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太陽と不死炎の少女  作者: 木戸銭 佑
スケィリオン編4:夜明ケモノタチ
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第四章4 SA・GA

「………………」

 るいはぎゅっ、と体の前で手を握り締めると世界に刻むように発声した。

「のかな…………」

 そして救いを求めるかのように強く叫ぶ。

「お兄さんを助けて! 魔法少女のかな!」

 緑リボンはるいを淡々と見つめていたが、やがて口の端を上げると不敵な笑みを浮かべ、短く呟いた。

「分かった」

 それはるいが知る『のかな』のする表情では無かった。のかなの一部である事だけは間違いなかったが、それはのかなの体でも技でも心でもないものだ。ならば、他に何が残っているのだろうか。

 その疑問の答えも分からないまま、『のかな』は動き出した。

「おおお…………」

 のかなではない?

「おおおおおお…………」

 私はのかなだ、初めからそうだ。

「おおおおおおおお…………」

 私に従え。私はお前達の(あるじ)だ。従わないというのなら…………

「おおおおおおおおお…………」

 滅びろ。

「おおおおおおおおおおおおおお!」

 緑のリボンが燃えだして灰に化すと共に死んでいったリボン達の体が自然発火し、その炎を吸い上げ、その身を包む炎の勢いはより激しさを増す。そして、のかな達はその口から放たれた灼熱の吐息(ブレオオブファイア)により一瞬で蒸発する。

 化け物染みたパワーを目の当たりにした一同は衝撃のあまり言葉を失ってしまうが、その力に見覚えのある咲月だけは疑問を投げかけるように呟いた。

「お前……真祖『RE:D(リィド)』か?」

 身に黒い煙を燻らせながら爬虫類のような瞳でのかなは語る。

「私は『のかな』だよ。初めからね」

「それはいつからだ? 体を再構成した所からか? それとももっと前からか?」

「………………」

 話を変えるようにのかなは言った。

「まずはあれを倒してからだよ」

 のかな達の消滅を知って、再び姿を現した神は苦々しく語る。

「どうして抗う。どうして自分の罪を認めようとしないのだ」

「………………くっ」

 咲月が言い返せずに苦しんでいるといつの間にか近くまで来ていたぐり子が庇うように前に出た。

「ならば、まずはあなたが人々から奪った物について話してもらいましょうか」

「なに?」

 狂志郎は何かに気が付いたように口にする。

「コンス…………!」

「うふっ」

 ぐり子は蒼いナイフを手に楽し気に語る。

「その名前はそこに居る子の物よ。私はゼタ=ゼアム。この体の持ち主との契約に従い、かつてと同じように歪完全な神を殺す者」

 咲月は信じられないように叫ぶ。

「ゼタ=ゼアムだって!? ありえない、本物のあなたはもう死んでいるはずだ」

「そうね。厳密には私は本物ではないわ。無限世界にあなたが散らばり、限りなく希釈されてもその中にあった私の純度は100%にはならない。でもね、そんな事は些細な問題よ」

 ゆっくりと後ろから歩いてきたるいにゼタ=ゼアムは嗤う。

「あら、NO(エヌオー)。その子の体を借りたの? 道理でさっきから姿が見えないと思ったわ」

「まさか貴様ともう一度会いまみえる事になろうとは、長生きはするものじゃな」

「長生き? NO、あなたは可哀想な人だわ。一年で三百六十五日しか生きられない。私はあなたが一年生きる間にその何百、何千倍も生きた。誰もが私ではないのに、誰もが私だった。私の意識はどこまでも広がっていって、でも決して消え去る事は無かった。代わりにその膨大な物が私となった。とても素晴らしい体験だったわ。不老不死という病気にかかったあなたにはこの感覚は一生分からないでしょうね」

「化け物め。1%欠けようともイカレ具合はまるで変わらんか。嬉しいぞ、後でたっぷり殺してやる」

 神は背中合わせで立つ二人に問いかける。

「私が奪ったものだと?」

「ええ、そうよ。かつてあなたは人から自由を奪い、それをまるで自らが分け与えたかのようにほんの少しだけ返し“許し(RE:ON)”だと嘯いた。罪と罰を作り出し、あらゆる生物を苦しめた。かつての私はあなたを殺す事はできても、奪った物を取り返す事はできなかった。今も多分出来る事は同じ。でもきっと“かつて”と結末は違うと確信しているわ」

 のかなを見たゼタ=ゼアムはモスピーダナイフを構える。それに対し、機械剣を持ちながらNOは言う。

「タイミングはわらわに合わせろ。人間としてのリミッターが外れた貴様の血族と違って、この体はそれほど頑丈では無いのでな」

「手加減はしてあげるわ。だけど、遅れる事は許さないわよ」

「それは怖いのう。では“許し”とやらはヤツの懐から奪ってくることにしよう」

 走り出した二人との間に神はいくつもの風景を作り出し、時間と距離とで隔離する。だが、不死と不滅の体現達は褪せる事なく、無限とも呼べる刹那の中を駆け抜け、やがては決して到達する事のない場所へとたどり着く。

 見ている側では一瞬でしかない内に神へと交錯して一撃を放ち、不定存在であるそれをこの場に縛りつける。だが、オリジナルでは無い二人ではそれが限界だったのか刻まれた炎の道の先で力尽きたように膝をつく。

「後は頼むわよ……のかな」

「ぐり子ちゃん」

 ギャラン=ドゥは力を削がれながらも依然として威圧感を放ちながら目の前に来たのかなに聞く。

「お前はそこに居る男が憎くないのか? 殺したいとは思わないのか?」

「そんな質問に意味は無いよ。私はただお前を倒すだけだ。それが魔法少女の役目だからだ」

「役目だと? 人を救いから遠ざける事が、か」

「人に神は不要だからだよ。それともお前は私を救ってくれるのか?」

「………………」

「ならば、私にも神は不要だ。歪完全なんだよ、お前は」

 それでもギャラン=ドゥは言う。

「だとしても誰かがやらなければならない事だ。お前が私を倒さなければならないと語るように私も夢を失った者達の為に戦わなければならない」

「それは自然の摂理に逆らう事だよ。生きている事の意味を消失させる事だ。痛みを消した世界が本当に幸せなのか考えた事はあるのか? 怒りと憎しみを否定してその先に何があるのか? 生きる事は決して逃げる事じゃない。戦う事だ。時に血を流し、時に死んでしまう事もあるだろう。それは辛い事だけど、それが生きているって事でもある」

「痛みに耐えられない時が来ていると何故分からない!」

「痛みから遠ざけても何も変わらないだろ! お前が神だというのなら、この世で救ってみせろ!」

 話し合いは無理だと理解した二人は睨みあったまま静止していたが、夜明けのような火の鳥の輝きが放物線を描いて飛び立つと動き出す。

 神はその身に纏う光を矢に変えて、嵐のように解き放つ。それを灼熱の吐息(ブレスオブファイア)で焼き払いながらのかなは近づき、高みから見下すそれを杖で殴りつける。だが、バリアによってそれは通らず、反撃の光の玉を竜の物へと腕を変化させ受けきる。

(障壁がある限り攻撃は通らないか…………!)

 この場でバリアを突破できる可能性があるのはモスピーダナイフによる攻撃くらいしかない。だが、ぐり子が持っているそれはすでに役目を終えて朽ち果ててしまっている。これといった対抗策が無いのなら攻撃を続けて強引に突破するしかないだろう。

「うぅ……また頭が“くらくら”しますわ…………」

 ようやく気がついたらしいクララはのかなを見ても神を見ても特に驚きもせず、淡々と語る。

「殺しても蘇るなんてやはりあなたは化け物ですのね。向こうの化け物と共倒れしてもらえれば御の字ですけれど、少々分が悪いようですわね」

「クララ」

「勘違いしないでくださいの。私はあなたの味方なのではなくて、あなたの敵の敵なのですわ。せいぜい化け物らしく(わたくし)を利用するがいいのですわ」

 右手をポケットに入れたまま神を見上げて誰に言うまでもなく語る。

「シェーラ、かつてあなたは(わたくし)を逃がす為に命を散らしましたわね。しかし、その選択は間違いだったようですわ。なにせ、(わたくし)もあなたと同じように神に挑戦したくなりましたもの」

「クララ!」

「天羽執行官、そこで見ているがいいですわ。(わたくし)の集大成を。小手先だけの改良や、単なる異能などではない本当の必殺技を」

 鉄が地面を這いずるような音がして、クララを拘束するように鎖がその周囲に実体化する。右手を抜き、回転するとそれを全力で打ち砕く。

「クライシスクラッシャー、クライマックス!」

 自己の存在が完全に消滅するまでの刹那、あらゆる拘束から解き放たれたクララは白い疾風(はやて)と化し神の周囲に張られたバリアに触れるとそれを打ち消すために力を注ぐ。単なるバリアに見えてもそれは距離としての隔絶であり、何の不思議も無い物であるのだから理屈で言えばこの異能では突破は不可能だ。

 無限に増大していくそれよりも早い速度で刃を伸ばし斬りつけるか、それとも距離の概念を破壊しなければ本体に攻撃が届く事は永遠に無い。例え攻撃が到達したとしても、一つの世界を消滅させるほどのパワーで無ければ瞬時に再生され、意味を持たないだろう。

 だが、それは理屈だ。そもそもを語るなら本来クララには何の異能も存在しない。ただ自分がそういう能力を持っていると思い込んでいるだけだ。まるでドン=キホーテのように妄想にとりつかれている。だとしてもその妄想は世界にまで影響を及ぼし、僅か右手の先だけでありながらも異能として発現している。

 奇妙だが、ある意味人の理想なのかもしれない。自らの精神性(スタンス)で世界を超越するという事は“心”という物がついに肉体と同等になったという証左なのだから。

 ふと無限とされた距離が膨張を止めた。バリアのように見えていた輪郭が消え、神は身を守る全ての盾を失った。

 クララはすかさず一撃を入れようと拳を振りあげた。

(わたくし)の正義に『くらくら』させてあげますわ!」

 しかし、

「!」

 虚しく体ごとすり抜けたクララは驚いた顔をしていたが、徐々に薄れていく手を見つめると苦笑を洩らした。

「どうやら終わりだったのは(わたくし)の方だったようですわね。しかし、たとえ私が敗れようとも正義は引き継がれる。つまり我が正義は不滅なのですわ。くくく…………」

「クララ!」

 にこりと微笑んでクララは言った。

「天羽執行官、さらばですわ」

「クララァァァァァ!」

 狂志郎が叫び、その場に崩れ落ちたのはやはり仲間だったからなのだろう。違う道を進んでいたとしても、同じ場所を見続けていたからなのだろう。

 誰かを永遠に失ってものかなと神は一切表情を変えずに戦いの続きを始める。そうしていなければ生きていられないかのように争う。

「痛みだ! 見ろ、あれこそがいつまでも心の底にこびりついて拭えないものだ」

「お前がそれを生んだんだぞ!」

「誰かが居なければと誰かが居ればと救いを求めている」

「だからって人に後ろだけを見て生きていろって言うのか? 誰とも付き合わずに孤独で居ろって言うのか? 人を馬鹿にするな!」

「人でないモノが人を語るのか?」

「お前だって人じゃないだろう!」

「そうだ、神だ。そしてお前はかつて人に滅ぼされ、今は人を救いから遠ざけようとしている」

「それは救いじゃない。お前はかつてと同じように私の世界に侵略し、ありとあらゆるモノを奪おうとしている。魔法少女の役目はお前のように人を歪めようとしているヤツを倒す事だ!」

「ならば私を殺し、正しさを証明してみせろ!」

「正しさの在処(ありか)をお前が決めるんじゃない!」

 怪物は竜と人との間を行き来しながら地を焼き払い、あらゆる物を炎に包みこんだ。神は人に近い姿をしていながらも身に纏う光で全てを砕き、無へと還した。

 超常の存在同士の戦いに人は付いていく事はできず、ただ見ている事しかできなかった。しかし、この戦いがそう長く無い事は分かっていた。痛みを抱えながらも前に進み続けた者達と痛みを遠ざける為だけに生きている者のどちらが強いのかは誰の目にも明白だった。

「おおおおお…………!」

 光を求めるかのように手を伸ばす。

「おおおおおおお…………!」

 それと同じように輝きながら。

「おおおおおおおおお…………!」

 何度倒れようとも、何度でも刻む。

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」

 一撃を。

真祖の波動衝撃(リィド・ストライク)!」

 腕に展開されていたいくつもの光の輪がヒットする瞬間に手元で重なり、虹色の光彩へと変わり広がっていく。普段とは違い、透き通った水のような澄んだ音が響き、直撃を受けた神は吹き飛んで倒れる。

 竜の力を全身に受けた神は立ち上がる力も残っておらず、虚空を見つめたまま他人事のように呟いた。

「私が…………そうか、そうなのか…………」

 自らを見下ろす少女を見て、悲しげに呟く。

「……当然か。私は憎しみのままに殺すと言いながら人を自分で傷つける事が出来なかった。彼らの夢を否定する事が出来なかった。私が心配していたのは理想の世界を作れない事ではなく、人が私を殺してしまう事だけだった。私を殺してしまう事で彼らの心が曇ってしまうかもしれないと思うだけで辛かった。……トゥルーハート、すまない。私は君を奪われた憎しみや怒りよりも居なくなってしまった悲しみの方が強かったようだ。愚かだが、仇を殺す事よりも死によって悲しみから解放されていく方が嬉しいのだ」

「ギャラン=ドゥ」

 のかなは言う。

「お前の全てが間違っていたとは思わない。だけど、止めなければ全てが間違いになってたんだ」

「間違いだとしても、迷いや後悔は無かった。人ではないお前が私を殺してくれてよかった。私を殺したのが人だったならばこれほどまで安らかではいられなかっただろう。だから、お前がこの先どうなろうと知った事ではないが、最後に神の名において告げる――――私はお前を(ゆる)す」

「………………」

「…………………………」

 神は死んだ。

 それは全能であるからしてギャラン=ドゥに存在しなかった死すらも持ち合わせていたのだろう。皮肉にも神になったことにより滅び去る事となったのだ。しかし、ある意味では本望だったのかもしれない。もう取り戻せないと分かっている物を永遠に求め続けるくらいなら、自分も永遠に失われた方がマシだったのだろう。それを証明するかのようにその死に顔は悲しくも安らかであった。


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