浮かべる。

「やはり来たね。彼女が『知っていた』通りだ」

「知っていた?」

「お前も薄々気づいているだろう? 全てが初めから決められていた事に。初めから『伝説の魔法少女』だったお前なら」

「………………一体どこが始まりなの?」

 心の魔法少女は楽しげに語る。

「そこまでは教えてもらってないよ。自分で確かめてくるといい。けど、この扉の先に希望は持っていけない。希望無しに全ての黒幕と戦わなくちゃいけない。今まで支えてくれた仲間達の力無しで戦わなくちゃいけない。そんな自信はあるかい? 勇者サマ」

「………………」

「無理だと思うなら今から引き返す事もできる。神を倒して勝ち取った世界を謳歌する事もできる。「行こう俺達の世界へ!」って感じでね。ハッピーエンドで万々歳だ」

「………………」

 心の魔法少女は決意を秘めたのかなの表情を見るとくすくすと笑った。

「へぇ、お前はよっぽど戦いが好きなようだね。かつて神を殺した者達に雰囲気が良く似ている。しかし、神を惨殺した者達ですらこの扉の向こうには行かなかったんだ。何故か? それは彼女には勝てないと分かっていたからだよ。正確には彼女が負ける結末が無いんだ。初めからこの世界はそんな風に創られているんだから」

 のかなは言う。

「そんなの関係ない。私は魔法少女だ。魔法が魔法なのはあらゆる不可能や困難を越えて救いをもたらすからだ。例え敗北が確実だったとしてもそれすらも私は引っ繰り返してみせる」

 心の魔法少女は意地の悪い笑みで語る。

「うん、その台詞も『知ってる』」

 どうぞ、と道を譲られたのかなは扉を越えて王室へと入って行く。光一つすらない暗闇を進んでいくと燭台に明かりが灯っていき、灰色の世界で玉座に座る見覚えある少女の姿があった。

 小柄ながらも全てを支配するかのような雰囲気を醸し出すその少女の名は、

「マリー=マール」

 名を呼ばれた灰色の王は笑みを浮かべて返す。

「おめでとう、のかな。無限世界の果てに真実へと到達し、ついには神を殺した。流石は『伝説の魔法少女』だ。もう誰もお前を落ちこぼれなどと馬鹿にしたりはしないだろう」

「全てはお前が仕組んだ事だったのか?」

 マリー=マールはくすくすと笑った。

「仕組んだ? 全ては初めの折りに決められた通りだよ。私が何かをした覚えはない。何もかもが魔法仕掛け(エクスマギカ)のままにだ、のかな」

「私はお前をそのままにはしておけない。魔法少女としてお前を倒す」

 するとマリーは声をあげて笑った。

「くくく……ははははは! 倒す? 倒すだと? 自分の周囲を見渡してみたらどうだ?」

「なに?」

 のかなは先ほどまで暗くて分からなかった部屋の中を振り返る。そこにはどこかで見たような魔法少女の像が絶望に染まった表情でいくつも並べられていた。

「あれはクリーミーアミ、それにあれはウィンキーモモ…………。悪趣味な、私をこんな風にしてやるって意味?」

「まさか、勇者様にそんなこけおどしが通用するとは思ってないぞ。真実という物はもっと恐ろしいものだ。例えば――――それらが全て本物だったとしたら?」

 ハッ、と感づいたのかなはもう一度周囲を注意深く見渡し、その意味を悟ると信じられないという表情で焦りを浮かべた。

「まさか……私の見てきた魔法少女は、テレビの中の出来事だと思っていた事は、全てこの現実で起こっていた事だとでもいうのか!?」

 にやにやと不快な笑みで言う。

「その通りだよ、『魔法少女のかな』の主人公」

 誰かの視線を感じた。食卓の近くに置かれたテレビから、電気屋に並べられたテレビから、パソコンの前から。幾度も録画され、再生されることを感じ取った。その誰かの一人が自分である事にのかなは身震いした。

 マリーは語る。

「何故、私がテレビの中の魔法少女を再現できるのか、お前がそれと仮想空間で戦う事ができたのか。理由は簡単だ、それらが実在したからだ。いくらマリーといえども絵に描かれた人間をそのまま現実に持ってくる事など不可能なのでな。そもそもDNAとかどうするんだ? なんでも魔法でごまかせるわけないだろ」

「これほどまでの魔法少女達が全てお前に負けたっていうのか? そんな馬鹿な」

「いいや、必然だよ。彼女達は『愛』を語り、『愛』を振りかざして戦ってきた。『怒り(オディオ)』と『憎しみ(イラ)』をそれで消せるかのように」

 おろかな、と嘲笑うように言う。

「『愛』が『怒り(オディオ)』と『憎しみ(イラ)』を癒すだと? 馬鹿め、人は『愛』の為に争う。愛する友人の為、家族の為、国の為、争いが『怒り(オディオ)』と『憎しみ(イラ)』を生み、それを『愛』で癒すというのならまさに終わりの無い悪夢だ。その輪廻の中にある限り私には勝つ事はできん」

「マリー、お前は一体何なんだ? どうしてお前のような者が存在する?」

「誰かがそれを望んだからだ。そしてその一人はお前だ、のかな。そこで屑石のように転がっている魔法少女達に憧れ、焦がれ、それらがもっと活躍してくれる事を望んだ。しかし、彼女達もいつかは限界が来る。そんな時、彼女達は地獄の門をくぐり、ここを訪れる。本能的に力を私に返すためにな」

「お前が彼女達に力を与えた?」

「そうだ。私はかつて言ったと思うのだがな、人と魔法少女を繋ぐ『魔法少(Q・B・)女の架け橋(FINEST)』だと」

 のかなは突きつけられた真実に耐えきれないかのように叫んだ。

「嘘だ!」

「お前の力は私が与えた物だ!」

「嘘だ! 嘘だ!」

 のかなは得体のしれない恐怖を感じて逃げ出そうとした。しかし、魔王からは逃げられなかった。運命などを信じるつもりは無くとも、何かの法則に縛られている限りは逃れない物もある。その一つがこれだった。

「どうした? 青ざめているぞ。先ほどまでの威勢はどうした? ああ、自分が殺されると思っているのか。それとも石に変えられて永遠に眠り続けるとでも思っているのかな? くく……安心しろよ、のかな。マリーはそんなひどい事はしない。そこにある屑石共は本物ではない。そういう力があったというだけの記録だ。本物は無数の世界のどこかで今も楽しくやってるだろうよ。お前もすぐに同じになる。ここにだけ記録を残してお前はただの人間になるのだ!」

「マリー=マール!」

「戦いが大好きなんだなぁ! 貴様の怒りと憎しみと恐怖を感じるぞ。だが、中身が人間ではないからかなにやら少し奇妙だが。一つ言っておくが抵抗するのなら死ぬほどの苦しみを与えてやろう。抵抗しないのなら死ぬほどの恐怖を与えてやろう」

「私がお前の思い通りになると思うな!」

 竜人へと姿を変え、玉座へと突撃したのかなは黒く粘つく液体に横から絡めとられ撃ち落されて床に転がる。

 マリー=マールは全てを支配するかのように語る。

「お前は私に(ひざまず)くしか(すべ)が無いのだ!」

「くっ………ううう………………」

 液体に呑まれ、意識が薄れていく。



 暗かった。とにかく暗い世界だった。じじじという音のする切れかけたむき出しの電球が天井から伸びているだけで他に明かりと言うものはここには無かった。その中央にスーツを着て帽子を深く被った男が居る。

 その男は人間の物とはとても思えない毛むくじゃらの顔で口を開いた。

「君はもう戦わなくていい」

 それは安心を与えるために発せられた言葉では無く、事実上の決別であった。

 桑納(かんのう)のかなはその時から魔法少女ではなくなった。

「待って………ねぇ、どういうことなの!?」

 どこかに去っていくその男に手を伸ばすのかな、呼びとめようと口を開くが声が出てこない。焦るのかなに嘲笑うような声が聞こえてくる。

「まともに喋れないのかよ」

「喋ってみろよ、いつもみたいに『ヒックヒック』てな」

「………!」

 段々と大きくなっていく声に耐えるようにのかなは耳を塞いでうずくまる。そして震えながら声が止むのを必死に待った。

 そんなのかなの前に自分と同じ顔をした魔法少女が現れる。ゴミでも見るような目でのかなを見る彼女はのかなの胸倉をつかむと吐き捨てるように言う。

「お前はいらない子なんだよ」

「………! ………!」

 乱暴に突き飛ばされたのかなは暗闇の中をどこまでもどこまでも落ちていき、

 目を覚ました。



「はあ…………はあ………!」

 嫌な夢と共に小学四年生の桑納(かんのう)のかなの一日は始まりを告げた。汗に濡れた服が肌に張り付いているのが気持ち悪かったが何より夢の内容を思い出せないのが不快感をより増大させた。

 ベッドから這い出たのかなはタンスを開けて着がえを始める。ふと視界の端に不自然な空白を見つけるがそれがそもそも初めからあったのかどうかさえ思い出す事ができなかった。

着替えを終えたのかなは自分でもよく分からない内にその空白をじっと眺め、そっとタンスを閉じた。

下に降りていったのかなが食卓に着くと新聞を読む父が目に入り、「おはよう」と声をかけた。唸るような返事と共に母が「行儀が悪い」と父を叱った。そんな風景を微笑ましく見ていると時間が差し迫っている事に気づいて慌てて朝食を掻き込むとランドセルを取って家を飛び出した。

「おーそーいーぞー、のーかーなぁー」

 待ち合わせ場所で待っていた友人である()(しも)るいが走って来たのかなに呼びかける。左右対称の髪留めが印象的なるいは少々楽観と暴走が過ぎるものの明るくて元気なのかなの良き友人だ。

「ご、ごめん、るいちゃん」

 膝に手をついて荒い息で返事をするともう一人の友人である(かね)(つむぎ)ぐり子は呆れたように言った。

「また夜更かしでもしてたんでしょ? そんなんじゃ将来が不安になるわ」

「えへへ………テレビが面白すぎて………………」

待ちくたびれた様子のるいが叫ぶ。

「あーもう! 話してないで行こうよ! なんだか知らないけど、遅刻すると何故か私達だけが怒られるんだ。ぐり子は何も言われないのにさ」

 ずばりとぐり子が言う。

「普段の行いの問題ね」

図星を突かれたるいはごまかすように歩き出した。

「うっ! と、とにかくゴーゴー!」

「はいはい」

 のかなは二人の後に続いて歩き出そうとしたが、不意に何かを忘れているような気がして後ろを振り返った。

「のかな、置いていくわよ」

「あっ、待ってー」



 授業を受けながらのかなはぼんやりと窓の外を眺めていた。本来ならそこにあるべきはずの何かが欠けてているような喪失感。気が付けば学校が終わるまで上の空で居た。

 そしてるいに連れられるまま買い食いをしたソフトクリームを舐めているとのかなは呟くように言った。

「私は幸せなのかな? 幸せってなんなのかな?」

「なんかのかなが急に頭の良さそうな事を言い出したよ。悪い物でも食べた?」

 のかなは続ける。

「こうやって平和で命の危険も無くて、淡々と毎日を過ごしている事がなんか変に感じちゃって…………」

「紛争地域に関するテレビでも見たの? まあ、ああいうの見ると分からなくも無いけど」

「そういう事じゃないの。……ううん、ある意味では同じかもしれない。まだ戦いは終わってないのにそこから自分だけ帰ってきちゃったような感覚なんだ」

 ぐり子はため息をついて言う。

「馬鹿げてるわ。ただの小学生のあなたがそんな危険な所に行けるわけないし、ましてそこから生きて帰ってくるなんて無理だわ。もう少し現実と空想の区別をつけないとるいみたいになるわよ」

「どういう意味だよ、ぐり子」

「………………」

 のかなが浮かない顔で苦悩しているといつの間にか目の前に白い子熊が居た。デパートの屋上にでも設置されてそうなそれにのかなは驚くと共に何か安堵するような感覚を覚えた。

 小熊は言う。

「俺との約束を忘れたのか?」

「約束?」

 のかなはそれが何なのかを思い出す事が出来ない。小熊の背中に結び付けられているスケッチブックを手に取ると自然にページをめくりだした。

 描かれていたのは魔法少女の話。何の才能も持たない、自力で変身する事すらできない落ちこぼれ。でも、気持ちだけは誰にも負けなかった。何万回死のうとも負けない気持ちだけでどんな強大な敵でも打ち倒して来た。

 初めの時と比べて何かが得られたわけでは無かった。自分の中に元からあった物を正しく組み直す事だけで苦難を乗り越えて来た。

 彼女は初めから『伝説の魔法少女』であり、終わりまで『伝説の魔法少女』でしかなかったのだ。

「ラー」

 彼女(のかな)は悲観するように言った。

「駄目なんだ、私は。どんなに頑張ってもどんなに戦っても初めの場所から一歩も進めてないんだ。何かを掴もうとしても指の隙間からすり抜けてしまって、何も手に入れる事ができなかった。みんなが羨むような立派な魔法少女になんてなれないんだ!」

「のかな」

 小熊は宝石のように丸い瞳で言った。

「心配しなくても、ちゃんと進めてるぞ。誰も知らなくてもずっと見て来た俺だけは知ってる」

「………………」

「お前の凄い所は負けない事じゃない、負けても立ち上がる事だぞ。何万回負けたって最後には絶対勝つ事だぞ。空の上から愛とか希望を振りまいてそのくせ下なんて全く見ないヤツらとは違って、一緒に笑ったり泣いたりしてくれる事だぞ。自分の中の怒りや憎しみと向き合って逃げ出さない事だぞ。料理だって上手いし、俺と遊んでくれるし、あととっても暖かいんだ。絵だって上手だし、頑張り屋だし、俺の事かわいいって言ってくれるし、いい所がいっぱいあるんだ。お前と会うまでは全部知らなかったんだ。ちゃんと進んでいるから分かったんだぞ」

「…………ラー」

 のかなは苦笑した。

「それじゃ逆だよ。みんなの方が私に近づいてきてるって事になっちゃうよ」

「あ、そうか」

「まったく……お馬鹿なんだから」

 しかし、その言葉のおかげでのかなは気づくことができた。自らが進む事ができないというのなら、向こうから来てもらえばいいと。確かにどこにも行くことはできなかったのかもしれない、それでも引き下がらずに留まり続ければ近づいて来るものも必ず存在する。

「私は落ちこぼれだ。それが絶対的で普遍である事はこれまでの旅で証明されてしまった。けれど、下を向いて文句を言うのはもう飽きたんだ。ここではないどこかに辿り着くために、遥かなる時を越えて今再び空を取り戻す(SKYRE:ON)


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